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#3155 決算分析 : 株式会社ユニチカテクノス 第48期決算 当期純利益 131百万円

大手素材メーカーの工場で、製品にならなかった繊維くずやフィルムの切れ端。これらは、単なる「産業廃棄物」なのでしょうか。あるいは、新しい価値を持つ「資源」なのでしょうか。また、研究所で開発されたものの、まだ具体的な使い道が見つかっていない最先端の素材技術。これらは、企業の奥深くで眠る「宝」かもしれません。この、眠っている資産に光を当て、新たなビジネスへと昇華させるユニークな企業があります。

今回は、大手繊維・高分子メーカーであるユニチカグループの一員として、その技術と資源を最大限に活用する「技術匠(しょう)社」を標榜する、株式会社ユニチカテクノスの決算を読み解きます。自己資本比率80%超という驚異的な財務基盤を誇る、少数精鋭の技術者集団です。彼らが、いかにして「廃棄物」を「価値」に変え、未来のビジネスを創造しているのか。その秘密に迫ります。

ユニチカテクノス決算

【決算ハイライト(第48期)】
資産合計: 1,361百万円 (約13.6億円)
負債合計: 261百万円 (約2.6億円)
純資産合計: 1,101百万円 (約11.0億円)
当期純利益: 131百万円 (約1.3億円)
自己資本比率: 約80.9%
利益剰余金: 1,021百万円 (約10.2億円)

【ひとことコメント】
自己資本比率が80%を超える、鉄壁とも言える財務基盤を誇ります。資本金8,000万円に対し、利益剰余金が10億円以上と、その差は12倍以上。長年の高収益経営の歴史を物語っています。従業員21名という少数精鋭の組織で、当期純利益1.3億円を達成しており、そのビジネスモデルの効率性と付加価値の高さが際立っています。

【企業概要】
社名: 株式会社ユニチカテクノス
設立: 1977年9月19日
株主: ユニチカ株式会社(100%出資)
事業内容: ユニチカグループの技術や生産副産物を活用した、合成繊維・樹脂リサイクル事業、3次元立体編物等の新規用途開発、フィルター事業、およびコンシューマー向け製品の企画販売を行う「技術匠(商)社」

www.unitika.co.jp


【事業構造の徹底解剖】
ユニチカテクノスは、単なる販売子会社ではありません。親会社であるユニチカの技術(テクノロジー)を知り尽くした匠(たくみ)として、それを新たな商い(しょう)に繋げる「技術匠(商)社」という、ユニークなビジネスモデルを展開しています。

✔合成繊維・樹脂リサイクル事業
同社の事業の中で、特に社会的な意義と独自性が高いのが、このリサイクル事業です。ユニチカの宇治事業所や岡崎事業所といった生産拠点から発生する、フィルムくずや糸くずといった生産副産品(従来は廃棄されていたもの)を回収。協力会社と連携して、これらを裁断・粉砕・溶融し、再生樹脂ペレットへと生まれ変わらせます。この再生樹脂は、キッチンツールや椅子の部品といった新たな製品の原料として販売され、資源循環型社会の実現と、ユニチカグループのゼロエミッションに貢献しています。

✔新規用途開発事業
ユニチカが開発した最先端素材の、新たな可能性を切り拓く事業です。例えば、クッション性や通気性に優れた特殊な3次元立体編物「キュービックアイ®」や、ポリプロピレン糸などをベースとした高性能な「カートリッジフィルター」。これらの素材を、様々な業界の顧客に対し、そのニーズに合わせた最適な形での活用法を提案・共同開発します。まさに、技術シーズと市場ニーズとを結びつける、専門知識を持ったコンサルタントとしての役割です。

✔BtoC製品企画・販売事業
新規用途開発からさらに一歩進んで、自ら最終製品を企画・販売まで手掛ける事業です。例えば、「キュービックアイ®」の優れた特性を活かして、高反発マットレス「キュービックボディ®」や枕といった、快眠をサポートする生活製品を開発。ユニチカグループの技術力を、一般消費者に直接届ける役割を担っています。


【財務状況等から見る経営戦略】
決算数値からは、巨大メーカーグループの中で、いかにして身軽で高収益な事業モデルを構築しているか、その巧みな戦略が見て取れます。

✔外部環境
世界的なSDGsへの関心の高まりは、同社のリサイクル事業にとって強力な追い風です。企業にとって、廃棄物の削減や資源の再利用は、もはや単なるコストではなく、企業価値を高める重要な経営課題となっています。また、医療・介護、自動車、スポーツ、生活雑貨など、あらゆる分野で、より高機能な素材へのニーズは尽きることがなく、同社の新規用途開発事業にも大きな機会が広がっています。

✔内部環境
同社のビジネスモデルにおける最大の強みは、親会社であるユニチカの存在です。ユニチカの生産拠点という、安定した「副産品(=原料)」の供給源。ユニチカ中央研究所が生み出す、最先端の「技術シーズ」。そして、「ユニチカ」という長年培われたブランドの信用力。これらの強力なバックアップがあるからこそ、従業員21名という少数精鋭の組織で、年間約14億円もの売上を上げることが可能になっています。また、同社の経営は、自社で大規模な工場を持たない「アセットライト」な構造です。貸借対照表の固定資産がわずか1,000万円弱であることが、それを物語っています。この身軽さが、高い利益率と財務健全性の源泉となっています。

✔安全性分析
自己資本比率が約80.9%という数値は、企業の財務安全性が極めて高いことを示しています。有利子負債に頼らない、実質的な無借金経営です。そして、その体力の源泉が、資本金8,000万円の12倍以上にも達する、約10.2億円の利益剰余金です。1977年の設立以来、40年以上にわたり、着実に利益を蓄積してきた歴史が、この数字に凝縮されています。この圧倒的な財務基盤があるからこそ、失敗を恐れずに、新たな素材の用途開発や、新製品の企画といった、未来への挑戦を続けることができるのです。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・親会社ユニチカの、技術、生産拠点、ブランド力という強力なバックボーン
・リサイクル事業という、社会のサステナビリティへの要請に合致した事業モデル
・「技術匠(商)社」として、技術と市場を繋ぐ高い専門性と提案力
自己資本比רוב率80%超という、圧倒的な財務健全性

弱み (Weaknesses)
・事業の多くを親会社ユニチカの技術や副産品に依存しており、親会社の戦略転換の影響を受けやすい
・従業員21名という少数精鋭であるがゆえに、事業の急拡大には限界がある

機会 (Opportunities)
・世界的なサーキュラーエコノミー(循環型経済)への移行に伴う、リサイクル事業のさらなる拡大
ユニチカが開発する新素材(例:植物由来のバイオマスプラスチックなど)の、新たな用途開発
・自社企画のBtoC製品(「キュービックボディ®」等)の、Eコマースなどを活用した販路拡大

脅威 (Threats)
・親会社ユニチカの生産縮小による、リサイクル原料(副産品)の減少リスク
・他素材メーカーによる、類似の高機能素材の開発と、それに伴う競争激化
・景気後退による、産業資材および一般消費財の需要の落ち込み


【今後の戦略として想像すること】
ユニチカテクノスは、ユニチカグループの「新規事業インキュベーター(孵化装置)」としての役割を、さらに強化していくと考えられます。

✔短期的戦略
まずは、現在の主力事業であるリサイクル事業と、3次元立体編物「キュービックアイ®」関連事業の深耕を図るでしょう。リサイクル事業では、ユニチカグループ内で培ったノウハウを、他の製造業にコンサルティングサービスとして提供するような、横展開も考えられます。「キュービックアイ®」では、マットレスなどの生活製品分野でのブランド認知度を高め、安定した収益源として育てていくことが予想されます。

✔中長期的戦略
中長期的には、ユニチカグループ全体の「サステナビリティ推進エンジン」としての役割を担っていく可能性があります。単に副産品をリサイクルするだけでなく、製品のライフサイクル全体を設計し、使用後の回収・再資源化までを見据えた、本格的なサーキュラーエコノミーの構築を主導していくことです。また、その過程で得られた知見や利益を、未来の素材を開発する外部のスタートアップへ投資するなど、グループ全体のイノベーションを加速させる、触媒のような存在へと進化していくことが期待されます。


【まとめ】
株式会社ユニチカテクノスは、単なるメーカー子会社ではありません。それは、巨大な素材メーカーの奥深くで眠る技術や、生産過程で生まれる副産物という「潜在資産」に、新たな命を吹き込む、ユニークな「技術商社」です。その事業は、企業の収益に貢献するだけでなく、資源循環型社会の実現という、大きな社会的使命をも担っています。自己資本比率80%超という鉄壁の財務は、そのビジネスモデルが、いかに持続可能で、かつ高収益であるかを力強く証明しています。

「技術」と「商い」を知り尽くした、わずか21名の匠たちが、親会社の巨大なリソースを巧みに操り、未来の価値を創造していく。ユニチカテクノスの挑戦は、日本の製造業が、サステナビリティの時代を勝ち抜くための、一つの理想的なモデルケースと言えるかもしれません。


【企業情報】
企業名: 株式会社ユニチカテクノス
所在地: 京都府宇治市宇治矢落19番地
代表者: 代表取締役社長 山根 直樹
設立: 1977年9月19日
資本金: 80百万円
事業内容: 合成繊維・樹脂リサイクル事業、3次元立体編物(キュービックアイ®)事業、フィルター事業、製品販売事業
株主: ユニチカ株式会社

www.unitika.co.jp

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