経営者の高齢化と深刻な後継者不足。これは、日本経済の根幹を支える数百万の中小企業が直面する、待ったなしの社会課題です。事業の成長や存続を願うものの、M&Aはまだ心理的なハードルが高いと感じる経営者も少なくありません。「誰に、どう相談すればいいのか」。その切実な声に応えるべく、ネット金融の巨人「SBIグループ」と、日本最大級の税理士法人「辻・本郷グループ」が手を組み、全く新しいM&A支援会社を設立しました。
今回は、金融と税務・会計のプロフェッショナル集団が融合して生まれた、SBI 辻・本郷M&A株式会社の決算を読み解き、日本の事業承継問題に挑むそのユニークなビジネスモデルと、設立3期目の経営戦略に迫ります。

【決算ハイライト(第3期)】
資産合計: 511百万円 (約5.1億円)
負債合計: 400百万円 (約4.0億円)
純資産合計: 111百万円 (約1.1億円)
当期純損失: 4百万円 (約0.0億円)
自己資本比率: 約21.7%
利益剰余金: 21百万円 (約0.2億円)
【ひとこと】
設立3期目を迎え、当期はわずかながら純損失を計上しています。しかし、これは事業基盤を構築するための先行投資フェーズにあるためと考えられます。SBIと辻・本郷という強力な株主を背景に持つ、2022年設立の若い企業であり、今後の成長に向けた戦略的な投資を行っている段階と言えるでしょう。
【企業概要】
社名: SBI 辻・本郷M&A株式会社
設立: 2022年
株主: SBIグループ / 辻・本郷グループ
事業内容: SBIグループの総合金融力と、辻・本郷グループの税務・会計に関する専門知識を融合させ、全国の中堅・中小企業に対し、事業承継を中心としたM&Aアドバイザリーサービスを提供する。
【事業構造の徹底解剖】
同社のビジネスモデルの核心は、SBIグループと辻・本郷グループという、それぞれが持つ圧倒的な強みを掛け合わせることで生まれる、他に類を見ない「ワンストップ・ソリューション」にあります。
✔金融と税務の最強タッグが生むシナジー
同社の最大の特徴は、その成り立ちにあります。
・SBIグループ:ネット証券やネット銀行を中核に、ベンチャー投資から保険まで、あらゆる金融サービスを網羅する総合金融グループです。M&Aにおける資金調達や、譲渡後の資産運用といった「金融」の側面で、顧客に多角的な選択肢を提供できます。
・辻・本郷グループ:全国に80以上の拠点を持ち、1万社以上の顧問先を抱える日本最大規模の税理士法人グループです。中小企業の経営を深く理解し、事業承継における最も複雑な税務・会計の問題に対して、専門的な知見を提供できることが強みです。
この両者が融合することで、単なるマッチングに留まらない、深く、そして幅広いM&A支援が可能となっています。
✔M&Aの全工程を網羅する「ワンストップ体制」
同社は、M&Aの実行支援(アドバイザリー)だけでなく、その前後のプロセスまでを一貫してサポートできる体制を構築しています。
・M&A実行前:企業の現状を分析し、企業価値を高めるためのコンサルティングを提供。
・M&A実行後:M&Aが成功裏に終わるための鍵となるPMI(経営統合プロセス)の支援や、経営者が受け取った株式対価の運用コンサルティングまで、グループの総力を挙げて顧客の未来をサポートします。
✔顧客本位を貫くオーダーメイドのサービス
M&Aの支援形態には、売り手と買い手の両方を支援する「仲介」と、どちらか一方の利益最大化のために動く「フィナンシャル・アドバイザー(FA)」があります。同社は、それぞれのメリット・デメリットを丁寧に説明し、顧客自身が納得した上で最適な支援体制を選べるという、真の顧客本位の姿勢を貫いています。
【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
日本は今、まさに「大事業承継時代」の真っ只中にあります。後継者不足に悩む中堅・中小企業にとって、M&Aは事業と従業員の雇用を守るための有力な選択肢として、その重要性が急速に高まっています。これは、同社にとって極めて大きな市場機会があることを意味します。
✔内部環境
決算書に示された当期4百万円の純損失は、2022年に設立された若い企業が、事業を軌道に乗せるための先行投資を行っている結果と解釈するのが自然です。M&Aアドバイザリー事業は、優秀なコンサルタントの採用・育成コストが先行し、収益(成功報酬)は案件の成約時に計上されるため、立ち上げ期には赤字になりやすいビジネスモデルです。着手金を徴収しない料金体系も、顧客にとっては相談しやすい一方で、収益化までの期間が長くなる要因となります。
✔安全性分析
自己資本比率は約21.7%と、現時点では高い水準ではありません。しかし、同社の事業は大規模な設備投資を必要としないため、この数値がただちに経営の不安定さを示すものではありません。最も重要な点は、SBIと辻・本郷という、日本の金融界と会計界を代表する二大グループが株主であることです。この強力な後ろ盾が、財務的な安定性と社会的な信用力を強力に担保しており、事業継続に関するリスクは極めて低いと言えます。
【SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・SBIの金融力と辻・本郷の税務・会計力という、他にない独自のシナジー
・両グループが持つ、全国を網羅する広範な顧客ネットワークと情報量
・M&Aの前工程から後工程までを支援できる、真のワンストップサービス体制
・着手金無料という、顧客が相談しやすい料金体系
弱み (Weaknesses)
・設立から日が浅く、M&Aの成約実績が競合他社に比べてまだ少ない点
・事業の成長が、採用・育成が難しい専門人材の確保に大きく依存する点
機会 (Opportunities)
・深刻化する後継者不足を背景とした、中堅・中小企業の事業承継M&Aニーズの爆発的な増加
・M&Aを成長戦略の一環として積極的に活用する企業の増加
脅威 (Threats)
・金融機関、大手M&A専門会社、会計事務所など、多数のプレイヤーがひしめくM&Aアドバイザリー市場での厳しい競争
・景気後退による、企業のM&A意欲の減退
【今後の戦略として想像すること】
両グループの強みを最大限に活かし、M&A市場における「新しい標準」を創り出すことを目指すでしょう。
✔短期的戦略
まずは、両グループの既存の顧客基盤(SBIの取引先、辻・本郷の顧問先)に対して、事業承継の必要性を啓蒙し、具体的なM&A案件を創出していくことが最優先課題です。特に、辻・本郷税理士法人の全国80拠点以上のネットワークを活用し、これまでM&Aに馴染みのなかった地方の優良企業を発掘することが、大きな成長ドライバーとなります。
✔中長期的戦略
中長期的には、単なるM&Aの仲介に留まらず、SBIグループの金融商品や、辻・本郷グループの各種コンサルティングサービスを組み合わせた、より付加価値の高いソリューションを提供していくことが予想されます。例えば、M&A後の成長資金をSBIインベストメントが出資したり、譲渡後のオーナー経営者の資産管理をSBI証券やSBI新生銀行がサポートしたりといった、グループ全体での包括的な支援体制を構築します。「M&Aをもっと身近に、より安心に」という理念を体現し、M&A業界の規範となることを目指します。
【まとめ】
SBI 辻・本郷M&A株式会社は、金融と税務・会計という、事業承継に不可欠な両輪を兼ね備えた、まさに「サラブレッド」のようなM&A支援会社です。現在の赤字は、日本の未来を左右する社会課題の解決という壮大なミッションに挑むための、未来への投資に他なりません。「M&Aで人と企業と地域の未来を明るくする」という使命を胸に、同社がこれから日本のM&A市場にどのような新しい風を吹き込むのか、その挑戦から目が離せません。
【企業情報】
企業名: SBI 辻・本郷M&A株式会社
所在地: 東京都千代田区丸の内一丁目7番12号 サピアタワー18階
代表者: 小林 堅悟
設立: 2022年4月28日
資本金: 5,000万円
事業内容: 中堅中小企業の事業承継に係るM&Aアドバイザリー業務の提供、M&Aおよび事業承継に関するコンサルティング業務の提供
主な関連会社: SBIホールディングス株式会社、辻・本郷税理士法人など