海外旅行の計画を立てる時、私たちはパンフレットやウェブサイトで魅力的なツアーを見つけ、申し込みます。しかし、その航空券、現地のホテル、観光地の送迎、そしてヨーロッパを巡る鉄道の切符一枚一枚が、どのようにして私たちの手元に届けられるのか、その裏側を想像したことはあるでしょうか。そこには、世界中のサプライヤーと旅行会社を繋ぎ、旅という無形の商品を形にする「ランドオペレーター」と呼ばれる旅のプロフェッショナルの存在が不可欠です。
今回は、旅行業界のプロを支えるプロ集団、株式会社欧州エキスプレスの決算を読み解き、グローバルな旅行ビジネスの仕組みと、その独自の戦略に迫ります。

【決算ハイライト(40期)】
資産合計: 776百万円 (約7.8億円)
負債合計: 640百万円 (約6.4億円)
純資産合計: 136百万円 (約1.4億円)
当期純利益: 15百万円 (約0.2億円)
自己資本比率: 約18%
利益剰余金: 15百万円 (約0.2億円)
【ひとこと】
コロナ禍の長いトンネルを抜け、旅行需要が回復する中、15百万円の当期純利益を確保し黒字転換を果たした点が最大のポイントです。自己資本比率は約18%と、財務の健全化は今後の課題ですが、厳しい環境を乗り越え、回復軌道に乗ったことが明確に示された決算と言えるでしょう。
【企業概要】
社名: 株式会社欧州エキスプレス
設立: 1985年
事業内容: 旅行会社向けに海外のホテルや航空券、鉄道などを手配するランドオペレーター事業を主軸に、海外鉄道販売事業、ワイン輸入販売事業の3つの柱で事業を展開。HISグループの一員。
【事業構造の徹底解剖】
同社のビジネスは、一般消費者と直接取引するのではなく、旅行会社を顧客とするBtoB(Business to Business)モデルが中心です。旅行という商品の「卸売業」や「専門商社」と考えると分かりやすいかもしれません。その事業は、大きく3つの専門分野で構成されています。
✔SKY hub事業(ランドオペレーター事業)
これが同社の中核事業です。旅行会社が企画するパッケージツアーや個人旅行(FIT)に必要な、世界中の「旅のパーツ」をワンストップで提供します。
・具体的内容: 海外航空券、ホテル、現地での送迎、オプショナルツアー、団体旅行の手配など。
・強み: 全世界に広がるネットワークを駆使した独自の仕入れ力と、24時間対応の日本語サポート体制が、顧客である旅行会社に「安心」を提供しています。BtoB専用のホテル予約サイトも運営し、業務の効率化にも貢献しています。
✔Rail Sales事業(海外鉄道販売事業)
「欧州エキスプレス」という社名の由来ともいえる、専門性の高い事業です。レイルヨーロッパの公式代理店として、ヨーロッパを中心に世界の鉄道手配を担います。
・具体的内容: ユーレイルパスなどの鉄道パス、ユーロスターなどの高速列車、寝台列車、さらには「ベニス・シンプロン・オリエント・エクスプレス」のような豪華列車の切符まで幅広く取り扱います。
・強み: オンライン予約システム「Tremas」による迅速な手配と、複雑な旅程の相談にも応じられる鉄道専門スタッフの存在が、他社にはない競争優位性を生んでいます。
✔Marche Vista(ワイン輸入販売事業)
旅行業とは一見異なる、ユニークな事業です。独自にニュージーランドワインを輸入し、自社のECサイトで販売しています。これは、旅行業という景気変動や国際情勢の影響を受けやすい事業のリスクを分散させ、収益源を多角化する戦略と見ることができます。
【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
新型コロナウイルスの影響が薄れ、世界の旅行需要はV字回復を遂げています。特にインバウンド(訪日外国人旅行)は、円安を追い風に急拡大しており、同社のグローバルネットワークを活かす絶好の機会となっています。一方で、円安は日本人の海外旅行(アウトバウンド)にとってはコスト増に繋がり、逆風にもなり得ます。また、旅行形態が団体旅行から個人旅行へシフトしている流れは、同社が得意とする個人向けのパーツ手配の需要を高めています。
✔内部環境
旅行会社というプロを相手にするBtoBビジネスに特化することで、マス向けの広告宣伝費を抑え、専門性の高い人材の育成やグローバルネットワークの構築に経営資源を集中できます。HISグループの一員であることも、仕入れ交渉や信用力の面で大きなアドバンテージとなっています。
✔安全性分析
自己資本比率は約18%と、財務の安定性をさらに高めていく必要があります。特に、流動資産(571百万円)を流動負債(638百万円)が上回っており、短期的な資金繰りには注意が必要です。これは旅行代金の前受金などが負債に含まれる旅行業特有の会計事情も影響しますが、継続的な収益確保による財務体質の改善が重要な経営課題となります。そうした中、今期しっかりと黒字を確保し、利益剰余金をプラスに転じさせたことは、今後の成長に向けた大きな一歩と言えます。
【SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・世界中に広がるネットワークと24時間日本語サポート体制
・海外鉄道手配における高い専門性と公式代理店というポジション
・旅行会社との長年にわたるBtoB取引で築いた強固な信頼関係
・HISグループとしての信用力とスケールメリット
・ワイン事業による収益源の多角化
弱み (Weaknesses)
・自己資本比率が比較的低く、財務基盤の強化が課題
・旅行代理店経由のビジネスモデルであり、市場構造の変化の影響を受けやすい
機会 (Opportunities)
・円安を追い風としたインバウンド(訪日旅行)市場の急拡大
・個人旅行(FIT)化の進展による、専門的なパーツ手配の需要増加
・環境意識の高まりによる鉄道旅行の再評価(サステナブルツーリズム)
脅威 (Threats)
・紛争やパンデミックなど、国際情勢の悪化による旅行需要の減退リスク
・急激な為替変動や燃油サーチャージの高騰
・AI等の進化による、旅行手配業務の自動化や代替サービスの出現
【今後の戦略として想像すること】
回復基調にある旅行市場の波に乗り、さらなる成長を遂げるため、以下の戦略が考えられます。
✔短期的戦略
・インバウンド需要の確実な取り込み。特に専門性を活かせる鉄道周遊プランなどを海外の旅行会社に積極的に提案し、日本の魅力を伝える。
・オンライン予約システムのUI/UXを改善し、顧客である旅行会社の利便性をさらに高めることで、取引シェアを拡大する。
・利益率を重視した経営を徹底し、キャッシュフローを改善。財務基盤の強化を図る。
✔中長期的戦略
・アジアを中心とした新興国の旅行市場を開拓し、新たな顧客基盤を構築する。
・旅行事業とワイン事業のシナジー創出。例えば、ニュージーランドのワイナリーを巡る特別なツアーを企画・造成し、ワインの販売促進と旅行商品の高付加価値化を同時に実現する。
・サステナビリティを意識した旅行商品を開発し、環境意識の高い旅行者のニーズに応える。
【まとめ】
株式会社欧州エキスプレスは、単なる旅行手配会社ではありません。それは、世界中の旅の素材を仕入れ、専門知識というスパイスを加え、旅行会社というシェフに提供することで、私たち生活者の「心躍る」体験を創造する、旅の総合商社です。その事業は、ランドオペレーター、鉄道、そしてワインというユニークな3本柱で構成されています。
コロナ禍という未曽有の危機を乗り越え、再び黒字へと舵を切った同社。今後は、強みであるグローバルネットワークと専門性を武器に、急回復するインバウンド市場を取り込みながら、財務基盤を強化していくことが期待されます。旅の裏方として、これからも世界中の人々の感動を支え続けることでしょう。
【企業情報】
企業名: 株式会社欧州エキスプレス
所在地: 東京都港区虎ノ門4-1-1 神谷町トラストタワー5階
代表者: 古川 豪己
設立: 1985年11月7日
資本金: 1億円
事業内容: ランドオペレーター事業、航空ホールセール事業、海外鉄道販売事業、ワイン輸入販売事業