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#3747 決算分析 : 吹上焼酎株式会社 第75期決算 当期純利益 ▲26百万円

薩摩の風土が育んださつま芋を使い、伝統の技で醸される本格芋焼酎。その一杯には、豊かな香りと共に、蔵元の長い歴史と職人たちの情熱が溶け込んでいます。特に、明治時代から続く老舗の蔵元は、単なる酒造メーカーではなく、地域の食文化そのものを守り伝える、かけがえのない存在です。しかし、その伝統の重みとは裏腹に、厳しい経営環境に直面している蔵元も少なくありません。

今回は、明治29年(1896年)創業という125年以上の歴史を誇り、鹿児島県南さつま市で「小松帯刀」や「せごどん」といった銘柄で知られる「吹上焼酎株式会社」の決算を読み解きます。輝かしい受賞歴を持つ伝統の蔵元が直面する、厳しい財務状況とその背景に迫ります。

吹上焼酎決算

【決算ハイライト(第75期)】
資産合計: 259百万円 (約2.6億円)
負債合計: 241百万円 (約2.4億円)
純資産合計: 18百万円 (約0.2億円)

当期純損失: 26百万円 (約0.3億円)

自己資本比率: 約6.9%
利益剰余金: ▲13百万円 (約▲0.1億円)

【ひとこと】
純資産が18百万円まで減少し、自己資本比率が6.9%と極めて低い水準にあることが、非常に厳しい経営状況を示しています。当期も26百万円の純損失を計上し、利益剰余金はマイナス(繰越損失)に転落しており、収益性の改善と財務基盤の再構築が急務であると考えられます。

【企業概要】
社名: 吹上焼酎株式会社
設立: 1951年8月9日 (創業: 1896年10月)
事業内容: 本格焼酎(主に芋焼酎)の製造および販売

www.fukiage.co.jp


【事業構造の徹底解剖】
吹上焼酎株式会社は、薩摩焼酎の伝統を今に伝える、歴史ある専業メーカーです。その事業は、品質への強いこだわりと、地域への深い愛情に支えられています。

✔伝統製法と原料へのこだわり
同社の事業の核は、鹿児島県産のさつま芋を主原料とした、本格焼酎の製造です。焼酎の基本となる「黄金千貫」だけでなく、強い甘みが特徴の「安納芋」や、幻の芋とも呼ばれる「栗黄金」など、多様なさつま芋の個性を活かした酒造りを行っています。また、地中に埋め込んだ甕で発酵させる「甕仕込み」といった伝統製法も守り続けており、数々の酒類鑑評会での受賞歴が、その高い品質を証明しています。

✔薩摩の歴史と共にあるブランド戦略
小松帯刀」や「せごどん(西郷どん)」といった主要銘柄は、いずれも薩摩の歴史を彩った英雄の名を冠しています。これは、焼酎の味わいだけでなく、その背景にある鹿児島の歴史や文化も共に楽しんでもらいたいという、蔵元の想いの表れです。地域への深いリスペクトが、同社のブランドイメージを形成しています。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
日本の酒類市場全体が、人口減少や若者のアルコール離れを背景に、長期的な縮小傾向にあります。焼酎市場も例外ではなく、数百の蔵元がひしめく九州では、激しい競争が繰り広げられています。一方で、品質にこだわったクラフト焼酎や、海外での和酒ブームといった明るい兆しもありますが、多くの伝統的な中小蔵元にとっては、厳しい経営環境が続いています。

✔内部環境:深刻な財務状況
今回の決算内容は、同社が極めて厳しい経営状況に直面していることを示しています。
・収益性の課題:損益計算書は開示されていませんが、26百万円の当期純損失を計上したことは、売上がコストを賄えていないことを意味します。原材料費やエネルギーコストの高騰、あるいは販売不振などが要因として考えられます。
・財務基盤の脆弱性自己資本比率が6.9%と、企業の安全性の目安とされる20%を大きく下回っています。これは、経営が借入金などの負債に大きく依存している状態を示します。
・資金繰りの懸念:総資産2.6億円のうち、流動資産が2.0億円である一方、1年以内に返済が必要な流動負債が2.2億円と、流動資産を上回っています。これは、短期的な支払い能力に余裕がなく、資金繰りが厳しい状況にあることを示唆しています。
・繰越損失の発生:過去の利益の蓄積である利益剰余金が、今期の損失計上により▲13百万円のマイナスに転落しました。これは、過去の利益を食い潰し、資本の一部を取り崩している状態であり、早急な収益改善が求められます。

✔安全性分析
現状、財務の安全性は極めて低いと言わざるを得ません。自己資本がわずか18百万円まで減少しており、今後のさらなる損失に対する抵抗力(バッファー)はほとんど残されていません。事業を継続するためには、金融機関の支援や、抜本的な経営改革が不可欠な状況です。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
明治29年創業という、125年を超える長い歴史と伝統
・数々の鑑評会受賞歴に裏付けられた、高い品質の焼酎を造る技術力
・薩摩の英雄を冠した、地域文化と結びついたユニークなブランド

弱み (Weaknesses)
自己資本比率6.9%という、極めて脆弱な財務基盤
・繰越損失を抱え、短期的な資金繰りにも懸念がある状況
・伝統的な販路が中心である可能性と、新たな市場へのアプローチ

機会 (Opportunities)
・海外市場における、本格焼酎をはじめとするジャパニーズ・スピリッツへの関心の高まり
・高品質なクラフト焼酎を求める、国内の熱心なファン層の存在
・オンラインショップやSNSを活用した、消費者への直接的なマーケティングの強化

脅威 (Threats)
・国内のアルコール市場全体の縮小と、消費者の嗜好の多様化
・さつま芋などの原材料費や、燃料・包装資材コストのさらなる高騰
・大手酒造メーカーや新興ブランドとの競争激化


【今後の戦略として想像すること】
吹上焼酎がこの厳しい局面を乗り越えるためには、短期的な財務改善と、長期的な事業再生の両面からのアプローチが不可欠です。

✔短期的戦略
まずは、金融機関との協議による資金繰りの安定化が最優先課題となります。同時に、不採算商品の整理や製造工程の見直し、経費削減といった、徹底したコスト管理によって、一日も早い単年度黒字化を目指す必要があります。

✔中長期的戦略
財務的な安定を取り戻した上で、新たな成長戦略を描く必要があります。伝統と品質という最大の強みを活かし、より高付加価値な長期熟成焼酎などのプレミアム商品に特化する戦略が考えられます。また、海外の和酒市場に精通したパートナー企業との提携による輸出の本格化や、SNSなどを活用して若い世代に響く新しいブランドイメージを構築し、ファンを増やすといった取り組みが、伝統ある蔵の未来を拓く鍵となるでしょう。


【まとめ】
明治29年創業の吹上焼酎株式会社は、薩摩の伝統を今に伝える、日本の貴重な文化の担い手です。しかし、第75期決算は、自己資本比率が1桁台に落ち込み、繰越損失を抱えるという、その歴史と名声とは裏腹の極めて厳しい経営実態を浮き彫りにしました。

国内市場の縮小やコストの高騰といった逆風の中、多くの伝統産業が同様の苦境に立たされています。吹上焼酎が持つ125年以上の歴史と、数々の賞に輝く確かな品質という宝を、次の世代へと繋いでいくためには、今がまさに正念場です。伝統を守りつつ、時代に合わせた変革を断行し、この苦境を乗り越えることを切に願います。


【企業情報】
企業名: 吹上焼酎株式会社
所在地: 鹿児島県南さつま市加世田宮原1806番地
代表者: 代表取締役 大石 修
設立: 1951年8月9日 (創業1896年10月)
資本金: 3,100万円
事業内容: 本格焼酎の製造および販売

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