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#4445 決算分析 : Aptos Japan株式会社 第5期決算 当期純利益 ▲251百万円

Web3、ブロックチェーン、NFT。未来のインターネットの形として世界中で開発競争が激化するこの領域で、旧Meta社の技術者たちがスピンアウトして立ち上げた、鳴り物入りのプロジェクトがあります。それが、次世代のレイヤー1ブロックチェーン「Aptos」です。その日本における戦略拠点として設立されたのが、Aptos Japan株式会社。

今回は、世界最高峰の頭脳が集う最先端テクノロジー企業の日本法人が、どのような財務状況にあるのか、その決算書を読み解きます。巨額の赤字の裏にある、未来への壮大な投資戦略に迫ります。

Aptos Japan決算

【決算ハイライト(5期)】
資産合計: 496百万円 (約5.0億円)
負債合計: 43百万円 (約0.4億円)
純資産合計: 453百万円 (約4.5億円)

当期純損失: 251百万円 (約2.5億円)

自己資本比率: 約91.4%
利益剰余金: 83百万円 (約0.8億円)

【ひとこと】
純資産4.5億円に対し、当期の純損失が2.5億円。一見すると厳しい決算ですが、注目すべきは91.4%という驚異的に高い自己資本比率です。これは、潤沢な資金調達を背景に、収益化を急がず、製品開発や市場開拓に巨額の投資を行っている、典型的な先端技術系スタートアップの姿を映し出しています。

【企業概要】
社名: Aptos Japan株式会社
設立: 2020年3月2日
事業内容: Web3アプリケーションおよびブロックチェーン関連製品・ツールの開発、提供

aptoslabs.com


【事業構造の徹底解剖】
Aptos Japanは、グローバルに展開するAptos Labsの日本法人です。その事業は、一般的な製品を販売して利益を上げるモデルとは異なり、「Aptosブロックチェーン」という巨大なエコシステム(生態系)を日本に根付かせ、発展させることを目的としています。

✔基盤となる「Aptosブロックチェーン」の開発
Aptos Labsの中核事業は、高速・安全・スケーラブルであることを特徴とするレイヤー1ブロックチェーン「Aptos」そのものの開発です。Aptos Japanは、この世界最先端の技術を日本市場に展開するための拠点としての役割を担っています。

✔エコシステムを育てるための「製品・ツール群」
同社が提供する「Aptos Build」や「Petra Wallet」、「Aptos Explorer」といったプロダクトは、それ自体が直接的な収益源というよりは、開発者やユーザーがAptosブロックチェーンを容易に利用できるようにするためのツールです。これらのツールを無償または安価に提供することで、Aptos上で動くアプリケーション(dApps)やサービスが数多く生まれる土壌を耕しています。

✔日本市場への戦略的アプローチ
ウェブサイト上の開示情報からは、同社が日本のブロックチェーンゲーム企業「HashPalette」を買収し、「エルフトークン(ELF)」や「パレットトークン(PLT)」といった暗号資産に関わる事業を引き継いでいることがうかがえます。これは、世界的に注目度の高い日本のゲーム・エンタメ市場を、Aptosエコシステム拡大の足掛かりにしようとする、極めて戦略的な動きと言えるでしょう。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
Web3業界は、イーサリアムやソラナといった既存のブロックチェーンが覇権を争う、熾烈な競争環境にあります。その中でAptosは、高い技術力を武器に、金融、ゲーム、SNSなど、様々な分野での実用化を目指しています。特に日本は、政府がWeb3を国家戦略の一つとして掲げ、大手企業も参入に意欲的なことから、世界中のブロックチェーンプロジェクトにとって最も魅力的な市場の一つとなっています。

✔内部環境
同社のビジネスモデルは、典型的な「先行投資型」です。2.5億円という巨額の純損失は、事業の失敗ではなく、世界トップクラスのブロックチェーンエンジニアへの人件費、マーケティング費用、そして有望なプロジェクトをAptosエコシステムに誘致するための助成金など、未来の価値を創造するための戦略的な支出であると解釈できます。ウェブサイトに記載されている資本金(資本準備金含む)3.7億円という数字が、こうした投資活動を支える体力を示しています。

✔安全性分析
当期純損失が2.5億円と大きいにもかかわらず、同社の財務安全性は極めて高い状態にあります。自己資本比率が91.4%ということは、会社の資産のほとんどが返済不要の自己資本で賄われていることを意味します。負債はわずか4,300万円であり、倒産リスクは皆無と言えます。これは、親会社であるAptos Labsや、世界的なベンチャーキャピタルからの潤沢な資金調達が背景にあることを示唆しています。現在の課題は財務の安全性ではなく、この豊富な資金をいかに効率的に投下し、エコシステムを拡大できるかという点にあります。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・旧Meta社のDiemプロジェクトに由来する、世界トップクラスの技術力
・潤沢な資金調達力と、90%を超える自己資本比率が示す盤石な財務基盤
・HashPalette社の買収を通じた、日本のゲーム・NFT市場への強力な足掛かり

弱み (Weaknesses)
・現時点では収益化よりも投資が優先されており、巨額の赤字を計上している
・事業の成否が、ボラティリティの激しい暗号資産市場全体の動向に大きく左右される

機会 (Opportunities)
・日本の大手企業やゲーム業界における、ブロックチェーン技術導入への強い関心
・Aptosブロックチェーン上でのキラーアプリケーションの誕生による、エコシステムの飛躍的拡大
・金融機関向けのソリューション「Aptos Ascend」など、エンタープライズ領域での事業展開

脅威 (Threats)
イーサリアムやソラナなど、他のレイヤー1ブロックチェーンとの熾烈な競争
・暗号資産に対する世界的な法規制の強化や、予期せぬ変更
・ハッキングなど、ブロックチェーンに内在する技術的・セキュリティ的リスク


【今後の戦略として想像すること】
巨額の投資フェーズにある同社が、次に見据える戦略はどのようなものでしょうか。

✔短期的戦略
日本国内における開発者コミュニティの育成と、パートナー企業の開拓が最優先課題です。HashPaletteから引き継いだゲームプロジェクトなどを成功させ、「Aptosを使えばこんなことができる」という具体的な成功事例を国内外に示すことが重要になります。

✔中長期的戦略
最終的な目標は、Aptosを日本におけるWeb3サービスの「標準的な開発基盤」の一つにすることです。エコシステムが十分に拡大すれば、ネットワーク手数料の増加や、Aptosブロックチェーン自体の価値向上、そして金融機関などエンタープライズ向けのソリューション提供などを通じて、現在の投資を回収し、大きな利益を生み出すフェーズへと移行していくでしょう。


【まとめ】
Aptos Japanの決算書は、未来のインターネットを構築しようとする、壮大なテクノロジーベンチャーの「今」を切り取ったスナップショットです。2.5億円という赤字は、失敗の記録ではなく、未来の巨大な果実を得るために、今まさに力強く根を張っている証と言えます。

90%を超える自己資本比率という鉄壁の財務基盤に支えられ、同社は日本という戦略的に重要な市場で、Aptosエコシステムの拡大というミッションを遂行しています。その成否は、来期や再来期の短期的な黒字ではなく、5年後、10年後に、どれだけ多くの開発者やユーザーをAptos経済圏に惹きつけられているかによって測られることになるでしょう。


【企業情報】
企業名: Aptos Japan株式会社
所在地: 東京都港区芝浦一丁目1番1号
代表者: エイブリー・チン
設立: 2020年3月2日
資本金: 3億7,000万円(資本準備金を含む)
事業内容: Web3アプリケーションおよびブロックチェーン関連製品・ツールの開発、提供

aptoslabs.com

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