決算公告データ倉庫

決算公告を自分用に収集・コメントし保管する倉庫。あくまで自分用であり、引用する決算公告を除き内容の正確性/真実性を保証できない点はご容赦ください。

#4224 決算分析 : 馬淵物流株式会社 第22期決算 当期純利益 85百万円

私たちがオンラインで注文した商品が翌日に届く。スーパーマーケットには毎日新鮮な食材が並ぶ。こうした便利な日常は、効率的で信頼性の高い「物流」システムによって支えられています。物流は、もはや単にモノを運ぶだけでなく、企業の生産活動や私たちの生活と一体化した社会インフラと言えるでしょう。特に近年では、ドライバー不足や燃料費高騰といった課題が山積しており、物流企業の戦略や経営手腕がこれまで以上に問われています。

今回は、神奈川県横須賀市を拠点に、建設会社の物流部門から独立し、総合的な物流サービスを展開する馬淵物流株式会社の決算を分析します。地域に根ざしながら全国へとネットワークを広げる同社の強みと、厳しい事業環境の中での経営戦略に迫ります。

馬淵物流決算

【決算ハイライト(第22期)】
資産合計: 991百万円 (約9.9億円)
負債合計: 415百万円 (約4.1億円)
純資産合計: 576百万円 (約5.8億円)

当期純利益: 85百万円 (約0.8億円)

自己資本比率: 約58.1%
利益剰余金: 378百万円 (約3.8億円)

【ひとこと】
純資産が約5.8億円、自己資本比率も約58.1%と、財務の健全性を示す高い水準を維持しています。当期純利益として85百万円をしっかりと確保しており、安定した経営基盤の上で着実に利益を積み上げていることがわかります。親会社である馬淵建設株式会社との連携も、同社の安定経営を支える大きな要因と推察されます。

【企業概要】
社名: 馬淵物流株式会社
設立: 2004年7月
株主: 馬淵建設株式会社
事業内容: 貨物自動車運送、倉庫管理、労働者派遣などを手掛ける総合物流サービス。

mzec-lg.co.jp


【事業構造の徹底解剖】
馬淵物流株式会社は、単なる運送会社ではなく、顧客の多様なニーズに応える「トータル物流サービス」の提供を強みとしています。親会社である馬淵建設の物流事業本部をルーツに持ち、そこで培われたノウハウを基盤に、事業を多角的に展開しています。

貨物自動車運送事業
同社の中核をなす事業です。大型ウィング車39台を中心に、トラクター、トレーラー、2トンから8トン車まで、合計63台という多彩な車両ラインナップを誇ります。これにより、建設資材のような重量物から、精密機器、オフィス什器、一般消費財まで、貨物の特性や量に応じた最適な輸送手段を提供できます。神奈川県を拠点に関東一円はもちろん、北は北海道、南は九州までをカバーする広範な輸送ネットワークを構築しており、顧客のサプライチェーンを全国規模で支えています。

✔倉庫事業
「運ぶ」機能と「保管する」機能を一体で提供できる点が同社の大きな特徴です。横須賀市綾瀬市藤沢市に合計6棟、延床面積にして11,000平方メートルを超える倉庫施設を保有しています。耐荷重の大きい3階建ての大型倉庫から、機動力のある平屋建て倉庫まで、多様な施設を活用し、商品の保管、在庫管理、入出庫作業、ピッキング、検品、梱包といった一連のロジスティクス業務をワンストップで請け負います。

労働者派遣事業
物流業界の人材不足という課題に対し、ソリューションを提供する事業です。ドライバーや倉庫作業員など、専門知識と経験を持つスタッフを顧客企業へ派遣します。企業の繁忙期や急な増産など、人員需要の変動に柔軟に対応できるため、顧客は固定費を抑えつつ、安定した物流体制を維持することが可能になります。

✔その他の関連事業
BtoB(企業間物流)で培ったノウハウを活かし、個人向けのトランクルーム「しまえるくん」の運営や、オフィスの引越・移転作業なども手掛けています。これにより、事業ポートフォリオを多様化させ、新たな収益源を確保しています。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
物流業界は今、大きな転換期を迎えています。EC市場の拡大により物流量そのものは増加傾向にありますが、業界は「2024年問題」と呼ばれるドライバーの時間外労働上限規制に直面しています。これにより、輸送能力の低下や人件費・運賃の上昇が避けられない状況です。加えて、長年の課題であるドライバーの高齢化と若手不足、不安定な燃料価格など、経営を取り巻く環境は決して楽観できるものではありません。このような中で、企業にはDXの推進による徹底した効率化と、働き方改革による人材確保が強く求められています。

✔内部環境
同社は、総合建設業者である馬淵建設が100%株主という安定したバックボーンを持っています。これにより、高い信用力と安定した経営基盤を確保しています。また、主要な得意先として親会社のほか、オフィス家具、化学工業、食品関連など、多様な業界の有力企業と取引を行うことで、特定業界の景気変動に左右されにくい安定した収益構造を築いています。さらに、「Gマーク(安全性優良事業所認定)」や「グリーン経営認証」といった公的な認証を継続して取得することで、サービスの品質を客観的に証明し、顧客からの信頼獲得に繋げています。

✔安全性分析
自己資本比率58.1%という数値は、企業の財務安全性を測る上で非常に良好な水準です。総資産約9.9億円のうち、約5.8億円が返済義務のない自己資本で構成されており、外部環境の変化に対する抵抗力が高いことを示しています。利益剰余金も3.8億円まで着実に積み上がっており、これは将来の設備投資(車両の電動化対応や倉庫の自動化など)や、不測の事態に備えるための十分な内部留保があることを意味します。この堅実な財務運営が、持続的な成長を支える強固な基盤となっています。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・馬淵建設グループの一員としての安定した経営基盤と社会的信用力。
・輸送、倉庫、人材派遣を組み合わせたワンストップでのトータル物流サービス提供能力。
・大型車から小型車まで多様な車種と、大規模な倉庫設備を自社で保有していること。
・Gマークやグリーン経営認証の取得による、安全性・環境配慮への取り組みが客観的に評価されている点。

弱み (Weaknesses)
・物流業界共通の課題であるドライバーや倉庫作業員の人材確保と、従業員の高齢化。
・事業拠点が神奈川県内に集中しており、大規模災害時などの地理的リスク分散が今後の課題。
・燃料価格の変動が収益に直接的な影響を与えやすい、原価における変動費の比率が高いコスト構造。

機会 (Opportunities)
・EC市場の持続的な拡大に伴う、個配送や倉庫業務(フルフィルメントサービス)の需要増加。
・2024年問題を契機とした、製造業や小売業による物流業務のアウトソーシング化の加速。
・配車計画システムや倉庫管理システム(WMS)など、DX導入による抜本的な生産性向上の可能性。
・社会全体の環境意識の高まりによる、グリーン経営認証取得企業への発注優先の動き。

脅威 (Threats)
・ドライバー不足のさらなる深刻化と、それに伴う人件費の継続的な上昇。
地政学リスク等に起因する、燃料価格の急激な高騰。
・「2024年問題」に起因する輸送キャパシティの制約と、コンプライアンス関連コストの増加。
・新規参入や他社とのサービス競争の激化。


【今後の戦略として想像すること】
上記の分析を踏まえ、馬淵物流株式会社は、その強みを活かしながら、業界が直面する課題を乗り越えるための戦略を展開していくと考えられます。

✔短期的戦略
最優先課題は「2024年問題」への具体的な対応と、人材の確保・定着です。労働時間管理の厳格化はもちろん、デジタルタコグラフや配車支援システムなどのDXツールを最大限に活用し、ドライバーの負荷軽減と運行効率の向上を両立させるでしょう。「働きやすい職場認証制度」の取得もアピール材料とし、給与体系の見直しや福利厚生の拡充を通じて、従業員エンゲージメントを高め、採用競争において優位性を確立していくことが求められます。

✔中長期的戦略
中長期的には、より付加価値の高いサービスの提供と事業領域の拡大がテーマとなるでしょう。倉庫事業においては、単なる保管機能に留まらず、EC事業者向けの撮影、採寸、梱包、発送代行といったフルフィルメントサービスへと機能を拡張していく可能性があります。また、同業他社との連携による「共同輸送」を推進し、積載率の向上によるコスト削減と環境負荷低減を実現することも重要な戦略です。将来的には、安定した財務基盤を活かし、他エリアに強みを持つ物流企業のM&Aなども視野に入れ、全国的な拠点ネットワークを強化していくことも考えられます。


【まとめ】
馬淵物流株式会社は、建設会社の一部門という出自を持ちながら、輸送、倉庫、人材派遣を巧みに組み合わせた総合物流企業へと確かな成長を遂げてきました。親会社である馬淵建設との強固な連携と、自己資本比率58.1%という健全な財務を両輪に、物流業界が直面する数々の課題に立ち向かっています。

「2024年問題」という大きな荒波の中、同社が強みとする安全性や環境への真摯な取り組みは、顧客からの信頼を勝ち得るための強力な羅針盤となるはずです。これからも、蓄積されたノウハウと時代に対応する柔軟性を武器に、経済の動脈である物流を支え、顧客と社会に「安心・信頼・満足」を届け続けることが期待されます。


【企業情報】
企業名: 馬淵物流株式会社
所在地: 神奈川県横須賀市浦郷町5丁目2931-27
代表者: 代表取締役 谷川 昇
設立: 2004年7月16日
資本金: 9,800万円
事業内容: 貨物自動車運送事業倉庫業、貨物利用運送事業、労働者派遣事業
株主: 馬淵建設株式会社

mzec-lg.co.jp

©Copyright 2018- Kyosei Kiban Inc. All rights reserved.