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#3452 決算分析 : 苫小牧バイオマス発電株式会社 第10期決算 当期純利益 ▲1,901百万円

カーボンニュートラルの実現に向け、再生可能エネルギーへの期待が世界的に高まっています。中でも、地域の森林資源を燃料とし、エネルギーの安定供給と林業の活性化を両立させる可能性を秘めた「バイオマス発電」は、持続可能な社会を築く上での切り札として注目を集めています。特に、日本有数の森林地帯である北海道では、このバイオマス発電が地域の新たな産業となることが期待されています。しかし、その事業運営は順風満帆なのでしょうか。理想と現実の間には、どのような経営課題が存在するのでしょうか。

今回は、三井物産住友林業といった日本を代表する企業が出資し、北海道産の未利用材のみを燃料として「森から電気を創る」を実践する「苫小牧バイオマス発電株式会社」の第10期決算を分析します。再生可能エネルギー事業が直面する厳しい現実が、その財務諸表から鮮明に浮かび上がってきます。

苫小牧バイオマス発電決算

【決算ハイライト(第10期)】
資産合計: 673百万円 (約6.7億円)
負債合計: 2,183百万円 (約21.8億円)
純資産合計: ▲1,510百万円 (約▲15.1億円)

当期純損失: 1,901百万円 (約19.0億円)

利益剰余金: ▲2,009百万円 (約▲20.1億円)

【ひとこと】
決算書を見て衝撃を受けたのは、15.1億円という巨額の債務超過です。自己資本比率は約▲224.2%と、資産を負債が大幅に上回る極めて厳しい財務状況にあります。当期純損失も19.0億円にのぼり、累積損失は20億円を超過。再生可能エネルギーの旗手が、事業の継続性そのものが問われる深刻な経営危機に直面していることがうかがえます。

【企業概要】
社名: 苫小牧バイオマス発電株式会社
設立: 2014年8月28日
株主: 三井物産株式会社(40%)、株式会社イワクラ(20%)、住友林業株式会社(20%)、北海道ガス株式会社(20%)
事業内容: 北海道産の未利用間伐材等を燃料とし、再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)を活用した木質バイオマス発電所の運営。

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【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、北海道の広大な森林資源を有効活用し、再生可能エネルギーを創出して販売する「木質バイオマス発電事業」です。地域の環境と経済に貢献する、理想的な循環型ビジネスモデルを構築しています。

✔燃料調達から販売までの一貫したバリューチェーン
事業の根幹は、商社(三井物産)、林業イワクラ住友林業)、エネルギー(北海道ガス)という、各分野のリーディングカンパニーが株主として名を連ねる強力な連携体制です。株主の林業関連会社などが北海道内で発生する間伐材や林地未利用木材を安定的に供給し、地域の林業活性化にも貢献しています。

✔発電と電力販売の仕組み
集められた木材は発電所でチップ化され、それを燃料に約6,200kWの電力を生み出します。発電された電力は、再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)に基づき、株主でもある北海道ガスに全量販売されます。FIT制度により、事業開始から20年間は国が定めた価格で電力を買い取ってもらえるため、本来であれば長期的に安定した収益が見込める事業モデルです。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
再生可能エネルギーへの移行は国策であり、FIT制度が事業の安定性を制度的に担保しています。しかし、燃料となる木材チップの価格は、国内外の需要増や人件費・輸送コストの上昇により、近年高騰する傾向にあります。FITによる電力の買取価格は事業開始時に固定されているため、想定を上回る燃料コストの高騰は、直接的に利益を圧迫します。また、発電所という巨大な装置産業であるため、安定稼働のための定期的なメンテナンスコストも経営に重くのしかかります。

✔内部環境と巨額損失の要因
今回の巨額損失の背景には、外部環境の悪化に加え、内部的な要因も考えられます。一つは、やはり想定をはるかに上回る燃料コストの上昇です。そしてもう一つは、発電設備の計画外の停止やトラブルによる稼働率の低下です。発電量が想定を下回れば、FITによる売上も減少し、燃料費や人件費、減価償却費といった高い固定費を吸収できなくなります。2017年の運転開始から8年が経過し、大規模な修繕が必要となり、それが特別損失として計上された可能性も否定できません。

✔安全性分析
財務安全性は、極めて危険な水準に達しています。純資産が15.1億円の債務超過状態であり、企業の存続には株主からの増資や債務免除といった抜本的な財務改善策が不可欠な状況です。総資産6.7億円に対し、負債総額は3倍以上の21.8億円に膨れ上がっています。特に固定負債が18.5億円と大きく、これは主に発電所建設時の金融機関からの長期借入金とみられます。株主構成が強力であるため金融支援は継続されていると推測されますが、これ以上の損失拡大は許されない、まさに崖っぷちの状態です。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・商社、林業、エネルギーの各分野を代表する企業による強力な株主構成と事業連携
・北海道産の未利用材を100%活用するという、地域貢献性と社会的意義の高い事業モデル
・FIT制度による、20年間の長期安定的な電力買取契約という事業基盤

弱み (Weaknesses)
・15億円を超える巨額の債務超過という、極めて脆弱な財務基盤
・燃料価格の市況変動リスクに収益性が大きく左右されるビジネスモデル
・単一の発電所に依存しており、設備のトラブルや計画外停止が経営に致命的なダメージを与える

機会 (Opportunities)
カーボンニュートラル実現に向けた、再生可能エネルギーに対する社会全体の要請の強まり
・北海道における林業のスマート化(林業DX)推進による、将来的な燃料調達コスト低減の可能性
・FIT制度終了後を見据えた、新たな電力取引市場(非化石価値取引など)への参入機会

脅威 (Threats)
・世界的なバイオマス燃料需要の増加による、木材チップ価格のさらなる高騰と調達競争の激化
・発電設備の老朽化に伴う、メンテナンス費用の増大と故障リスクの高まり
・将来的なFIT制度の買取価格の低下や制度変更による、新規事業への参入障壁
・大規模な自然災害(台風、地震)による、燃料調達網や発電所そのものへの物理的ダメージ


【今後の戦略として想像すること】
この危機的状況を乗り越えるためには、短期と中長期の両面で大胆な施策が求められます。

✔短期的戦略
最優先課題は、言うまでもなく財務基盤の再構築です。株主である三井物産イワクラ住友林業北海道ガスによる第三者割当増資や、金融機関への債務免除(DDS)といった抜本的な支援なくして、事業の継続は不可能です。同時に、現場レベルでは徹底的なコスト削減が求められます。燃料調達プロセスの見直し、オペレーションの効率化、メンテナンス計画の最適化など、聖域なき費用圧縮が必須となります。そして、発電所の安定稼働率を最大限まで引き上げ、売上を確保することが絶対条件です。

✔中長期的戦略
財務改善が前提となりますが、将来的には燃料調達ソースの多様化・安定化が鍵を握ります。現在の林地未利用材に加え、より低コストで安定調達が可能な製材端材や建設発生木材、輸入バイオマス燃料の活用なども視野に入れた、柔軟な燃料戦略の再構築が必要です。また、発電時に発生する熱を近隣の工場や農業施設に販売する熱供給事業(コージェネレーション)など、電力販売以外の新たな収益源を模索することも、経営を安定させる上で有効な一手となり得ます。


【まとめ】
苫小牧バイオマス発電株式会社は、北海道の豊かな森林資源を活かし、地域循環型の再生可能エネルギー社会を構築するという、極めて社会的意義の高い事業を担っています。その株主構成も、日本の産業界を代表する企業が名を連ね、大きな期待が寄せられていました。

しかし、その経営現実は、19億円の当期純損失と15億円の債務超過という、事業の存続が危ぶまれるほどの厳しいものです。これは、燃料価格の高騰や設備の安定稼働といった、バイオマス発電事業が共通して抱える課題の根深さを象徴しています。この苦境を乗り越え、北海道の「森から電気を創る」という理想を実現できるか、強力な株主たちの経営手腕が問われる正念場を迎えています。


【企業情報】
企業名: 苫小牧バイオマス発電株式会社
所在地: 北海道苫小牧市晴海町40番地の4
代表者: 代表取締役社長 岡田 真
設立: 2014年8月28日
資本金: 1億円
事業内容: 北海道産木質バイオマスを燃料とした発電事業および電気の販売
株主: 三井物産株式会社(40%)、株式会社イワクラ(20%)、住友林業株式会社(20%)、北海道ガス株式会社(20%)

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