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#4389 決算分析 : ファンズ株式会社 第10期決算 当期純利益 ▲1,028百万円

「貯蓄から投資へ」という大きな潮流の中、多くの人が将来への不安から資産運用の必要性を感じています。しかし、株式投資は値動きが激しく、専門知識も必要そうで怖い。そうした一般的なイメージを覆し、「すべての人のものへ資産運用を開放する」というミッションを掲げ、新しい投資の形を提案するFinTech企業があります。それが、貸付投資プラットフォーム「Funds」を運営するファンズ株式会社です。個人が上場企業などに対して、ファンドを通じて間接的に貸し手となり、安定的なリターンを目指すというユニークなモデルは、多くの注目を集めています。今回は、未来の金融インフラを目指す同社の決算を分析し、急成長を続けるFinTechスタートアップの財務の実態と、その野心的な経営戦略に迫ります。

ファンズ決算

【決算ハイライト(第10期)】
資産合計: 7,240百万円 (約72.4億円)
負債合計: 6,052百万円 (約60.5億円)
純資産合計: 1,189百万円 (約11.9億円)

当期純損失: 1,028百万円 (約10.3億円)

自己資本比率: 約16.4%
利益剰余金: ▲5,773百万円 (約▲57.7億円)

【ひとこと】
当期純損失が約10億円、累積損失を示す利益剰余金が約58億円と、大きな赤字を計上しています。しかし、これは経営不振ではなく、事業の急拡大を目指すための戦略的な先行投資の結果です。約68億円にも上る資本剰余金は、有力なベンチャーキャピタルなどから多額の資金調達に成功している証であり、同社の将来性への高い期待を物語っています。

【企業概要】
社名: ファンズ株式会社
設立: 2016年11月
事業内容: 個人が企業への貸付を通じて投資できるプラットフォーム「Funds」の企画・開発・運営(第二種金融商品取引業

corp.funds.jp


【事業構造の徹底解剖】
ファンズ株式会社の事業は、貸付投資プラットフォーム「Funds」の運営に集約されます。これは、お金を増やしたい個人投資家と、事業資金を必要とする企業をインターネット上で結びつける、新しい形の金融マーケットプレイスです。

✔貸付投資プラットフォーム「Funds」
「Funds」は、個人投資家が1円から、主に上場企業グループへの貸付を主な投資対象とするファンドに投資できるサービスです。
・投資家にとっての価値: 株式投資のような日々の価格変動を気にすることなく、あらかじめ定められた利率と期間に基づいて、安定的な利息収入(分配金)を目指せる点が最大の魅力です。投資対象が上場企業などの信用力の高い企業に限定されていることも、安心材料の一つとなっています。
・資金を借りたい企業にとっての価値: 銀行融資や社債発行といった従来の資金調達手法に加え、より機動的で柔軟な選択肢を提供します。また、多くの個人投資家に自社の事業を知ってもらうマーケティング効果や、ファン株主ならぬ「ファン投資家」とのエンゲージメントを深める機会にもなります。

✔ビジネスモデル
ファンズ社は、投資家と企業を直接結びつけるのではなく、金融商品取引業者としてファンドを組成・管理する役割を担います。企業から組成手数料や業務委託手数料を受け取ることで収益を上げています。このプラットフォームモデルは拡張性が高く、利用者数や取扱高が増加するほど、収益が飛躍的に伸びるポテンシャルを秘めています。

✔信頼性を支える体制
代表の藤田氏をはじめ、マッキンゼーDeNA出身者、弁護士、公認会計士金融庁出身者など、各分野のトップクラスの専門家が集結した経営陣が同社の強みです。また、第二種金融商品取引業者として関東財務局の監督下にあり、厳格なコンプライアンス体制とリスク管理体制を構築していることが、金融サービスとしての信頼性を担保しています。


【財務状況等から見る経営戦略】
10億円超の赤字という数字は、一見するとネガティブに見えますが、これは成長を目指すスタートアップの戦略的な「投資」の結果です。

✔外部環境
政府が推進する「貯蓄から投資へ」の政策や、新しいNISA制度の開始は、国民の資産運用への関心を飛躍的に高めており、同社にとって強力な追い風となっています。また、長引く低金利環境下で、銀行預金以外の運用先を探す人々の受け皿として、同社のサービスは魅力的に映ります。一方で、FinTech分野は競争が激しく、顧客獲得競争は熾烈です。金融サービスである以上、サイバーセキュリティ対策や規制遵守も極めて重要となります。

✔内部環境
同社の経営は、典型的な「Jカーブ」を描くスタートアップの成長モデルに基づいています。つまり、事業立ち上げ期に多額の先行投資(広告宣伝費、人件費、システム開発費)を行い、まずは赤字を掘ってでもユーザー数や市場シェアの獲得を最優先します。そして、事業が一定の規模に達した段階で、収益が費用を上回り黒字化(収穫期)を目指す戦略です。
今回の決算で計上された約10億円の損失は、まさにこの成長のための投資です。そして、その投資を支えているのが、約68億円にも上る巨額の「資本剰余金」です。これは、同社のビジョンと成長性に共感したベンチャーキャピタルなどから調達した資金であり、赤字を補って余りある財務的な体力を示しています。

✔安全性分析
自己資本比率16.4%という数値だけを見ると、財務の安全性が低いように見えます。しかし、同社のバランスシートの特性を理解する必要があります。負債合計約60.5億円の多くは、投資家から預かり、まだ企業への貸付が実行されていない資金(預り金)などが含まれていると推測されます。これはプラットフォームとしての一時的な通過資金であり、一般的な事業会社の借入金とは性質が異なります。
企業の持続可能性を判断する上で重要なのは、純資産額(約11.9億円)と年間の損失額(約10.3億円)のバランスです。現在のペースで損失が続けば、1年強で純資産を使い果たす計算になります。しかし、同社は元財務事務次官や著名なベンチャーキャピタリストを役員・アドバイザーに迎えるなど、強力な資金調達能力を有しており、事業が計画通りに成長していれば、次の資金調達ラウンドを成功させる可能性は高いと考えられます。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・「貸付投資」というユニークで分かりやすいビジネスモデル
・投資対象を上場企業などに絞ることによる、投資家への安心感の提供
・各分野のトッププロフェッショナルが集結した強力な経営・執行体制
・有力ベンチャーキャピタルからの豊富な資金調達実績と信用力
金融商品取引業者としての法的・社会的な信頼性

弱み (Weaknesses)
・多額の先行投資による、巨額の当期純損失と累積損失
・まだ黒字化の道筋が確立されていない収益モデル
・比較的新しいサービスであり、長期的な市場での評価は定まっていない

機会 (Opportunities)
・「貯蓄から投資へ」という国策の後押しと、個人の資産運用ニーズの高まり
・FinTechの発展による、より効率的で利便性の高い金融サービスの提供可能性
・投資対象企業や商品の多様化による、プラットフォームの魅力向上
・他の金融機関や事業会社とのアライアンスによる顧客基盤の拡大

脅威 (Threats)
・同業他社や大手金融機関による類似サービスの提供など、競争の激化
・大規模な景気後退による貸付先企業のデフォルト(債務不履行)リスクの増大
サイバー攻撃による情報漏洩やシステム障害のリスク
金融商品取引法などの法規制の変更・強化


【今後の戦略として想像すること】
「国民的資産運用サービス」を目指すファンズ株式会社は、今後、さらなる成長加速に向けた施策を打ち出してくると予想されます。

✔短期的戦略
まずは、プラットフォームの取扱高とユーザー数を飛躍的に増やすことに全力を注ぐでしょう。大規模なマーケティングキャンペーンを展開し、ブランド認知度を向上させることが最優先課題です。同時に、投資家にとって魅力的で多様な企業のファンドを数多く揃え、プラットフォームの魅力を高めていくことが求められます。ウェブサイトのリニューアルや分配金支払日の短縮といった最近のニュースは、まさにこの顧客基盤拡大に向けた動きの一環です。

✔中長期的戦略
事業が軌道に乗り、安定した収益基盤が確立された後は、IPO(株式公開)が有力な選択肢として視野に入ってきます。IPOにより、さらなる成長資金の確保と社会的な信用の獲得を目指すでしょう。また、「貸付投資」で培ったノウハウと顧客基盤を活かし、株式投資クラウドファンディングや不動産投資、資産管理ツールなど、隣接する新たな金融サービス領域への展開も考えられます。


【まとめ】
ファンズ株式会社は、未来への大きな可能性を秘めたFinTechの挑戦者です。第10期決算における約10億円の赤字は、同社が「未来の不安に、まだない答えを。」というミッションの実現に向け、アクセルを最大限に踏み込んでいる証と言えるでしょう。その挑戦を支えているのは、強力な経営陣と、彼らのビジョンに賭けるトップクラスの投資家たちから託された潤沢な資金です。
「Funds」というサービスが、株式や投資信託と並ぶ、当たり前の資産運用手段として社会に根付くことができるか。その道のりは決して平坦ではありませんが、もし成功すれば、日本の個人の資産形成に革命をもたらす存在になるかもしれません。同社の今後の成長から目が離せません。


【企業情報】
企業名: ファンズ株式会社
所在地: 東京都渋谷区恵比寿西1-10-11 フジワラビルディング5階
代表者: 代表取締役 藤田 雄一郎
設立: 2016年11月
資本金: 100,000千円
事業内容: 第二種金融商品取引業、インターネットによる情報サービス業(貸付投資プラットフォーム「Funds」の運営)

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