私たちがコンビニエンスストアやスーパーマーケットで日常的に手にする多種多様な飲料。その多くは、広く知られた飲料メーカー自身ではなく、そのブランドを裏側から支える受託製造企業によって作られていることをご存知でしょうか。これらの企業は、ブランドホルダーの要望に応じて製品を開発・製造するODM/OEMのプロフェッショナルです。特に、商品の企画・開発段階から深く関与するODM(Original Design Manufacture)は、高い技術力と開発力がなければ成り立ちません。
今回は、静岡県焼津市に拠点を置き、清涼飲料からアルコール飲料まで、数多くのナショナルブランドの製品を手掛ける飲料ODMの雄、株式会社ニッセーの決算を読み解きます。日本の飲料市場の「おいしさと楽しさ」を支える企業の、ビジネスモデルと経営戦略に迫ります。

【決算ハイライト(第73期)】
資産合計: 30,264百万円 (約302.6億円)
負債合計: 23,724百万円 (約237.2億円)
純資産合計: 6,540百万円 (約65.4億円)
売上高: 22,809百万円 (約228.1億円)
当期純利益: 115百万円 (約1.2億円)
自己資本比率: 約21.6%
利益剰余金: 12,186百万円 (約121.9億円)
【ひとこと】
売上高228.1億円という大きな事業規模が目を引きます。自己資本比率は約21.6%とやや低い水準ですが、これは積極的な設備投資の結果とも考えられます。厳しいコスト環境の中、1.2億円の当期純利益を確保しており、安定した経営基盤の上で事業を展開していることがうかがえます。
【企業概要】
社名: 株式会社ニッセー
設立: 1952年11月
株主: 静岡カントリーグループ
事業内容: 清涼飲料およびアルコール飲料のODM(相手先ブランドによる開発・設計・製造)
【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、大手飲料メーカーなどを顧客とする「飲料ODM/OEM事業」に特化しています。これは、顧客企業のブランドで販売される製品の、開発から製造までを一貫して請け負うビジネスモデルです。単なる製造委託(OEM)に留まらず、顧客のニーズに基づいた商品コンセプトの立案、中味の開発、パッケージデザインの提案まで行うODMを強みとしています。
✔製品開発力
顧客の「こんな商品を作りたい」というイメージを具現化する開発力が事業の核です。長年のノウハウを活かし、市場のトレンドを捉えた味覚設計や、独自の技術を用いたユニークな飲料を提案します。
✔多様な製造技術
高濃度・高粘度の液体を扱える特殊な充填ライン(NCライン)など、多様な設備を保有しています。これにより、一般的な清涼飲料だけでなく、ゼリー飲料や濃厚な果汁飲料、アルコール飲料など、幅広いカテゴリーの製品製造に対応可能です。
✔徹底した品質保証体制
ナショナルブランドの製品を製造する上で、品質は生命線です。製品の安全性を担保するため、原料の受け入れから製造工程、最終製品の検査に至るまで、一貫した品質管理体制を構築しています。トレーサビリティシステムにより、万が一問題が発生した場合でも、迅速に原因を追跡できる仕組みを整えています。
【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
飲料業界では、消費者の健康志向の高まりを背景に、無糖、低カロリー、機能性表示食品などの需要が拡大しており、ODMメーカーにとっても新たな開発機会となっています。また、消費者の嗜好が多様化し、商品のライフサイクルが短くなる中、大手メーカーにとってODMの活用価値は高まっています。一方で、世界的な原材料・エネルギー価格の高騰が製造コストを圧迫しており、価格転嫁や生産効率の改善が大きな課題です。
✔内部環境
同社は1980年代から継続的に工場を増設しており、大規模な生産キャパシティを保有しています。これはスケールメリットによるコスト競争力に繋がる一方、多額の減価償却費や維持管理コストを伴う固定費の高いビジネスモデルでもあります。事業の安定性は、大手飲料メーカーとの長年の実績を通じて築かれた強固な信頼関係によって支えられています。
✔安全性分析
貸借対照表を見ると、総資産302.6億円のうち、固定資産が244.6億円と約8割を占めています。これは、事業の根幹である工場や生産設備に多額の投資を行ってきたことを示しています。自己資本比率は21.6%と、製造業の平均と比較すると低い水準です。これは、設備投資を借入金などで積極的に行ってきた結果と考えられます。しかし、利益剰余金が121.9億円と潤沢に積み上がっており、長年にわたり安定的に利益を創出してきた実績があることから、金融機関からの高い信用を得ていることが推察されます。
【SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・70年以上の業歴で培った飲料開発・製造に関する豊富なノウハウと技術力。
・大手飲料メーカーとの長期的かつ安定的な取引関係。
・多様な飲料カテゴリーに対応できる大規模かつ先進的な生産設備。
・開発から製造まで一貫して手掛けるODMによる高い提案力。
弱み (Weaknesses)
・自己資本比率が低く、財務レバレッジが高い(借入金への依存度が高い)体質。
・特定の顧客(大手メーカー)への依存度が高い可能性。
・自社ブランドを持たないため、企業の知名度が一般消費者には低い。
機会 (Opportunities)
・健康・ウェルネス市場の拡大に伴う、機能性飲料やプラントベース飲料などの新たなODM需要。
・クラフトビールやRTD(Ready to Drink)市場の成長に伴う、小ロット・多品種のアルコール飲料受託製造の拡大。
・企業のESG経営への関心の高まりを背景とした、環境配慮型パッケージや製造プロセスの提案機会。
脅威 (Threats)
・主要顧客のプライベートブランド強化や内製化へのシフト。
・原材料費、エネルギーコスト、物流費の継続的な上昇。
・同業他社との価格競争の激化。
・人口減少による国内飲料市場の長期的な縮小。
【今後の戦略として想像すること】
✔短期的戦略
収益性の改善が急務となります。原材料価格の高騰分を顧客に適切に価格転嫁するための交渉を進めるとともに、生産ラインのエネルギー効率改善やDXによる業務効率化を推進し、コスト削減に努めることが考えられます。また、健康志向や環境配慮といったトレンドを捉え、利益率の高い高付加価値製品の開発・提案を強化していくでしょう。
✔中長期的戦略
国内市場の縮小を見据え、新たな成長分野への挑戦が不可欠です。これまで培った液体充填や品質管理の技術を応用し、飲料以外の分野(例:液体調味料、健康食品、化粧品原料など)への進出を模索する可能性があります。また、日本の高品質な製造技術を武器に、海外の飲料メーカーからのODM受注を目指すことも、長期的な成長戦略の一つとして考えられます。
【まとめ】
株式会社ニッセーは、単に飲料を製造する工場ではありません。それは、大手飲料メーカーのブランドを陰で支え、日本の飲料市場に「おいしさと楽しさ」を供給し続ける開発・製造パートナーです。70年以上にわたる歴史の中で、積極的な設備投資を続け、業界のニーズに応える高い技術力と生産能力を築き上げてきました。今期も228億円を売り上げ、1.2億円の純利益を確保するなど、その経営は安定しています。今後は、財務体質の改善を進めつつ、健康や環境といった新たな時代の要請に応える高付加価値製品の開発を通じて、日本の飲料文化をさらに豊かにしていくことが期待されます。
【企業情報】
企業名: 株式会社ニッセー
所在地: 静岡県焼津市下江留896-2
代表者: 代表取締役会長 川村 憲久、代表取締役社長 川村 正人
設立: 1952年11月
資本金: 9,800万円
事業内容: 清涼飲料、アルコール飲料等のODM(Original Design Manufacture)/OEM
株主: 静岡カントリーグループ