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#3170 決算分析 : 技研株式会社 第51期決算 当期純利益 38百万円

スマートフォンから自動車、航空機に至るまで、私たちの身の回りにあるあらゆるハイテクな工業製品は、その部品をミクロン単位(1000分の1ミリ)という驚異的な精度で加工する「マザーマシン(工作機械)」によって生み出されています。中でも、金属の表面を砥石で高精度に削り上げ、鏡のような面に仕上げる「研削盤」は、ものづくりの最終的な品質を決定づける極めて重要な機械です。しかし、どんなに頑丈に作られた機械も、長年の使用によって摩耗し、その命である精度は少しずつ落ちていってしまいます。

今回は、そんな古くなった工作機械に新たな命を吹き込み、現代の生産現場に蘇らせる「機械のお医者さん」、技研株式会社の決算を読み解きます。大手工作機械メーカー・岡本工作機械製作所のグループ企業として、機械の「再生」(オーバーホール)と「創造」(新台製造)の両輪で日本のものづくりを支える同社。そのユニークな事業モデルと、決算書に示された強固な経営基盤に迫ります。

技研決算

【決算ハイライト(第51期)】
資産合計: 1,179百万円 (約11.8億円)
負債合計: 378百万円 (約3.8億円)
純資産合計: 801百万円 (約8.0億円)

当期純利益: 38百万円 (約0.4億円)

自己資本比率: 約68.0%
利益剰余金: 741百万円 (約7.4億円)

【ひとことコメント】
自己資本比率が約68.0%と極めて高く、非常に安定した財務基盤を誇ります。利益の蓄積である利益剰余金も約7.4億円と潤沢に積み上がっており、長年にわたる堅実な経営が見て取れます。当期純利益38百万円は、この安定した事業基盤の上で、着実に利益を確保していることを示しており、地に足のついた経営ぶりがうかがえます。

【企業概要】
社名: 技研株式会社
設立: 1975年10月1日
株主: 株式会社岡本工作機械製作所グループ
事業内容: 工作機械(主に研削盤)のオーバーホール(分解修理・精度復元)及びレトロフィット(機能向上改造)事業を主軸に、親会社である岡本工作機械製作所のOEM生産、及び自社ブランドの専用研削盤の開発・製造を手掛けるエンジニアリング企業。

www.gikenn.co.jp


【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、大手工作機械メーカーのDNAを受け継ぎながら、顧客が抱える設備の課題に深く、そして柔軟に応える4つの事業の柱で構成されています。

✔「機械の再生」を担うオーバーホール・レトロフィット事業
これが同社の最大の特色であり、社会的な価値も高い事業です。長年の使用で精度が低下した工作機械を顧客の工場から引き取り、自社工場で完全に分解・洗浄。機械が滑らかに動くための重要な案内面(摺動面)を、熟練の職人が「キサゲ」と呼ばれる工具を使い、手作業でミクロン単位の平面に削り直す「摺合せ」を行い、摩耗した部品を交換・再組立することで、新品同様の精度を復元させます(オーバーホール)。さらに、旧式の制御装置を最新のコンピューター数値制御(CNC)装置に交換し、生産性や操作性を劇的に向上させる「レトロフィット」も手掛けます。これは、顧客の新規設備投資を抑制しつつ、生産性を高めるという、非常に価値の高いソリューションです。

✔経営安定の基盤「OEM生産事業」
親会社である岡本工作機械製作所が世界市場で販売する研削盤の一部を、OEM(相手先ブランド製造)メーカーとして生産しています。これにより、ものづくり企業として安定した生産量を確保し、経営の揺るぎない基盤を築いています。

✔ニッチ市場を攻める「自社製品事業」
親会社の豊富な製品ラインナップを補完する形で、より専門性の高いニッチな研削盤を自社ブランドで開発・製造しています。シャフト部品の中心に基準となる穴を精密に加工する「センタ穴研削盤」や、高精度な歯車を仕上げる「歯車研削盤」など、特定の加工に特化した高精度な機械を提供することで、独自の市場を確立しています。

✔顧客の課題を解決する「専用機事業」
「こんな特殊な形状の部品を、効率よく削れる機械はないだろうか」といった、市販の機械では対応できない顧客の特殊な要望に対し、構想段階から設計・製作までを一貫して行い、世界に一台だけの専用機や自動化装置を創り出す事業です。親会社譲りの高い技術力が存分に活かされています。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
現在の日本の製造業は、高度経済成長期に導入された設備の老朽化という大きな課題に直面しています。景気の先行きが不透明な中、数千万円もする高価な新台導入には慎重になる企業が多く、愛着のある既存設備を修理・改良して、少しでも長く使い続けたいというニーズは非常に高まっています。この流れは、同社のオーバーホール・レトロフィット事業にとって強力な追い風となっています。また、SDGsカーボンニュートラルの観点から、古い機械を廃棄せずに再生・再利用する「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」への関心が高まっており、同社の事業は環境貢献という側面からも、今後ますます社会的評価が高まることが予想されます。

✔内部環境
当期純利益38百万円という数字は、こうした市場のニーズを的確に捉え、安定的に収益を確保している結果と言えます。特にオーバーホール事業は、新品の機械をゼロから製造するよりも利益率が高い傾向があり、企業全体の収益性の向上に貢献していると推測されます。そして、自己資本比率68.0%という盤石の財務基盤は、顧客からの信頼の証です。顧客は、自社の生産の心臓部である大切な設備を、数ヶ月という長期間にわたって預けることになるため、預け先の企業の財務的な安定性を非常に重視します。この強固な財務基盤が、顧客からの信頼獲得に繋がり、安定した受注を支えているのです。

✔安全性分析
自己資本比率68.0%は、日本の製造業として極めて健全な優良水準です。借入金への依存度が低く、金利変動などの外部リスクにも極めて強い、安定した経営体質を誇ります。短期的な支払い能力を示す流動比率流動資産÷流動負債)も約507%と驚異的な高さであり、資金繰りにも全く不安要素はありません。約7.4億円の利益剰余金は、親会社のサービス部門として発足してから約50年、顧客の期待に応え、着実に価値を生み出し続けてきた歴史そのものを物語っています。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・大手工作機械メーカー・岡本工作機械製作所の直系であることによる、圧倒的な技術的知見と社会的信頼性。
・新品の工作機械製造と、中古機械の再生(オーバーホール)の両方を手掛けることによる、幅広い顧客ニーズへの対応力。
・既存設備を再生・再利用する、環境貢献度が高く、時代の要請に合ったサステナブルなビジネスモデル。
自己資本比率約68%を誇る、顧客が安心して機械を預けられる、極めて強固で安定した財務基盤。

弱み (Weaknesses)
・親会社である岡本工作機械製作所の業績や経営方針に、自社の経営が影響を受けやすい側面がある。
・「摺合せ」などの高度な技能は一朝一夕には身につかず、その技能を伝承し、後継者を育成していくことが常に課題となる。

機会 (Opportunities)
・国内製造業に存在する、膨大な数の老朽化した設備の更新・延命需要(オーバーホール・レトロフィット市場)の継続的な拡大。
・熟練工不足に悩む中小企業からの、旧式の汎用機をNC化(レトロフィット)することによる自動化・省人化ニーズの増大。
・サーキュラーエコノミーへの社会的な関心の高まりを背景とした、「機械を再生するビジネス」への評価と注目の向上。

脅威 (Threats)
・国内の製造業、特に中小企業の設備投資意欲が長期的に減退してしまうリスク。
・高度なメンテナンス技能を持つ専門人材の採用競争の激化。
・低価格を武器とする、安価な海外製の新品工作機械との競合。


【今後の戦略として想像すること】
強固な事業基盤と財務基盤を活かし、さらなる付加価値の向上と事業領域の拡大を目指す戦略が考えられます。

✔短期的戦略
まずは、レトロフィット事業のさらなる強化が挙げられます。単なる精度復元(オーバーホール)に留まらず、IoTセンサーを取り付けて機械の稼働状況を「見える化」したり、ワークの自動搬送・搬出を行うロボットシステムを組み合わせたりするなど、顧客工場のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を支援する、より高付加価値なレトロフィット提案を強化していくでしょう。

✔中長期的戦略
将来的には、対象とする機械の幅を広げていくことが考えられます。現在は親会社である岡本工作機械製作所の製品が中心と思われますが、長年培った普遍的な機械再生技術を活かし、他社メーカー製の工作機械のオーバーホール・レトロフィット事業にも本格的に展開していく可能性があります。また、自社でオーバーホールした機械を在庫として保有し、短納期・低価格で提供する「高品質リユース工作機械販売」事業を立ち上げ、新たな収益の柱として育てることも、有望な戦略の一つです。


【まとめ】
技研株式会社は、単なる工作機械メーカーや修理会社ではありません。それは、日本のものづくりの歴史と魂が宿る古い機械に、現代の技術という新たな血を注ぎ込み、未来の生産現場へと蘇らせる「機械再生の匠集団」です。新品を売るだけでなく、顧客が長年愛用してきた機械を、より高性能にして使い続けたいという想いに応える同社の事業は、SDGsやサーキュラーエコノミーが叫ばれる現代において、ますますその価値を高めています。

今回の決算分析で明らかになった、自己資本比率68%という盤石の財務は、その誠実な仕事ぶりと、顧客からの厚い信頼の何よりの証です。製造業が抱える設備の老朽化と人手不足という二つの大きな課題に対し、同社が提供するソリューションはまさに最適解の一つと言えるでしょう。これからも、日本のものづくり現場を足元から支え続ける、重要な存在であり続けるに違いありません。


【企業情報】
企業名: 技研株式会社
所在地: 神奈川県綾瀬市小園1069番地1
代表者: 代表取締役社長 小清水 司
設立: 1975年10月1日
資本金: 1,800万円
事業内容: 各種工作機械のオーバーホール及びレトロフィット、岡本工作機械製品のOEM生産、センタ穴研削盤等の製作・販売、専用研削盤及び装置の開発・設計・製作・販売
株主: 株式会社岡本工作機械製作所グループ

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