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#4337 決算分析 : 医療法人社団愛友会 第60期決算 当期純利益 ▲1,945百万円

地域医療の中核を担い、最新の医療技術で多くの命を救う大規模総合病院。それは、地域住民にとって最後の砦ともいえる安心の象徴です。その中でも、全国に病院や介護施設を展開する日本有数の医療グループ「上尾中央医科グループAMG)」の母体であり、その旗艦病院である「上尾中央総合病院」は、埼玉県における高度医療の要として絶大な存在感を放っています。

しかし、その輝かしい看板の裏側で、日本の病院経営は極めて厳しい現実に直面しています。今回は、AMGの中核法人である医療法人社団愛友会の決算を読み解きます。700億円を超える巨大な事業収益を上げながら、なぜ19億円もの巨額の損失を計上するに至ったのか。その財務諸表から、日本の高度医療を支えるトップランナーの経営実態に迫ります。

医療法人社団愛友会決算

【決算ハイライト(第60期)】
資産合計: 46,897百万円 (約469.0億円)
負債合計: 31,006百万円 (約310.1億円)
純資産合計: 15,891百万円 (約158.9億円)

売上高: 74,279百万円 (約742.8億円)
当期純損失: 1,945百万円 (約19.5億円)

自己資本比率: 約33.9%
利益剰余金: ▲1,012百万円 (約▲10.1億円)

【ひとこと】
総資産469億円、事業収益743億円という圧倒的な事業規模を誇る一方で、19.5億円という巨額の当期純損失を計上しています。さらに、利益剰余金がマイナス(繰越欠損)となっており、構造的な収益性の課題を抱えていることがうかがえます。健全な自己資本比率を維持している点が、唯一の救いと言えるかもしれません。

【企業概要】
社名: 医療法人社団愛友会
設立: 1964年12月 (開設)
事業内容: 埼玉県上尾市における「上尾中央総合病院」の運営

www.ach.or.jp


【事業構造の徹底解剖】
同法人の事業は、733床という大規模な病床数を誇る「上尾中央総合病院」の運営に集約されます。同院は、単なる地域の総合病院ではなく、複数の高度な役割を担う、埼玉県央地区の医療における一大拠点です。

✔高度急性期医療の提供
事業の根幹であり、がん治療、心臓血管外科、脳神経外科など、高度な専門性を要する医療を提供しています。手術支援ロボット「ダビンチ」を複数台導入するなど、最新鋭の医療機器への投資を積極的に行い、地域のがん診療連携拠点病院災害拠点病院としての重責を担っています。

地域医療支援病院としての役割
地域の診療所や病院を支える「後方支援」の役割も担います。地域の医療機関からの紹介患者を積極的に受け入れたり、地域の医師向けの研修会を開催したりすることで、地域全体の医療水準の向上に貢献しています。

✔教育・研究機関としての機能
厚生労働省から臨床研修病院として指定されており、若い医師の育成にも力を入れています。多くの診療科で学会の認定施設となっており、医療の質の向上と次世代の医療人の育成を両立させています。

上尾中央医科グループ(AMG)の旗艦病院
同院は、全国1都6県に28の病院と21の介護老人保健施設などを展開するAMGの出発点であり、グループ全体の臨床・経営における中核として機能しています。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
日本の医療界は、共通して厳しい課題に直面しています。国の医療費抑制政策による診療報酬の引き下げ圧力は常に存在し、収益を圧迫します。一方で、医療技術の高度化に伴い、最新の医療機器への投資は億単位となり、その負担は増すばかりです。さらに、最も深刻なのが、医師・看護師をはじめとする医療専門職の全国的な不足であり、人材獲得競争の激化が人件費の高騰を招いています。

✔内部環境
損益計算書を見ると、743億円もの巨大な収益を上げながら、それを上回る753億円の費用が発生し、本業の医業活動で既に赤字(事業損失▲1.3億円)となっています。経常損失が11.3億円へと拡大していることから、過去の巨額な設備投資に伴う借入金の支払利息などが、重い負担となっていることが推察されます。利益剰余金がマイナス10億円という事実は、この高コスト構造が長年にわたり収益を蝕んできた結果と考えられます。

✔安全性分析
財務の安全性は、二つの側面から見る必要があります。損益計算書が示す収益性の低さと、繰越欠損を抱えている点は、単独の企業として見れば重大な危険信号です。
しかし、貸借対照表に目を向けると、自己資本比率は33.9%と、健全性の目安とされる水準を維持しています。これは、利益の蓄積ではなく、医療法人の資本に相当する「基金」などが厚く、純資産額が159億円と巨大であるためです。そして何よりも、同法人が巨大医療グループAMGの中核であるという事実が、最大の安全網となっています。グループ全体の信用力を背景とした資金調達能力や、経営ノウハウの共有、人材の融通など、単独の医療法人とは比較にならない経営基盤を有しています。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
AMGグループの旗艦病院としての圧倒的なブランド力、信用力、スケールメリット
地域医療支援病院災害拠点病院など、地域に不可欠な高度医療機能。
・ダビンチなど、最新鋭の医療機器を積極的に導入する投資体力。
・60年の歴史で培った、地域医療における確固たる地位。

弱み (Weaknesses)
・19.5億円の当期純損失と、10億円の繰越欠損を抱える深刻な収益性の問題。
・人件費、減価償却費、支払利息など、極めて高い固定費構造。

機会 (Opportunities)
・高齢化に伴う、がん、心疾患、脳血管疾患といった高度医療への需要の増大。
・医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進による、業務効率化と医療の質の向上。
・グループのネットワークを活かした、広域からの患者獲得。

脅威 (Threats)
・医師・看護師の獲得競争激化による、さらなる人件費の高騰。
・国の医療費抑制政策による、診療報酬のマイナス改定。
医療過誤や院内感染など、病院経営の根幹を揺るがすリスク。


【今後の戦略として想像すること】
✔短期的戦略
まずは、赤字構造からの脱却が最優先課題です。AMGグループ全体のスケールメリットを最大限に活かし、医薬品や医療材料の購入価格交渉を進めることが考えられます。また、院内の業務フローを見直し、ICTツールなどを活用して徹底的な効率化を図り、コスト削減に努めるでしょう。

✔中長期的戦略
選択と集中」がキーワードとなります。がん治療やロボット支援手術、心臓血管外科など、高い専門性と収益性が見込める分野へ経営資源を集中させ、埼玉県内における「最後の砦」としての地位をさらに強固なものにしていく戦略が考えられます。高度医療に特化することで、より広域から患者を集め、病床稼働率と収益性を高めていくことが、この規模の病院が生き残る道と言えるでしょう。


【まとめ】
医療法人社団愛友会(上尾中央総合病院)は、AMGグループの象徴として、埼玉県の高度医療を支える巨大な医療機関です。その決算書は、最先端医療を提供し続けることの崇高な使命と、その裏側にある巨額の投資とコストという厳しい経営の現実を浮き彫りにしています。19.5億円の損失と繰越欠損は深刻な課題ですが、それを支える強固な資産基盤と、AMGグループという巨大な後ろ盾が存在します。今後は、グループの総合力を活かしてこの苦境を乗り越え、地域住民にとってかけがえのない医療拠点として、その使命を果たし続けることが期待されます。


【企業情報】
企業名: 医療法人社団愛友会
所在地: 埼玉県上尾市柏座一丁目10番10号
代表者: 理事長 中村 康彦
設立: 1964年12月 (開設)
事業内容: 埼玉県上尾市における「上尾中央総合病院」の運営(病床数733床)

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