発電所や変電所、工場や大規模ビル。私たちの社会を支える巨大なプラントや施設が、24時間365日、安全に稼働するためには、その”神経”とも言うべき無数の電気システムが不可欠です。その中枢を担うのが、電気を安全に分配し、システム全体を監視・制御する「配電盤」や「制御盤」です。これらの装置は、一つ一つがオーダーメイドで設計・製作される、まさに技術力の結晶。岐阜県可児市に拠点を置き、総合電機メーカー・三菱電機グループの一員として、半世紀以上にわたり、この重要な装置を世に送り出してきた企業があります。
今回は、日本の重電機器分野を支える、星菱電機株式会社の決算を読み解き、その事業内容と盤石な経営基盤に迫ります。

【決算ハイライト(第53期)】
資産合計: 591百万円 (約5.9億円)
負債合計: 111百万円 (約1.1億円)
純資産合計: 481百万円 (約4.8億円)
当期純利益: 19百万円 (約0.2億円)
自己資本比率: 約81.3%
利益剰余金: 471百万円 (約4.7億円)
【ひとことコメント】
自己資本比率が81.3%と驚異的な高さを誇り、財務基盤は鉄壁とも言えます。資本金の47倍以上もの利益剰余金を積み上げており、半世紀にわたる歴史の中で、いかに堅実で安定した経営を続けてきたかが明確にわかる決算内容です。
【企業概要】
社名: 星菱電機株式会社
設立: 1973年5月22日(創業: 1968年5月20日)
株主: 三菱電機プラントエンジニアリング株式会社
事業内容: 各種受電盤、配電盤、分電盤、監視盤、制御盤の設計・製作、及び現地改造・調整試験
https://www.seiryoelectric.co.jp/index.html
【事業構造の徹底解剖】
同社は、社会インフラを支えるプラントシステムに不可欠な、各種の盤(パネル)の設計・製作に特化した、専門性の高いメーカーです。
✔プラントシステムの中枢を担う「各種盤」の設計・製作
同社の事業の根幹は、発電所、変電所、工場、公共施設などで使われる、電気と制御の中枢装置の製造です。
・配電盤・分電盤:発電所から送られてきた高圧の電気を受け、施設内で使えるように電圧を下げ、安全に各所へ分配するための装置。
・制御盤・監視盤:プラント内の様々な機械や設備が、設計通りに正しく動くようにコントロールし、その状態を監視するための「頭脳」となる装置。
・保護継電器盤:電力系統に万が一の事故(ショートなど)が発生した際に、瞬時に異常を検知し、事故区間を切り離して被害の拡大を防ぐ、極めて重要な保安装置。
これらの製品は、納入先の仕様に応じて一つ一つ設計・製作されるオーダーメイド品であり、高い技術力と品質管理能力が求められます。
✔三菱電機グループとしての強力な連携
同社は、三菱電機プラントエンジニアリング株式会社の子会社であり、三菱電機グループの一員です。主要な取引先も三菱電機グループ各社であり、グループが手掛ける電力、公共、産業分野の大規模プロジェクトに、コンポーネントサプライヤーとして深く関わっています。グループ内での安定した受注基盤と、三菱電機の高い技術標準に準拠したモノづくりが、同社の事業の安定性と信頼性を支えています。
✔設計から現地調整までの一貫体制
単に工場で製品を作るだけでなく、納入後の現地での改造や、システムが正しく動作するかを確認する調整試験までを一貫して手掛けています。これにより、顧客のニーズに最後まで責任を持つ、質の高いサービスを提供しています。
【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
電力の安定供給は、社会の最重要インフラであり、発電・送電設備の維持・更新需要は今後も継続的に存在します。また、再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、新たな発電所(水力、太陽光など)や、電力系統を安定させるための制御システムの需要も高まっています。同社も、小水力発電機制御盤の生産を手掛けるなど、この流れに対応しています。
✔内部環境
三菱電機グループという巨大で安定した顧客基盤を持つことが、同社の経営の最大の強みです。グループ内で専門性の高い製造機能の一翼を担うことで、不必要な価格競争を避け、安定した収益を確保できる事業構造となっています。また、JIT(ジャストインタイム)改善活動や、特許取得の「からくり台車」の開発など、常に生産性向上への意識を高く持ち続けている点も、同社の競争力の源泉です。
✔安全性分析
自己資本比率が81.3%という数値は、企業の財務安全性を語る上で傑出した水準です。負債への依存度が極めて低く、経営は非常に安定しています。資本金1,000万円に対し、その47倍にも達する4.7億円の利益剰余金を蓄積している事実は、50年以上の歴史の中で、一貫して黒字経営を続け、利益を内部に留保してきた堅実経営の賜物です。この盤石な財務基盤が、顧客からの信頼の源泉であり、安定したモノづくりを支えています。
【SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・三菱電機グループの一員であることによる、絶大なブランド信用力と安定した受注基盤
・自己資本比率81.3%という、鉄壁とも言える財務基盤
・半世紀以上にわたる、配電盤・制御盤の設計・製作に関する専門技術とノウハウ
・JIT改善活動など、継続的な生産性向上への取り組み
弱み (Weaknesses)
・事業の大部分を、三菱電機グループとの取引に依存している構造
・事業の成長が、グループ全体の設備投資計画に左右される側面
機会 (Opportunities)
・再生可能エネルギーの普及に伴う、新たな制御盤や保護継電器盤の需要
・既存の電力インフラや工場の老朽化に伴う、設備の更新・リニューアル需要
・工場の自動化・スマート化(スマートファクトリー)の進展に伴う、より高度な制御システムの需要
脅威 (Threats)
・国内の電力需要の長期的な変化
・重電機器業界における、技術者の高齢化と人材不足
・海外メーカーとの、コスト競争の激化
【今後の戦略として想像すること】
中核である三菱電機グループ向けの事業を深化させつつ、そこで培った技術を新たな分野へ展開していくことが考えられます。
✔短期的戦略
引き続き、主要顧客である三菱電機グループからの要求(品質・コスト・納期)に高いレベルで応え続けることで、グループ内でのパートナーとしての地位をより強固なものにしていくでしょう。また、労働災害防止活動で表彰を受けるなど、高いレベルにある安全衛生活動を継続し、従業員が安心して働ける環境を維持することも重要な戦略です。
✔中長期的戦略
小水力発電分野で培った実績を基に、太陽光や風力といった他の再生可能エネルギー分野向けの制御システムへ、さらに事業を拡大していくことが期待されます。また、三菱電機グループが推進するファクトリーオートメーション(FA)事業と連携し、スマート工場で必要とされる、よりインテリジェントな制御盤や監視システムの開発・製造を担うことで、新たな成長機会を掴んでいくのではないでしょうか。
【まとめ】
星菱電機株式会社は、日本の社会インフラを支える三菱電機グループの中で、電気制御の中枢を担うという、重要かつ専門性の高い役割を担う技術者集団です。その誠実な仕事ぶりは、自己資本比率81.3%という、半世紀以上の歴史で築き上げた鉄壁の財務内容に明確に表れています。派手さはないかもしれませんが、私たちの生活に不可欠な電力を、縁の下で静かに、そして力強く支え続ける。その揺るぎない安定性と信頼性こそが、同社の最大の価値です。これからも日本の産業と暮らしの「神経」を創り出す、なくてはならない存在として活躍し続けることでしょう。
【企業情報】
企業名: 星菱電機株式会社
所在地: 岐阜県可児市姫ケ丘一丁目3番地
代表者: 代表取締役 藤井健一
設立: 1973年5月22日(創業: 1968年5月20日)
資本金: 1,000万円
事業内容: 各種受電盤、配電盤、分電盤、監視盤、制御盤の設計製作、及び現地改造・調整試験
株主: 三菱電機プラントエンジニアリング株式会社