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#3525 決算分析 : 公益財団法人アークランドサカモト奨学財団 第10期決算

「人づくりこそ企業づくり」。これは、ホームセンター「ムサシ」や、とんかつ専門店「かつや」などを展開するアークランドグループが掲げる基本理念です。企業の成長は、それを支える人材の成長なくしてはあり得ない。この哲学を、自社内だけでなく、社会全体へと広げ、未来を担う若者たちを支援するために生まれたのが、「公益財団法人アークランドサカモト奨学財団」です。この財団は、学業に優れながらも、経済的な理由で修学が困難な大学生に対し、返済不要の奨学金を給付するという、純粋な社会貢献活動を行っています。

企業の利益を源泉とする公益財団法人は、どのように運営され、その財務はどのような状態にあるのでしょうか。今回、同財団の決算書(貸借対照表)を分析すると、負債がほぼゼロという、驚異的としか言いようのない、盤石の財務基盤が明らかになりました。今回は、企業のCSR(企業の社会的責任)活動の、一つの理想形とも言える奨学財団の決算を読み解き、その仕組みと、未来への投資という静かで力強い活動の姿に迫ります。

公益財団法人アークランドサカモト奨学財団決算

【決算ハイライト(第10期)】
資産合計: 1,546百万円 (約15.5億円)
負債合計: 0百万円 (約0.0億円)
正味財産合計: 1,546百万円 (約15.5億円)
正味財産比率(自己資本比率に相当): 約99.98%
一般正味財産(利益剰余金に相当): 5百万円 (約0.1億円)

【ひとこと】
総資産15.5億円に対し、負債はわずか37万円。資産の99.9%以上が返済不要の財産で構成されるという、完璧に近い財務健全性が、この決算書のすべてを物語っています。約15.4億円にのぼる「基本財産」を活動の原資とし、その運用益によって、永続的な奨学金給付事業を行うという、理想的な公益財団法人の姿がここにあります。

【団体概要】
名称: 公益財団法人アークランドサカモト奨学財団
設立: 2015年10月15日
設立母体: アークランドグループ(アークランドサカモト株式会社など)
事業内容: 日本国内の大学に在学する、学業優秀かつ経済的支援を必要とする学生に対する、返済不要の奨学金給付事業。

arclandsf.or.jp


【事業構造の徹底解剖】
アークランドサカモト奨学財団の事業は、その設立趣意に示された通り、未来の社会を担う人材を育成するための「奨学金給付事業」に、潔いほど特化しています。

✔事業の仕組み:「基本財産」という永続的な泉
同財団の活動を支えているのは、設立母体であるアークランドグループから拠出された、約15.4億円にのぼる「基本財産」です。これは、財団の活動の根幹をなす元手であり、原則として取り崩すことができません。財団は、この巨大な基本財産を、株式や債券といった金融商品で安全かつ確実に運用します。そして、そこから得られる利息や配当金といった「運用益」を、奨学金の原資としています。つまり、元手である「泉(基本財産)」を枯渇させることなく、そこから湧き出る「水(運用益)」だけを使って、永続的に社会貢献活動を続けることができる、極めてサステナブルな仕組みなのです。

奨学金の内容:未来への投資
同財団の奨学金は、返済義務のない「給付型」です。支給額は月額3万円。対象となるのは、財団が指定する大学(主にアークランドグループの事業地盤である東北・新潟・北陸・長野などの大学が中心)に在学する2年生で、厳しい学力基準と家計基準を満たした学生です。一度奨学生として選ばれれば、卒業までの3年間、継続して支援が受けられます。これは、単なる慈善事業ではありません。設立趣意にある通り、経済的な理由で夢を諦めることなく、情熱を持って学業や研究に打ち込める環境を提供し、将来、様々な分野で社会に貢献できる人材へと成長してもらうための、未来への「投資」なのです。


【財務状況等から見る経営戦略】
公益財団法人の決算書は、営利企業とは異なる視点で、その組織の安定性と使命に対する姿勢を読み解くことができます。

✔外部環境
日本の高等教育における大きな課題の一つが、高額な学費です。家庭の経済状況によって、大学進学や学業の継続を断念せざるを得ない優秀な学生は少なくありません。国の奨学金制度も拡充されてはいますが、その多くは返済が必要な「貸与型」であり、卒業後に多額の借金を背負うことが社会問題ともなっています。このような状況下で、アークランドサカモト奨学財団が提供する、返済不要の「給付型」奨学金の価値と社会的意義は、極めて大きいと言えます。
また、企業側にとっても、こうした奨学財団の設立・運営は、ESG(環境・社会・ガバナンス)経営が重視される現代において、企業の社会的責任(CSR)を果たす上で、非常に有効な手段となっています。

✔内部環境と収益構造
損益計算書(正味財産増減計算書)は公開されていませんが、その構造は明確に推測できます。財団の主な収入(経常収益)は、約15.4億円の基本財産を運用することから得られる「受取利息配当金」です。一方で、主な支出(経常費用)は、奨学生へ給付する「奨学金給付費」と、財団を運営するための最小限の「管理費」となります。この財団の経営目標は、利益を最大化することではなく、「収入(運用益) ≧ 支出(奨学金+管理費)」というバランスを長期的に維持し、事業を永続させることにあります。

✔安全性分析
財務の安全性は、これ以上ないほど盤石です。自己資本比率に相当する「正味財産比率」は、驚異の約99.98%。総資産15.5億円のほぼ全てが、返済不要の財産で構成されています。
貸借対照表を詳しく見ると、その構造がよくわかります。資産の部のほとんどを、15.4億円の「固定資産」が占めています。これが、金融商品などで長期運用されている「基本財産」です。
そして、負債及び正味財産の部を見ると、負債はわずか37万円。正味財産15.5億円のうち、15.4億円が「指定正味財産(基本財産充当額)」となっています。これは、前述の通り、寄付者(アークランドグループ)から「奨学金事業の元手として永続的に維持しなさい」と使途が指定されている、取り崩しのできない財産です。そして、残りの約5百万円が「一般正味財産」。これが、過去の事業年度における運用益から奨学金等の費用を差し引いた、いわば「繰越利益」に相当し、財団がより柔軟に使える資金となります。この会計構造そのものが、財団の永続性を担保する仕組みとなっているのです。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・約15.5億円という巨額の基本財産(基金)と、それによってもたらされる、ほぼ無借金の鉄壁の財務基盤。
・「人づくり」を理念とする、アークランドグループという強力な設立母体からの、継続的な支援と社会的信用。
・返済不要の「給付型」奨学金という、学生にとって非常に魅力的な支援内容。
・「社会貢献」という、共感を呼びやすい明確で高潔な事業目的。

弱み (Weaknesses)
・財団の活動規模(奨学生の数や支給額)が、基本財産の運用益に完全に依存するため、急激な事業拡大は難しいこと。
・事業の永続性が、資産運用の成否という、外部の金融市場の動向に左右される側面を持つこと。

機会 (Opportunities)
・高等教育の学費負担増を背景とした、民間給付型奨学金への社会的ニーズのさらなる高まり。
・資産運用の高度化により、基本財産の運用益が増加すれば、奨学生の数を増やしたり、支給額を増額したりできる可能性。
奨学金を給付した卒業生(OB・OG)とのネットワークを構築し、財団の活動を支える新たな人的資産へと繋げていくこと。

脅威 (Threats)
・世界的な金融危機や、長期にわたる株式市場の低迷が発生した場合、基本財産の運用益が減少し、奨学金の給付計画に影響を及ぼすリスク。
・インフレの進行により、現在の月額3万円という奨学金の価値が、相対的に目減りしてしまう可能性。


【今後の戦略として想像すること】
アークランドサカモト奨学財団の戦略は、営利企業とは全く異なり、その本質は「永続性」と「着実な使命遂行」にあります。

✔短期的・中長期的戦略:基本財産の賢明な管理と着実な事業運営
同財団の戦略は、一言で言えば「基本財産の賢明な管理(スチュワードシップ)」に尽きます。市場の変動リスクを適切に管理しながら、長期的な視点で、安定した運用益を生み出し続けることが、経営の最重要課題です。
そして、その運用益の範囲内で、毎年、募集要項に基づき、厳正な審査を通じて奨学生を選定し、3年間にわたって着実に奨学金を給付し続ける。この地道で誠実な活動の継続こそが、同財団に課せられた使命であり、そのものズバリが経営戦略なのです。今後、資産運用が順調に進み、運用益が増加する局面では、奨学生の採用人数を増やしたり、月々の支給額を社会情勢に合わせて増額したりといった、事業の拡充が検討されるでしょう。


【まとめ】
公益財団法人アークランドサカモト奨学財団は、ホームセンター「ムサシ」やとんかつ専門店「かつや」を展開するアークランドグループが、その経営理念である「人づくり」を社会全体で実践するために設立した、未来への投資機関です。第10期の決算(貸借対照表)は、総資産の99.9%以上が自己資本に相当する正味財産で構成されるという、完璧に近い、驚異的な財務の健全性を示しました。これは、約15.5億円もの潤沢な基本財産を基盤に、その運用益のみで、返済不要の奨学金給付事業を永続的に行うという、理想的な公益財団法人の姿です。この財団は、単にお金を配る組織ではありません。それは、企業の利益を、次代を担う若者たちの可能性へと転換する、社会の希望のエンジンです。その静かですが、力強く、そして永続的な活動は、これからの日本社会にとって、ますます大きな価値を持っていくことでしょう。


【団体情報】
名称: 公益財団法人アークランドサカモト奨学財団
所在地: 新潟県三条市上須頃445番地
代表者: 代表理事 坂本 雅俊
設立: 2015年10月15日
資本金: (基本財産) 不明
事業内容: 学業優秀かつ経済的理由により修学が困難な大学生に対する、返済不要の奨学金給付事業。
設立母体: アークランドグループ

arclandsf.or.jp

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