決算公告データ倉庫

決算公告を自分用に収集・コメントし保管する倉庫。あくまで自分用であり、引用する決算公告を除き内容の正確性/真実性を保証できない点はご容赦ください。

#3175 決算分析 : ティーメディクス株式会社 第21期決算 当期純利益 1,183百万円

人の命を救う、最先端の医療現場。そこでは、医師たちの高度な技術を支える内視鏡や手術支援ロボットといった、数々の高度な医療機器が活躍しています。しかし、これらの機器は一台数千万円から数億円と非常に高額であり、導入する病院にとっては極めて大きな経営上の負担となります。「患者のために最高の医療を提供したいが、莫大な初期投資は避けたい」。これは、日本の多くの医療機関が抱える、深刻で根深い悩みです。

今回は、この医療現場が直面する大きな課題に対し、「所有から利用へ」という新しい発想で画期的なソリューションを提供する、ティーメディクス株式会社の決算を読み解きます。世界的な医療機器メーカーであるオリンパスグループの一員として、同社が展開するユニークなビジネスモデルとは何か。決算書に示された驚異的な利益の背景と、日本の医療の未来を支えるその成長戦略に迫ります。

ティーメディクス決算

【決算ハイライト(第21期)】
資産合計: 7,864百万円 (約78.6億円)
負債合計: 5,152百万円 (約51.5億円)
純資産合計: 2,712百万円 (約27.1億円)

当期純利益: 1,183百万円 (約11.8億円)

自己資本比率: 約34.5%
利益剰余金: 2,662百万円 (約26.6億円)

【ひとことコメント】
総資産約78.6億円という事業規模に対し、当期純利益が約11.8億円と、売上高に対する利益率が極めて高く、非常に高収益なビジネスモデルを確立していることがうかがえます。自己資本比率も約34.5%と健全な水準を維持しており、親会社であるオリンパスグループの強力なバックボーンのもと、独自のビジネスが大きく成功していることを示しています。

【企業概要】
社名: ティーメディクス株式会社
設立: 2004年4月1日
株主: オリンパスマーケティング株式会社
事業内容: 全国の医療機関向けに、高額な医療機器を「症例単価払い」という独自の従量課金制で提供するファイナンス事業を核に、医療現場の隠れたニーズに応える関連製品の開発・販売、さらには病院の経営改善コンサルティングまで手掛ける総合メディカルソリューション企業。

www.tmedix.com


【事業構造の徹底解剖】
ティーメディクスの事業は、単に医療機器という「モノ」を販売するにとどまりません。医療機関が抱える経営上の課題に深く踏み込み、解決策を提案する「ソリューション提供型」のビジネスモデルが、その驚異的な収益性の源泉となっています。

✔ビジネスモデルの核「VPP症例単価プログラム」
VPP(Value Per Procedure)は、同社の競争力を象徴する、まさにオンリーワンのサービスです。従来、病院が高額な医療機器を導入する際には、「一括購入」か、月々の支払いが固定の「リース契約」が一般的でした。しかしVPPは、機器の所有権はティーメディクスに残したまま、病院側は、その機器を使用して行った「手術・検査1件あたりいくら」という形で費用を支払う、画期的な従量課金制のサービスです。これにより病院は、莫大な初期投資が一切不要となる上、手術件数が少ない月は支払額も少なくなるため、経営上のリスクを大幅に低減できます。まさに医療機器のサブスクリプションモデルとも言える、革新的な仕組みです。

✔現場の切実な「声」を形にする製品開発事業
もう一つの重要な柱が、医療現場の最前線で働く医師や看護師、臨床工学技士といった方々の「こんなものがあったら、もっと安全に、もっと効率的に仕事ができるのに」という、ささやかでも切実なニーズを丁寧にすくい上げ、製品化する事業です。例えば、若手外科医が腹腔鏡手術の練習をより実践的に行えるトレーニング機器「ラパロトレーナー」や、洗浄時にデリケートな内視鏡の先端部を不意の衝撃から守る「スコープ先端保護チューブ」など、巨大メーカーではなかなか手が届かない、ニッチながらも現場の課題を的確に解決するユニークな製品群を開発・販売しています。

✔経営全体をサポートする「コンサルティング事業」
医療機器の導入計画や、その運用に関する提案に留まらず、病院全体の収益改善や業務効率化といった、より広い視野での経営改善コンサルティングも手掛けています。医療機器という「モノ」だけでなく、病院経営という「コト」の課題解決にも貢献することで、単なる業者と顧客という関係を超えた、医療機関との長期的なパートナーシップを築いています。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
国民医療費の増大を抑制するため、国による診療報酬の引き下げ圧力が慢性的に続いており、日本の病院経営は年々厳しさを増しています。このような厳しい経営環境下で、高額な設備投資を平準化し、かつ変動費化できるVPPプログラムへのニーズは、今後ますます高まることが確実視されています。また、医療技術は日進月歩で進化しており、より患者の負担が少ない高度な治療を実現するための新しい医療機器が次々と登場しています。病院は、地域での競争力を維持するためにも常に最新の医療を提供する必要に迫られており、これも同社の事業にとって強力な追い風となります。

✔内部環境
当期純利益11.8億円という驚異的な収益性は、VPPプログラムが単なるファイナンスではなく、機器の定期的なメンテナンスや関連する消耗品の供給、さらには経営コンサルティングなどを組み合わせた、非常に付加価値の高いサービスとして提供されていることを示唆しています。症例単価には、これらの包括的なサービス料が含まれており、結果として高い利益率を実現していると推測されます。貸借対照表において、流動資産が約66億円と、総資産の大部分を占めているのは、VPPプログラムのために同社が資産として保有し、全国の病院に貸し出している多数の医療機器が、「棚卸資産」または「営業貸付資産」として計上されているためと考えられます。

✔安全性分析
自己資本比率34.5%は、健全な財務水準です。自社で多額の医療機器を資産として保有し、その購入資金の一部を金融機関からの借入で賄うというビジネスモデルであることを考慮すれば、むしろ非常に安定していると高く評価できます。短期的な支払い能力を示す流動比率流動資産÷流動負債)も約154%であり、当面の資金繰りにも問題はありません。そして何よりも、利益剰余金が約26.6億円と潤沢に積み上がっていることは、VPPという他に類を見ないビジネスモデルが、長年にわたり高い収益を生み出し続けてきたことの力強い証明です。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・世界的な医療機器メーカーであるオリンパスグループとしての、絶大なブランド力、製品知識、そして全国に広がる販売網。
・「症例単価払い(VPP)」という、医療機関の経営課題に深く寄り添った、他社にはないユニークで競争力の高いビジネスモデル。
・医療現場の潜在的なニーズを的確に捉え、製品化する、ニッチ市場での優れた製品開発能力。
・高い収益性と、潤沢な内部留保に裏付けられた強固な経営基盤。

弱み (Weaknesses)
・事業の多くが親会社であるオリンパスの製品(特に内視鏡)と密接に関連しており、オリンパスの製品戦略や販売動向に自社の業績が大きく左右されやすい構造。
・VPPモデルは、自社で多額の医療機器を資産として保有し続ける必要があり、資本効率の面で課題を抱える可能性がある。

機会 (Opportunities)
・国の医療費抑制策を背景とした、病院経営のさらなる厳格化に伴う、VPPプログラムへの需要の継続的な拡大。
・手術支援ロボットなど、今後ますます高額化・高度化する医療機器分野への、VPPモデルの横展開。
・医療従事者の負担軽減や働き方改革に貢献する、新たな現場発想のオリジナル製品の開発・市場投入。

脅威 (Threats)
・国の診療報酬が将来的に大幅に引き下げられた場合、病院全体の収益が悪化し、手術件数の減少や設備投資意欲の減退に繋がるリスク。
・競合する他の大手医療機器メーカーやファイナンス会社が、同様の従量課金制サービスに本格的に参入してくることによる競争激化。
・VPPプログラムで提供している医療機器に、万が一、大規模なリコールなどが発生した場合の経営リスク。


【今後の戦略として想像すること】
強固な事業基盤と独自のビジネスモデルを武器に、さらなる進化を目指す戦略が考えられます。

✔短期的戦略
まずは、VPPプログラムの対象領域の拡大が考えられます。現在は消化器内視鏡などが中心であると推測されますが、オリンパスが強みを持つ外科、泌尿器科耳鼻咽喉科など、他の診療領域で使われる高額機器へVPPプログラムを積極的に展開していくでしょう。また、現場のニーズを的確に捉えたオリジナル製品群を、親会社のグローバルな販売網を活用して、海外の医療機関へも展開していくことが期待されます。

✔中長期的戦略
VPPプログラムを通じて収集される、膨大な数の症例データ(どの機器が、どの手技で、日本全国で何回使われたか等)を、個人情報に配慮した上で匿名加工・分析し、病院経営のさらなる効率化や、医療機器の改良開発に繋げる、データ駆動型の新たなコンサルティングサービスを創出する可能性があります。これにより、単なる機器提供者から、医療全体の質を向上させるデータカンパニーへと進化を遂げるかもしれません。


【まとめ】
ティーメディクス株式会社は、単に医療機器を販売する会社ではありません。それは、日本の医療が直面する「高度な医療の提供」と「健全な病院経営」という、時に相反する二つの大きな課題に対し、「症例単価払い(VPP)」という革新的なビジネスモデルで鮮やかな答えを示す、医療界のソリューションプロバイダーです。

今回の決算分析で明らかになった11.8億円という驚異的な純利益は、同社のビジネスモデルがいかに医療現場のニーズを的確に捉え、極めて高い付加価値を生み出しているかを雄弁に物語っています。オリンパスグループという巨人の肩の上で、金融とメーカー、そしてコンサルティングの機能を高度に融合させたユニークな存在。これからも、医療の質の向上と、それを支える病院経営の安定化に貢献し続けることが大いに期待されます。


【企業情報】
企業名: ティーメディクス株式会社
所在地: 東京都新宿区西新宿2-3-1 新宿モノリス
代表者: 代表取締役社長 藤井 啓祐
設立: 2004年4月1日
資本金: 5,000万円
事業内容: 医療機器全般のファイナンス提供(VPP症例単価プログラム)、診療経営改善コンサルタント、医療関連用品の開発製造販売、高度管理医療機器の販売・賃貸
株主: オリンパスマーケティング株式会社

www.tmedix.com

©Copyright 2018- Kyosei Kiban Inc. All rights reserved.