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#3153 決算分析 : 日動電工株式会社 第69期決算 当期純利益 483百万円

私たちが毎日利用する電気。その安定した供給は、巨大な発電所や送電網だけでなく、建物の壁の中や天井裏、あるいは街中の電柱に、無数に取り付けられた小さな部品によって支えられています。それらは普段、私たちの目に触れることはありません。しかし、一つひとつが電気というライフラインを繋ぎ、守り、支える、極めて重要な役割を担う「縁の下の力持ち」です。こうした、社会インフラに不可欠な部材を、半世紀以上にわたって作り続けてきた企業は、どのような経営を行っているのでしょうか。

今回は、1957年の創業以来、電力用配電機材や住宅用電設資材の製造販売を手掛け、日本のインフラ構築を支えてきた老舗メーカー、日動電工株式会社の決算を読み解きます。大手商社・黒田グループの一員として、堅実な「ものづくり」を続ける同社のビジネスモデルと、その驚異的な財務の健全性に迫ります。

日動電工決算

【決算ハイライト(第69期)】
資産合計: 7,289百万円 (約72.9億円)
負債合計: 3,217百万円 (約32.2億円)
純資産合計: 4,071百万円 (約40.7億円)
当期純利益: 483百万円 (約4.8億円)
自己資本比率: 約55.9%
利益剰余金: 3,851百万円 (約38.5億円)

【ひとことコメント】
自己資本比率が55%を超え、製造業としては極めて健全で安定した財務基盤を誇ります。資本金約1.9億円に対し、利益剰余金が38.5億円と、その差は実に20倍以上。65年を超える歴史の中で、いかに着実かつ力強く利益を蓄積してきたかを物語る、盤石という言葉がふさわしい決算内容です。

【企業概要】
社名: 日動電工株式会社
設立: 1957年2月6日
株主: 黒田グループ株式会社(100%出資)
事業内容: 電力用配電機材(架線金物、接地材料等)および、住宅・ビル等で使用される電設資材(配線ボックス、ビニル電線管等)の製造販売

www.nd-ele.co.jp


【事業構造の徹底解剖】
日動電工のビジネスモデルは、電気という社会インフラの「安全」と「信頼」を、高品質な製品を通じて提供することにあります。「天井裏や壁の中の力持ち」を自認するように、その製品は決して華やかではありませんが、どれもが欠かすことのできない重要な役割を担っています。

✔社会インフラを支える製品群
同社の製品は、電気が私たちの手元に届くまでの、あらゆる場面で活躍しています。

装柱・引込工事: 電柱に電線を取り付けたり、建物へ電気を引き込んだりするための金属部品(架線金物)です。風雨に晒される過酷な環境で、長期間にわたりライフラインを支え続けます。

接地工事: 落雷などによる異常な電流を、地面に安全に逃がすためのアース棒などです。人々の安全と、電気設備の保護に不可欠な製品です。

屋内配線: 建物の壁や天井、コンクリートの中に電線を通す際に、電線を保護するためのボックスや配管、支持材です。一度施工されれば、数十年間、人の目に触れることなく、その役目を果たし続けます。

鳥害対策: 電線に鳥が巣を作ったり、糞害を受けたりするのを防ぐための部材です。電力の安定供給を守るための、ユニークで専門的な製品です。

✔プロが認める品質と信頼
同社の製品のユーザーは、一般消費者ではなく、電力会社や電気工事会社といった、インフラ構築のプロフェッショナルです。彼らが求めるのは、何よりも「品質」と「信頼性」。一度の施工不良が、大規模な停電や、時には人命に関わる事故に繋がりかねないためです。同社は、1957年の創業以来、65年以上にわたり、この厳しい要求に応え続けることで、プロの現場で「日動電工製品なら間違いない」という、揺るぎない信頼を築き上げてきました。

✔黒田グループとしてのシナジー
同社は、エレクトロニクス分野に強みを持つ大手専門商社「黒田グループ」の一員です。これにより、樹脂や金属といった製品の原材料を、グループの購買力を活かして安定的に調達できるほか、黒田グループが持つ広範な販売ネットワークを通じて、新たな顧客を開拓することも可能です。メーカーとしての技術力と、商社としての販売網が融合した、強力な事業基盤を持っています。


【財務状況等から見る経営戦略】
決算数値からは、景気の波に左右されながらも、社会インフラを支えるという使命感のもと、極めて堅実な経営を続けてきた老舗メーカーの姿が浮かび上がってきます。

✔外部環境
同社の事業は、国内の建設投資や、電力会社の設備投資の動向に大きく影響を受けます。政府による国土強靭化計画や、再生可能エネルギー設備の導入拡大、データセンターの建設ラッシュなどは、同社にとって大きな事業機会となります。一方で、建設業界の深刻な人手不足は、より施工しやすく、工数を削減できる「省力化」製品へのニーズを高めており、新たな製品開発の方向性を示唆しています。

✔内部環境
同社のビジネスは、高品質な製品を安定的に生産するための工場設備が不可欠な「装置産業」です。貸借対照表の固定資産が約43億円と、総資産の半分以上を占めていることからも、その特性がうかがえます。この生産設備を効率的に稼働させ、プロの要求に応える高品質な製品を作り続けることが、収益性の源泉です。その堅実な経営姿勢は、ISO9001(品質)とISO14001(環境)の認証を全社で取得し、SDGsへの取り組みを掲げていることからも見て取れます。

✔安全性分析
自己資本比率が約55.9%という数値は、製造業としては極めて高い水準であり、財務安全性が鉄壁であることを示しています。有利子負債に頼らない、健全な無借金経営です。そして、その体力の源泉が、資本金約1.9億円の20倍以上にも達する、約38.5億円の利益剰余金です。創業以来65年以上にわたり、幾多の経済変動を乗り越え、着実に利益を内部に蓄積してきた歴史が、この数字に凝縮されています。この圧倒的な財務基盤があるからこそ、目先の利益に追われることなく、品質を第一に考えた、誠実なものづくりを続けることができるのです。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・65年以上の歴史で培われた、プロの現場からの高い品質への信頼とブランド力
・社会インフラに不可欠な、ニッチで専門性の高い製品ポートフォリオ
自己資本比率55%超という、圧倒的な財務健全性と豊富な内部留保
・黒田グループとしての、安定した調達・販売ネットワークと信用力

弱み (Weaknesses)
・事業が国内の建設・設備投資市場に大きく依存しており、市場の縮小が経営に直結するリスク
・製品が比較的成熟しており、爆発的な成長が見込みにくい

機会 (Opportunities)
・国土強靭化やインフラ老朽化対策に伴う、公共事業の継続的な需要
再生可能エネルギー設備やデータセンターといった、新たな建設分野の拡大
・建設業界の人手不足に対応する、施工しやすい「省力化」製品の開発

脅威 (Threats)
・建設投資の長期的な低迷
・安価な海外製品との価格競争
・樹脂や金属といった、原材料価格の急激な高騰
・熟練技能者の高齢化と、次世代への技術承継の課題


【今後の戦略として想像すること】
日動電工は、その安定した基盤を活かし、「品質」という伝統的な強みに、「省力化」という新たな価値を加えていく戦略を加速させると考えられます。

✔短期的戦略
まずは、建設現場の深刻な人手不足という課題に対し、より取り付けやすい、より工数を削減できるといった「省力化」に貢献する製品の開発と提案を強化していくでしょう。「日動電工の製品を使えば、工期が短縮でき、コストも削減できる」という価値を提供することで、単なる価格競争から脱却し、顧客にとっての付加価値を高めていくことが予想されます。

✔中長期的戦略
中長期的には、国内で培ったインフラ向けの高品質な製品を、海外市場へ展開していく可能性も秘めています。親会社である黒田グループのグローバルネットワークを活用し、特にインフラ整備が急速に進む東南アジアなどの国々へ、日本の高品質な電設資材を供給していく道です。また、プラスチック成形や金属加工といった基盤技術を応用し、電設資材以外の新たな分野へ、ニッチトップを狙える製品を開発していくことも期待されます。


【まとめ】
日動電工株式会社は、華やかな製品を作る会社ではありません。しかし、同社が作る一つひとつの部品がなければ、私たちの現代社会は成り立ちません。それは、電気というライフラインを、人の目に触れない場所で、黙々と、しかし確実に支え続ける、日本の「ものづくり」の良心そのものです。自己資本比率55%超という鉄壁の財務は、65年以上にわたる誠実な仕事の積み重ねであり、揺るぎない品質への信頼の証です。

社会インフラの老朽化や、建設業界の人手不足といった大きな課題に直面する今、同社が果たすべき役割はますます大きくなっています。これからも、縁の下ならぬ「天井裏や壁の中の力持ち」として、私たちの暮らしの安全と安心を守り続けてくれることが期待されます。


【企業情報】
企業名: 日動電工株式会社
所在地: 大阪府大阪市北区天満1丁目25番17号
代表者: 代表取締役社長 石浦 竜次
設立: 1957年2月6日
資本金: 1億9,050万円
事業内容: 電力用配電機材および、住宅用電設資材の製造販売
株主: 黒田グループ株式会社

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