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#3793 決算分析 : マス株式会社 第48期決算 当期純利益 9百万円

新しい家電製品や自動車を手にしたとき、私たちは必ず「取扱説明書」を手に取ります。製品の機能を最大限に引き出し、安全に使用するために不可欠なこの冊子は、誰がどのように作っているのでしょうか。今回は、その「伝えるプロフェッショナル」として、半世紀近い歴史を誇るマス株式会社の決算を分析します。

同社は、カシオ計算機フォルクスワーゲンボルボといった国内外の大手メーカーを主要取引先に持ち、アナログの版下制作からDTP、3DCG、Web、映像制作へと、時代の技術変遷の波を乗りこなし進化を続けてきました。製品とユーザーをつなぐ「最後のワンマイル」を担う、このテクニカルドキュメンテーションの専門家集団は、どのような経営基盤を築いているのでしょうか。第48期決算公告から、その強さの秘密に迫ります。

マス決算

【決算ハイライト(第48期)】
資産合計: 553百万円 (約5.5億円)
負債合計: 135百万円 (約1.4億円)
純資産合計: 418百万円 (約4.2億円)

当期純利益: 9百万円 (約0.1億円)

自己資本比率: 約75.6%
利益剰余金: 317百万円 (約3.2億円)

【ひとこと】
総資産約5.5億円に対し、純資産が約4.2億円、自己資本比率は75.6%と極めて高い水準にあり、盤石の財務基盤が際立っています。これは、長年にわたり着実に利益を蓄積してきた、実質的な無借金経営に近い優良企業の姿と言えるでしょう。安定した経営のもと、着実に利益を上げています。

【企業概要】
社名: マス株式会社
設立: 1977年4月
株主: カシオ計算機株式会社(50%出資) 他
事業内容: 取扱説明書・サービスマニュアル等のドキュメント制作、Web・映像制作、システム開発、自動車アフターセールス業務など

www.masinc.co.jp


【事業構造の徹底解剖】
マス株式会社の事業は、メーカーが開発した製品の情報を、エンドユーザーやサービスエンジニアに「正しく、分かりやすく、効率的に」伝えるための、各種コンテンツ制作サービスに集約されます。その事業領域は、伝統的な紙媒体から最新のデジタルコンテンツまで多岐にわたります。

✔テクニカルドキュメンテーション事業(祖業にして中核)
同社の創業以来の主力事業であり、競争力の源泉です。
・取扱説明書・サービスマニュアル制作: 家電製品や自動車、産業機器などの取扱説明書や、修理・メンテナンスのためのサービスマニュアルを制作します。単に文章を書くだけでなく、製品の複雑な構造や操作手順を、イラストや図を駆使して直感的に理解できるようデザインする高度な専門性が求められます。
・先進技術の活用: 1980年代からMacintoshによるDTPを導入するなど、常に時代の最先端技術を取り入れてきました。現在では、設計段階の3D-CADデータを活用し、製品が完成する前にマニュアル用の精密なイラストを制作する技術(XVLなど)を駆使。これにより、マニュアル制作の期間を大幅に短縮し、顧客企業の製品開発スピード向上に貢献しています。

✔デジタルコンテンツ事業
紙媒体の制作で培った「製品への深い理解」を武器に、デジタル領域へと事業を拡大しています。
・Web制作: 製品のプロモーションサイトや、オンラインマニュアル、サポートサイトなどを制作します。
・映像制作: 製品の特長を伝えるプロモーション映像や、操作方法を解説する動画マニュアル、3DCGを駆使した技術解説アニメーションなどを手掛けています。文字だけでは伝わりにくい情報を、映像で分かりやすく伝える需要は年々高まっています。

✔自動車アフターセールス事業
フォルクスワーゲンジャガー・ランドローバーボルボといった大手輸入車メーカーを主要顧客に、アフターセールス領域に特化したサービスを展開しています。ディーラーの整備士向けのサービスマニュアルの翻訳・編集や、新型車の技術トレーニング用コンテンツの制作など、高い専門性が求められる分野で強みを発揮しています。

✔ワンストップソリューション
同社の強みは、企画から制作、翻訳、そして多様なメディアへの展開(印刷、Web、映像)までをワンストップで提供できる点です。顧客は複数の業者に依頼する必要がなく、マス株式会社に任せることで、品質の統一されたコンテンツを効率的に制作することが可能になります。


【財務状況等から見る経営戦略】
マス株式会社の財務諸表は、ニッチな市場で確固たる地位を築いた専門企業の、堅実で安定した経営姿勢を映し出しています。

✔外部環境
製品のグローバル化に伴い、多言語に対応したマニュアルの需要は増加の一途をたどっています。また、製品の高機能化・複雑化は、ユーザーにとって分かりやすいマニュアルの価値を相対的に高めています。さらに、企業のペーパーレス化やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の流れは、従来の紙媒体からWebマニュアルや動画マニュアルへの移行を加速させており、同社にとっては大きな事業機会となっています。一方で、AIによる文章やイラストの自動生成技術の進化は、長期的には脅威となる可能性も秘めています。

✔内部環境
最大の強みは、カシオ計算機や大手輸入車メーカーといった優良顧客との長年にわたる安定した取引関係です。特に、1992年からカシオ計算機が資本参加していることは、両社の強固なパートナーシップを物語っています。専門性の高い領域であるため、新規参入の障壁は高く、長年の経験で培ったノウハウや顧客からの信頼が、同社の競争優位性の源泉となっています。

✔安全性分析
自己資本比率75.6%という数値は、あらゆる業種の中でもトップクラスの健全性を示しており、財務的な安定性は盤石です。総資産約5.5億円に対し、負債合計が約1.4億円と極めて少なく、実質的な無借金経営を実践しています。潤沢な利益剰余金(約3.2億円)は、創業以来40年以上にわたり、着実に黒字経営を続けてきた歴史の証明です。これは、大規模な設備投資を必要とせず、人材やノウハウといった知的資本をベースに収益を上げる、同社の事業モデルの特性を反映しています。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・45年以上の業歴で培ったテクニカルドキュメンテーションの専門性と信頼
カシオ計算機や大手輸入車メーカーとの安定した取引基盤
・3D-CADデータ活用など、制作プロセスにおける高い技術力
自己資本比率75%を超える、極めて健全な財務基盤

弱み (Weaknesses)
カシオ計算機など、特定の大口取引先への依存度が高いビジネス構造
・事業が労働集約的であり、専門スキルを持つ人材の確保と育成が不可欠

機会 (Opportunities)
・製品のグローバル化に伴う、多言語翻訳・ドキュメント制作需要の拡大
・企業のDX推進による、マニュアルのデジタル化(Web、動画、アプリ)ニーズの増加
サブスクリプション型製品の普及に伴う、継続的なオンラインヘルプやFAQシステムの構築需要
・AR/VR技術を活用した、次世代の保守・トレーニングコンテンツ市場の出現

脅威 (Threats)
・AIによる、文章作成やイラスト制作の自動化技術の急速な進化
・クライアント企業による、ドキュメンテーション制作の内製化の動き
・海外の安価な制作会社との価格競争


【今後の戦略として想像すること】
この盤石な経営基盤と専門性を武器に、マス株式会社は今後どのような成長戦略を描くのでしょうか。

✔短期的戦略
既存の主力顧客との関係性をさらに深化させることが基本戦略となります。具体的には、紙媒体で提供しているマニュアルを、より付加価値の高いWebマニュアルや動画マニュアルへ移行する提案を積極的に行っていくでしょう。特に自動車アフターセールス分野では、ディーラー向けのeラーニングシステムの開発や、故障診断をサポートするアプリケーションの開発など、提供サービスの幅を広げることで、顧客との関係をより強固なものにしていくと考えられます。

✔中長期的戦略
長期的には、ドキュメント制作で培った「製品を深く理解し、分かりやすく表現する力」と3DCG技術を応用し、新たなソリューション事業へ展開していくことが期待されます。例えば、AR(拡張現実)技術を使い、スマートグラス越しに実際の機器に作業手順を投影するような、次世代のメンテナンス支援システムの開発などが考えられます。また、現在は家電や自動車が中心ですが、その専門性を医療機器や産業機械、航空機といった、より高度で複雑なマニュアルが求められる新たな業界へ横展開していくことも、大きな成長機会となるでしょう。


【まとめ】
マス株式会社は、私たちが日常的に手にする「取扱説明書」の世界で、技術の進化に対応しながら半世紀近くにわたりトップランナーとして走り続けてきた、まさに「知る人ぞ知る」優良企業です。第48期決算は、自己資本比率75.6%という鉄壁の財務基盤が、その安定した経営を証明しています。

製品がますます複雑化し、グローバル化する現代において、「正しく、分かりやすく伝える」という同社の技術の価値は、決して揺らぐことはありません。これからも、その専門性を武器に、日本のものづくりと世界のユーザーをつなぐ架け橋として、重要な役割を担い続けていくことが期待されます。


【企業情報】
企業名: マス株式会社
所在地: 東京都千代田区神田三崎町2-21-2 プライム水道橋ビル7F
代表者: 代表取締役社長  増渕 浩
設立: 1977年4月
資本金: 80百万円
事業内容: 取扱説明書・サービスマニュアルの作成、Web・3DCG・映像・アニメーション制作、システム開発、自動車アフターセールス各種業務、イベント企画制作
株主: カシオ計算機株式会社

www.masinc.co.jp

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