誰もがSNSで発信し、個人の「好き」が経済的な価値を持つ「クリエイターエコノミー」。多くの人が自分の作品やデザインで収益を得たいと願う一方で、「在庫リスク」「制作の最小ロット」「配送の手間」といった物販の高いハードルが存在していました。もし、これら全てをゼロにして、誰もが無料で自分のオンラインショップを持てるとしたらどうでしょうか。
今回は、「好きを、カタチに」をビジョンに掲げ、設立3年目にして「世界的なコマースプラットフォームを作る」という壮大なミッションに挑むスタートアップ、株式会社ヨセミテの決算を読み解き、そのビジネスモデルと急成長を支える戦略をみていきます。

【決算ハイライト(3期)】
資産合計: 194百万円 (約1.9億円)
負債合計: 36百万円 (約0.4億円)
純資産合計: 159百万円 (約1.6億円)
当期純損失: 88百万円 (約0.9億円)
自己資本比率: 約81.6%
利益剰余金: ▲153百万円 (約▲1.5億円)
【ひとこと】
設立3年目のスタートアップとして、当期純損失88百万円、利益剰余金▲153百万円という赤字は、プラットフォーム開発やマーケティングへの積極的な「先行投資」の結果と推察されます。注目すべきは自己資本比率約81.6%という高い数値であり、強固な財務基盤が伺えます。
【企業概要】
社名: 株式会社ヨセミテ
設立: 2022年3月
事業内容: 無在庫型オリジナルグッズ販売サービスなど、コマースプラットフォームの開発・運営
【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、ビジョンである「好きを、カタチに」を実現するための「コマースプラットフォーム事業」に集約されます。具体的には、クリエイター向けと法人向けのサービスを展開しています。
✔YOSEMITE for Creators (クリエイター向け)
これが同社の中核サービスです。クリエイターや個人が、在庫リスクなしでオリジナルグッズを制作・販売できる「無在庫型オリジナルグッズ販売サービス」を提供しています。
最大の特徴は、グッズ制作からECサイトでの販売、受注後の配送までをワンストップで提供する点です。ユーザーは、約100種類の商品(Tシャツなどのアパレル、サウナグッズ、刺繍対応商品など)から好きなものを選び、デザインをアップロードするだけで、最短10分で自分のオンラインショップを開設できます。
商品は「受注生産型」のため、ユーザーは在庫を抱えるリスクが一切ありません。初期費用や月額利用料も無料で、販売手数料もかかりません。ユーザーの利益は、自身で設定した「販売価格」からYOSEMITEが設定した「仕入価格」を引いた差額となります。在庫管理や配送業務(匿名配送にも対応)は全てYOSEMITEが代行するため、クリエイターは「好き」を表現する創作活動に集中できます。
✔PLATFORM (法人向け)
Webサイト上では「法人向けの製造・販売プラットフォーム」の開発・運営も掲げられています。これは、クリエイター向けサービスで培ったノウハウを活かし、企業のコーポレートグッズ制作(インナーブランディング)や、ノベルティ作成、あるいは企業自体のD2C(Direct to Consumer)事業への参入を支援するBtoBサービスであると推測されます。
✔COMMERCE (自社コマース)
プラットフォームを活用し、ライフスタイル領域における製造・販売も行っています。これは、自社でD2Cブランドを運営することでプラットフォームの機能検証や販売ノウハウを蓄積し、サービス改善に活かす役割も担っていると考えられます。
【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
同社が事業を展開する背景には、クリエイターエコノミー市場の急速な拡大があります。SNSの普及により個人が影響力を持ち、自身の世界観を商品化して収益を上げる流れが一般化しています。
しかし、従来の物販(OEM)には、最小発注ロット、在庫管理、梱包・配送といった物理的・金銭的な負担が大きく、多くの人にとって参入障壁となっていました。YOSEMITEは、この「物販の面倒ごと」を全て引き受けることで、クリエイターの参入障壁を限りなくゼロに近づけています。
✔内部環境
今回の第3期決算で示された当期純損失88百万円、利益剰余金▲153百万円は、典型的なスタートアップの「投資フェーズ」にあることを示しています。収益化よりも、まずはプラットフォームの機能開発、利用クリエイターの獲得(マーケティング)、そしてそれを支える優秀な人材(エンジニア、プロダクトマネージャーなど)の採用に資金を集中投下している段階です。
その原資となっているのが、2024年10月に発表された3.1億円の資金調達です。今回の官報の数値を見ると、資本金(1億5,601万円)と資本準備金(1億5,501万円)の合計が約3.11億円となっており、この調達資金が財務諸表に反映されたことが明確にわかります。
✔安全性分析
3.1億円の資金調達により、同社の財務基盤は極めて強固なものとなっています。自己資本比率は約81.6%と非常に高く、資産合計約1.9億円の大半が、調達した資金(現預金と推察される)を含む流動資産(約1.7億円)で占められています。
負債合計が約36百万円と、自己資本(純資産約1.59億円)に比べて極めて小さく、外部からの借入に頼らない健全な財務運営が行われています。現在は先行投資による赤字が続いていますが、この豊富な自己資本が、黒字化に向けた開発・マーケティング活動を強力に下支えしています。
【SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・「グッズ制作+EC一体型」による、シームレスで簡単な利用体験。
・初期費用・月額費用・販売手数料無料という、クリエイターにとっての圧倒的な参入のしやすさ。
・3.1億円の資金調達による豊富な自己資本と、自己資本比率約81.6%という高い財務安全性。
・アパレルからサウナグッズまで約100種類の豊富な商品ラインナップと、刺繍加工などへの対応力。
弱み (Weaknesses)
・2022年設立と歴史が浅く、市場でのブランド認知度や利用者数がまだ限定的である可能性。
・プラットフォーム事業の特性上、先行投資(赤字)が続く収益構造(黒字化までの体力勝負)。
・競合他社(BASE、STORES、SUZURIなど)との明確な差別化の訴求が今後の課題。
機会 (Opportunities)
・クリエイターエコノミー市場の継続的な拡大と、個人の副業ニーズの高まり。
・企業によるD2C参入や、インナーブランディング(オリジナルグッズ制作)需要の増加。
・AIによるデザイン生成技術の進歩と、プラットフォームの連携。
脅威 (Threats)
・大手ECプラットフォーム(BASE、STORESなど)や、既存のグッズ制作サービス(SUZURIなど)との競争激化。
・景気後退局面における、個人の趣味やクリエイターグッズへの消費意欲の減退。
・プラットフォームを支えるエンジニアやプロダクトマネージャーなど、IT専門人材の採用競争の激化。
【今後の戦略として想像すること】
「世界的なコマースプラットフォームを作る」というミッションの実現に向け、調達した豊富な資金を活用した積極的な事業拡大が続くと予想されます。
✔短期的戦略
まずはクリエイター(利用者数)の獲得を最優先し、プラットフォームの流動性を高めることが急務です。SNSを中心としたデジタルマーケティング、クリエイターイベントへの協賛などを強化するでしょう。同時に、法人向けサービスの本格展開を進め、収益源の多角化を図ると考えられます。
✔中長期的戦略
単なるグッズ販売の場に留まらず、クリエイターの「好き」を多角的に支援するエコシステムの構築を目指すでしょう。例えば、デザイン支援ツールの提供、ファンコミュニティ機能の実装、売上データに基づくマーケティング支援などが考えられます。また、ミッションに「世界的な」とある通り、国内での基盤を固めた後のグローバル展開も視野に入っているはずです。
【まとめ】
株式会社ヨセミテは、単なるオリジナルグッズの制作代行企業ではありません。それは、クリエイターや個人が直面する「物販の壁」を取り払い、「好きを、カタチに」することを技術の力で実現する「コマースプラットフォーム」の構築者です。
設立3年目、第3期決算は積極的な先行投資により88百万円の当期純損失となりましたが、3.1億円の大型資金調達を背景に、自己資本比率約81.6%という鉄壁の財務基盤を確立しています。クリエイターエコノミーという追い風の中、豊富な資金力を武器に、誰もがリスクゼロで「好き」をビジネスにできる環境を提供し、そのプラットフォームを世界に広げていくことが期待されます。
【企業情報】
企業名: 株式会社ヨセミテ
所在地: 〒102-0076 東京都千代田区五番町2-14-202
代表者: 代表取締役 菊川 航希
設立: 2022年3月
資本金: 156,012,400円
事業内容: コマースプラットフォームの開発・運営(無在庫型オリジナルグッズ販売サービス「YOSEMITE」の運営、ライフスタイル領域のD2C事業等)