決算公告データ倉庫

決算公告を自分用に収集・コメントし保管する倉庫。あくまで自分用であり、引用する決算公告を除き内容の正確性/真実性を保証できない点はご容赦ください。

#4253 決算分析 : 株式会社弘乳舎 第70期決算 当期純利益 178百万円

私たちがスーパーマーケットで手にする牛乳や乳製品。その安定供給の裏側では、季節による需要の変動などから、どうしても「余剰乳」が発生するという、酪農業界が長年抱える課題が存在します。酪農家が丹精込めて生産した生乳を無駄にすることなく、また、安心して生産を続けられるよう、この余剰乳を引き受け、バターや脱脂粉乳といった保存性の高い製品へと加工する、社会的に極めて重要な役割を担う企業があります。

今回は、1883年(明治16年)に熊本で創業し、140年以上の歴史を誇る老舗乳業メーカー、株式会社弘乳舎の決算を分析。「西日本唯一の受託指定工場」として日本の酪農を支える同社のユニークなビジネスモデルと、その堅実な経営に迫ります。

弘乳舎決算

【決算ハイライト(第70期)】
資産合計: 3,984百万円 (約39.8億円)
負債合計: 1,708百万円 (約17.1億円)
純資産合計: 2,276百万円 (約22.8億円)

当期純利益: 178百万円 (約1.8億円)

自己資本比率: 約57.1%
利益剰余金: 1,845百万円 (約18.5億円)

【ひとこと】
まず注目すべきは、自己資本比率が57.1%という非常に高い水準にあることです。これは財務基盤が極めて盤石であることを示しています。年商49.3億円を達成し、1.7億円を超える当期純利益を確保しており、140年以上の歴史に裏打ちされた安定した収益力が光ります。純資産約22.8億円のうち、利益剰余金が18.5億円を占めている点も、長年の堅実経営を物語っています。

【企業概要】
社名: 株式会社弘乳舎
設立: 1956年3月(創業1883年)
株主: 株式会社JFLAホールディングス, 全国農業協同組合連合会, 九州生乳販売農業協同組合連合会
事業内容: 乳製品等の製造販売(余剰乳の受託加工、バター・アイス等の製造)、小麦粉調整品等の販売

konyusha.co.jp


【事業構造の徹底解剖】
株式会社弘乳舎の事業は、日本の酪農エコシステムにおいて代替不可能な役割を果たす「余剰乳の受託加工事業」を根幹とし、そこから派生する多様な乳製品ビジネスを展開する複合的な構造となっています。

✔余剰乳の受託加工事業
同社の主力事業であり、その社会的意義が非常に大きいのがこの事業です。飲用乳の需要が落ち込む時期などに発生する「余剰乳」を酪農家から受け入れ、長期保存が可能なバターや脱脂粉乳へと加工します。同社は西日本で唯一の受託指定工場であり、本州以南では最大級の加工処理能力を保有しています。これにより、生乳が廃棄されるのを防ぎ、酪農家の経営安定化に大きく貢献しています。

✔乳製品・デザート製造事業
受託加工で培った高度な乳製品加工技術と、阿蘇の伏流水が育んだ熊本の高品質な生乳を活かし、自社ブランド製品の製造・販売も行っています。特に「弘乳舎バター」は、その風味の豊かさから高い評価を得ています。また、アイスクリームやヨーグルトといったデザートも製造しており、地域の子供たちの健康を支える学校給食向け製品も手掛けています。

✔ミックス粉・包装資材輸入販売事業
乳製品事業で培った食品原料に関する知見とネットワークを活かし、2012年から開始した事業です。製菓や調味料の原料となるミックス粉や包装資材などを輸入・販売し、新たな収益の柱として育成しています。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
日本の酪農業界は、輸入飼料価格の高騰や後継者不足、円安の進行など、多くの構造的な課題に直面しています。このような状況下で、余剰乳を確実に処理できる同社の存在は、国内の生乳生産基盤を維持する上でますます重要性を増しています。消費者サイドでは、健康志向の高まりや国産食品への信頼感から、高品質な乳製品への需要は底堅く推移しています。

✔内部環境
「西日本唯一の受託指定工場」という極めて強力な競争優位性が、事業の安定性を担保しています。これは他社が容易に模倣できない参入障壁であり、同社のビジネスモデルの根幹を成しています。また、株主構成にJFLAホールディングスに加え、JA全農や九州生乳販連といった生産者団体が名を連ねていることからも、酪農家との強固な信頼関係がうかがえ、原料の安定調達と事業連携の円滑化に繋がっていると考えられます。

✔安全性分析
自己資本比率57.1%という数値は、製造業として理想的とも言える健全な財務体質を示しています。これは、外部環境の変化に対する高い抵抗力を意味します。総資産約39.8億円のうち、利益剰余金が約18.5億円と半分近くを占めている点は特筆すべきです。創業以来、幾多の経済変動を乗り越え、利益を堅実に内部留保として蓄積してきた経営の歴史が、この数字に凝縮されています。この盤石な財務基盤が、安定した事業運営と将来への投資を可能にしています。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)

・140年を超える歴史と「弘乳舎」ブランドの信頼性

・「西日本唯一の余剰乳受託指定工場」という独占的・安定的な事業基盤

自己資本比率57.1%を誇る盤石の財務体質

・酪農家やJFLAホールディングスグループとの強固なネットワーク

弱み (Weaknesses)

・主力事業がBtoBの受託加工であり、消費者への直接的なブランド認知度が限定的である可能性

・生乳という天候や家畜の健康状態に左右されやすい原料への依存

機会 (Opportunities)

・国産・高品質な乳製品への需要の増加と健康志向の高まり

・JFLAグループの販路を活用した六次産業化の推進(外食向け製品開発など)

ECサイトなどを活用したBtoC(消費者直接販売)の強化

脅威 (Threats)

・飼料価格のさらなる高騰や後継者不足による国内酪農業の衰退

・長期的な人口減少に伴う国内乳製品市場の縮小

・豆乳やアーモンドミルクなど、代替ミルク(植物性ミルク)市場の拡大


【今後の戦略として想像すること】
盤石な事業・財務基盤を持つ同社が、さらなる成長を遂げるために以下の戦略が考えられます。

✔短期的戦略
自社ブランド製品、特に「弘乳舎バター」やプレミアムアイスクリームといった高付加価値商品のマーケティングを強化し、BtoC市場での売上拡大を目指すことが考えられます。公式オンラインショップの拡充や、SNSを活用した情報発信がその鍵となります。また、学校給食で培ったノウハウを活かし、高齢者施設向けの栄養強化デザートなど、新たなニッチ市場の開拓も有効でしょう。

✔中長期的戦略
株主であるJFLAホールディングスグループのネットワークを最大限に活用することが、大きな成長ドライバーとなり得ます。グループが国内外に展開する約1,200店の外食チェーン向けに、オリジナルの乳製品やデザートを共同開発・供給することや、グループの食品卸機能を通じて、製品を海外市場へ展開することも視野に入ってくるでしょう。盤石な財務基盤を背景に、省エネ型・高効率の最新鋭製造設備へ投資し、コスト競争力と環境対応力をさらに高めていくことも予想されます。


【まとめ】
株式会社弘乳舎は、単なる歴史ある乳製品メーカーではありません。それは、日本の酪農エコシステムを根底から支え、酪農家と共に歩む、社会的に極めて重要な役割を担う企業です。「西日本唯一の余剰乳受託指定工場」という強固な事業基盤と、140年以上の歴史で培った技術力を両輪に、安定した収益構造を確立しています。その堅実な経営は、自己資本比率57.1%という盤石の財務に結実しています。これからも、熊本の豊かな自然の恵みを製品に変え、人々の健康と、日本の大切な食料生産基盤である酪農業の未来に貢献し続けることが期待されます。


【企業情報】
企業名: 株式会社弘乳舎
所在地: 熊本県熊本市北区高平3丁目43番2号
代表者: 代表取締役社長 檜垣 周作
創業: 1883年
資本金: 100百万円
事業内容: 乳製品等の製造販売、小麦粉調整品等の販売
株主: 株式会社JFLAホールディングス, 全国農業協同組合連合会, 九州生乳販売農業協同組合連合会

konyusha.co.jp

©Copyright 2018- Kyosei Kiban Inc. All rights reserved.