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#777 決算分析 : 株式会社M&Aオークション 第20期決算 当期純利益 33百万円

飲食店の「居抜き店舗」というニッチ市場に、テクノロジーと独自のノウハウを持ち込み、透明性の高いマーケットプレイスを創造したパイオニア、株式会社M&Aオークションの第20期の決算公告(令和6年12月31日現在)が掲載されましたので、その概要をピックアップし、事業内容と合わせて考察します。

20241231_20_M&Aオークション決算

第20期 決算のポイント(単位:百万円)
資産合計: 620百万円 (約6.2億円)
負債合計: 56百万円 (約0.6億円)
純資産合計: 564百万円 (約5.6億円)
当期純利益: 33百万円 (約0.3億円)


今回の決算で特筆すべきは、その盤石の財務体質です。総資産約6.2億円に対し、純資産が約5.6億円と非常に厚く、自己資本比率は約91%という驚異的な水準に達しています。設立から20期を経て、利益剰余金も約5.1億円と潤沢に積み上がっており、同社のビジネスモデルがいかに持続的かつ高い収益性を誇るかを雄弁に物語っています。

 

事業内容と今後の展望(考察)


【事業内容の概要】
株式会社M&Aオークションは、「あらゆる企業家に、最適な事業機会を提供すること」を理念に掲げ、飲食店のライフサイクルにおける重要な課題を解決するプラットフォームを運営しています。その中核サービスが、日本最大級の居抜き物件サイト「店舗そのままオークション」です。

 

このビジネスモデルは、店舗運営における2つの大きな課題、すなわち「出店」と「撤退」のコストと手間を劇的に削減することで、双方に大きなメリットをもたらします。

 

撤退者(売主)への価値提供:

従来、店舗を閉店する際は、内装などを解体して空の状態に戻す「原状回復」に多額の費用が必要でした。同社のサービスを利用すれば、店舗の内装や設備を「居抜き」として次の出店者に売却できるため、この撤退コストを削減できるだけでなく、売却益を得ることも可能です。


出店希望者(買主)への価値提供:

新規に店舗を開業する際、最も大きな負担となるのが内装や設備への初期投資です。「居抜き物件」を活用することで、このコストを数百万円、時には一千万円以上も圧縮でき、低リスクかつスピーディな開業が実現します。


「オークション」による透明性の高い市場:

同社は、このマッチングに「オークション」という仕組みを導入しています。これにより、価格交渉の手間を省き、誰もが公平に参加できる透明な取引市場を実現。売主はより高く売れる可能性を、買主は適正な価格で購入する機会を得られます。


さらに、単なる物件仲介に留まらず、6,500店舗以上の出店支援実績で培ったノウハウを基にした「立地診断コンサルティング」や、人材・ノウハウ・ブランド力といった無形資産を含む「営業権」の譲渡サポートまで手掛けており、飲食店のスモールM&A・事業承継プラットフォームとしての役割も担っています。

 

【財務状況と今後の展望・課題】
自己資本比率91%という傑出した財務状況は、同社がニッチ市場で確固たる地位を築き、安定した収益を上げ続けていることの何よりの証明です。この成功の背景には、いくつかの戦略的な要因が深く関わっています。

 

第一に、「飲食店の居抜き」という明確なニッチ市場への特化と深耕です。幅広い不動産を扱うのではなく、特定の領域に経営資源を集中させることで、圧倒的な情報量と専門ノウハウを蓄積。これが「店舗そのままオークション」がユーザー数10万人を超えるNo.1プラットフォームとなり得た最大の理由です。

 

第二に、プラットフォームが生み出す「ネットワーク効果」です。出店したい人が集まるから、売りたい人の情報が集まる。売りたい人の情報が豊富だから、さらに出店したい人が集まる。この好循環が、競合に対する強力な参入障壁として機能しています。

 

第三に、データとノウハウに基づく付加価値サービスの提供です。単なる情報のマッチングではなく、「この立地ならどんな業態が成功しやすいか」を分析する立地診断レポートや、複雑な権利関係を整理する営業権譲渡のコンサルティングなど、専門性の高いサービスを提供することで、単価と顧客満足度を向上させています。

 

今後の展望として、M&Aオークションには、その強固な事業基盤を活かしたさらなる成長の道筋が見えています。

 

まず、対象業態の水平展開です。飲食店の居抜きで培った成功モデルは、美容室やエステサロン、学習塾、クリニック、物販店など、同様に内装・設備への投資が大きく、居抜きでの出退店ニーズが高い他のスモールビジネス領域にも応用可能です。これらの市場へ進出することで、新たな成長曲線を描くことが期待されます。

 

次に、蓄積された膨大なデータを活用したデータビジネスへの展開も有望です。どのような立地で、どのような業態が、いくらで取引され、その後成功しているのか。この貴重なデータを分析・活用し、より高精度な事業成功予測モデルや、金融機関向けの融資判断材料、商業ディベロッパー向けのマーケティングレポートなどを提供するビジネスは、大きな可能性を秘めています。

 

さらに、中小企業の事業承継問題が深刻化する中、スモールM&Aプラットフォームとしての進化も期待されます。後継者不足に悩む小規模飲食店のオーナーにとって、同社のサービスはまさに事業と従業員の雇用を守るための有効な選択肢です。この事業承継支援の側面を強化することで、より社会的な意義の高い事業へと進化していくでしょう。

 

もちろん、景気変動による飲食業界の出店マインドの冷え込みといったマクロ環境のリスクは存在します。しかし、同社が築き上げてきたビジネスモデルと財務基盤は、そうした変化にも十分耐えうる強さを持っています。

 

総じて、株式会社M&Aオークションは、誰もが「もったいない」と感じていた飲食店の出退店の非効率を、テクノロジーと独自の仕組みで見事に解消した、課題解決型ビジネスの優れたモデルケースです。今後は、飲食業界に留まらず、あらゆるスモールビジネスの「事業機会」を創造し、最適化する、より大きなプラットフォームへと飛躍していくことが大いに期待されます。

 

企業情報
企業名: 株式会社M&Aオークション
所在地: 東京都豊島区東池袋4-25-12 池袋今泉ビル8階
代表者: 代表取締役 大桑 一雄
事業内容: 日本最大級の居抜き物件サイト「店舗そのままオークション」を運営。飲食店の出店・撤退支援、店舗売買・営業権譲渡のコンサルティングを手掛け、あらゆる企業家に最適な事業機会を提供している。

ma-auction.co.jp

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