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#1768 決算分析 : 株式会社野間産業 第51期決算 当期純利益 13百万円

私たちが目にする高層ビルや工場、橋や高速道路。その巨大な構造物を、文字通り地中の最も深い場所から支えているのが「基礎工事」です。株式会社野間産業は、広島を拠点に、この目に見えないながらも社会インフラに不可欠な基礎工事の分野で、半世紀にわたり専門技術を磨き続けてきたプロフェッショナル集団です。その決算書に記されていたのは、自己資本比率81%超という、建設業界では異例とも言える鉄壁の財務内容でした。華やかさとは無縁の「縁の下の力持ち」が、いかにしてこれほど盤石な経営基盤を築き上げたのか。決算書から、日本の建設業界を支える、知られざる優良企業の強さの秘密に迫ります。

野間産業決算

決算ハイライト(第51期)
資産合計: 401百万円 (約4.0億円)
負債合計: 73百万円 (約0.7億円)
純資産合計: 329百万円 (約3.3億円)

当期純利益: 13百万円 (約0.1億円)

自己資本比率: 約81.9%
利益剰余金: 324百万円 (約3.2億円)

 

第51期(2025年3月31日時点)の決算で、まず衝撃を受けるのは、81.9%という極めて高い自己資本比率です。多額の設備投資や先行費用で借入金が多くなりがちな建設業界において、この数字は実質的な無借金経営に近く、財務の安定性は群を抜いています。3.2億円を超える潤沢な利益剰余金は、1975年の創業以来、いかに堅実な経営を続けてきたかを物語っています。当期も1,300万円を超える純利益を確保しており、安定した収益力が健在であることがわかります。

 

企業概要
社名: 株式会社野間産業
創立: 1975年(昭和50年)4月
本社所在地: 広島県広島市中区大手町
事業内容: とび・土工工事業。地盤改良工事、杭工事、山留工事、障害撤去工事など、建設における基礎工事全般を専門とする。

www.nomasangyou.com

 

【事業構造の徹底解剖】
野間産業の強みは、ゼネコン(総合建設業者)の下で特定の専門分野を担う「サブコン」の中でも、特に高度な技術力が求められる「基礎工事」に特化している点にあります。

✔ビジネスの核心:他社には真似のできない「特殊工法」の使い手
同社は、単なる土木作業を行う企業ではありません。様々な特許工法を駆使して、困難な地盤の課題を解決する技術者集団です。

地盤改良・杭工事のスペシャリスト:軟弱な地盤を強固にする「エポコラム工法」や「エスミコラム工法」、建物を支える杭を打ち込む「RODEX工法」など、特定の技術ライセンスを持つ企業と提携し、専門性の高い工事を手掛けています。施工実績を見ても、工場や浄化センター、道路改良工事など、大規模で高い信頼性が求められるプロジェクトが並びます。

地中障害物撤去のオンリーワン技術:「スーパードーナツオーガー全周回転置換工法」という特殊技術は、地下に存在する古い鉄筋コンクリートの壁や柱、岩盤などを、地上から円筒状にくり抜いて撤去するものです。都市部の再開発など、既存の地下構造物が存在する場所での工事において、絶大な威力を発揮します。

✔広域をカバーする機動力
広島に本社を置きながら、岡山、山口、福岡、徳島など、中四国から九州までをカバーする広範な施工実績は、同社の技術力と信頼性が地域を超えて評価されていることの証です。

 

【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
建設業界は、国土強靭化計画に基づく公共事業の安定した需要や、物流施設・半導体工場といった民間企業の旺盛な設備投資意欲を背景に、堅調な市場環境が続いています。一方で、深刻な人手不足や、燃料・資材価格の高騰は、経営を圧迫する大きな課題となっています。

✔内部環境と鉄壁財務の理由
自己資本比率81.9%という驚異的な財務基盤は、同社のビジネスモデルがいかに優れているかを物語っています。
・高付加価値なビジネスモデル:同社が手掛けるのは、誰にでもできる仕事ではなく、特殊な機械と熟練の技術がなければ不可能な「専門工事」です。これにより、価格競争に巻き込まれにくく、高い利益率を確保することが可能です。
・堅実な経営姿勢:半世紀近い歴史の中で、過度な借入や無謀な事業拡大を避け、着実に利益を内部留保として蓄積してきた結果が、3.2億円という利益剰余金に表れています。この財務体力があるからこそ、数億円規模にもなる最新の特殊重機への投資を自己資金で賄うことができ、それがさらなる技術的優位性を生む、という好循環が生まれています。

 

SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・地盤改良や障害物撤去における、特許工法を駆使した高い専門性と技術的参入障壁。
自己資本比率81.9%が示す、業界でもトップクラスの財務健全性とリスク耐性。
・半世紀にわたる実績がもたらす、大手ゼネコンからの厚い信頼と安定した受注基盤。
中四国から九州までをカバーする広範な営業エリアと機動力。

弱み (Weaknesses)
・サブコンであるため、事業の成否がゼネコンの受注動向や公共事業の予算に左右されやすい点。
・事業の根幹を、熟練技能を持つ専門人材に依存しており、次世代への技術承継が常に課題となること。

機会 (Opportunities)
・国土強靭化計画の継続による、防災・減災関連の地盤改良工事の増加。
・全国で活発化する都市再開発プロジェクトにおける、地下障害物撤去の需要。
リニア新幹線や高速道路の延伸など、国家的な大規模インフラプロジェクト。

脅威 (Threats)
・建設業界全体における、技術者・技能労働者の深刻な人手不足と高齢化。
・燃料費や鋼材といった、コストに直結する資材価格のさらなる高騰。
・公共事業の大幅な削減や、民間設備投資の冷え込みといった景気後退リスク。

 

【今後の戦略として想像すること】
✔短期戦略(人材育成と生産性向上)
喫緊の課題である人手不足に対応するため、若手技術者の採用と育成に、これまで以上に力を入れていくでしょう。同時に、ICT技術や最新鋭の重機を積極的に導入し、一人当たりの生産性を向上させることで、コスト増を吸収し、競争力を維持していくことが考えられます。

✔中長期的戦略(専門性の深化と領域拡大)
長期的には、自社のコア技術である「特殊工法」の専門性をさらに深化させていくことが成長の鍵となります。

新技術の導入:地盤改良や杭工事に関する、より高度で効率的な新工法を積極的に導入し、技術的優位性を不動のものにする。

特殊技術の横展開:「スーパードーナツオーガー」のようなオンリーワン技術を、都市再開発だけでなく、例えば使用済み杭の撤去や、地中深くの汚染土壌除去といった、新たな環境・リサイクル分野へ応用していく可能性も秘めています。

 

まとめ
株式会社野間産業は、広島の地で半世紀にわたり、目に見えない「地中」で日本の国土を支え続けてきた、真のプロフェッショナル集団です。自己資本比率81.9%という鉄壁の財務は、一朝一夕に築かれたものではなく、「他社にはできない仕事」を実直に、そして確実に行い続けてきた、長年の信頼と技術の結晶です。人手不足やコスト高といった厳しい課題に直面しながらも、その盤石な経営基盤と高い専門性を武器に、これからも日本のインフラを、私たちが見えない最も深い場所から支え続けてくれるに違いありません。

 

企業情報
企業名: 株式会社野間産業
所在地: 広島県広島市中区大手町5-19-17-2F
代表者: 代表取締役社長 坂本 克美
創立: 1975年(昭和50年)4月
資本金: 600万円
事業内容: とび・土工工事業(地盤改良工事、杭工事、山留工事、障害撤去工事など)

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