インターネット通販で注文した商品が、きれいな状態で手元に届く。スーパーマーケットで買った新鮮な野菜や果物が、傷ひとつなく店頭に並んでいる。私たちの便利な暮らしと活発な経済活動は、製品を衝撃から守り、安全に目的地まで運ぶ「段ボール箱」によって支えられています。まさに、物流の血液を運ぶ血管とも言える存在です。
今回は、日本の産業と物流に不可欠な段ボールケースを製造する、岡山県倉敷市の第一紙工株式会社の決算を読み解きます。国内最大手の王子グループの一員として、地域のものづくりにどのように貢献しているのか、その堅実な経営実態と事業戦略に迫ります。

【決算ハイライト(第57期)】
資産合計: 267百万円 (約2.7億円)
負債合計: 196百万円 (約2.0億円)
純資産合計: 71百万円 (約0.7億円)
当期純利益: 8百万円 (約0.1億円)
自己資本比率: 約26.7%
利益剰余金: 41百万円 (約0.4億円)
総資産約2.7億円と、地域に根差した中小企業の堅実な事業規模がうかがえます。自己資本比率は26.7%と標準的な水準を維持しており、負債に過度に依存しない経営を行っています。当期純利益は8百万円と着実に利益を計上し、利益剰余金も41百万円と内部留保を順調に積み上げており、安定した経営が行われていることが分かります。
企業概要
社名: 第一紙工株式会社
設立: 1968年5月
株主: 王子コンテナー株式会社(出資比率60%)
事業内容: 岡山県倉敷市を拠点とする、段ボールケースの製造販売及び包装資材の販売
【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、顧客であるメーカーや農家などの多種多様なニーズに合わせた、「段ボールケースの製造・販売」に集約されます。
✔オーダーメイドの段ボールケース製造
同社の強みは、顧客が梱包する製品(工業製品、農産物、医療廃棄物など)のサイズ、重量、形状、輸送条件に合わせて、最適な強度、デザインの段ボール箱を設計・製造するオーダーメイド対応力です。製品パッケージから輸送用の大きな箱まで、幅広い製品を手掛けています。
✔段ボールの「加工」に特化した事業モデル
ウェブサイトで紹介されている通り、同社は材料となる段ボールシートを仕入れ、自社工場で「印刷」「カッティング(型抜き)」「グルー作業(糊付け)」といった加工を行い、完成品として出荷する、段ボールの二次加工に特化しています。
✔王子グループとの強力な連携
この事業モデルを支えているのが、株主である王子コンテナー株式会社の存在です。王子コンテナーは、段ボールの原料となる原紙から段ボールシート、そして段ボール箱までを一貫生産する、日本の段ボール業界の最大手です。第一紙工は、この親会社から高品質な段ボールシートを安定的に仕入れることができ、自社は付加価値の高い「加工」に集中することで、効率的な生産体制を築いています。また、グループ全体の技術力や販売網、信用力を活用できる点も、経営における大きな強みとなっています。
【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
段ボール業界は、インターネット通販(EC)市場の右肩上がりの成長を背景に、梱包・輸送用の需要は底堅く推移しています。また、世界的な環境意識の高まりから、プラスチック製の梱包材や緩衝材から、リサイクル可能な段ボールへの代替需要(脱プラ)が追い風となっています。一方で、主原料である古紙の価格や、工場を稼働させるためのエネルギー価格の高騰が、製造コストを圧迫する大きな要因となっています。
✔内部環境
当期純利益8百万円という数字は、こうした厳しいコスト環境の中で、着実な経営を行っていることを示しています。親会社である王子コンテナーという大口の取引先(材料仕入先であり、販売面でも連携)を持つことで、事業基盤が安定していると推察されます。ウェブサイトによれば従業員数は20名とあり、少数精鋭で顧客のニーズに細やかに応える、効率的な工場運営を行っていることがうかがえます。
✔安全性分析
自己資本比率26.7%は、製造業として標準的な範囲内にあり、健全な財務状態です。貸借対照表を見ると、流動資産(約2.0億円)と流動負債(約1.9億円)が拮抗しており、短期的な資金繰りはややタイトに見えるかもしれません。しかし、日本の製紙・段ボール業界をリードする王子グループの一員であるという強力な信用力を背景に、金融機関からの安定した資金調達が可能であるため、安全性に大きな懸念はないと考えられます。
【SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・王子グループという強力なバックボーン(安定した材料調達、グループ全体の信用力・技術力)
・50年以上の歴史で培った、地域のものづくり企業との顧客基盤と段ボール加工ノウハウ
・顧客の細かな要求に応える、オーダーメイド対応が可能な柔軟な生産体制
弱み (Weaknesses)
・親会社である王子コンテナーへの依存度が高いビジネスモデル
・事業規模が比較的小さく、大手顧客との価格交渉力が限定的である可能性
機会 (Opportunities)
・インターネット通販(EC)市場の継続的な拡大に伴う、宅配用段ボール需要のさらなる増加
・「脱プラスチック」の流れによる、プラスチック製梱包材から段ボールへの代替需要
・ウェブサイトでも紹介されている「医療廃棄物専用ケース」のように、専門性や機能性が求められる高付加価値分野での需要開拓
脅威 (Threats)
・古紙やエネルギー価格のさらなる高騰による、製造コストの上昇圧力
・運送業界の「2024年問題」に端を発する、製品輸送コストの増加
・地域経済の停滞による、主要顧客の生産量減少リスク
【今後の戦略として想像すること】
この安定した事業基盤と事業環境の変化を踏まえ、同社が今後成長を続けるためには、以下の戦略が考えられます。
✔短期的戦略
まずは、原材料やエネルギーコストの上昇分を、生産プロセスの効率化や、顧客への丁寧な説明による適切な価格転嫁によって吸収し、収益性を維持・向上させることが最優先課題です。既存顧客との関係をさらに深化させ、細やかなニーズに応えることで、取引の安定化を図り、地域でのシェアを確固たるものにしていくでしょう。
✔中長期的戦略
親会社である王子グループとの連携を活かし、環境配慮型の新たな段ボール製品を地域市場に積極的に投入していくことが期待されます。例えば、より少ない材料で同等の強度を保つ軽量高強度段ボールや、リサイクル性をさらに高めた製品などを手掛けることで、顧客のSDGsへの取り組みにも貢献できます。また、「医療廃棄物専用ケース」のように、特定の業界に特化した高付加価値製品の比率を高め、収益構造を強化していくことが、持続的な成長の鍵となるでしょう。
【まとめ】
第一紙工株式会社は、岡山県倉敷市を拠点に、日本の物流に不可欠な段ボールケースを供給する、地域のものづくり企業です。その経営は、王子グループという日本を代表する大きな船団の一員として、安定した航海を続けている姿に例えられます。決算書が示す堅実な経営数値は、50年以上にわたり、地域の顧客ニーズに実直に応え続けてきた歴史の証です。EC市場の拡大という追い風を受ける一方で、コスト高という厳しい逆風にも晒されていますが、親会社の強力なサポートと、地域に根差した小回りの利く生産体制を武器に、これからも地域経済と日本の物流を支え続ける、重要な役割を担っていくことでしょう。
【企業情報】
企業名: 第一紙工株式会社
所在地: 〒710-0036 岡山県倉敷市粒江2396番地の1
代表者: 代表取締役 京本 裕一朗
設立: 1968年5月
資本金: 3,000万円
事業内容: 段ボールケースの製造販売及び包装資材の販売
株主: 王子コンテナー株式会社(出資比率60%)