「待機児童」の問題解消が一定の進捗を見せ、日本の保育業界は「量の確保」から、いかに高い「質の教育」を提供できるか、という新たな競争フェーズに完全に移行しました。共働き世帯が求めるのは、単なる「預かりの場」ではなく、子どもの未来の可能性を広げる「学びの場」です。
この「保育の質」という難題に、2009年の創業から一貫して挑み続けてきたのが、「キッズガーデン」「キッズスマイル」ブランドを運営する株式会社Smile Project(旧・株式会社Kids Smile Project)です。東証グロース市場に上場する株式会社Smile Holdingsの中核事業会社として、首都圏を中心に80を超える施設(認可保育園、プレミアム認可外、バイリンガル保育園、学童、スイミングスクール等)を展開しています。
2025年1月には社名を変更し、「保育・幼児教育」から「総合パーソナルケアサービス」への進化を宣言した同社。その第17期決算を読み解き、事業拡大の裏側にある財務戦略と、未来の「家族の幸せ」に向けたビジョンをみていきます。

【決算ハイライト(第17期)】
資産合計: 14,933百万円 (約149.3億円)
負債合計: 10,239百万円 (約102.4億円)
純資産合計: 4,693百万円 (約46.9億円)
当期純損失: 55百万円 (約0.6億円)
自己資本比率: 約31.4%
利益剰余金: 4,666百万円 (約46.7億円)
【ひとこと】
まず注目すべきは、総資産約149.3億円という事業規模と、約46.7億円に達する潤沢な利益剰余金です。保育事業という安定的な収益基盤を背景に、強固な経営体質を築いてきたことが伺えます。一方で、当期は55百万円の純損失を計上。これは、後述する「グローバルスクール」などの新規事業領域への積極的な先行投資が、一時的に収益を圧迫したものと推察され、成長のための戦略的な赤字と読み取ることができます。
【企業概要】
企業名: 株式会社Smile Project
設立: 2008年12月12日
株主: 株式会社Smile Holdings(100%出資、東証グロース上場)
事業内容: 認可保育園、プレスクール・幼児教室、学童施設、スイミングスクールの運営、幼児教育教材開発等。
【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、0歳から9歳までの子どもを対象とした「総合パーソナルケアサービス」に集約されます。2025年1月の社名変更は、単なる「保育」の枠を超え、産後ケアやライフスタイル支援を含めた「家族全体」の幸せを支援する企業へと進化する、という強い意志の表れです。
✔認可保育園(KIDS GARDEN / KIDS SMILE)
同社の事業の中核であり、全80施設超のうち70施設を占める基幹事業です。東京都(品川区、江東区、足立区など)を中心に、神奈川県、愛知県で展開しています。 同社の認可保育園の最大の強みは、単なる預かり保育に留まらない点です。立命館大学の上田教授が監修する独自の運動プログラム「KID’S ATHLE(キッズアスレ)」や、6才までに必要な5つの力(見る・聞く・話す・考える・行う)を育む知育プログラム「KID’S PREP. PROGRAM」を全園で導入。補助金事業でありながら、高い「教育付加価値」を提供している点が、保護者から強く支持される理由です。
✔プレップスクール(プレミアム認可外保育園)
2009年の「キッズガーデン自由が丘」開園から続く、同社の創業事業です。自由が丘、広尾、南青山、元麻布、代官山といった、都心でも特に教育熱心な富裕層が集まるエリアに展開しています。 「子どもの才能をひらく、オーダーメイド保育。」を掲げ、モンテッソーリ教育、英語、スイミング(北島康介氏率いるKITAJIMAQUATICS監修)、ダンス(EXPG監修)、ヴァイオリン(高嶋ちさ子氏主催「MUSICO」監修)など、各界の第一人者による最高レベルの教育プログラムを提供。慶應義塾幼稚舎、早稲田実業学校初等部、青山学院初等部など、難関小学校への進学実績も豊富に持つ、同社のブランドと収益性を象徴する高付加価値事業です。
✔グローバルスクール(バイリンガル保育園)
保育の質への要求がさらに高まる中、同社が「次の成長ドライバー」として注力しているのが、このバイリンガル保育園です。2023年の錦糸町を皮切りに、吉祥寺(2024年)、センター北(2025年)と、急速に展開しています。単に英語を学ぶだけでなく、礼儀作法や生活習慣も重視するカリキュラムが特徴です。
✔習いごと(アフタースクール・スイミング)
保育園を卒園した後も、その教育をシームレスに継続するため、学童施設「キッズガーデンアフタースクール」や、北島康介氏監修の「南青山スイミングスクール」も運営。小学校受験教室やベビーモンテッソーリクラスなども含め、0歳から9歳までの子どもの成長を切れ目なくサポートする体制を構築しています。
【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
「待機児童問題」が解消フェーズに入り、保育業界は「量の確保」から、いかに高い「質の競争」に応えられるか、という淘汰の時代に突入しました。保護者は、保育時間や価格だけでなく、「どのような教育を受けさせてくれるのか」を厳しく選別しています。 同時に、保育士不足と人件費の高騰は業界全体の恒常的な課題であり、中長期的には少子化による園児数の減少という大きな脅威にも直面しています。
✔内部環境
同社は、まさにこの「質の競争」時代を見据え、2009年の創業時から一貫して「教育付加価値」の高い保育(プレップスクール)を手掛けてきました。このノウハウを認可保育園にも展開(キッズアスレ等)している点が、他社に対する明確な競争優位性となっています。 決算書に目を移すと、「固定資産 約83.7億円」という巨額の計上が目立ちます。これは、保育園という事業の特性上、開園する施設の「賃借に伴う敷金・保証金」や「内装・設備投資」が大部分を占めると推察されます。つまり、事業を拡大(新規開園)するためには、巨額の初期投資が不可欠な「アセットヘビー型」のビジネスモデルです。 第17期の当期純損失(▲55百万円)は、この事業拡大(特に2023年以降のグローバルスクール3園の連続開校)に伴う「先行投資」(初期設備投資の減価償却、開園当初の人件費、広告宣伝費など)が、一時的に収益を圧迫した結果であり、計画的な「成長のための赤字」と分析できます。
✔安全性分析
財務の安全性は、保育事業の特性を考慮すれば、極めて強固です。総資産149.3億円に対し、純資産は46.9億円。自己資本比率は約31.4%です。 保育事業は、その収益の大半が自治体からの補助金(認可保育園)や、保護者からの安定的な月謝(プレップスクール)であり、売上の予見可能性が非常に高い「ストック型ビジネス」です。 負債合計102.4億円のうち、流動負債が約72億円と大きいですが、これは保育事業特有の会計処理(自治体からの補助金が一時的に「前受金」として負債計上されるなど)が影響していると推察されます。流動資産(約65.6億円)が流動負債(約72億円)をやや下回っていますが(流動比率 約91%)、これは前述の新規開園ラッシュに伴う一時的な設備投資の支払い負担増が要因と考えられます。 何より、親会社であるSmile Holdings(東証グロース上場)の強力な財務バックボーンと、46.7億円という巨額の利益剰余金(内部留保)があるため、財務的な体力は盤石であり、資金繰りの懸念は低いと言えます。
【SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・親会社(Smile Holdings)が東証グロース上場であり、高い信用力と資金調達力を持つ。
・「プレップスクール」創業のノウハウを活かした、高品質な「教育プログラム」(運動・知育・英語・専門教育)という明確な差別化要因。
・都心の一等地(自由が丘、広尾、代官山)から認可保育園まで、多様なニーズに応える幅広い施設ポートフォリオ(80超)。
・利益剰余金46.7億円という潤沢な内部留保と、1,700名を超える人材(保育士・講師)。
弱み (Weaknesses)
・新規開園が続く中での「当期純損失」計上(先行投資負担)。
・保育士や専門講師(英語、モンテッソーリ等)の「人材確保・育成・定着」が常に最大の経営課題(労働集約型)。
機会 (Opportunities)
・「保育の質の競争」時代において、同社の「教育付加価値」がさらに評価される。
・「グローバルスクール(バイリンガル保育)」という高単価・高成長市場への本格参入。
・新パーパスに基づく「産後ケア」や「家族支援」など、隣接領域への事業拡大。
・(推測)業界再編(小規模保育園の経営難)に伴う、M&Aによる規模拡大。
脅威 (Threats)
・中長期的な「少子化」の進行による、保育園児の絶対数の減少。
・保育士の人件費の継続的な高騰、および採用競争の激化。
・競合他社(大手保育事業者、インターナショナルスクール)との「質の競争」激化。
【今後の戦略として想像すること】
盤石の財務基盤とブランド力を持つ同社は、今後、「先行投資の回収」と「事業領域の拡大」を両輪で進めていくと予想されます。
✔短期的戦略
まずは、当期の赤字(▲55百万円)を解消し、早期の黒字化を達成することです。特に、2023年から2025年にかけて先行投資を行った「グローバルスクール」3園を早期に満園にし、収益化の軌道に乗せることが最優先となります。同時に、既存の認可保育園の運営効率化とコスト管理を徹底し、収益基盤を固めます。
✔中長期的戦略
中長期的には、新パーパス「『家族の幸せ』と『個人の幸せ』が寄り添える社会へ」の具現化です。保育事業で培った強固な顧客基盤(=家族)に対し、産後ケア、保護者(特に女性)向けのリスキリング支援、海外留学支援といった、「総合パーソナルケアサービス」をクロスセルし、事業領域を拡大していきます。 これにより、「保育」という子どもが在籍する期間だけのビジネスから、家族のライフステージ全体に寄り添うビジネスへと進化し、少子化という構造的な脅威を乗り越え、持続的な成長を目指す戦略が期待されます。
【まとめ】
株式会社Smile Projectは、単なる保育園運営会社ではありません。それは、「キッズガーデン」という強力なブランドを軸に、創業時から一貫して「保育の質」を追求し、首都圏で80以上の教育施設を展開する業界のリーディングカンパニーです。
第17期決算では、グローバルスクールなど未来への先行投資により55百万円の純損失を計上しましたが、46.7億円の潤沢な利益剰余金と上場親会社の支援という盤石の財務基盤があります。 2025年1月の社名変更は、同社が「保育」という枠を超え、産後ケアや家族支援までをも内包する「総合パーソナルケアサービス」企業へと進化し、個人と家族が共に満たされる社会を創造するという、次なるステージへの挑戦の始まりを告げるものです。
【企業情報】
企業名: 株式会社Smile Project
所在地: 東京都品川区西五反田一丁目3番8号 五反田PLACE7階
代表者: 代表取締役社長 土居 亜由美
設立: 2008年12月12日
資本金: 2,700万円 (27,000千円)
事業内容: 認可保育園、プレスクール・幼児教室、学童施設、スイミングスクールの運営、幼児教育教材開発等
株主: 株式会社Smile Holdings(100%出資)