日本の未来を切り拓く鍵は、地方にこそ眠っているのかもしれません。人口減少や事業承継といった課題に直面する地方経済を再活性化させるため、今、地域に根差したスタートアップ企業への期待が急速に高まっています。その担い手として、地域経済を熟知し、広範なネットワークを持つ地方銀行系のベンチャーキャピタル(VC)が、極めて重要な役割を果たし始めています。
今回は、岐阜を拠点とする十六フィナンシャルグループのコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)として、まさに「令和の楽市楽座」を創造すべく設立された、NOBUNAGAキャピタルビレッジ株式会社の決算を読み解きます。設立から4年、赤字決算となったその背景には、未来の大きな収穫に向けた「種まき」を着々と進める、計算された成長戦略がありました。東海エリアの未来を創造する同社のビジネスモデルに迫ります。

【決算ハイライト(第4期)】
資産合計: 164百万円 (約1.6億円)
負債合計: 62百万円 (約0.6億円)
純資産合計: 102百万円 (約1.0億円)
当期純損失: 7百万円 (約0.1億円)
自己資本比率: 約62.4%
利益剰余金: 2百万円 (約0.02億円)
【ひとこと】
まず注目すべきは、設立4年目のベンチャーキャピタルでありながら、自己資本比率が62%を超える極めて健全な財務基盤です。これは親会社である十六フィナンシャルグループの強力なバックアップの証左と言えます。今期は7百万円の純損失を計上していますが、これはVCのビジネスモデル上、投資先の選定や育成といった先行投資フェーズにあることを示しています。短期的な損益よりも、将来有望なポートフォリオを構築している段階であり、むしろ順調な立ち上がりと評価できるでしょう。
【企業概要】
社名: NOBUNAGAキャピタルビレッジ株式会社
設立: 2021年4月1日
株主: 十六フィナンシャルグループ
事業内容: 「ベンチャー支援」「経営承継」「事業再生」をテーマとする投資事業(ファンド運営)、および地域の起業家・経営者向けコミュニティ推進事業
www.nobunaga-capital-village.co.jp
【事業構造の徹底解剖】
NOBUNAGAキャピタルビレッジのビジネスモデルは、単に資金を供給するだけの従来のVCとは一線を画します。十六フィナンシャルグループの強みを最大限に活かし、「インベストメント(投資)」と「コミュニティ(場の創造)」の両輪で、地域経済の新たな生態系(エコシステム)を創出することにその本質があります。
✔インベストメント事業(3つのファンドによる多角的な投資)
同社の投資戦略は、目的別に組成された3つのファンドによって実行されています。
・NOBUNAGA Raise Fund(CVCファンド): OLTAやLuup、カウシェなど、主に地域外の先進的なビジネスモデルを持つスタートアップへ投資。これらの企業が持つ新しい技術やサービスを、十六フィナンシャルグループの取引先へ導入することで、地域全体のDXを促進する狙いがあります。
・NOBUNAGA Village Fund(地域VCファンド): 「空飛ぶクルマ」のSkyDriveや、農業DXを手掛けるトクイテンなど、東海エリアに拠点を置く、あるいは地域の課題解決に資するスタートアップへ重点的に投資。地域の未来を直接的に創造する企業を育成します。
・NOBUNAGA Growing Fund(地域連携ファンド): 地域の事業承継や事業再生のニーズに応えるためのファンド。後継者不在に悩む優良な中小企業に資金を供給し、経営のバトンを未来へ繋ぐ役割を担います。
✔コミュニティ推進事業(ヒト・モノ・カネ・情報が集まる「村」づくり)
同社のもう一つの重要な柱が、投資という「カネ」の流れだけでなく、起業家や経営者が集い、交流する「場」を創造するコミュニティ事業です。セミナーやピッチイベントの開催、コワーキングスペースの運営などを通じて、起業家同士のネットワーク構築や、新たなビジネスチャンスの創出を促進。このコミュニティは、有望な投資先を発掘するための重要な情報源であると同時に、投資後の成長支援(ハンズオン)のプラットフォームとしても機能しています。
【財務状況等から見る経営戦略】
同社の財務諸表は、長期的な視点で地域経済に貢献するという、地方銀行系CVCならではの経営戦略を反映しています。
✔外部環境
国を挙げたスタートアップ支援策の強化や、深刻化する地方の事業承継問題は、同社の事業にとって強力な追い風です。特に、地方創生とイノベーションを結びつける動きは活発化しており、地域に根差したVCへの期待は日に日に高まっています。一方で、世界的な金利上昇や景気後退懸念は、スタートアップの資金調達環境やIPO市場に影響を与え、VCの出口戦略(投資回収)を難しくする可能性も秘めています。
✔内部環境
ベンチャーキャピタル事業の収益は、主にファンドの管理手数料(安定収益)と、投資先企業の株式売却益(キャピタルゲイン)から構成されます。設立4年目の同社は、まさに投資先の選定と育成に注力している「投資期間」の真っ只中にあります。本格的なキャピタルゲインが得られるのは、投資先が大きく成長し、IPO(株式公開)やM&Aに至る数年先になります。今期の7百万円の赤字は、人件費や調査費といったファンド運営費用が、現時点での管理手数料収入を上回った結果であり、VCのビジネスサイクルとしてはごく自然なプロセスです。
✔安全性分析
自己資本比率62.4%という高い数値は、短期的な赤字に動じることなく、腰を据えて長期的な視点で投資先の成長を支援できる、盤石な経営体力があることを示しています。親会社である十六フィナンシャルグループの強力な信用力を背景に、財務的な安定性は極めて高いと言えるでしょう。
【SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・十六フィナンシャルグループの絶大な信用力と広範な顧客ネットワーク
・地域経済への深い理解と、事業承継問題に取り組む独自の立ち位置
・多様なファンドを通じた、柔軟な投資戦略
・投資とコミュニティ運営を両立させた、独自のスタートアップ支援モデル
弱み (Weaknesses)
・設立から日が浅く、まだ十分な投資回収(イグジット)実績がない
・東海エリアという地理的な制約
・VC業界における、優秀なキャピタリストの獲得競争
機会 (Opportunities)
・国や自治体による、地方創生・スタートアップ支援策の拡充
・東海エリアにおける、製造業を中心としたDX・GX(グリーン・トランスフォーメーション)の巨大な潜在ニーズ
・事業承継問題の深刻化に伴う、M&Aやファンド活用のニーズ増
脅威 (Threats)
・景気後退によるスタートアップの成長鈍化や、IPO市場の冷え込み
・他の金融機関系VCや独立系VCとの、有望な投資先を巡る競争激化
・投資先企業の経営破綻リスク
【今後の戦略として想像すること】
NOBUNAGAキャピタルビレッジは、東海エリアのイノベーション・エコシステムのハブとなるべく、その活動をさらに加速させていくことが予想されます。
✔短期的戦略
引き続き、3つのファンドを通じて、多様なステージ・領域の有望な企業への投資を積極的に実行し、ポートフォリオの拡充を図るでしょう。同時に、コミュニティ活動をさらに活発化させ、投資先企業同士の連携や、十六フィナンシャルグループの取引先とのビジネスマッチングを促進することで、投資先の成長を具体的に支援していくことが考えられます。
✔中長期的戦略
中長期的には、初期に投資した企業のIPOやM&Aを成功させ、ファンドの投資家(LP)に対して高いリターンを実現することが最大の目標となります。成功事例を積み重ねることで、VCとしての実績とブランドを確立し、次なるファンドの組成へと繋げていくでしょう。そして、同社が育てたスタートアップが地域を代表する企業へと成長し、新たな雇用を生み、地域経済を牽引するという好循環を創出することが期待されます。
【まとめ】
NOBUNAGAキャピタルビレッジ株式会社は、単にお金を投資する会社ではありません。それは、戦国の風雲児・織田信長が既成概念を打ち破り、自由な経済圏を築いたように、資金(インベストメント)と場(コミュニティ)の両輪で、岐阜・東海エリアに新たな産業の芽を育む「地域エコシステムの創造者」です。今回の赤字決算は、未来の天下統一に向けた、いわば「兵糧の投資」。その先には、地域経済の大きな飛躍が待っています。
十六フィナンシャルグループという強力な城を背景に、同社がどのような未来の「信長」を発掘し、育てていくのか。その挑戦は、日本の地方創生の未来を占う重要な試金石となるでしょう。
【企業情報】
企業名: NOBUNAGAキャピタルビレッジ株式会社
所在地: 岐阜県岐阜市神田町6丁目11番地1 協和第2ビル 5階
代表者: 代表取締役 峠 清孝
設立: 2021年4月1日
資本金: 50百万円
事業内容: インベストメント事業(CVCファンド、地域VCファンド、地域連携ファンドの運営)、コミュニティ推進事業
株主: 十六フィナンシャルグループ