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#4326 決算分析 : 株式会社マイクロテック 第36期決算 当期純利益 27百万円

私たちが日常的に使うプリンターのドライバ、スマートフォンアプリ、あるいは工場のロボット制御システム。これらのITシステムの裏側には、高度な専門技術を持つソフトウェア開発企業の存在が不可欠です。特に、特定のハードウェアを動かすための組込みソフトウェアやファームウェア開発は、日本の「ものづくり」を根底から支える重要な役割を担っています。

今回は、ソフトウェアやファームウェアの受託開発を主軸に、IoTやクラウド、AIといった先端分野にも事業を広げる独立系ソフトウェアハウス、株式会社マイクロテックの決算を読み解きます。2022年に産業用インクジェットプリンタ大手のミマキエンジニアリンググループの一員となった同社が、どのような経営状況にあるのか、そのビジネスモデルと戦略に迫ります。

マイクロテック決算

【決算ハイライト(第36期)】
資産合計: 449百万円 (約4.5億円)
負債合計: 191百万円 (約1.9億円)
純資産合計: 258百万円 (約2.6億円)

当期純利益: 27百万円 (約0.3億円)

自己資本比率: 約57.4%
利益剰余金: 228百万円 (約2.3億円)

【ひとこと】
純資産合計が約2.6億円、自己資本比率も約57.4%と、非常に健全で安定した財務基盤を築いている点が目を引きます。その上で27百万円の当期純利益を確保しており、着実な経営が行われていることがうかがえます。大手メーカーのグループ傘下で、安定した成長が期待される企業です。

【企業概要】
社名: 株式会社マイクロテック
設立: 1990年7月
株主: 株式会社ミマキエンジニアリング
事業内容: ソフトウェア、ファームウェアデバイスドライバ等の受託開発、およびIoT、クラウド、AI関連のシステム開発

www.microtech.co.jp


【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、法人顧客の多様なニーズに応える「ソフトウェア受託開発事業」に集約されます。顧客企業の製品やサービスに組み込まれるソフトウェアを、要件定義から設計、開発、テストまで一貫して手掛ける、技術力集約型のビジネスモデルです。

✔アプリケーション開発
PCやサーバー上で動作する業務システム(販売管理、在庫管理など)や、デジタルカメラ・プリンターに付属するバンドルアプリケーションなど、幅広い分野での開発実績があります。近年はクラウドと連携したBEMS/HEMS(ビル/家庭向けエネルギー管理システム)など、付加価値の高い開発も手掛けています。

ファームウェアミドルウェア開発
同社の技術的な強みが現れる分野です。プリンターや車載器といった特定のハードウェアを制御するための組込みソフトウェア(ファームウェア)や、OSとアプリケーションの中間に位置するミドルウェアデバイスドライバの開発を得意としています。これは、ハードウェアに関する深い知見が求められる専門性の高い領域です。

✔Web・モバイルアプリケーション開発
プロスポーツチームの公式サイトや自治体の施設予約システムといったWebアプリケーションから、自社ブランド「e-Workshop」で展開するiPhone/Androidアプリまで、Web・モバイル分野での開発も積極的に行っています。

✔インフラ構築・先端技術
顧客のシステム基盤となるサーバーやネットワークの構築から、IoT、AI、RPAといった先端技術領域の研究・開発にも取り組んでおり、顧客のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を支援しています。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
あらゆる産業でデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速しており、システム開発の需要は旺盛です。特に、IoTによるデータ収集やAIによるデータ解析といった分野は大きな成長が見込まれます。一方で、IT人材は慢性的に不足しており、特に高度な専門性を持つソフトウェアエンジニアの確保は企業にとって最重要課題です。これは、同社のような受託開発企業にとっては事業機会であると同時に、自社の採用競争が激化する要因でもあります。

✔内部環境
セイコーエプソンや日立ソリューションズといった大手メーカーやSIerとの長年にわたる取引実績が、安定した受注基盤を形成しています。これは同社の技術力と信頼性の証左です。2022年に産業用プリンタ大手のミマキエンジニアリングの完全子会社となったことで、経営基盤はより強固になりました。今後は、親会社の製品に搭載されるソフトウェア開発など、グループ内での連携強化による安定した事業拡大が期待されます。事業の根幹はソフトウェアを開発する「人」であり、人件費がコストの大部分を占める労働集約型のビジネスモデルです。

✔安全性分析
貸借対照表を見ると、総資産4.5億円に対し、純資産は2.6億円。自己資本比率は57.4%と非常に高い水準にあり、財務基盤は極めて安定しています。負債は1.9億円に留まり、実質的に無借金経営に近い健全な状態です。流動資産3.1億円が流動負債1.6億円を大きく上回っており、短期的な支払い能力も全く問題ありません。利益剰余金も2.3億円と着実に積み上がっており、堅実な経営がなされてきたことが分かります。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
自己資本比率57.4%という健全で安定した財務基盤。
ファームウェアやドライバ開発など、ハードウェアに近い領域での高い技術力。
・大手メーカーやSIerとの長年にわたる取引実績と信頼関係。
・親会社(ミマキエンジニアリング)とのシナジーによる事業の安定性と成長性。

弱み (Weaknesses)
・受託開発が事業の中心であり、自社製品・サービスによる収益割合が低い。
・事業の成長が、採用できるエンジニアの数に制約される労働集約型の構造。
・特定の顧客や業界への依存度が高まるリスク。

機会 (Opportunities)
・あらゆるモノがネットに繋がるIoT市場の本格的な拡大。
・製造業や社会インフラ分野におけるDX(スマートファクトリーなど)の推進。
・親会社のグローバルな販売網を活用した、海外向けソフトウェア開発の可能性。
・リモートワークの普及に伴う、セキュリティやクラウド関連システムの需要増。

脅威 (Threats)
・国内外のソフトウェア開発会社との競争激化。
・深刻化するITエンジニア不足と、それに伴う人件費の高騰。
・急速な技術革新に追随できない場合のリスク。
・景気後退による、企業のIT投資の抑制。


【今後の戦略として想像すること】
✔短期的戦略
まずは親会社とのシナジーを最大化することが考えられます。ミマキエンジニアリングが製造するプリンターや関連機器に搭載されるソフトウェア、ファームウェア、ドライバ開発の案件を優先的に獲得し、グループ全体の製品競争力向上に貢献していくでしょう。また、安定した財務基盤を活かし、優秀なエンジニアの採用を強化するとともに、AIやクラウドといった先端技術分野の研修を充実させ、組織全体の技術力を底上げすることが重要です。

✔中長期的戦略
受託開発で培った技術やノウハウを活かし、特定の業界や業務に特化した自社独自のクラウドサービスやモバイルアプリケーション(SaaSモデル)を開発・育成し、ストック型収益の柱を構築することが期待されます。また、親会社の海外拠点を活用し、海外製品のローカライズ(日本語化など)や、海外市場向けのソフトウェア開発を受託する体制を構築することも、新たな成長戦略となり得ます。


【まとめ】
株式会社マイクロテックは、単なるソフトウェア開発会社ではありません。それは、日本のものづくりをソフトウェアの力で支え、ハードウェアに「魂」を吹き込む技術者集団です。ファームウェアデバイスドライバといった専門性の高い領域での長年の実績は、同社の揺るぎない強みとなっています。自己資本比率57.4%という盤石な財務基盤に加え、2022年からはミマキエンジニアリンググループの一員となったことで、経営の安定性はさらに増しました。今後は、親会社との強力なシナジーを最大限に活かしつつ、IoTやAIといった成長分野でその技術力を発揮し、日本のDXを牽引する存在へと進化していくことが期待されます。


【企業情報】
企業名: 株式会社マイクロテック
所在地: 東京都品川区北品川五丁目9番41号 TKB御殿山ビル501号室
代表者: 代表取締役 宮下 千里
設立: 1990年7月
資本金: 3,000万円
事業内容: ソフトウェア、ファームウェアデバイスドライバ等の受託開発、IoT・Cloud・AI関連システム開発、モバイルアプリケーション開発、インフラ構築など
株主: 株式会社ミマキエンジニアリング

www.microtech.co.jp

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