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#3966 決算分析 : 株式会社ISホールディングス 第17期決算 当期純利益 ▲691百万円

FX取引でおなじみの「外為オンライン」や「ひまわり証券」、カーシェアの「アース・カー」。そして、福島の有名旅館やワイナリーの再生、さらには再生医療の「セルバンク」まで。一見すると無関係に見えるこれらの事業を、一つの傘下で展開するユニークな企業グループが存在します。今回は、その多様な企業群を束ねる司令塔、株式会社ISホールディングスの決算を読み解きます。盤石な財務基盤を誇りながらも、当期に大きな損失を計上した背景とは。積極的なM&Aで領域を拡大し続ける、投資会社としての横顔に迫ります。

ISホールディングス決算

【決算ハイライト(17期)】
資産合計: 29,927百万円 (約299.3億円)
負債合計: 13,029百万円 (約130.3億円)
純資産合計: 16,857百万円 (約168.6億円)

売上高: 3,142百万円 (約31.4億円)
営業利益: 857百万円 (約8.6億円)
経常損失: 780百万円 (約7.8億円)
当期純損失: 691百万円 (約6.9億円)

自己資本比率: 約56.3%
利益剰余金: 14,868百万円 (約148.7億円)

【ひとこと】
純資産が168億円を超え、自己資本比率も56.3%と極めて高く、盤石な財務基盤を誇ります。しかし、本業の儲けである営業利益は黒字にも関わらず、多額の営業外費用により経常損失・当期純損失を計上。これは、ホールディングスとしての投資活動や、グループ会社への支援などが影響した可能性を示唆しています。

【企業概要】
社名: 株式会社ISホールディングス
設立: 2008年4月
事業内容: FX等の金融事業を中核に、再生可能エネルギー、不動産、地方創生(観光)、再生医療など、多岐にわたる事業を手掛けるグループ企業の持株会社

www.isgroup.co.jp


【事業構造の徹底解剖】
同社は、自らが事業を行うのではなく、傘下の多様な事業会社の株式を保有し、グループ全体の経営戦略を司る「純粋持株会社」です。その事業ポートフォリオは、非常に多角的です。

✔金融事業
グループの祖業であり、収益の中核を担う分野です。「外為オンライン」「アイネット証券」「ひまわり証券」といった、FX・証券業界で高い知名度を誇る企業を傘下に持ち、安定した収益基盤を形成しています。

✔地方創生事業
近年、特に力を入れている分野です。福島県会津地方を舞台に、「株式会社DMCaizu」を通じて、旅館(一力旅館、旅館玉子湯)、ゴルフ場、リゾートホテル、ワイナリーなどを次々と傘下に収め、地域一体での観光地再生という壮大なプロジェクトに取り組んでいます。

再生可能エネルギー・その他事業
上記のほかにも、太陽光発電などの「グリーン電力ホールディングス」、カーシェアの「アース・カー」、そして皮膚の再生医療を手掛ける「セルバンク」など、社会の未来を見据えた、先進的でユニークな事業への投資を積極的に行っています。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
同社は金融、エネルギー、観光、バイオテクノロジーと、それぞれ全く異なる市場環境に身を置いています。この事業の多角化は、一つの業界の景気変動がグループ全体の業績に与える影響を分散させる、リスクヘッジとしての役割を果たしています。

✔内部環境
ホールディングスとしての同社の収益源は、主に傘下の子会社からの経営指導料や配当金です。損益計算書の「売上高」31億円に対し、「売上総利益」も同額であることから、それが分かります。今回の決算で、約8.6億円の営業利益を計上しながら、最終的に約6.9億円の損失となったのは、約20億円という巨額の「営業外費用」が原因です。これは、傘下の特定の事業(例えば、再生・再建中の観光事業など)への大規模な資金支援や、投資損失などが発生したことを示唆しています。

✔安全性分析
自己資本比率が56.3%と非常に高く、財務基盤は極めて安定的です。特に、利益剰余金が約149億円と潤沢に積み上がっている点は、中核である金融事業を中心に、長年にわたり高い収益を上げ続けてきたことの力強い証です。今回の約7億円の損失は、この分厚い内部留保から見れば十分に吸収可能な範囲であり、財務の安全性を揺るがすものではありません。むしろ、この財務的な体力が、不採算事業の再生や、未来への先行投資といった、大胆な戦略を可能にしていると言えます。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・FX・証券を中心とした、収益性の高い中核事業
・168億円を超える純資産と、潤沢な利益剰余金がもたらす、盤石な財務基盤
・金融から地方創生、バイオまで、景気変動を吸収する多様な事業ポートフォリオ
・積極的なM&Aを成功させてきた、豊富な経験と実績

弱み (Weaknesses)
・多岐にわたる事業間のシナジーをいかに生み出していくかという、複雑な経営課題
・特定の傘下企業の業績不振が、ホールディングス全体の損益に大きな影響を与えるリスク

機会 (Opportunities)
・事業承継問題などを背景とした、さらなるM&Aによるグループ拡大の機会
・地方創生事業における、インバウンド観光需要の取り込み
再生医療やクリーンエネルギーといった、将来の成長市場への先行投資

脅威 (Threats)
・金融市場の急激な変動や、規制強化のリスク
・景気後退による、観光・不動産といった事業領域への影響
M&Aにおける、買収後の統合プロセス(PMI)の失敗リスク


【今後の戦略として想像すること】
強固な財務基盤を活かし、積極的な投資と事業ポートフォリオの最適化を継続していくと考えられます。

✔短期的戦略
まずは、今回大きな損失要因となったと推測される事業部門の収益改善が急務です。特に、近年集中的に投資を行っている福島の観光事業群を早期に黒字化させることが、喫緊の経営課題となるでしょう。

✔中長期的戦略
金融事業で稼いだキャッシュを、成長性の高い他の事業へ再投資するというサイクルを加速させていくことが予想されます。地方創生事業では、傘下に収めた施設間の連携を深め、会津地方全体の魅力を高めるような広域での観光開発を目指すでしょう。また、再生医療やクリーンエネルギーといった分野では、さらなる追加投資やM&Aを通じて、将来の大きな収益の柱へと育てていくことが期待されます。


【まとめ】
株式会社ISホールディングスは、安定した金融事業を羅針盤としながら、M&Aというエンジンを全開にして、地方創生や再生医療といった、未来の新大陸へと航海する、ダイナミックな投資会社です。その決算書は、盤石な財務基盤と、未来への投資に伴う短期的な痛みを同時に映し出していました。しかし、その挑戦のスケールは大きく、単なる利益追求に留まらない、社会課題の解決への強い意志が感じられます。金融で培った力を、いかにして日本の未来を創る力へと変えていくか。同社の今後の航路から目が離せません。


【企業情報】
企業名: 株式会社ISホールディングス
所在地: 東京都千代田区丸の内1-11-1 パシフィックセンチュリープレイス丸の内26F
代表者: 遠藤 昭二
設立: 2008年4月
資本金: 6億円
事業内容: グループ会社の経営管理及びそれに付帯する業務(金融、不動産、再生可能エネルギー、地方創生、再生医療など)

www.isgroup.co.jp

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