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#1779 決算分析 : 日本レーベル印刷株式会社 第94期決算 当期純利益 ▲162百万円

商品の顔となるラベルやパッケージ、企業の想いを伝えるカタログやポスター。デジタル化が進む現代においても、私たちの手に触れる「印刷物」は、コミュニケーションにおいて重要な役割を果たし続けています。日本レーベル印刷株式会社は、1930年(昭和5年)の創業以来、静岡の地で95年近くにわたり、高品質な印刷を追求してきた老舗企業です。その決算書には、自己資本比率80%超、利益剰余金15億円超という、驚異的なまでの財務健全性が示されていました。しかしその一方で、今期は1.6億円という大きな赤字を計上。鉄壁の財務を誇る優良企業に、一体何があったのか。決算書から、印刷業界が直面する厳しい現実と、それを乗り越えようとする老舗の底力に迫ります。

日本レーベル印刷決算

決算ハイライト(第94期)
資産合計: 1,974百万円 (約19.7億円)
負債合計: 384百万円 (約3.8億円)
純資産合計: 1,589百万円 (約15.9億円)

当期純損失: 162百万円 (約1.6億円)

自己資本比率: 約80.5%
利益剰余金: 1,559百万円 (約15.6億円)

 

第94期(令和7年3月20日現在)の決算で、まず衝撃を受けるのは、80.5%という極めて高い自己資本比率です。これは実質的な無借金経営に近く、企業の財務基盤が極めて盤石であることを示しています。15.6億円という莫大な利益剰余金は、一世紀近い歴史の中で、いかに安定した経営を続けてきたかを物語るものです。しかし、その一方で今期は1.6億円を超える当期純損失を計上しています。この「過去からの圧倒的な蓄積」と「今期の厳しい結果」というコントラストこそが、現在の印刷業界の構造的な課題と、同社の状況を浮き彫りにしています。

 

企業概要
社名: 日本レーベル印刷株式会社
創立: 1930年(昭和5年
本社所在地: 静岡県静岡市駿河区
事業内容: 一般商業印刷(ポスター、カタログ等)、広告宣伝販促物(ステッカー、シール、パッケージ等)、缶詰用ラベル等の企画・制作・印刷。

www.label.co.jp

 

【事業構造の徹底解剖】
日本レーベル印刷の競争力は、単なる価格競争に陥らない、品質と信頼性を軸とした事業モデルにあります。

✔ビジネスの核心:「All Under One Roof」の一貫生産体制
同社の最大の強みは、企画・デザインから製版、印刷、製本・加工、そして発送まで、すべての工程を自社工場内で完結できる「一貫生産体制」にあります。これには、計り知れないメリットがあります。

高品質の実現:全工程を自社で管理することで、品質基準を徹底し、色調のブレなどを最小限に抑えることができます。

迅速な納期対応:工程間の移動や外部業者との調整が不要なため、スピーディーな生産が可能です。

万全の情報セキュリティ:顧客から預かる新製品情報や個人情報などを、外部に漏らすことなく、安全に管理できます。同社が情報セキュリティの国際規格である「ISO27001」を全社で取得していることは、この強みを客観的に証明しています。

✔歴史に裏打ちされた技術力
社名の「レーベル」が示す通り、同社の原点は輸出用水産缶詰のラベル印刷にあります。これは、表記文字の正確さ、色調の厳密さ、そして輸出日に合わせた厳格な納期遵守が求められる、極めて難易度の高い仕事でした。この創業以来のDNAが、現在の高品質なカタログやパッケージ印刷に受け継がれています。高精細印刷や、インライン検査装置の導入など、常に最高の品質を追求する姿勢を崩していません。

 

【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境:原材料高騰の嵐
印刷業界は、インターネットの普及によるペーパーレス化や、ネット印刷との価格競争といった長年の課題に加え、近年は世界的な「原材料価格の高騰」という、かつてないほどの嵐に見舞われています。印刷の主原料である紙(パルプ)、インキ、そして工場を稼働させるための電気代といったコストが軒並み急騰。これが、業界全体の収益を著しく圧迫しています。

✔内部環境と「巨額赤字」の背景
15億円以上の内部留保を持つ同社が、なぜ1.6億円もの赤字を計上したのでしょうか。これは、事業の根幹が揺らいでいるというよりは、この苛烈な外部環境が直撃した結果と考えるのが妥当です。
・コスト増の吸収:長年の取引がある顧客に対し、急騰した原材料費のすべてを即座に価格転嫁することは、容易ではありません。競争環境を鑑み、コスト上昇分の一部を自社で吸収した結果、利益が圧迫され、赤字に至った可能性が最も高いと考えられます。
・戦略的設備投資:あるいは、将来の競争力強化のため、数億円規模の最新鋭印刷機やデジタル設備を導入し、その多額の減価償却費が一時的に利益を押し下げた可能性も考えられます。
いずれにせよ、自己資本比率80%超という鉄壁の財務基盤があるからこそ、同社はこの未曾有のコスト高という嵐に耐え、未来への投資を続けることができるのです。

 

SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・95年に及ぶ歴史の中で築き上げた、高品質印刷における高い技術力とブランドの信頼性。
・企画から発送までを内製化する「一貫生産体制」による、品質・納期・セキュリティにおける優位性。
・ISO27001やFSC®森林認証、グリーンプリンティング認定など、多数の公的認証が示す、高い社会的信頼性。
自己資本比率80%超、利益剰余金15億円超という、圧倒的な財務健全性とリスク耐性。

弱み (Weaknesses)
・印刷という、構造的に成熟・縮小傾向にある市場を主戦場としている点。
・紙、インキ、エネルギーといった、外部要因で価格が大きく変動する原材料への依存度が高いこと。

機会 (Opportunities)
・企業のESG経営への関心の高まりを背景とした、FSC®認証紙やグリーンプリンティングといった「環境配慮型印刷」への需要増加。
・情報漏洩リスクへの懸念の高まりから、ISO27001認証を持つ同社のような、セキュリティレベルの高い印刷会社へのニーズ。
・EC市場の拡大に伴う、商品保護とブランド訴求を両立する、高付加価値なパッケージ印刷の需要増。

脅威 (Threats)
・世界的な資源価格の高騰による、原材料・エネルギーコストの継続的な上昇リスク。
・ペーパーレス化のさらなる進展による、紙媒体の印刷市場全体の縮小。
・低価格を武器とする、ネット印刷サービスとの競争激化。

 

【今後の戦略として想像すること】
✔短期戦略(収益性の回復)
まずは、顧客との価格交渉を進め、高騰したコストを適切に価格転嫁し、収益性を回復させることが最優先課題となります。その際、単なる値上げではなく、同社が提供する「品質」「セキュリティ」「環境配慮」といった付加価値を丁寧に説明し、顧客の理解を得ることが重要になるでしょう。

✔中長期的戦略(ソリューションプロバイダーへの進化)
長期的には、単に「刷る」だけの印刷会社から、顧客のビジネス課題を共に解決する「コミュニケーション・ソリューションプロバイダー」へと、その役割を進化させていくことが求められます。

パッケージ分野の強化:ECの拡大などで成長が見込まれるパッケージ分野に、さらに経営資源を集中。デザインや機能性の提案力を高め、事業の柱として育てていく。

デジタルとの融合:印刷物とWebサイトや動画を連携させるクロスメディア提案を強化。印刷で培った企画・デザイン力を、デジタル領域にも展開していく。

 

まとめ
日本レーベル印刷株式会社は、95年という長い歴史の中で、幾多の荒波を乗り越え、15億円を超える莫大な利益剰余金を蓄積してきた、静岡が誇る老舗優良企業です。今期計上された1.6億円の赤字は、世界的な原材料高騰という、一企業の努力だけでは抗いがたい嵐に見舞われた結果であり、その経営の根幹が揺らいだわけではありません。むしろ、自己資本比率80%超という鉄壁の財務基盤は、このような危機を乗り越えるためにこそ、先人たちが築き上げてきた防波堤と言えるでしょう。品質、セキュリティ、環境配慮という、時代が求める価値を武器に、この逆境を乗り越えた時、日本レーベル印刷は、創業100周年に向けて、さらに強靭な企業へと生まれ変わっているに違いありません。

 

企業情報
企業名: 日本レーベル印刷株式会社
所在地: 静岡県静岡市駿河区国吉田三丁目1番1号
代表者: 代表取締役社長 岩井 泰次郎
創立: 1930年(昭和5年
資本金: 3,000万円
事業内容: 一般商業印刷、広告宣伝販促物、ラベル、パッケージ等の企画制作印刷

www.label.co.jp

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