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#10338 決算分析 : 株式会社JCCL 第5期決算 当期純利益 ▲266百万円


「脱炭素」や「カーボンニュートラル」という言葉を耳にしない日はありません。しかし、CO₂を減らすだけでなく、空気中や排ガスから「回収」し、さらにそれを「資源」として利用する技術が、これからの社会で重要な鍵を握ることをご存じでしょうか。
今回は、九州大学発のディープテック・スタートアップとして、世界最高性能のCO₂分離膜技術を武器に、地球、そして宇宙でのCO₂回収に挑む「株式会社JCCL」の第5期決算を読み解き、その先端的なビジネスモデルと成長戦略をみていきます。

JCCL決算


【決算ハイライト(第5期)】

資産合計 489百万円 (約4.9億円)
負債合計 122百万円 (約1.2億円)
純資産合計 367百万円 (約3.7億円)
当期純損失 266百万円 (約2.7億円)
自己資本比率 約75.1%


【ひとこと】
当期純損失266百万円という数字は、同社が現在、研究開発と事業拡大へ向けてアクセルを全開に踏み込んでいる「先行投資フェーズ」にあることを示しています。特筆すべきは、赤字にもかかわらず自己資本比率が約75%と極めて高い点です。これは2024年に実施されたシリーズAラウンドでの4億円の資金調達などにより、資本剰余金が約6.5億円まで積み上がっているためであり、財務的な安全性は確保されています。


【企業概要】
企業名: 株式会社JCCL
設立: 2020年12月
株主: 経営陣、インクルージョン・ジャパン、QBキャピタル、慶應イノベーション・イニシアティブ、DBJキャピタル等
事業内容: CO₂分離技術の研究開発、CO₂回収装置の設計・製造、技術ライセンス提供

jccl.jp


【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は「CO₂回収・再資源化ソリューション」に集約されます。九州大学で開発された世界最先端の分離技術をコアに、顧客の課題解決を行うディープテック・ビジネスです。具体的には、以下の3つの要素で構成されています。

✔革新的CO₂分離材料の提供
コア技術である「アミン含有ゲル」を用いたCO₂吸収剤および分離膜の開発です。従来技術(アミン水溶液)と異なり、高温加熱が不要で、かつ湿度の高い排ガスでも乾燥工程なしで直接CO₂を回収できるため、大幅な低コスト化・省エネ化を実現します。これはNEDOJSTJAXAの支援を受けて開発された日本発の技術です。

✔装置開発・販売(VPSA1・VSS1)
技術を実用化するための装置販売です。「VPSA1」は都市ガスの排ガス等から高純度CO₂を回収する装置、「VSS1」は分離膜の性能評価を行う装置です。これらを研究機関や企業のR&D部門に販売することで、顧客側での実証実験を支援し、将来的な大規模導入への足掛かりを作っています。

✔ライセンス&ソリューションビジネス
単なる装置売り切りではなく、POC(概念実証)から実証、実機導入までを伴走支援するモデルです。顧客の工場等のCO₂排出源に合わせてプロセスを最適化し、最終的には技術ライセンスや専用材料の供給によるストック型の収益獲得を目指しています。


【財務状況等から見る経営環境】
第5期決算公告の数値をベースに、株式会社JCCLを取り巻く経営環境を分析します。

✔外部環境
世界的な脱炭素の流れの中で、DAC(直接空気回収)や工場排ガスからのCO₂回収技術(CCS/CCU)への需要は爆発的に高まっています。日本政府もGX(グリーントランスフォーメーション)推進に巨額の予算を投じており、同社のような独自技術を持つスタートアップには追い風が吹いています。特に、エネルギーコストが高騰する中、低エネルギーでCO₂を回収できる技術への注目度は増しています。

✔内部環境
財務面では、スタートアップの定石通り、調達した資金(資本金・資本剰余金合計約8億円)を原資に、研究開発費や人件費などの成長投資(当期赤字約2.7億円)を行っています。流動資産が約347百万円あり、当面の運転資金は確保できていると推測されます。固定資産約142百万円は、いとLab+(九州大学内)の研究設備や、東京・天神オフィス等の拠点展開に伴う資産と考えられます。

✔安全性分析
自己資本比率75.1%は、一般的な製造業と比較しても極めて高い水準です。負債の部を見ても、流動負債が約98百万円と限定的であり、現時点での財務リスクは低いです。この潤沢な自己資本があるうちに、いかに早く「技術の実証」から「商用レベルでの社会実装」へ移行し、黒字化への道筋をつけられるかが勝負となります。


SWOT分析で見る事業環境】
同社についてここまで見てきた内容を、SWOT分析にまとめて整理をします。
✔強み (Strengths)
・独自技術:「アミン含有ゲル」による湿度に強い、低エネルギーなCO₂分離技術。
・アカデミア連携:九州大学の星野教授(CTO)をはじめ、JAXA東工大との共同研究による高い技術信頼性。
・資金調達力:シリーズAでの4億円調達や、J-Startup KYUSHU選定など、外部からの高い評価。

✔弱み (Weaknesses)
・収益化のタイムラグ:ディープテック特有の課題として、R&Dから大規模商用化までに時間を要し、その間の赤字継続が避けられない。
・実績:製品化(VPSA1等)に成功したばかりであり、産業界での大規模な長期稼働実績はこれから積み上げる段階。

✔機会 (Opportunities)
・市場の拡大:2050年カーボンニュートラルに向け、あらゆる産業でCO₂回収ニーズが顕在化。
・宇宙・特殊環境:JAXAとの共同研究による、有人宇宙船内でのCO₂除去技術としての採用(究極の閉鎖環境技術の地上転用)。
・農業利用:回収したCO₂をビニールハウス等で利用する「トリジェネレーション」等の局所的ニーズ。

✔脅威 (Threats)
・世界的な競争激化:欧米のクライムテック(Climeworks等)や、化学大手の開発する既存アミン法との競争。
・規制・政策リスク:炭素税や排出権取引のルール変更により、市場のインセンティブ設計が変わる可能性。


【今後の戦略として想像すること】
SWOT分析を踏まえ、株式会社JCCLが今後どのような方向に進んだら良いか、具体的な戦略を考えて記載します。

✔短期的戦略
「実証実績の積み上げと認知拡大」です。販売を開始した「VPSA1」や「VSS1」を、脱炭素に熱心な大企業や研究機関に導入し、様々なガス種・環境下でのデータを蓄積することです。特に、同社の強みである「湿度の高いガスからの直接回収」というメリットが活きる、ボイラー排ガスや都市ガス燃焼排ガス等の領域で、明確なコスト優位性を実証データとして提示し、POC案件を量産することが急務です。

✔中長期的戦略
「宇宙技術の地上実装とグローバル展開」です。JAXAと共同開発している宇宙船用CO₂除去技術は、メンテナンスフリーで高性能という究極の仕様が求められます。この技術ブランドを活かし、ビル空調(ダイレクト・エア・キャプチャー)や潜水艦、シェルターなど、特殊環境向けの高付加価値市場を独占すること。そして、確立した量産技術をライセンスアウトし、世界の工場インフラに「JCCL Inside」として組み込まれるプラットフォーマーを目指す戦略が描けます。


【まとめ】
株式会社JCCLは、単なる装置メーカーではありません。それは、CO₂という「厄介者」を「資源」に変え、地球環境と産業活動を両立させるためのキーテクノロジー企業です。第5期の大幅な赤字は、その壮大なビジョンに対する「本気の投資」の証です。九州から宇宙へ、そして世界の空気を変えていく同社の挑戦に、今後も大きな期待が寄せられます。


【企業情報】
企業名: 株式会社JCCL
所在地: 福岡県福岡市西区九大新町5-5(本社)
代表者: 代表取締役 梅原 俊志
設立: 2020年12月
資本金: 1.5億円
事業内容: CO₂回収・再資源化技術の研究開発、装置製造、ライセンス事業

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