「未来からの前借り、やめませんか。」
そんなメッセージを掲げ、環境負荷の小さな農業を広げるために奔走する企業があります。有機野菜の定期宅配や、産地と消費者を繋ぐプラットフォーム事業を展開する「株式会社坂ノ途中」です。
今回は、京都を拠点に持続可能な農業の普及を目指す同社の第16期決算を読み解き、赤字決算の背景にある戦略と、ソーシャルビジネスとしての挑戦の軌跡をみていきます。

【決算ハイライト(第16期)】
| 資産合計 | 2,141百万円 (約21.4億円) |
|---|---|
| 負債合計 | 1,826百万円 (約18.3億円) |
| 純資産合計 | 315百万円 (約3.2億円) |
| 当期純損失 | 359百万円 (約3.6億円) |
| 自己資本比率 | 約11.9% |
【ひとこと】
第16期は当期純損失359百万円となり、利益剰余金も▲619百万円とマイナス幅が拡大しています。しかし、資本剰余金が823百万円計上されており、積極的なエクイティファイナンス(増資)を行っていることが分かります。自己資本比率は約11.9%と低めですが、これは成長投資を優先するスタートアップ企業特有の財務構造と言えます。
【企業概要】
企業名: 株式会社坂ノ途中
設立: 2009年7月
株主: 経営陣、ベンチャーキャピタル等
事業内容: 有機農産物の販売、就農支援、海外事業(コーヒー)等
【事業構造の徹底解剖】
同社は「環境負荷の小さい農業を広げる」ことをミッションに、生産から消費までを繋ぐ多様な事業を展開しています。単なる野菜の販売にとどまらず、就農支援やプラットフォーム構築など、農業の課題解決に挑むビジネスモデルです。具体的には、以下の3つの領域で構成されています。
✔農産物販売事業(OnlineShop・卸売)
新規就農者を中心とした提携農家から、農薬や化学肥料を使わずに育てられた野菜を仕入れ、個人向けに定期宅配(サブスクリプション)を行っています。また、レストランや小売店向けの卸売も手掛け、生産者の販路拡大を支援しています。
✔プラットフォーム事業(farmO)
オーガニック農業に取り組む生産者と、バイヤーを繋ぐマッチングサービス「farmO(ファーモ)」を運営しています。受発注の効率化や販路開拓をデジタル技術でサポートし、持続可能な農業経営を後押ししています。
✔海外事業(海ノ向こうコーヒー)
ラオスやウガンダなど、海外の産地で環境に配慮したコーヒー栽培を支援し、輸入・販売を行っています。品質向上による農家の所得向上と、森林保全の両立を目指すフェアトレード的な側面を持つ事業です。
【財務状況等から見る経営環境】
第16期決算公告の数値を基に、同社の置かれている経営環境と財務体質を分析します。
✔外部環境
SDGsへの関心の高まりや、コロナ禍以降の健康志向・自炊需要の増加は、有機野菜宅配ビジネスにとって追い風です。一方で、物流コストの上昇や資材高騰は利益を圧迫する要因となっており、また宅配野菜市場の競争も激化しています。
✔内部環境
バランスシートを見ると、流動資産が1,837百万円と資産の大部分を占めています。これは事業拡大に伴う運転資金(在庫や売掛金)の増加に加え、調達した資金が現預金としてプールされている可能性があります。固定負債が1,302百万円と大きく、長期借入金による資金調達も積極的に活用して、物流拠点やシステムへの投資を行っていることが推測されます。
✔安全性分析
当期純損失が続いており、財務的な安全性は楽観視できませんが、新株予約権59百万円の記載があることから、将来の成長を見込んだ投資家からの資金調達は継続できているようです。スタートアップとして「赤字を掘ってでもシェアを取りに行く(またはインフラを整える)」フェーズにあると考えられます。
【SWOT分析で見る事業環境】
同社についてここまで見てきた内容を、SWOT分析にまとめて整理をします。
✔強み (Strengths)
最大の強みは、「100年先も続く農業」という明確なビジョンと、それに共感する生産者・消費者のコミュニティです。特に新規就農者とのネットワークは独自性が高く、他社にはない多様な品種やストーリーのある野菜を提供できる源泉となっています。
✔弱み (Weaknesses)
小規模農家からの集荷がメインであるため、物流コストや管理コストが高くなりがちです。これが収益性を圧迫し、赤字要因の一つとなっている可能性があります。また、天候不順による収穫量変動の影響を受けやすい構造も課題です。
✔機会 (Opportunities)
農林水産省が掲げる「みどりの食料システム戦略」など、国レベルで有機農業の拡大が推進されています。これにより、給食への導入や自治体との連携など、BtoB・BtoG領域での市場拡大が期待できます。
✔脅威 (Threats)
大手スーパーやECプラットフォーマーのオーガニック市場参入は脅威です。価格競争に巻き込まれることなく、ブランド価値を維持し続けられるかが鍵となります。また、物流「2024年問題」による配送コストの更なる上昇もリスク要因です。
【今後の戦略として想像すること】
赤字からの脱却と持続的な成長に向け、同社が今後どのような戦略を描くべきか、コンサルタントの視点で推測します。
✔短期的戦略:物流効率化とLTV向上
自社便配送エリアの拡大や、farmOを活用した受発注業務のDXにより、物流・管理コストの削減を急ぐでしょう。同時に、定期宅配会員の継続率(LTV)を高めるため、レシピ提案や食育コンテンツの拡充など、顧客エンゲージメントを強化する施策が求められます。
✔中長期的戦略:プラットフォームの収益化と海外展開
単なる「野菜を売る会社」から、「持続可能な農業のインフラを提供する会社」への転換を図るはずです。farmOの手数料収入や、就農支援プログラムの収益化、さらにはコーヒー事業のグローバル展開など、収益源の多角化を進め、より強固なビジネスモデルを構築すると予想されます。
【まとめ】
株式会社坂ノ途中は、現代社会が抱える環境問題や農業の課題に対し、ビジネスの手法で真正面から向き合うチャレンジャーです。第16期の赤字は、未来の農業インフラを築くための「先行投資」としての側面が強いでしょう。これからも、美味しい野菜とコーヒーを通じて、社会に新しい価値観を提案し続ける同社の挑戦から目が離せません。
【企業情報】
企業名: 株式会社坂ノ途中
所在地: 京都市南区上鳥羽高畠町56番地
代表者: 代表取締役 小野 邦彦
設立: 2009年7月
資本金: 50百万円
事業内容: 有機農産物の販売、農業プラットフォーム運営等