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#4178 決算分析 : 森羽紙業株式会社 第55期決算 当期純利益 31百万円

日本一のりんごの産地、青森県。そのみずみずしい”いのち”を、収穫された時のまま、遠く離れた食卓まで届けるために、欠かせない存在があります。それは、りんご一つひとつを優しく包み、守り運ぶ「段ボール箱」です。戦後間もない頃、りんご農家を支えるための「りんご袋」作りから始まった、地域農業と固い絆で結ばれた紙製品メーカーが、津軽の地にあります。

今回は、青森県五所川原市に拠点を置き、りんごの段ボール箱をはじめとする包装資材の製造・販売を手掛ける「森羽紙業株式会社」の決算を分析します。「いのちを運ぶ函」を創り続ける老舗企業の、驚くほど堅実な経営と、製紙業界の巨人・王子グループの一員として迎えた新たなステージに迫ります。

森羽紙業決算

【決算ハイライト(第55期)】
資産合計: 1,844百万円 (約18.4億円)
負債合計: 668百万円 (約6.7億円)
純資産合計: 1,174百万円 (約11.7億円)

当期純利益: 31百万円 (約0.3億円)

自己資本比率: 約63.7%
利益剰余金: 1,163百万円 (約11.6億円)

【ひとこと】
まず驚くべきは、自己資本比率が約63.7%という、製造業として異次元の財務健全性です。11億円を超える莫大な利益剰余金の蓄積は、半世紀以上にわたる安定した黒字経営の歴史を雄弁に物語っています。当期純利益も堅調に確保しており、「100年企業」を目指せる盤石の経営基盤が光ります。

【企業概要】
社名: 森羽紙業株式会社
設立: 1971年4月2日
株主: 森紙業株式会社(王子ホールディングスグループ)
事業内容: 青森県を地盤とする、段ボール製品の製造・販売。特に、りんごをはじめとする青果物向けの包装資材に強みを持つ。

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【事業構造の徹底解剖】
森羽紙業の事業は、その原点である「りんご」と共にあり、地域の農業を包装という側面から支えることに特化しています。

✔青果物向け段ボール事業
同社の事業の根幹です。「いのちを運ぶ函」を製作ポリシーに掲げ、りんごをはじめとする青果物を、衝撃から守り、鮮度を保ちながら消費者の元へ届けるための、高品質な段ボール箱を製造・販売しています。JA全農の包装資材取扱指定を受けるなど、農業分野との深い結びつきが、同社の揺るぎない事業基盤となっています。

✔独自開発の環境配慮型製品
同社の技術力と理念を象徴するのが、段ボール製緩衝材「SCOPA(エスコパ)」です。従来、りんごの箱の仕切りにはポリエチレン製のネットが使われていましたが、使用後の廃棄が問題でした。同社は、段ボールを台形に成形する独自の技術で、りんごの蔕(へた)が収まり果実を傷つけることなく、優れた緩衝効果を持つ仕切りを開発。段ボール箱と一緒に100%リサイクル可能な、環境に優しいソリューションを生み出しました。

✔その他の特徴など
2024年、同社は製紙業界の最大手である王子ホールディングスグループの一員となりました。これは、同社の経営にとって極めて大きな転換点です。これにより、原材料である段ボール原紙の安定的な調達が可能となるだけでなく、王子グループが持つ全国的な販売網や、最先端の技術開発力を活用できるという、大きなシナジー効果が期待できます。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
Eコマースの拡大により、段ボールの需要全体は底堅く推移しています。さらに、世界的な脱プラスチックの流れの中で、リサイクル性に優れた段ボールへの注目はますます高まっており、「SCOPA」のような環境配慮型製品を持つ同社にとっては強力な追い風です。一方で、主力の農業分野は、担い手の高齢化や後継者不足という構造的な課題を抱えています。

✔内部環境
同社のビジネスモデルは、青森のりんご産業という、特定の地域・産業と深く結びついた、典型的なBtoBのニッチトップ戦略です。長年の信頼関係が、価格競争に陥りにくい安定した収益構造を生み出しています。製造設備への投資が不可欠な資本集約型の事業ですが、それを補って余りある、強固な財務基盤を構築しています。

✔安全性分析
自己資本比率が約63.7%という数値は、企業の財務安全性を語る上で、これ以上ないほどの強みです。工場や製造機械といった多くの設備資産を必要とする製造業でありながら、事業活動に必要な資産の6割以上を、返済不要の自己資本で賄っています。これは、実質的な無借金経営であり、景気の変動に対する極めて高い抵抗力を持っていることを示します。
そして何よりも、資本金1,100万円に対し、その100倍以上にもなる約11.6億円の利益剰余金が蓄積されている事実は、同社が設立以来半世紀以上にわたり、一貫して利益を上げ続け、それを堅実に内部に留保してきた歴史の証明です。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
自己資本比率63.7%を誇る、鉄壁とも言える無借金経営の財務基盤
・りんご産業との半世紀以上にわたる、深い信頼関係とブランド力
・「SCOPA」に代表される、環境配慮型の独自開発製品
王子ホールディングスグループとしての、原料調達力と販売網

弱み (Weaknesses)
・事業が青森県のりんご産業に大きく依存しており、天候不順や市場価格の変動に影響を受けやすい
・事業エリアが地域に限定されている点(ただし、王子グループ入りで変化の可能性)

機会 (Opportunities)
・世界的な脱プラスチック・サステナビリティへの関心の高まり
・王子グループのネットワークを活用した、「SCOPA」の全国の果物・野菜産地への横展開
・EC市場向けの、新たな機能性(保冷、デザイン性など)を持つ段ボールの開発

脅威 (Threats)
・段ボール原紙価格の、国際市況による急激な変動
・農業従事者の高齢化と、それに伴う生産量の長期的な減少
・同業の大手段ボールメーカーとの競争


【今後の戦略として想像すること】
この盤石な経営基盤と、強力なバックアップを得た森羽紙業の今後の戦略を考察します。

✔短期的戦略
王子グループの一員として、まずはグループ内の生産・物流体制への統合を円滑に進めることが最優先となります。グループの購買力を活かした原材料コストの削減や、最新の生産管理システムの導入による、経営効率の向上が期待されます。

✔中長期的戦略
「りんごの森羽紙業」から、「日本の農業を支える森羽紙業」への飛躍が期待されます。最大の武器である環境配慮型緩衝材「SCOPA」を、王子グループの全国的な販売網に乗せ、りんご以外の様々な青果物(梨、桃、柑橘類など)の産地へ展開していくことです。これにより、青森という地域を超えた、全国区の農業包装ソリューション企業へと進化するポテンシャルを秘めています。


【まとめ】
森羽紙業株式会社は、青森のりんごと共に生まれ、その”いのち”を守るという一心で、半世紀以上にわたり技術を磨き続けてきた企業です。その実直で誠実な歩みは、自己資本比率63%超という、驚異的なまでの財務の健全性となって結実しています。

「故郷・青森のみずみずしいりんごを、みずみずしいまま、より多くの人々にお届けする」。その創業の想いは、今や王子グループという大きな翼を得て、日本の農業全体を支えるという、新たなステージへと向かおうとしています。森羽紙業の物語は、地方の小さな企業が、一つのことに真摯に向き合い続けることで、いかに大きな価値を生み出せるかを、私たちに静かに、しかし力強く教えてくれます。


【企業情報】
企業名: 森羽紙業株式会社
所在地: 青森県五所川原市大字姥萢字桜木28番地1号
代表者: 長谷川 通
設立: 1971年4月2日
資本金: 1,100万円
事業内容: 段ボール製品の製造・販売。特に、りんごをはじめとする青果物向けの包装資材に強みを持ち、環境配慮型の段ボール製緩衝材「SCOPA」などを自社開発する。2024年より王子ホールディングスグループ傘下。
株主: 森紙業株式会社(王子ホールディングスグループ)

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