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#4388 決算分析 : トーコーテクノ株式会社 第24期決算 当期純利益 48百万円

私たちが高速道路や山間部の道路をドライブする際、切り立った斜面が金網やワイヤーロープで覆われている光景を目にすることがあります。普段は意識することのないこれらの構造物ですが、実は落石や土砂崩れから私たちの命と安全を守る、極めて重要な社会インフラです。日本は国土の約7割を山地が占め、台風や地震などの自然災害も頻発することから、こうした防災インフラの整備と維持管理は国家的な課題となっています。今回は、まさにその最前線で、道路法面の安全を守る専門技術者集団、トーコーテクノ株式会社の決算を分析します。ワイヤーロープのトップメーカー、東京製綱のDNAを受け継ぐ同社の強みと、社会を支える堅実な経営の実態に迫ります。

トーコーテクノ決算

【決算ハイライト(第24期)】
資産合計: 2,120百万円 (約21.2億円)
負債合計: 363百万円 (約3.6億円)
純資産合計: 1,758百万円 (約17.6億円)

当期純利益: 48百万円 (約0.5億円)

自己資本比率: 約82.9%
利益剰余金: 1,718百万円 (約17.2億円)

【ひとこと】
まず注目すべきは、82.9%という極めて高い自己資本比率です。これは建設業界の平均を大幅に上回る水準であり、盤石な財務基盤を物語っています。インフラの防災・安全という社会に不可欠な事業領域で、着実に利益を積み上げ、安定した経営を続けていることがうかがえます。

【企業概要】
社名: トーコーテクノ株式会社
創業: 2001年10月1日
株主: 東京製綱株式会社(100%)
事業内容: 法面用落石防護施設工事、道路安全施設工事、ダム施設工事など、安全・防災インフラの専門工事会社

www.toko-techno.com


【事業構造の徹底解剖】
トーコーテクノ株式会社は、2001年にワイヤーロープのトップメーカーである東京製綱株式会社の工事部門が独立して誕生した、防災・安全インフラの専門工事会社です。その事業は、日本の地理的特性と社会インフラの現状に深く根差した、専門性の高いサービスで構成されています。

✔落石予防工・防護工事業
同社の事業の中核をなすのが、道路や鉄道、住宅などを落石の危険から守る工事です。これには大きく分けて2つのアプローチがあります。
一つは、斜面に存在する浮石などをワイヤーロープやネットで固定し、落石の発生そのものを防ぐ「予防工」(例:「ロープネット」「マイティネット」)。
もう一つは、発生してしまった落石を受け止め、道路などへの到達を防ぐ「待受工」(例:「ポケット式ロックネット」「各種防護柵」)です。同社はこれらの多様な工法を駆使し、現地の地形や地質に合わせた最適な防災対策を提案・施工しています。

✔雪崩予防工事業
豪雪地帯においては、雪崩も大きな脅威となります。同社は「吊柵式スノーガード」などの雪崩予防柵の設置も手掛けており、冬季の交通網や住民の安全確保に貢献しています。落石対策で培った斜面工事のノウハウが、雪崩対策にも活かされています。

✔道路・橋梁関連工事
防災施設の設置だけでなく、トンネルの内装板工事や、橋梁の支柱・パネルなどの落下防止ワイヤ設置工事も行っています。これらは、インフラの長寿命化や耐震性向上に繋がり、利用者の安全・快適性を高める上で重要な役割を担っています。

✔東京製綱グループとしての強み
同社が単なる工事会社と一線を画す最大の強みは、東京製綱の100%子会社であることです。これにより、防災インフラの根幹をなすワイヤーロープやネットといった高品質な資材の安定供給を受けられるだけでなく、親会社が持つ材料開発の知見や技術力を直接的に活用できます。材料メーカーのDNAを持つ専門工事会社として、製品の特性を最も深く理解した上で、責任ある施工を提供できる体制が整っています。


【財務状況等から見る経営戦略】
82.9%という驚異的な自己資本比率は、同社の安定した事業環境と堅実な経営戦略の表れです。

✔外部環境
日本において、防災インフラ市場は極めて安定した巨大マーケットです。国土の地理的特性に加え、近年は気候変動による豪雨の激甚化などで土砂災害のリスクが増大しており、防災・減災対策の重要性は高まる一方です。また、高度経済成長期に建設された道路やトンネルなどのインフラが一斉に老朽化しており、その維持・補修・補強は国家的な課題となっています。政府の「国土強靱化計画」にも見られるように、この分野への公共投資は今後も継続的に見込まれ、同社にとって安定した事業機会が続くことが予想されます。

✔内部環境
同社は、数ある建設業の中でも「法面防災」というニッチな分野に特化することで、高い専門性と競争優位性を築いています。公共事業が中心となるため、価格競争は避けられませんが、技術的な難易度が高い工事や、特殊な製品を用いた工事においては、同社のような専門企業の優位性が発揮されます。そして、その事業から得た利益を安易な拡大投資に回すのではなく、着実に内部留保として蓄積(利益剰余金は約17.2億円)することで、外部環境の変化に揺るがない強固な財務基盤を構築しています。

✔安全性分析
自己資本比率82.9%は、企業が保有する資産の大部分を返済不要の自己資本で賄っていることを意味し、財務リスクは極めて低い状態です。流動資産(約19.6億円)が流動負債(約2.5億円)を7倍以上も上回る(流動比率 約769%)ことからも、短期的な支払い能力に全く懸念はありません。この盤石な財務体質は、金融機関からの借入に依存することなく、自社の判断で機動的な経営を行える自由度をもたらします。また、公共事業特有の入金サイクルの長さなどにも余裕をもって対応できる体力を示しています。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・防災・安全インフラという、社会的ニーズが高く安定した事業領域
・親会社である東京製綱との連携による、材料・技術面での強力なシナジー
自己資本比率82.9%という、業界トップクラスの強固な財務基盤
・全国をカバーする事業所ネットワークと、数々の施工実績に裏打ちされた信頼性
・多様な工法に対応できる専門技術者の存在

弱み (Weaknesses)
・事業の大半が公共事業であり、国の予算編成や政策の変更に影響を受けやすい
・建設業界共通の課題である、技術者の高齢化と若手人材の不足

機会 (Opportunities)
・気候変動による自然災害の激甚化・頻発化に伴う、防災工事需要の増大
・全国的な社会インフラの老朽化対策という、巨大で長期的な市場
・政府の「国土強靱化計画」に基づく、継続的な公共投資
・ドローンやセンサー技術を活用した、効率的な斜面調査や維持管理手法の開発

脅威 (Threats)
・公共事業の入札における厳しい価格競争
・鋼材などの建設資材価格や人件費の高騰による利益率の圧迫
・将来的な人口減少に伴う、公共事業予算の長期的な削減リスク
・業界全体での深刻な人手不足が、受注機会の損失につながる可能性


【今後の戦略として想像すること】
この事業環境と自社の強固な基盤を活かし、トーコーテクノ株式会社は今後、さらなる成長を目指していくことが予想されます。

✔短期的戦略
国土強靱化計画などの国の政策動向を的確に捉え、得意とする法面防災工事の受注を安定的に確保し続けることが基本戦略となります。同時に、ドローンを用いた3次元測量や、施工管理のDX化などを推進し、生産性を向上させることで、人手不足という課題に対応しつつ、競争力を高めていくでしょう。

✔中長期的戦略
親会社である東京製綱と連携し、より高強度で軽量なワイヤーロープや、施工性を劇的に改善する新工法の開発・導入を主導していく可能性があります。また、これまでの「工事(コト)」の提供に加え、斜面にセンサーを設置して変状を常時監視し、危険を予知するような「維持管理・モニタリング(サービス)」事業へと領域を拡大していくことも考えられます。日本の防災技術は世界でもトップレベルであり、将来的にはアジアなど海外のインフラ整備・防災市場への展開も視野に入ってくるかもしれません。


【まとめ】
トーコーテクノ株式会社は、日本の国土と国民の安全を守るという、大きな社会的使命を担う専門工事会社です。同社が施工した落石防護柵や予防網の一つひとつが、今日もどこかの道を通る人々の命を守っています。第24期決算で示された、82.9%という極めて高い自己資本比率は、こうした社会に不可欠な事業を、いかに堅実に、そして誠実に続けてきたかの証左と言えるでしょう。インフラ老朽化と自然災害の脅威という、日本が避けては通れない課題に立ち向かう同社の役割は、今後ますます重要性を増していくはずです。その技術と健全な経営基盤をもって、これからも日本の安全を支え続けていくことが期待されます。


【企業情報】
企業名: トーコーテクノ株式会社
所在地: 東京都江東区永代二丁目37番28号(澁澤シティプレイス永代5F)
代表者: 代表取締役 高森 潔
設立: 2001年10月1日
資本金: 4,000万円
事業内容: 法面用落石防護施設工事、道路安全施設工事、ダム施設工事、法面保護用&道路安全用他土木資材の販売
株主: 東京製綱株式会社 (100%)

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