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#3132 決算分析 : Momentum株式会社 第11期決算 当期純利益 91百万円

私たちが日々インターネットで目にする無数のデジタル広告。その裏側では、広告費が本来届くべきでない不適切なサイトや、人間ではないボットによって不正に消費される「アドフラウド(広告詐欺)」、企業のブランドイメージを損なうサイトに広告が表示されてしまう「ブランド毀損」といった問題が深刻化しています。広告主が投じた大切な予算を守り、インターネット広告全体の健全性を高めるために不可欠な技術が「アドベリフィケーション」です。

今回は、国内のアドベリフィケーション事業者のパイオニアとして、「無価値な広告をゼロにする」という理念を掲げ、デジタル広告の”交通整理”を担う、Momentum株式会社の決算を読み解きます。KDDIグループの一員として、日本のデジタル広告業界の健全化を牽引する同社のビジネスモデルと、その着実な成長を示す財務内容に迫ります。

Momentum決算

【決算ハイライト(第11期)】
資産合計: 1,872百万円 (約18.7億円)
負債合計: 1,571百万円 (約15.7億円)
純資産合計: 301百万円 (約3.0億円)
当期純利益: 91百万円 (約0.9億円)
自己資本比率: 約16.1%
利益剰余金: 206百万円 (約2.1億円)

【ひとことコメント】
総資産約18.7億円に対し、当期純利益約0.9億円を着実に計上しており、専門性の高い事業領域で安定した収益基盤を確立していることがうかがえます。自己資本比率約16.1%はIT企業として標準的な水準であり、利益剰余金も順調に積み上がっており、健全な成長を続けていると言えるでしょう。

【企業概要】
社名: Momentum株式会社
設立: 2014年10月
株主: KDDI株式会社(連結子会社
事業内容: 「アドベリフィケーション」ソリューションの開発・提供を通じた、インターネット広告環境の健全化事業

www.m0mentum.co.jp


【事業構造の徹底解剖】
Momentumの事業は、デジタル広告における「質」と「安全性」を担保する「アドベリフィケーション」に特化しています。これは広告主や広告代理店にとって、今やサイバーセキュリティ対策の一環とも言える重要なサービスです。

✔アドベリフィケーションソリューション「HYTRA」
同社の主力事業が、自社開発のソリューション「HYTRA」シリーズの提供です。これは、広告主の広告が「どこに(ブランドセーフティ)」「誰に(無効トラフィック対策)」配信されているかを検証し、コントロールする仕組みです。

ブランドセーフティ: アダルト系サイトや著作権侵害サイト、ヘイトスピーチを助長するようなネガティブなサイトなど、企業のブランドイメージを損なう可能性のある媒体に広告が配信されないようにブロックします。

無効トラフィック(IVT)対策: 人間ではなく、ボットなどによって自動的に表示・クリックされる不正な広告トラフィックを検知・排除し、広告予算の浪費(アドフラウド)を防ぎます。

✔リスト提供型サービス「HYTRA DASHBOARD
同社の主力製品が、この「HYTRA DASHBOARD」です。これは、Momentumが独自に収集・分析した「配信非推奨サイト・アプリリスト」や「配信推奨動画チャンネルリスト」を、広告主や広告代理店に提供するサービスです。広告配信プラットフォーム(DSPなど)にこのリストを設定するだけで、専門知識がなくても簡単かつ効果的にリスク対策を開始できる手軽さが大きな強みとなっています。リストは機械判定と専門スタッフによる目視チェックを組み合わせることで、高い精度を担保しています。

KDDIグループとしてのシナジー
同社は、大手通信キャリアであるKDDI連結子会社です。これにより、KDDIが持つ膨大なネットワークデータや最先端のセキュリティ技術、そして大手広告主との強固なリレーションといった、強力なバックボーンを得ています。独立系のベンチャー企業にはない、高い信頼性と事業基盤が、同社の大きな競争優位性となっています。


【財務状況等から見る経営戦略】
決算数値からは、専門性の高いSaaS型ビジネスを着実に成長させている、同社の堅実な経営姿勢が浮かび上がってきます。

✔外部環境
デジタル広告市場が成長し、広告配信がプログラムによって自動化される「プログラマティック広告」が主流になるにつれ、広告主が自社の広告掲載面を完全に把握することが困難になりました。その結果、ブランド毀損やアドフラウドのリスクが顕在化し、広告の「質」を担保するアドベリフィケーションへの需要は、世界的に高まっています。特に、デジタル広告品質認証機構「JICDAQ」のような第三者認証機関の設立は、業界全体の品質向上への機運を高めており、同社にとっては強力な追い風となっています。

✔内部環境
同社は、国内でいち早くアドベリフィケーション事業に着手したパイオニアであり、日本語の言語解析技術を基盤とした、国内環境に最適化されたソリューションを提供できる点が最大の強みです。導入事例を見ると、電通デジタル、博報堂DYメディアパートナーズ、ADKセプテーニといった、日本の名だたる大手広告代理店が名を連ねており、業界のインフラとして深く浸透していることがわかります。この安定した顧客基盤が、継続的な収益(リカーリングレベニュー)を生み出すSaaSモデルを支えています。

✔安全性分析
自己資本比率約16.1%は、急成長を続けるIT・SaaS企業としては標準的な範囲内であり、健全な財務運営が行われていると言えます。流動資産(約17.3億円)が流動負債(約15.7億円)を上回っており、短期的な支払い能力にも問題はありません。設立から11期目で、利益剰余金を約2.1億円まで積み上げていることは、事業が黒字基調で安定的に成長している証拠です。KDDIグループの一員であるという高い信用力も、財務の安定性を補強しています。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・国内アドベリフィケーション市場のパイオニアとしての、高い技術力と豊富な実績
・日本語の解析に強みを持ち、国内の広告環境に最適化されたソリューション
電通博報堂DYをはじめとする、大手広告代理店との強固なパートナーシップ
KDDIグループとしての、高い信用力、技術力、事業基盤

弱み (Weaknesses)
・事業がアドベリフィケーションという単一ドメインに集中している
・海外の巨大アドテク企業が競合となる可能性

機会 (Opportunities)
・JICDAQ認証の普及など、広告業界全体での広告品質(アドクオリティ)向上への機運の高まり
・コネクテッドTVやデジタル音声広告など、新たな広告領域へのアドベリフィケーション技術の展開
Cookieレス時代における、新たな広告効果測定やターゲティング技術との連携

脅威 (Threats)
・アドフラウドの手口のさらなる巧妙化・高度化(いたちごっこ
・広告プラットフォーマーGoogle、Meta等)自身が、アドベリフィケーション機能を強化することによる競争環境の変化
・景気後退による、企業の広告宣伝費の削減


【今後の戦略として想像すること】
Momentumは、アドベリフィケーションのリーディングカンパニーとして、その事業領域をさらに深化・拡大させていくと考えられます。

✔短期的戦略
まずは、現在の主力である「HYTRA DASHBOARD」の導入社数をさらに拡大し、市場シェアを磐石なものにしていくでしょう。JICDAQ認証取得を目指す企業が増える中、その必須要件となるブランドセーフティや無効トラフィック対策のソリューションとして、同社のサービスの需要はますます高まります。大手代理店との連携をさらに強化し、業界標準としての地位を不動のものにしていくことが予想されます。

✔中長期的戦略
中長期的には、アドベリフィケーションで培ったデータ解析技術を、広告の「守り」から「攻め」の領域へと応用していく可能性があります。例えば、広告の品質データを分析し、「どのような媒体の、どのような記事の隣に出せば、より広告効果が高まるか」といった、広告効果の最大化に貢献する新たなソリューションを開発することです。また、KDDIグループのシナジーを活かし、通信データと連携した、より高度なアドフラウド検知モデルの開発や、グループが展開する決済サービスやコマース事業における不正対策など、アドテク以外の領域へ技術を横展開していくことも考えられます。


【まとめ】
Momentum株式会社は、単なる広告ツールを提供する会社ではありません。それは、複雑化し、時に不透明さを増すデジタル広告の海の中で、広告主や生活者を守る「灯台」であり、健全な航路を示す「羅針盤」のような存在です。国内のアドベリフィケーション市場のパイオニアとして、その高い技術力で「無価値な広告をゼロにする」という困難な課題に挑み続けています。

KDDIグループの一員という安定した基盤の上で、着実に利益を積み上げ、成長を続ける姿は、同社のソリューションが現代のデジタルマーケティングに不可欠なインフラであることを証明しています。これからも、広告主の貴重な資産を守り、私たちユーザーにとっても心地よいインターネット環境を実現するため、同社が果たす役割はますます大きくなっていくことが期待されます。


【企業情報】
企業名: Momentum株式会社
所在地: 東京都港区虎ノ門二丁目10番1号 虎ノ門ツインビルディング 東棟12階
代表者: 代表取締役 細井 康平
設立: 2014年10月
資本金: 51,495,251円
事業内容: インターネット広告におけるアドベリフィケーションソリューションの開発・提供
株主: KDDI株式会社

www.m0mentum.co.jp

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