私たちが日常的に手にする輸入品や、日本の工場から世界へ送り出される製品。その一つひとつが、船や飛行機を乗り継ぎ、複雑な通関手続きを経て、国境を越える長い旅をしています。このグローバルなモノの流れを、専門的な知識と広範なネットワークを駆使して、オーケストラの指揮者のようにまとめ上げる「国際物流のプロフェッショナル」がいます。
今回は、1950年の設立以来、70年以上にわたって日本の貿易を物流面から支え続けてきた、独立系の総合国際物流企業「内外日東株式会社」の決算を分析します。世界経済の荒波に常に晒される国際物流の世界で、驚異的なまでの財務健全性を維持し、安定した経営を続ける老舗企業の強さの秘密に迫ります。

【決算ハイライト(第75期)】
資産合計: 13,588百万円 (約135.9億円)
負債合計: 5,046百万円 (約50.5億円)
純資産合計: 8,542百万円 (約85.4億円)
当期純利益: 378百万円 (約3.8億円)
自己資本比率: 約62.9%
利益剰余金: 8,027百万円 (約80.3億円)
【ひとこと】
まず驚愕すべきは、自己資本比率が約62.9%という、極めて高い財務健全性です。80億円を超える莫大な利益剰余金の蓄積は、70年以上にわたる安定した黒字経営の歴史を雄弁に物語っています。国際物流という変動の激しい業界において、これほど盤石な財務基盤を築いている点は、同社の経営の質の高さを証明しています。
【企業概要】
社名: 内外日東株式会社
設立: 1950年7月1日
事業内容: 総合国際物流業(国際フレイトフォワーダー)。海上・航空貨物輸送、通関、倉庫保管、梱包、国内輸送、危険物取扱いなど、国際物流に関わるあらゆるサービスをワンストップで提供。
【事業構造の徹底解剖】
内外日東は、自社で船や飛行機を保有するのではなく、荷主(輸出入を行う企業)の代理人として、最適な輸送手段を組み合わせて、貨物を世界中に届ける「国際フレイトフォワーダー」です。
✔国際複合一貫輸送事業
同社の事業の根幹です。海外の工場から日本の倉庫まで、あるいはその逆といった、「ドア・ツー・ドア」の輸送を、船・飛行機・トラックなど、複数の輸送モードを組み合わせて一貫して手配・管理します。小口の貨物をコンテナに混載するサービスや、特定の買い手・売り手のために貨物をまとめるサービスなど、顧客の多様なニーズにきめ細かく応えています。
✔通関・倉庫事業
国際物流に不可欠な、輸出入の際の税関手続き(通関)を代行します。同社は、法令遵守体制が整備された優良な事業者として税関から認定される「AEO認定通関業者」であり、迅速で正確な通関サービスを提供できることが大きな強みです。また、東京港・横浜港の主要な物流拠点に自社の倉庫を持ち、貨物の保管、検品、ピッキングといったロジスティクスサービスも展開しています。
✔危険物輸送などの専門サービス
化学品などの危険物の国際輸送は、極めて専門的な知識と、特別な許認可が必要です。同社は、関連会社を通じて危険物専用の倉庫を保有するなど、この高付加価値な分野に強みを持ち、他社との差別化を図っています。
【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
国際物流業界は、世界経済の動向、為替レート、原油価格、さらには地政学リスクなど、様々な外部要因に大きく影響を受ける、変動の激しい(ボラティリティの高い)市場です。近年では、コロナ禍や国際紛争によるサプライチェーンの混乱が、海運・航空運賃の歴史的な高騰と、その後の急落を招きました。
✔内部環境
同社のビジネスモデルは、世界中に張り巡らせた自社の海外拠点・代理店ネットワークが、競争力の源泉です。貸借対照表の固定資産が約74億円と大きいのは、国内外の物流センターや倉庫、そして事業の根幹である海外子会社への投資などを反映しています。このような環境下で、安定した収益を上げるためには、リスク管理能力と、長年の経験に裏打ちされた高度なオペレーション能力が不可欠です。
✔安全性分析
自己資本比率が約62.9%という数値は、企業の財務安全性を語る上で、これ以上ないほどの強みです。景気変動の激しい国際物流業界において、これほど高い自己資本比率を維持している企業は稀有であり、極めて保守的で堅実な財務運営が行われていることを示しています。
そして何よりも、資本金3億円に対し、その26倍以上にもなる約80億円の利益剰余金の蓄積は、同社が設立以来70年以上にわたり、好況不況の波を幾度となく乗り越え、一貫して利益を出し続けてきた歴史の力強い証明です。この盤石な財務基盤があるからこそ、運賃の乱高下や、突発的な危機にも動じることなく、顧客に安定したサービスを提供し続けることができるのです。
【SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・自己資本比率62.9%を誇る、鉄壁とも言える財務基盤と潤沢な内部留保
・70年以上の歴史で培われた、国際物流における高い専門性と信頼性
・世界50ヶ国以上に広がる、自社の海外ネットワーク
・AEO認定や危険物取扱いといった、参入障壁の高い分野での強み
弱み (Weaknesses)
・事業が世界経済や国際情勢の動向に大きく左右される点
・世界的な巨大フォワーダーと比較した場合の、規模や価格競争力
機会 (Opportunities)
・Eコマースの拡大に伴う、新たな国際小口貨物輸送の需要
・サプライチェーンの複雑化・再編(ニアショアリングなど)に伴う、高度な物流コンサルティングの需要
・自社開発の物流情報システム(WMS)を活用した、DXによるサービスの高付加価値化
脅威 (Threats)
・世界的な景気後退による、国際荷動き量の減少
・海運・航空運賃の、予測不能な乱高下
・デジタル技術を武器にした、新たな物流プラットフォーマーの台頭
【今後の戦略として想像すること】
この盤石な経営基盤を持つ内外日東の今後の戦略を考察します。
✔短期的戦略
引き続き、強みである危険物輸送や、AEO認定通関業者としての信頼性を活かし、安定した収益が見込める優良な顧客との関係を深化させていくでしょう。また、成長著しい東南アジアなどでのネットワークをさらに強化し、日系企業のサプライチェーンをきめ細かくサポートしていくと考えられます。
✔中長期的戦略
「物流のDX」が、大きなテーマとなるでしょう。自社開発の物流情報システムをさらに進化させ、顧客が自社の貨物の状況をリアルタイムで追跡できるだけでなく、蓄積された物流データを分析し、サプライチェーン全体の最適化を提案する、データドリブンなソリューションプロバイダーへの進化が期待されます。その鉄壁の財務基盤は、こうしたIT分野への戦略的投資を力強く後押しします。
【まとめ】
内外日東株式会社は、70年以上にわたり、世界という荒波の海を航海し続けてきた、ベテランの”航海士”です。その羅針盤となってきたのは、目先の利益にとらわれず、長期的な視点でリスクを管理し、着実に利益を積み上げるという、極めて堅実な経営哲学でした。
その成果は、自己資本比率62.9%という、驚異的な財務の健全性となって、見事に結実しています。グローバルなサプライチェーンの不確実性が増す現代において、内外日東のような、揺るぎない安定性を持つ物流パートナーの価値は、かつてないほど高まっています。
【企業情報】
企業名: 内外日東株式会社
所在地: 東京都品川区東品川3丁目6番5号
代表者: 飯塚 利信
設立: 1950年7月1日
資本金: 3億円
事業内容: 総合国際物流業(国際フレイトフォワーダー)。海上輸送、航空輸送、通関、倉庫保管、梱包、国内輸送、危険物取扱いなど、輸出入に関わる物流サービスを、グローバルなネットワークを通じてワンストップで提供する。AEO認定通関業者。