決算公告データ倉庫

決算公告を自分用に収集・コメントし保管する倉庫。あくまで自分用であり、引用する決算公告を除き内容の正確性/真実性を保証できない点はご容赦ください。

#4396 決算分析 : 鹿島パワー株式会社 第12期決算 当期純利益 5百万円

私たちが日常的に使う電気。その安定供給の裏側には、24時間365日稼働を続ける巨大な発電所の存在があります。特に、日本の産業を支える基幹電力として、火力発電は今なお重要な役割を担っています。今回は、その火力発電事業の一翼を担う、異色の企業に焦点を当てます。日本最大の鉄鋼メーカー「日本製鉄」と、国内発電事業の雄「J-POWER(電源開発)」がタッグを組んで設立した、鹿島パワー株式会社です。鉄鋼と電力、それぞれの業界の巨人が手を組んだこのプロジェクトは、どのようなビジネスモデルで運営されているのでしょうか。官報に記載された詳細な損益計算書も紐解きながら、現代のエネルギー事業のリアルな経営実態に迫ります。

鹿島パワー決算

【決算ハイライト(第12期)】
資産合計: 54,573百万円 (約545.7億円)
負債合計: 31,368百万円 (約313.7億円)
純資産合計: 23,205百万円 (約232.1億円)

売上高: 57,410百万円 (約574.1億円)
当期純利益: 5百万円 (約0.1億円)

自己資本比率: 約42.5%
利益剰余金: ▲1,731百万円 (約▲17.3億円)

【ひとこと】
574億円という莫大な売上高に対し、当期純利益は5百万円と、利益率が極めて低い点が最大の特徴です。これは、燃料費などが高騰する電力事業の厳しい収益構造を如実に示しています。一方で自己資本比率は42.5%と健全であり、強力な親会社による盤石な財務基盤がうかがえます。

【企業概要】
社名: 鹿島パワー株式会社
設立: 2013年12月9日
株主: 日本製鉄株式会社(50%)、電源開発株式会社(J-POWER)(50%)
事業内容: 出力645MWの石炭火力発電所の運転、保守および電力の販売

www.kashimapower.com


【事業構造の徹底解剖】
鹿島パワー株式会社の事業は、IPP(独立系発電事業者)として、自社で保有する発電所で電気を創り、それを電力市場などに販売するという、シンプルな構造です。しかし、その背景には、株主である2社の強力なシナジーが組み込まれています。

✔発電事業
事業の心臓部は、茨城県鹿嶋市にある出力645メガワットの石炭火力発電所です。これは、一般家庭に換算すると数十万世帯分の電力を賄えるほどの巨大な発電能力を誇ります。2020年7月に営業運転を開始した比較的新しい高効率の発電所であり、日本の電力の安定供給に貢献しています。立地は日本製鉄の東日本製鉄所鹿島地区の構内であり、インフラの共有など様々なメリットがあると考えられます。

✔電力販売事業
発電した電力は、卸電力取引市場(JEPX)などを通じて、電力会社や大口の需要家へ販売されます。今期の売上高は約574億円に達しており、発電所が計画通りに安定稼働し、大きな規模の電力取引を行っていることがわかります。

✔強力な株主シナジー
同社の最大の強みは、日本製鉄とJ-POWERという、それぞれの業界のトップ企業によるジョイントベンチャーである点です。
・日本製鉄: 世界有数の鉄鋼メーカーとして、発電所の建設・運営に必要な土地やインフラを提供。また、自社工場が電力の大口需要家となる可能性もあります。
・J-POWER: 長年にわたり日本の電力インフラを支えてきた発電事業のプロフェッショナル。発電所の建設から運転、保守管理に至るまで、世界トップクラスの技術とノウハウを提供します。
この鉄鋼と電力の巨人によるタッグは、事業のリスクを大幅に低減させるとともに、極めて高いレベルでの安定運転を可能にしています。


【財務状況等から見る経営戦略】
今回開示された損益計算書は、発電事業の経済的な実態を鮮明に示しています。

✔外部環境
電力事業は、燃料価格の国際市況に収益が大きく左右されます。特に石炭火力である同社にとって、石炭価格の変動は経営の最重要リスクです。また、電力の販売価格も、季節や需給バランス、燃料価格などによって卸電力市場で常に変動します。さらに、世界的な脱炭素化の流れの中で、石炭火力に対する環境規制の強化や、将来的なカーボンプライシング(炭素税など)の導入は、長期的な経営リスクとなります。

✔内部環境
損益計算書を見ると、売上高574億円に対し、そのほとんどを占める売上原価が569億円に達しており、売上総利益(粗利)はわずか5億円弱です。粗利率に換算すると1%にも満たない、極めて薄利なビジネスであることが分かります。この売上原価の大部分は、燃料である石炭の購入費用です。つまり、同社の利益は「電力販売価格」と「燃料購入価格」の差(マージン)にほぼ集約され、そのマージンが非常に小さいことを意味します。
そのような厳しい環境下でも、営業利益段階で約2億円、最終的に5百万円の黒字を確保したことは、J-POWERのノウハウを活かした徹底的な運転コストの管理と、高効率な発電による成果と言えるでしょう。なお、利益剰余金が17.3億円のマイナス(累積損失)となっているのは、発電所の運転開始(2020年)までの建設期間中に発生した費用が先行していたためで、今後は毎年の利益でこの損失を解消していくフェーズに入ります。

✔安全性分析
自己資本比率42.5%は、巨額の設備投資を要する装置産業としては非常に健全な水準です。これは、設立時に株主である日本製鉄とJ-POWERが合計250億円という巨額の資本を投下したことによります。総資産約546億円のうち、固定資産が約483億円を占めており、これが発電所そのものの価値です。負債の多くは、この発電所建設のために調達した長期の借入金と推測されます。この事業の財務的な安全性は、ひとえに日本を代表する巨大企業2社が株主であるという、強力な信用力によって支えられています。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・日本製鉄とJ-POWERという、日本を代表する企業による強力なバックアップとシナジー
・比較的新しく、高効率な大規模発電設備
・2020年からの安定した運転実績
・株主からの巨額出資による、健全な自己資本

弱み (Weaknesses)
・石炭価格や電力市場価格の変動に収益が大きく左右される、極めて薄利な収益構造
・単一の発電所に依存する事業モデル
・エネルギー源が石炭であり、脱炭素化の潮流に対して逆風となる

機会 (Opportunities)
・電力需要の増加や、市場価格の高騰による収益拡大の可能性
再生可能エネルギーが増加する中で、需給調整役としての安定したベースロード電源の価値向上
バイオマスアンモニアなど、よりクリーンな燃料との混焼技術の導入

脅威 (Threats)
・石炭をはじめとする燃料価格のさらなる高騰
・CO2排出に対する環境規制の強化や、炭素税などの導入
・大規模な定期修繕や、予期せぬトラブルによる発電停止リスク
再生可能エネルギーの普及や省エネの進展による、長期的な電力需要の減少


【今後の戦略として想像すること】
鹿島パワーは、電力の安定供給という社会的使命と、脱炭素化という時代の要請の両立を目指すことになります。

✔短期的戦略
まずは、発電所の安定・安全運転を継続し、稼働率を最大化することが最優先です。同時に、燃料である石炭の調達先を多様化し、価格変動リスクをヘッジするなど、徹底したコスト管理によって、薄い利益を確実に確保していくことが求められます。

✔中長期的戦略
石炭火力発電所として生き残るため、環境負荷低減への取り組みが不可欠です。株主である日本製鉄やJ-POWERが研究開発を進める、バイオマスアンモニアといったクリーン燃料を石炭と混ぜて燃やす「混焼」技術の導入が、最も現実的な選択肢となるでしょう。これによりCO2排出量を削減し、脱炭素社会における発電所としての存続価値を高めていく戦略が考えられます。


【まとめ】
鹿島パワー株式会社は、鉄鋼と電力の巨人がそれぞれの強みを持ち寄って生み出した、日本の産業力とエネルギー供給を象徴する企業です。その決算内容は、574億円もの売上を上げながらも、最終利益はわずか5百万円という、電力事業の利益創出の難しさを浮き彫りにしています。しかし、この厳しい環境下で黒字を達成したことは、同社の高い運転技術とコスト管理能力の証明に他なりません。今後は、燃料価格の変動という短期的な課題に加え、脱炭素化という長期的な大きな課題にどう立ち向かっていくのか。その動向は、日本のエネルギーの未来を占う上でも注目されます。


【企業情報】
企業名: 鹿島パワー株式会社
所在地: 茨城県鹿嶋市光3番地(日本製鉄株式会社 東日本製鉄所鹿島地区構内)
代表者: 代表取締役社長 伊藤 敬章
設立: 2013年12月9日
資本金: 125億円
事業内容: 火力発電所の運転、保守および電力の販売
株主: 日本製鉄株式会社(50%)、電源開発株式会社(50%)

www.kashimapower.com

©Copyright 2018- Kyosei Kiban Inc. All rights reserved.