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#10230 決算分析 : 株式会社Asobica 第8期決算 当期純利益 ▲826百万円


「お客様の声を聞きましょう」。ビジネスの世界で耳にタコができるほど言われるこの言葉ですが、実際に「本当の声(ホンネ)」を聞き出し、それを商品開発やマーケティングに活かしきれている企業はどれほどあるでしょうか。
多くの企業が、顧客理解の重要性を認識しながらも、アンケートやインタビューといった従来の手法に限界を感じています。そこに「コミュニティ」という新しい解を持ち込み、顧客を「ファン」に変え、その熱狂をデータとして可視化する。
今回は、ロイヤル顧客プラットフォーム「coorum(コーラム)」を運営し、名だたる大企業のマーケティングを変革し続けるスタートアップ、「株式会社Asobica(アソビカ)」の第8期決算を読み解きます。約8億円の赤字を出しながらも、なぜこれほどまでに攻めの投資を続けられるのか、その財務戦略と成長の源泉に迫ります。

Asobica決算

【決算ハイライト(第8期)】
資産合計: 1,005百万円 (約10.1億円)
負債合計: 1,576百万円 (約15.8億円)
純資産合計: ▲571百万円 (約▲5.7億円)

当期純損失: 826百万円 (約8.3億円)
利益剰余金: ▲3,044百万円 (約▲30.4億円)

【ひとこと】
一見すると、債務超過(純資産マイナス)かつ巨額の赤字という、非常に厳しい決算に見えます。しかし、これは「SaaS(Software as a Service)企業」特有の、意図的な先行投資フェーズであると読み解くべきです。約23億円もの資本剰余金があることから、過去に大型の資金調達を実施しており、その資金を開発とマーケティングに全投入してシェア獲得を急いでいる「Jカーブ」の底にいる状態です。

【企業概要】
企業名: 株式会社Asobica
設立: 2018年2月
株主: Eight Roads Ventures Japan、Salesforce Ventures 等(VC多数)
事業内容: ロイヤル顧客プラットフォーム「coorum」の開発・運営

asobica.co.jp


【事業構造の徹底解剖】
Asobicaの事業は、単なるコミュニティツールの提供ではなく、顧客データを統合・分析し、LTV(顧客生涯価値)を最大化する「プラットフォームビジネス」です。具体的には、以下の3つのプロダクト群で構成されています。

✔coorum community(コミュニティ構築)
同社の看板製品です。花王、カインズ、SUBARUといった大手企業が導入しており、ブランドのファンが集まるオンラインコミュニティをノーコードで構築できます。ここでは、顧客同士が悩み相談や商品レビューを行うことで、企業が介入せずとも「UGC(ユーザー生成コンテンツ)」が自然発生し、ロイヤルティ(愛着)が高まる仕組みを提供しています。

✔coorum insight(データ分析)
コミュニティで得られた定性データ(書き込み内容)と、企業の持つ定量データ(購買履歴等)を統合・分析するツールです。「誰が」「なぜ」その商品を買ったのか、というインサイト(深層心理)を可視化することで、勘や経験に頼らないデータドリブンな意思決定を支援します。

✔ホンネAI(AI活用)
膨大な顧客データから、AIが自動的にインサイトを抽出する新機能です。従来は人間が時間をかけて読み解いていた顧客の声を、AIが要約・分類することで、商品開発のアイデア出しや、改善ポイントの発見を劇的に効率化しています。


【財務状況等から見る経営環境】
第8期決算公告の数値を基に、同社のファイナンス戦略と経営環境を分析します。

✔外部環境
Cookie規制によるリターゲティング広告の精度低下や、新規顧客獲得コスト(CPA)の高騰により、企業は「既存顧客の維持(リテンション)」へ舵を切らざるを得なくなっています。この「ファンマーケティング」へのパラダイムシフトは、コミュニティ施策を得意とするAsobicaにとって最強の追い風です。

✔内部環境
財務諸表は、典型的な「ハイグロース・スタートアップ」の形をしています。売上総利益(粗利)率は高いものの、それを上回る販売費及び一般管理費がかかっているため、営業損失が計上されています。しかし、BS(貸借対照表)を見ると、現預金を含む流動資産が約9.2億円あり、当面のランニングコストは確保されています。また、資本剰余金が約23億円あることから、投資家からの期待値(バリュエーション)が高く、資金調達能力に長けていることが分かります。

✔安全性分析
債務超過の状態ですが、これはスタートアップが急成長するためにエクイティ調達(株式発行)を行い、その資金を使って赤字を掘りながらシェアを拡大する戦略の結果です。VC(ベンチャーキャピタル)からの出資は返済義務がないため、銀行借入による債務超過とは意味合いが異なります。ただし、次の資金調達ラウンドまでに、黒字化への道筋(ユニットエコノミクスの健全性)を示すことが求められます。


SWOT分析で見る事業環境】
急成長企業の現状と課題をSWOT分析で整理します。

✔強み (Strengths)
最大の強みは「エンタープライズ(大企業)への導入実績」です。花王やホンダといった日本を代表する企業が導入している事実は、後続の顧客にとって強烈な安心材料となります。また、コミュニティ構築からデータ分析までを一気通貫で提供できるプロダクトの網羅性も、単機能ツールに対する優位性です。

✔弱み (Weaknesses)
コミュニティ運営は「人」に依存する部分が大きく、カスタマーサクセス(CS)チームの負担が重くなりがちです。ツールの導入だけでなく、運営ノウハウの提供までセットで求められるため、労働集約的な側面をいかにテクノロジーで効率化できるかが課題です。

✔機会 (Opportunities)
「リテールメディア」の台頭です。小売業が自社の顧客データを活用して広告ビジネスを行う動きが活発化しており、Asobicaの持つデータ分析基盤は、この領域とも相性が抜群です。また、海外展開も見据えた場合、日本流の「おもてなし」的なコミュニティ運営は、独自の強みになり得ます。

✔脅威 (Threats)
SalesforceAdobeといった、グローバルなマーケティングオートメーション(MA)ベンダーが、コミュニティ機能を強化してくるリスクです。彼らがプラットフォームの一部として同等の機能を提供し始めれば、脅威となります。また、景気後退により企業のマーケティング予算が削減された場合、コミュニティ施策は「nice to have(あったら良いもの)」として後回しにされるリスクもあります。


【今後の戦略として想像すること】
赤字を掘ってでも成長を目指すAsobicaの、次なる戦略を推察します。

✔短期的戦略:AIによる業務効率化とARPU向上
「ホンネAI」の機能を強化し、CS担当者の工数を削減すると同時に、オプション機能として単価(ARPU)を上げる戦略をとるでしょう。また、導入事例を武器に、まだコミュニティ未導入の業界(金融や不動産など)へ横展開し、トップライン(売上高)の成長スピードを維持することが最優先です。

✔中長期的戦略:データプラットフォームとしての地位確立
最終的には、コミュニティツールではなく「顧客データ基盤(CDP)」としてのポジションを確立しようとするはずです。POSデータやSNSデータなど、あらゆる顧客データをcoorumに統合し、そこから導き出されたインサイトを元に、商品開発から広告配信までを自動化する。いわば「マーケティングのOS」になることが、同社の目指すゴールではないでしょうか。


【まとめ】
株式会社Asobicaは、赤字というリスクを背負ってでも、「心の豊かさ」という数値化しにくい価値を、テクノロジーで証明しようとしています。債務超過という数字だけを見れば危うく見えますが、その裏には、顧客との新しい関係性を築こうとする企業の熱狂と、それを支える投資家の期待が詰まっています。
「遊びのような熱狂」で世界を変える挑戦は、まだ始まったばかりです。


【企業情報】
企業名: 株式会社Asobica
所在地: 東京都品川区西五反田二丁目27番3号 A-PLACE五反田ビル8F/9F
代表者: 代表取締役 今田 孝哉
設立: 2018年(平成30年)2月
資本金: 100百万円
事業内容: ロイヤル顧客プラットフォーム「coorum」の運営等
株主: Eight Roads Ventures Japan、Salesforce Ventures 他

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