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#3520 決算分析 : アルテリア・ネットワークス株式会社 第10期決算 当期純利益 2,107百万円

企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)、クラウドサービスの全面的な普及、そして私たちの快適なマンションでのインターネットライフ。現代社会におけるこれらの活動すべてを、血管のように張り巡らされ、情報を伝達することで根底から支えているのが、高速・大容量の「光ファイバーネットワーク」です。今回取り上げるアルテリア・ネットワークスは、NTTなどの既存の通信網に依存せず、自社で敷設した独自の光ファイバー網を全国の主要都市に保有し、法人向けとマンション向けの2つの領域で高品質な通信サービスを提供する、独立系の通信キャリアです。

2023年には、総合商社の丸紅と警備最大手のセコムという強力な株主のもと、あえて非公開化(上場廃止)の道を選択し、短期的な市場評価に捉われない、長期的な視点での成長戦略を推し進めています。その決算書からは、売上高534億円、当期純利益21億円という安定した収益力と、通信インフラ事業ならではの重厚な財務構造が見えてきます。今回は、日本の情報通信社会を支える「光の道」のビジネスの神髄に迫ります。

アルテリア・ネットワークス決算

【決算ハイライト(第10期)】
資産合計: 96,804百万円 (約968.0億円)
負債合計: 70,908百万円 (約709.1億円)
純資産合計: 25,896百万円 (約259.0億円)
売上高: 53,448百万円 (約534.5億円)
当期純利益: 2,107百万円 (約21.1億円)
自己資本比率: 約26.8%
利益剰余金: 17,342百万円 (約173.4億円)

【ひとこと】
売上高534億円に対して21億円の当期純利益を確保し、安定した収益を上げています。貸借対照表で特に目を引くのが、総資産の約85%を占める828億円もの巨大な固定資産です。これが自社で保有する光ファイバー網を中心とした通信設備であり、同社の競争力の源泉です。173億円という潤沢な利益剰余金を背景に、自己資本比率も約27%と、巨額の設備投資を要する通信キャリアとして非常に健全な財務体質を維持しています。

【企業概要】
社名: アルテリア・ネットワークス株式会社
創業: 1997年11月4日
株主: 丸紅株式会社、セコム株式会社
事業内容: 自社で保有する独自の光ファイバー網を基盤とした電気通信事業。法人向けに専用線やインターネット接続サービス、マンション向けに国内シェアNo.1の全戸一括型インターネット接続サービスを提供。

www.arteria-net.com


【事業構造の徹底解剖】
アルテリア・ネットワークスのビジネスモデルは、自社で保有する「光ファイバー網」という、他社にはない強力なインフラ資産を基盤に、大きく2つの顧客セグメントに対して、それぞれに最適化されたサービスを提供している点に特徴があります。

✔法人向けサービス
企業のビジネス活動に不可欠な、あらゆるネットワークインフラをオーダーメイドで提供します。企業の各拠点間を安全かつ高速に結ぶ「専用線」や「VPN」、クラウドサービス(AWSMicrosoft Azureなど)へのセキュアな閉域接続、そしてビジネスグレードの高品質な「インターネット接続サービス」などが主力です。
同社の最大の強みは、NTTなどの回線を借りてサービスを提供する多くの通信事業者(リセラー)と異なり、自社で光ファイバーという「道」を保有している点です。これにより、通信帯域の保証や、きめ細やかなルート設計、迅速な障害対応など、高品質で信頼性の高いサービスを提供でき、これが他社に対する明確な競争優位性となっています。

✔マンション向けサービス
子会社である「株式会社つなぐネットコミュニケーションズ」を通じて、マンションの全戸にインターネットを一括で導入するサービスを展開しています。「UCOM光 レジデンス」や「e-mansion」といったブランドで知られ、この「マンション全戸一括型」というカテゴリーにおいては、国内シェアNo.1の圧倒的な実績を誇ります。一度、マンション全体で契約すれば、オーナーや管理組合から月額利用料が継続的に得られるため、景気変動の影響を受けにくい、極めて安定した「ストック型収益」の基盤となっています。

✔ビジネスモデルの核心
同社のビジネスモデルは、まさに「インフラ保有型キャリア」そのものです。自社で光ファイバー網という「高速道路」を建設・保有し、その上で法人向けという「物流トラック」と、マンション向けという「路線バス」を効率的に走らせているイメージです。初期投資は巨額になりますが、一度構築してしまえば、長期にわたって安定した収益を生み出すことが可能です。


【財務状況等から見る経営戦略】
同社の決算書は、通信キャリアというインフラ事業の特性を明確に示しています。

✔外部環境
企業のクラウド利用の常態化やリモートワークの普及、高画質な動画コンテンツの視聴増、そしてオンラインゲーム市場の拡大などにより、社会全体のデータ通信量は爆発的に増加し続けています。この潮流は、高品質・大容量の通信インフラを提供する同社にとって、強力な追い風です。また、5Gの普及や、その先の6G時代を見据え、モバイル通信網を支えるバックボーンとしての光ファイバー網の重要性はますます高まっています。さらに、国際間のデータ通信需要の増大を背景に、日本をアジアのデータハブとするための国際海底ケーブルの敷設プロジェクトも活発化しており、同社も積極的に参画しています。

✔内部環境と収益性
売上高534億円に対し、本業の儲けを示す営業利益は32億円。売上高営業利益率は約6.0%です。これは、光ファイバー網などの巨額な設備投資に対する減価償却費が大きなコストとなる通信事業の特性を考慮すれば、安定した利益を確保していると評価できます。また、経常利益が営業利益を11億円も上回る43億円となっている点も特徴的です。これは、受取利息や配当金といった営業外の収益が大きいことを示唆しており、同社の良好な財務体質がうかがえます。

✔安全性分析
貸借対照表が、通信キャリアという事業の特性を最もよく表しています。総資産968億円のうち、約85%にあたる828億円が「固定資産」で占められています。この固定資産の大部分が、全国に張り巡らされた光ファイバーケーブルや、ルーター、サーバーといった通信機器などの設備資産です。
この巨額の設備投資を賄うため、負債も709億円と大きくなっていますが、一方で純資産も259億円を確保しており、自己資本比率は約26.8%と、インフラ企業として健全な水準を維持しています。そして、その安定性を支えているのが、173億円にも上る潤沢な「利益剰余金」です。これは、長年の事業活動を通じて着実に利益を内部に蓄積してきた証であり、将来のネットワーク増強や新技術への投資を支える、揺るぎない体力の源泉となっています。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・全国の主要都市に張り巡らされた、自社で保有する高品質な光ファイバーネットワークという、代替の効かない独自のインフラ資産。
・収益性の高い法人向けサービスと、安定性の高いマンション向けサービスという、バランスの取れた事業ポートフォリオ
・マンション向け全戸一括型インターネットサービスにおける、国内シェアNo.1という圧倒的な市場での地位。
・総合商社の「丸紅」と警備最大手の「セコム」という、事業シナジーが大きく期待できる強力な株主構成。
・173億円の豊富な利益剰余金が示す、安定した収益力と強固な財務基盤。

弱み (Weaknesses)
光ファイバー網の維持・増強のために、常に巨額の設備投資が必要となる、資本集約的な事業モデル。
NTTグループなど、より巨大な通信キャリアとの、規模の経済や価格競争力における差。

機会 (Opportunities)
・5G/6G、IoT、AIの本格的な普及に伴う、社会全体のデータ通信量の爆発的な増加。
・eスポーツや高精細なオンラインゲーム市場の拡大に伴う、低遅延・高速な専用回線への新たな需要。
・国際海底ケーブルプロジェクトへの参画を通じた、グローバルなデータ通信市場への本格的な展開。
・株主であるセコムとの連携による、通信と物理セキュリティを融合させた、新たな高付加価値サービスの開発。

脅威 (Threats)
・衛星ブロードバンドサービス(例:スターリンク)など、新たな通信技術の急速な進化によって、既存の光ファイバー網の価値が相対的に低下してしまうリスク。
・通信業界における、根強い価格競争のプレッシャー。
・大規模な自然災害や、国家レベルのサイバー攻撃による、通信インフラへの物理的・機能的な損害リスク。


【今後の戦略として想像すること】
2023年に非公開化という大きな経営判断を下したアルテリア・ネットワークスは、長期的な視点での成長戦略を加速させていくでしょう。

✔短期的戦略
非公開化した最大の目的は、四半期ごとの業績や株価といった短期的な市場の評価に左右されることなく、長期的な視点での大規模投資を機動的に行うことです。今後、次世代ネットワーク技術(NFV:ネットワーク機能仮想化など)への投資や、既存の光ファイバー網のさらなる増強を、これまで以上のスピード感で実行していくことが予想されます。
また、株主である丸紅とセコムとのシナジーを具体化させることも急務です。丸紅が持つ海外のネットワークや、セコムが持つ膨大な法人・個人顧客に対し、アルテリアの高品質な通信サービスをクロスセルする取り組みを本格化させていくでしょう。特に、セコムの高度なセキュリティサービスと、アルテリアのセキュアな閉域網を組み合わせた新サービスの開発は、大きな成長が期待できる分野です。

✔中長期的戦略
中長期的には、国内の通信事業者の枠を超え、グローバルなデータ流通を担うプレイヤーへと進化していくことが見据えられます。近年積極的に参画している、日本と北米、アジアを結ぶ国際海底ケーブルプロジェクトを推進し、日本をアジアの「データハブ」とする上で、重要な役割を担うグローバルな通信キャリアを目指します。
また、単なる通信回線の提供者(いわゆる“土管屋”)から脱却し、その高品質なインフラの上で、より付加価値の高いサービスを展開していくことも重要なテーマです。eスポーツ分野への進出はその第一歩であり、今後はIoTプラットフォームの提供や、データセンターの近くで高速なデータ処理を行うエッジコンピューティングといった領域への展開も考えられます。


【まとめ】
アルテリア・ネットワークスは、自社で敷設した独自の光ファイバー網という強力なインフラを武器に、法人とマンション向けに高品質な通信サービスを提供する、日本の情報通信社会を支える重要な企業です。第10期決算では、売上高534億円、当期純利益21億円という安定した業績を記録し、自己資本比率約27%、利益剰余金173億円という強固な財務基盤を誇ります。同社の最大の強みは、NTTなどに依存しない独自の「光の道」を持つことであり、これが法人向けサービスの品質と、マンション向けサービスの国内シェアNo.1という圧倒的な地位を支えています。2023年に丸紅・セコムという強力なパートナーのもとで非公開化を選択した同社は、短期的な利益にとらわれない、長期視点での大胆な成長戦略に打って出る体制を整えました。今後、国際海底ケーブルへの投資や、通信とセキュリティの融合といった新たな挑戦を通じて、日本のデジタル社会を次のステージへと導く、リーディングカンパニーとなることが大いに期待されます。


【企業情報】
企業名: アルテリア・ネットワークス株式会社
所在地: 東京都港区新橋六丁目9番8号 住友不動産新橋ビル
代表者: 代表取締役 阿部 達也
創業: 1997年11月4日
資本金: 51億5,000万円
事業内容: 自社保有光ファイバー網を基盤とした電気通信事業。法人向けネットワークサービス(専用線VPN、インターネット接続等)、およびマンション向け全戸一括型インターネット接続サービスが主力。
株主: 丸紅株式会社、セコム株式会社

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