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#10322 決算分析 : 株式会社はとバス 第84期決算 当期純利益 967百万円


東京の街を歩けば、鮮やかなレモンイエローの車体を一度は目にしたことがあるはずです。「はとバス」。それは、単なる移動手段ではなく、戦後日本の復興と共に歩み、東京観光の代名詞として親しまれてきたブランドです。しかし、近年のパンデミックは観光業界に未曾有の試練を与えました。その中で、この老舗企業はどのように舵を取り、現在どのような財務状況にあるのでしょうか。
今回は、東京観光の顔としての「観光バス事業」だけでなく、都営バスの運行受託や不動産事業といった多角的なビジネスモデルで強靭な経営基盤を築く「株式会社はとバス」の第84期決算公告を読み解き、その復活の軌跡と今後の戦略を経営コンサルタントの視点で紐解いていきます。

はとバス決算

【決算ハイライト(第84期)】
資産合計: 20,044百万円 (約200.4億円)
負債合計: 12,312百万円 (約123.1億円)
純資産合計: 7,732百万円 (約77.3億円)

当期純利益: 967百万円 (約9.7億円)
自己資本比率: 約38.6%
利益剰余金: 7,257百万円 (約72.6億円)

【ひとこと】
観光業が厳しい環境にあった中、当期純利益967百万円を計上し、しっかりとした黒字体質への回帰を示している点は高く評価できます。また、自己資本比率は約38.6%と、装置産業(バス・不動産)としては健全な水準を維持。利益剰余金も70億円を超え、過去の蓄積が厚いことが財務の安定性を支えています。

【企業概要】
企業名: 株式会社はとバス
設立: 1948年(昭和23年)
株主: 東京都(37.9%)ほか ※筆頭株主は東京都
事業内容: 観光バス事業、路線バス受託事業、不動産事業、ホテル事業

www.hatobus.tokyo


【事業構造の徹底解剖】
はとバスのビジネスモデルは、観光一本足打法だと思われがちですが、実は「攻め」と「守り」のバランスが取れたハイブリッド構造になっています。具体的には以下の4つの柱で構成されています。

✔観光バス事業(攻めの事業)
創業以来のコア事業であり、ブランドの源泉です。東京の名所を巡る「定期観光バス」は、短時間で効率よく観光できるため、国内外の旅行者から絶大な支持を得ています。特に、屋根のない2階建てオープンバス「'O Sola mio(オー・ソラ・ミオ)」や、高級バス「ピアニシモIII」など、高付加価値な車両を投入し、単なる移動ではない「体験」を提供しています。インバウンド需要の回復に伴い、再び成長軌道に乗っています。

✔路線バス受託事業(守りの事業)
東京都交通局(都営バス)の運行管理を受託するB2G(Business to Government)ビジネスです。現在、杉並、臨海、青戸、港南、新宿の5支所で業務を行っており、運転・整備・運行管理を一体で請け負っています。この事業は、景気や天候に左右されにくく、毎月安定した委託料収入が入るため、ボラティリティの高い観光事業のリスクを補完する重要な収益基盤となっています。

✔不動産事業(資産活用)
品川駅港南口に保有する高機能オフィスビル「Shinagawa HEART」や、賃貸マンションの運営を行っています。特に「Shinagawa HEART」は、はとバス本社の敷地等を有効活用した再開発案件であり、長期安定的な賃料収入を生み出しています。決算書の固定資産の大きさ(約160億円)の背景には、こうした優良不動産の存在があります。

✔ホテル事業
銀座キャピタルホテル」を運営しています。はとバスの定期観光コースの出発拠点としても機能しており、宿泊と観光をセットにした相乗効果を狙っています。築地や銀座に近い好立地を活かし、ビジネスと観光の両需要を取り込んでいます。


【財務状況等から見る経営環境】
第84期の決算数値から、同社の経営環境と財務体質を分析します。

✔外部環境
追い風としては、訪日外国人観光客(インバウンド)の急激な回復が挙げられます。円安を背景に東京観光の需要は旺盛で、高単価なツアー商品の販売が好調です。一方で、バス業界全体の問題である「運転手不足(2024年問題)」は深刻であり、人材確保のための採用コストや人件費の上昇が利益を圧迫する要因となります。また、燃料費の高騰も運行コストに直結する懸念材料です。

✔内部環境
財務諸表を見ると、固定資産が16,048百万円と総資産の約80%を占めています。これはバス車両や「Shinagawa HEART」等の不動産を多く保有しているためです。これら固定資産が生み出すキャッシュフローが、借入金の返済や新たな投資を支えています。
負債面では、固定負債が8,269百万円あり、設備投資に伴う長期借入金が存在すると推測されますが、自己資本比率は38%台を維持しており、財務レバレッジの管理は適切に行われています。利益剰余金が7,257百万円積み上がっていることは、不測の事態(新たなパンデミックや災害など)に対する強力な緩衝材となります。

✔安全性分析
流動比率流動資産÷流動負債)は約99%(3,995÷4,043)と、100%を僅かに下回っています。通常は100%以上が望ましいとされますが、日銭が入る現金商売(バス運賃やホテル代)であることや、不動産賃貸の安定収入があることを考慮すれば、資金繰りに直ちに問題が生じるレベルではありません。むしろ、手元資金を過剰に遊ばせず、効率的に資産運用や負債返済に回しているとも捉えられます。


SWOT分析で見る事業環境】
はとバスの現状をSWOT分析で整理します。

✔強み (Strengths)
はとバス=東京観光」という圧倒的なブランド認知度と、東京都が筆頭株主であるという信用力は最大の武器です。また、観光業の浮き沈みを、路線バス受託や不動産という安定収益事業でカバーするポートフォリオ経営が機能しており、単独のバス会社に比べて経営の安定性が極めて高い点も強みです。

✔弱み (Weaknesses)
装置産業であるため固定費率が高く、損益分岐点が高い構造にあります。そのため、コロナ禍のような稼働率の急低下が起きると赤字に転落しやすい体質です。また、ドライバーやガイドといった専門職の確保が事業成長のボトルネックになり得ます。

✔機会 (Opportunities)
コト消費へのシフトやナイトタイムエコノミーの推進は、夜の定期観光コースを得意とする同社にとって大きなチャンスです。また、羽田空港の制限区域内を走る「羽田ベストビュードライブ」のような、特別な許可が必要な独自ツアーの開発は、他社との差別化につながります。

✔脅威 (Threats)
新たな感染症の流行や自然災害は最大のリスク要因です。また、ライドシェアの解禁や自動運転技術の進展など、移動手段を取り巻く構造的な変化も、長期的には脅威となり得ます。燃料価格の乱高下も収益を不安定にさせます。


【今後の戦略として想像すること】
安定した基盤の上で、次なる成長を目指す戦略を考察します。

✔短期的戦略
まずはインバウンド需要の最大化です。多言語対応ガイドシステムの拡充や、富裕層向けのラグジュアリーなプライベートツアーの強化により、客単価の向上を図るべきです。また、採用競争が激化する中、ブランド力を活かしたドライバー採用の強化と、働きやすい環境整備(DXによる業務効率化など)が急務となります。

✔中長期的戦略
中長期的には「環境対応」と「デジタル化」が鍵です。カーボンニュートラルに向けて、EVバスや燃料電池バスへの転換を計画的に進めることで、環境意識の高い顧客層や企業(貸切利用)への訴求力を高めます。また、不動産事業においては、Shinagawa HEARTに続く第2、第3の収益柱となる物件開発や取得を検討し、経営の安定性をさらに盤石なものにすることが期待されます。


【まとめ】
株式会社はとバスは、鮮やかな黄色のバスで東京の街を彩るだけでなく、したたかな経営戦略で時代の荒波を乗り越えてきた企業です。第84期決算に見る約9.7億円の純利益は、観光需要の回復に加え、多角化経営の成果が見事に結実した証と言えるでしょう。これからも「プロが案内する東京」の魅力を発信し続け、世界中の旅行者に感動を提供し続けるインフラ企業としての役割が期待されます。


【企業情報】
企業名: 株式会社はとバス
所在地: 東京都大田区平和島5-4-1
代表者: 代表取締役社長 武市 玲子
設立: 1948年8月14日
資本金: 1億円
事業内容: 一般乗合旅客自動車運送事業、一般貸切旅客自動車運送事業、旅行業、ホテル事業、自動車整備業、不動産賃貸業
株主: 東京都ほか

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