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#4309 決算分析 : Global Mobility Service株式会社 第12期決算 当期純利益 ▲500百万円

世界には、真面目に働く意欲があるにもかかわらず、過去の信用情報がない、あるいは十分な収入がないという理由だけで、ローンを組んで車を手に入れることができない人々が約17億人もいると言われています。特に新興国において、車は単なる移動手段ではなく、タクシーや配送業を営むための「生産財」であり、仕事を得て貧困から抜け出すための重要な鍵となります。

今回は、この巨大な社会課題に対し、「IoT」と「FinTech」という最先端のテクノロジーを駆使して「信用創造」という革新的な解決策を提供する、Global Mobility Service株式会社(GMS)の決算を分析します。デンソーソフトバンク住友商事といった日本を代表する大企業がこぞって出資するユニコーン候補は、どのようなビジネスモデルを構築し、どのような財務状況にあるのでしょうか。その壮大な挑戦の実態に迫ります。

Global Mobility Service決算

【決算ハイライト(12期)】
資産合計: 2,148百万円 (約21.5億円)
負債合計: 2,038百万円 (約20.4億円)
純資産合計: 110百万円 (約1.1億円)

売上高: 1,015百万円 (約10.1億円)
当期純損失: 500百万円 (約5.0億円)

自己資本比率: 約5.1%
利益剰余金: ▲2,475百万円 (約▲24.8億円)

【ひとこと】
売上高が10億円を突破し、事業が成長フェーズにあることがうかがえる一方、約5億円という大規模な当期純損失を計上しています。純資産も約1.1億円と、事業規模に対して小さく、利益剰余金は巨額の累積損失を抱えている状態です。これは、グローバルなプラットフォーム構築や技術開発への大規模な先行投資が続いていることを示しており、いかにして収益化を達成するかが最大の経営課題です。

【企業概要】
社名: Global Mobility Service株式会社
設立: 2013年11月25日
株主: 株式会社デンソー, ソフトバンク株式会社, 住友商事株式会社, 経営陣, その他多数
事業内容: IoT技術を活用した信用創造プラットフォームの提供を通じ、従来の与信審査に通らない人々へ自動車ローンなどの金融サービスへのアクセスを可能にする金融包摂型FinTechサービス。

www.global-mobility-service.com


【事業構造の徹底解剖】
GMSのビジネスモデルは、テクノロジーの力で「信用を創造」し、これまで金融サービスから疎外されてきた人々に機会を提供する、極めて社会貢献性の高いFinTechサービスです。その核心には、独自開発した2つのテクノロジーがあります。

✔MCCS (Mobility-Cloud Connecting System)
これは、自動車の遠隔起動制御を可能にする独自開発のIoTデバイスです。このデバイスをローン対象の車両に取り付けることで、GMSは万が一ローン返済が滞った場合に、遠隔でエンジンを始動できなくすることができます。この「差し押さえ」に代わる強力なリスク管理技術があるからこそ、提携する金融機関は、従来であれば審査に通らなかった人々に対しても、安心してローンを提供できるようになります。

✔MSPF (Mobility Service Platform)
MCCSを通じて収集される、車両のリアルタイムな位置情報や走行データ、ドライバーの運転状況といった膨大なモビリティデータと、金融機関と連携して得られる支払い状況などの金融データを統合・分析するプラットフォームです。このプラットフォーム上で、AIがドライバー一人ひとりの信用力をリアルタイムに可視化します。真面目に働き、コツコツと返済を続けるドライバーの信用スコアは向上し、将来的にはより有利な条件のローンや、住宅ローンなど他の金融サービスへの道が拓かれます。

✔「四方良し」のビジネスモデル
GMSのサービスは、関わるすべてのステークホルダーに利益をもたらす「四方良し」の仕組みを構築しています。
・利用者: 仕事を得て収入を向上させる機会を得る。
・金融機関: 新たな顧客層を開拓できる。
・自動車販売店: 新たな販売機会が創出される。
GMS: プラットフォーム利用料などを得る。
このWin-Winの関係性が、フィリピン、カンボジアインドネシアといった国々でサービスが急速に拡大している原動力となっています。


【財務状況等から見る経営戦略】
大規模な赤字と、それを上回る大きな期待。その背景にある経営戦略を分析します。

✔外部環境
世界銀行によると、世界の成人人口のうち約17億人が銀行口座を持てず、基本的な金融サービスにアクセスできていません。この「金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)」は、SDGs(持続可能な開発目標)でも重要なテーマとして掲げられており、GMSが取り組む市場は、社会的意義と経済的ポテンシャルの両面で極めて大きいと言えます。特に、経済成長が著しい東南アジア諸国では、中間層の拡大に伴い自動車への需要が急増しており、同社のサービスにとって大きな追い風となっています。

✔内部環境
GMSの最大の強みは、その革新的なビジネスモデルを支える技術力と、それを裏付ける特許戦略です。遠隔起動制御という核心技術は、17カ国で300件以上の特許を取得しており、他社が容易に模倣できない強力な参入障壁を築いています。また、設立株主や主要法人株主には、元東京大学総長やベネッセ最高顧問、そしてデンソーソフトバンク住友商事双日といった日本を代表する企業や経営者が名を連ねており、その信用力、ネットワーク、資金力は計り知れません。
決算書に示された巨額の赤字と累積損失は、この壮大なグローバルプラットフォームを構築し、フィリピン、カンボジアインドネシア、韓国に現地法人を設立するための、計画的な先行投資の結果です。スタートアップ企業、特に世界を変える可能性を秘めたディープテック企業にとって、このような先行投資フェーズは不可欠です。

✔安全性分析
財務の安全性は、一般的な企業の基準で見ると非常に低いと言わざるを得ません。
・低い自己資本比率: 自己資本比率5.1%は、資産のほとんどを負債で賄っている状態であり、財務的な余裕は少ない状況です。
・巨額の累積損失: 利益剰余金が約25億円のマイナスとなっており、これまでの事業活動が大規模な投資フェーズであったことを物語っています。
しかし、同社のようなスタートアップの財務を評価する際には、この数字の裏側にある「資本の質」を見ることが重要です。資本準備金を含めると24億円を超える資本金は、錚々たる株主からの大きな期待と、事業の将来性に対する高い評価の表れです。今後、事業が収益化フェーズに移行し、黒字化を達成できれば、この財務状況は急速に改善していく可能性があります。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・IoTとFinTechを融合させた、独自性の高い革新的なビジネスモデル。
・300件以上の国際特許に裏打ちされた、模倣困難な技術的優位性。
・日本を代表する大企業や著名な経営者からなる、強力な株主・パートナー陣。
経団連に加入するなど、社会的な信用力とネットワーク。

弱み (Weaknesses)
・大規模な先行投資による、巨額の累積損失と脆弱な財務基盤。
・収益化モデルがまだ完全に確立されておらず、事業が赤字フェーズにあること。

機会 (Opportunities)
・世界に17億人存在する金融サービスにアクセスできない層という、巨大な潜在市場。
SDGsやESG投資への関心の高まりによる、社会貢献性の高いビジネスへの追い風。
・東南アジアやアフリカなど、新興国における経済成長とモータリゼーションの進展。

脅威 (Threats)
・事業を展開する各国の政治・経済情勢の変動や、法規制の変更リスク。
・類似のFinTechサービスを提供する、現地スタートアップや大手IT企業との競争。
・世界的な景気後退による、金融市場の冷え込みと資金調達環境の悪化。


【今後の戦略として想像すること】
大きな先行投資フェーズにある同社は、今後どのような道を歩むのでしょうか。

✔短期的戦略
まずは、事業の「収益化」が最優先課題となります。既にサービスを展開しているフィリピンやカンボジアなどの国で、提携する金融機関や自動車ディーラーの数をさらに増やし、契約台数を拡大することで、売上成長を加速させる必要があります。同時に、デバイスの製造コストやプラットフォームの運用コストを最適化し、損失額を圧縮していくことが求められます。

✔中長期的戦略
将来的には、現在の自動車ローン市場で確立した「信用創造プラットフォーム」を、他の分野へ横展開していくことが期待されます。例えば、バイクや農機具、建設機械といった他のモビリティ、あるいは住宅ローンや小規模事業者向けの事業性ローンなど、あらゆる金融サービスに応用できる可能性があります。MCCSから得られる膨大なモビリティデータを活用し、保険会社と連携した新たなテレマティクス保険の開発や、都市交通計画に資するデータ分析サービスの提供など、データビジネスとしての展開も視野に入ってくるでしょう。


【まとめ】
Global Mobility Service株式会社は、「車が欲しくてもローンが組めない」という世界中の人々の課題を、テクノロジーの力で解決しようとする、壮大なビジョンを掲げたFinTechスタートアップです。その第12期決算は、売上10億円を突破する成長性を示した一方で、約5億円の当期純損失と巨額の累積損失という、大規模な先行投資フェーズにあるスタートアップ特有の厳しい財務状況を明らかにしました。

しかし、その革新的なビジネスモデルと社会貢献性の高さは、デンソーソフトバンク住友商事といった日本を代表する企業群を惹きつけ、強力な支援体制を構築しています。GMSは単なる自動車関連サービス企業ではありません。それは、金融サービスへのアクセスという基本的な権利をすべての人に提供し、貧困という世界的な課題の解決に挑戦する、社会イノベーション企業なのです。この大きな先行投資が実を結び、世界中の人々の生活を豊かにする日が来ることを大いに期待したいと思います。


【企業情報】
企業名: Global Mobility Service株式会社
所在地: 〒101-0035 東京都千代田区神田紺屋町15 グランファースト4F
代表者: 中島 徳至
設立: 2013年11月25日
資本金: 5億8,889万円
事業内容: IoT技術を活用した金融包摂型FinTechサービスの提供。自動車の遠隔起動制御技術を搭載したIoTデバイス「MCCS」と、信用創造プラットフォーム「MSPF」の開発・提供。
株主: 株式会社デンソー、株式会社東海理化川崎重工業株式会社、住友商事株式会社、ソフトバンク株式会社、双日株式会社、大日本印刷株式会社、凸版印刷株式会社、株式会社ユー・エスエス、三井住友トラスト・インベストメント株式会社、SBIインベストメント株式会社、株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ、株式会社クレディセゾン、株式会社大垣共立銀行、株式会社G-7ホールディングス、株式会社レスターホールディングス、株式会社日本ケアサプライ、イオンフィナンシャルサービス株式会社、田口義隆(セイノーホールディングス代表取締役社長)、経営陣 他

www.global-mobility-service.com

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