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#3723 決算分析 : 株式会社富山県産業高度化センター 第30期決算 当期純利益 2百万円

地域の経済を活性化させ、新たな産業を育むためには、挑戦する企業や起業家を支える「拠点」が不可欠です。しかし、特に地方都市において、スタートアップやベンチャー企業が低コストで質の高いオフィスを確保し、専門的な支援を受けるのは容易ではありません。こうした課題を解決するため、行政と民間が協力して企業の成長を支えるユニークな取り組みが全国各地で行われています。

今回は、富山県高岡市で、まさにそうした地域産業のインキュベーション(孵化)機能を担う「株式会社富山県産業高度化センター」の決算を読み解きます。第三セクターとして運営される同社の、利益追求だけを目的としない、地域貢献を第一義としたビジネスモデルとその財務の実態に迫ります。

富山県産業高度化センター決算

【決算ハイライト(第30期)】
資産合計: 1,468百万円 (約14.7億円)
負債合計: 16百万円 (約0.2億円)
純資産合計: 1,452百万円 (約14.5億円)

売上高: 64百万円 (約0.6億円)
当期純利益: 2百万円 (約0.0億円)

自己資本比率: 約98.9%
利益剰余金: ▲68百万円 (約▲0.7億円)

【ひとこと】
自己資本比率が98.9%と、実質的に無借金経営であることが最大の特徴です。これは、設立の背景にある公共性の高さを物語っています。売上規模に対して利益は僅少で、利益剰余金がマイナス(繰越損失)ですが、これは利益最大化を目的としない地域貢献型の事業モデルを反映したもので、経営危機を意味するものではありません。

【企業概要】
社名: 株式会社富山県産業高度化センター
設立: 1995年4月20日
株主: 中小企業基盤整備機構富山県高岡市、三協立山株式会社、株式会社北陸銀行など
事業内容: 賃貸オフィス・会議室等の提供を通じた、地域産業の活性化支援

www.suncenter.co.jp


【事業構造の徹底解剖】
株式会社富山県産業高度化センターの事業は、一般的な不動産賃貸業とは一線を画し、地域産業の支援という明確な目的を持った「場の提供」に特化しています。

✔事業の核:インキュベーション施設の運営
同社の主な事業は、高岡オフィスパーク内の中核施設として、IT関連企業やデザイン関連企業、ベンチャー企業などに賃貸オフィスを提供することです。特に、創業間もない企業向けの「インキュベーター室」を用意し、比較的安価な賃料で事業活動の拠点を提供することで、企業の初期成長を支援しています。会議室や研修室の貸し出しも行っており、地域のビジネス活動をハード面から支えています。

✔独自の強み:「SUNセンター」というエコシステム
同社の最大の独自性は、単独の施設ではなく、「富山県総合デザインセンター」「高岡市デザイン・工芸センター」という2つの専門機関と同一敷地内で連携し、「SunCenter」という一つの支援拠点を形成している点です。同社のオフィスに入居する企業は、プロダクトデザインやグラフィックデザインの専門的な支援(県センター)、あるいは高岡の伝統産業である銅器・漆器などのクラフト分野における支援(市センター)を身近に受けることができます。これは、単なる場所の提供に留まらない、付加価値の高いビジネス環境(エコシステム)の提供と言えます。

第三セクターとしての役割
同社は、国(中小企業基盤整備機構)や県、市といった公的機関と、地域の有力企業が共同で出資して設立された第三セクターです。そのため、短期的な利益追求よりも、長期的な視点で地域の産業振興に貢献することがミッションとなっています。賃料を低めに設定し、地域の企業が成長しやすい環境を整えることが、その役割の核心です。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
地方都市では、人口減少や若者の首都圏への流出といった課題に直面しており、地域内での魅力的な雇用創出が急務となっています。ITやデザインといった知識集約型産業は、場所の制約を受けにくく、地方創生の担い手として期待されています。同社のような支援施設は、こうした企業の受け皿として、またUターン・Iターン起業の拠点として、重要な役割を担っています。

✔内部環境
決算書は、同社の公共的な性格を色濃く反映しています。
・収益構造:売上高64百万円は、主にオフィスや会議室の賃料収入です。これに対し、施設の維持管理費などを含む販管費が47百万円かかっており、本業の儲けを示す営業利益は▲1百万円の赤字です。これは、意図的に賃料を低く抑え、入居企業を支援している結果と推察されます。
・利益の源泉:経常利益、ひいては当期純利益が黒字となっているのは、5百万円を超える営業外収益があるためです。これは、設立時に出資された巨額の資本金(15.2億円)などを元手とした預金利息などの金融収益である可能性が高いです。本業の賃貸事業で儲けるのではなく、資産運用益で事業の赤字を補填し、全体として持続可能な運営を実現している構造です。
・繰越損失:利益剰余金がマイナス(▲68百万円)であることは、創業以来30年間の累計で、利益よりも損失が上回っていることを示します。しかし、これは15億円を超える資本金に比べればごく僅かな額であり、同社のミッションを考えれば、むしろ地域に利益を還元してきた証と捉えることができます。

✔安全性分析
財務の安全性は「鉄壁」と言えます。自己資本比率98.9%は、負債がほとんど存在しないことを意味します。設立時に株主から拠出された15.2億円の資本金が、ほぼそのまま純資産として維持されており、外部環境の変化に揺らぐことのない極めて安定した経営基盤を築いています。この財務的な安定性があるからこそ、短期的な収益に左右されず、地域産業の育成という長期的なミッションに専念することができるのです。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
自己資本比率98.9%という、絶対的な財務安定性
・行政と民間企業からの強力なバックアップ体制
・デザイン、工芸の専門支援機関と一体となった、他に類を見ない支援エコシステム
・地域のベンチャー企業やIT企業が集積するハブとしての存在価値

弱み (Weaknesses)
・利益創出を主目的としないため、事業の拡大や大規模な新規投資には制約がある
・単一の施設運営に事業が依存している

機会 (Opportunities)
・リモートワークの普及に伴う、地方へのサテライトオフィス設置需要の取り込み
・入居テナント間の交流を促進することによる、新たな協業やビジネスチャンスの創出
・地域の産業支援拠点として、行政の地方創生プロジェクトで中核的な役割を担うこと

脅威 (Threats)
・地域の経済が長期的に停滞した場合の、オフィス需要の減退
・施設の老朽化に伴う、将来的な大規模修繕の必要性
・より新しいコンセプトを持つ民間のコワーキングスペース等との競合


【今後の戦略として想像すること】
株式会社富山県産業高度化センターは、今後もその公的な役割を堅持しつつ、時代に合わせた支援のあり方を模索していくと考えられます。

✔短期的戦略
ウェブサイト上では全室満室となっており、まずはこの高い入居率を維持することが重要です。入居テナントの満足度を高めるため、テナント間の交流会や、隣接するデザイン・工芸センターとの連携セミナーなどを企画し、単なる「場所」ではない付加価値を提供し続けるでしょう。

✔中長期的戦略
長期的には、「富山で起業するなら、まずSUNセンターへ」というブランドイメージをさらに強固なものにしていくことが目標となります。例えば、地域の大学や金融機関と連携し、入居するスタートアップに対して、技術相談から資金調達までを一体的に支援するような、より高度なインキュベーション機能の強化が考えられます。地域のイノベーション創出の「ゆりかご」としての役割を、さらに深化させていくことが期待されます。


【まとめ】
株式会社富山県産業高度化センターは、利益を追求する民間企業とは一線を画す、「地域産業の育成」を使命とする第三セクターです。その決算書は、本業では利益を出さず、豊富な自己資金を背景に、安価で質の高い事業環境を地域の企業に提供するという、その公共的な役割を明確に示しています。自己資本比率98.9%という驚異的な財務安定性は、このミッションを長期にわたり継続するための盤石な土台です。

単なる賃貸オフィスではなく、デザインや工芸といった専門機関と連携したユニークな支援エコシステムを形成することで、同社は富山県の知識集約型産業の集積地として、不可欠な存在となっています。これからも、地域の未来を創造する企業の「ゆりかご」として、その重要な役割を果たし続けることでしょう。


【企業情報】
企業名: 株式会社富山県産業高度化センター
所在地: 富山県高岡市オフィスパーク5番地
代表者: 代表取締役社長 中谷 仁
設立: 1995年4月20日
資本金: 15億2,000万円
事業内容: 企業活動拠点の提供、会議室・研修室等の施設の提供、情報化支援、デザイン支援など
株主: 中小企業基盤整備機構富山県高岡市、三協立山株式会社、株式会社北陸銀行北陸電力株式会社など

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