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#4368 決算分析 : 吉川建設株式会社 第76期決算 当期純利益 554百万円

私たちが毎日安全に通行する道路や橋、子どもたちが学ぶ学校、そして地域の行政を担う市役所。これらの社会インフラは、日々の暮らしに不可欠な存在ですが、その建設を担う企業の姿を意識する機会は少ないかもしれません。今回は、1914年(大正3年)に長野県飯田の地で創業し、一世紀以上にわたって地域の発展を支え、今や関東・中部・東北へと事業を広げる総合建設会社(ゼネコン)「吉川建設株式会社」の決算を分析します。売上高155億円を誇る老舗企業が持つ強固な経営基盤と、100年を超えてなお未来を創造し続ける力に迫ります。

吉川建設決算

【決算ハイライト(第76期)】
資産合計: 10,110百万円 (約101.1億円)
負債合計: 5,221百万円 (約52.2億円)
純資産合計: 4,888百万円 (約48.9億円)

当期純利益: 554百万円 (約5.5億円)

自己資本比率: 約48.3%
利益剰余金: 4,858百万円 (約48.6億円)

【ひとこと】
創業100年を超える老舗ゼネコンとして、極めて健全で力強い財務状況です。自己資本比率は約48.3%と非常に高く、財務の安定性は抜群と言えます。売上高155億円という大きな事業規模を誇りながら、5.5億円の当期純利益をしっかりと確保しており、高い収益性も兼ね備えた優良企業であることがうかがえます。

【企業概要】
社名: 吉川建設株式会社
創業: 1914年1月
設立: 1950年12月
事業内容: 長野県を拠点とし、関東・中部・東北に展開する総合建設業、建設コンサルティング、設計・監理、不動産取引業、産業廃棄物処理業。

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【事業構造の徹底解剖】
吉川建設株式会社は、単に建物を建てる、道を造るといった施工に留まらず、社会基盤と人々の生活空間を総合的に創造する事業を展開しています。その事業ポートフォリオは、長年の歴史の中で多角的に構築されてきました。

✔土木事業
創業以来の同社の中核をなす事業です。道路、橋、トンネル、ダム、河川改修といった、人々の生活と安全を守る公共インフラの整備を中心に手掛けています。100年以上にわたり、幾多の難工事や新工法に挑戦し続けてきた歴史そのものが、同社の技術的な強みとなっています。長野の厳しい自然環境の中で培われた高度な土木技術は、同社の信頼の礎です。

✔建築事業
土木事業と並ぶもう一つの柱です。施工実績を見ると、飯田市役所新庁舎のような官公庁施設から、学校・保育園などの教育施設、病院や福祉施設、さらには「アピタ」のような大規模商業施設、企業の工場や研究所、集合住宅まで、極めて幅広い建築物を手掛けています。特筆すべきは、長野オリンピックスタジアム愛知万博スイス館といった国家的プロジェクトへの参画実績です。これは、同社が地域に留まらない高い技術力と大規模工事を遂行できる管理能力を有していることの証明に他なりません。

✔関連事業
同社の強みは、建設業の枠を超えた多角的な事業展開にもあります。計画・構想段階から専門的なアドバイスを行う「建設コンサルティング」、地域の不動産情報を扱う「不動産取引業」、工事に伴い発生する廃棄物を処理する「産業廃棄物処理業」までを一貫して手掛けています。さらに、関連会社を通じて、生コンクリート(飯田生コン㈱)やアスファルト合材(飯田アスコン㈱)といった主要資材の製造・供給体制をグループ内に構築。これにより、資材の安定確保とコスト管理、品質管理を徹底しています。また、ホテル事業(㈱昼神グランドホテル)なども手掛けており、建設業で得た利益を新たな事業に投資することで、安定した経営基盤を築いています。


【財務状況等から見る経営戦略】
100年企業ならではの盤石な財務基盤が、同社の持続的な成長を支えています。

✔外部環境
建設業界は、政府の「国土強靭化計画」などによるインフラの老朽化対策や防災・減災対策工事が安定した需要を下支えしています。一方で、建設資材価格の高騰や、深刻な人手不足、そして働き方改革関連法に対応する「2024年問題」といった課題が、業界全体の収益を圧迫する要因となっています。このような環境下では、生産性の向上と人材の確保・育成が企業の持続可能性を左右する鍵となります。

✔内部環境
同社の最大の経営資源は、1世紀以上にわたって地域社会で築き上げてきた「信頼」です。官公庁からの安定した受注は、この信頼の証です。また、長野県飯田市に根を張りつつ、松本、長野、名古屋、東京へと拠点を拡大してきた営業力も強みです。特筆すべきは、社会貢献への強い意志です。返済義務のない奨学金を提供する「公益財団法人 吉川育英会」の設立は、目先の利益だけでなく、建設業界の未来を担う人材を育てるという長期的な視点を持つ企業文化の表れであり、企業の魅力を高め、人材獲得においても有利に働く可能性があります。

✔安全性分析
貸借対照表は、同社の財務の健全性を雄弁に物語っています。総資産約101.1億円に対し、返済不要の自己資本である純資産が約48.9億円と、資産の半分近くを占めています。自己資本比率は約48.3%と、建設業界の平均を大きく上回る極めて高い水準です。これは、創業以来、堅実に利益を計上し、その多くを配当などで流出させることなく内部留保(利益剰余金約48.6億円)として蓄積してきた結果です。この強固な財務体質は、金融機関からの借入への依存度を低くし、金利変動リスクを受けにくい安定した経営を可能にしています。また、不測の事態や景気後退期においても経営が揺らぎにくく、大規模なプロジェクトへの参画や、新技術への投資を積極的に行う体力を有していることを示しています。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・100年を超える業歴がもたらす官民からの圧倒的な信頼とブランド力
自己資本比率48.3%という鉄壁の財務基盤
・土木・建築の両方を手掛け、大規模プロジェクトも遂行可能な総合力と高い技術力
・地域社会への貢献活動を通じた強固な関係性と企業イメージ

弱み (Weaknesses)
・建設業界共通の課題である、技術者の高齢化と若手人材の確保・育成
・公共事業への依存度が高い場合、国の予算編成に業績が影響されやすい

機会 (Opportunities)
・国土強靭化計画やインフラ老朽化対策による、継続的で安定した公共事業需要
リニア中央新幹線開通に向けた関連工事など、地域での大規模プロジェクト
・企業の国内回帰に伴う工場新設や、データセンターなどの新たな建設需要

脅威 (Threats)
・建設資材価格のさらなる高騰や、サプライチェーンの混乱リスク
・建設業界の「2024年問題」に起因する労務コストの上昇と工期の制約
・若年層の建設業離れによる、将来的な担い手不足の深刻化


【今後の戦略として想像すること】
盤石な基盤を持つ吉川建設は、守りに入ることなく、次の100年を見据えた成長戦略を描いていると考えられます。

✔短期的戦略
最優先課題は、建設業界全体の課題である「生産性の向上」と「人材確保」です。ドローンによる測量、ICT建機による施工の自動化、BIM/CIMといった3Dモデルを活用した設計・施工管理など、デジタル技術(DX)の導入をさらに加速させ、人手不足を補いながら品質と安全性を高めていくでしょう。また、「吉川育英会」の活動をアピールするとともに、働きがいのある職場環境を整備することで、次世代の担い手となる優秀な若手人材の獲得と定着に、より一層力を入れていくと考えられます。

✔中長期的戦略
長期的には、建設業で培った技術とノウハウを、新たな成長分野へと展開していくことが予想されます。例えば、脱炭素社会の実現に向けた再生可能エネルギー関連分野です。風力発電所太陽光発電所の建設、バイオマス発電施設の建設といったプロジェクトは、同社が持つ土木・建築両面の技術を活かせる絶好の機会です。また、関連会社でホテル経営のノウハウも持つことから、単に施設を建設するだけでなく、PFI(Private Finance Initiative)やコンセッション方式といった形で、公共施設の企画・建設から運営までを一貫して担う「まちづくり事業」へ本格的にシフトしていく可能性も秘めています。


【まとめ】
吉川建設株式会社は、大正3年の創業から一世紀以上、長野県飯田市を拠点に、誠実な仕事で日本の社会基盤と人々の暮らしを築き上げてきた歴史ある総合建設会社です。自己資本比率約48.3%という盤石の財務基盤、そして官公庁から民間まで幅広い分野で積み重ねてきた高い技術力と信頼は、同社の揺るぎない強みです。建設業界が人手不足やコスト高騰といった厳しい課題に直面する中、同社はDXの推進や育英会を通じた人材育成への投資を積極的に行い、未来への確かな布石を打っています。これからも「社会への貢献」という企業理念を胸に、地域に根差しながら日本の未来を形作る、重要な役割を担い続けていくことが期待されます。


【企業情報】
企業名: 吉川建設株式会社
所在地: 長野県飯田市東和町二丁目35番地 丘の上結いスクエア4階
代表者: 代表取締役社長 吉川 昌利
創業: 1914年1月1日
設立: 1950年12月14日
資本金: 3,000万円
事業内容: 総合建設業・建設コンサルティング・設計・監理、不動産取引業・産業廃棄物処理

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