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#2900 決算分析 : MIRARTHエナジーソリューションズ株式会社 第9期決算 当期純利益 ▲120百万円

新築マンション「レーベン」シリーズなどで知られる、東証プライム上場の不動産デベロッパー、MIRARTHホールディングス。そのグループが、なぜエネルギー事業に力を入れるのでしょうか。脱炭素社会の実現という大きな潮流の中、多くの異業種が再生可能エネルギー事業に参入していますが、そのビジネスモデルや経営実態は様々です。本業で培った強みを、異分野でどのように活かしているのか、その戦略と財務状況は気になるところです。

今回は、MIRARTHグループのエネルギー事業の中核を担う、MIRARTHエナジーソリューションズ株式会社の決算を読み解きます。不動産デベロッパーならではの強みを活かした独自の事業戦略と、その財務の健全性、そして今後の成長可能性に迫ります。

MIRARTHエナジーソリューションズ決算

【決算ハイライト(第9期)】
資産合計: 37,393百万円 (約373.9億円)
負債合計: 20,151百万円 (約201.5億円)
純資産合計: 17,242百万円 (約172.4億円)
売上高: 1,719百万円 (約17.2億円)
当期純損失: 120百万円 (約1.2億円)
自己資本比率: 約46.1%
利益剰余金: 12,937百万円 (約129.4億円)

総資産374億円、純資産172億円という非常に大規模な事業体であり、自己資本比率も46.1%と極めて高く、親会社であるMIRARTHホールディングスの強力なバックアップによる盤石な財務基盤がうかがえます。しかし、売上高17億円に対し、営業損失が約3.4億円、最終的な当期純損失が約1.2億円と、収益面では赤字を計上しています。これは、事業の急拡大やビジネスモデルの転換に伴う先行投資が、現在の収益を上回っている状況を示唆しています。

企業概要
社名: MIRARTHエナジーソリューションズ株式会社
設立: 2016年3月29日
株主: MIRARTHホールディングス株式会社(100%子会社)
事業内容: 太陽光発電を主軸とした再生可能エネルギー事業

www.mirarth-es.com


【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、親会社の不動産開発ノウハウを最大限に活用した「再生可能エネルギー事業」に集約されます。単に発電所を作るだけでなく、土地の価値を見極め、権利関係を調整し、新たな価値を創造するデベロッパーとしてのDNAが色濃く反映されています。

太陽光発電所の開発・保有(IPP事業)
全国各地の未利用地などを仕入れ、自社で太陽光発電所を開発・建設し、長期にわたり保有・運営する事業です。発電した電力は、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)に基づき電力会社へ売電することで、長期間にわたる安定した収益を確保します。設立からわずか数年で全国に200カ所以上の発電所を稼働させており、同社の中核をなす事業です。

✔中古発電所の取得・運営(セカンダリ事業)
他社が開発・運営していた中古の太陽光発電所を、専門的な査定の上で買い取り、運営を引き継ぐ事業です。新規開発に比べて許認可取得などの手間や時間がかからず、リスクを抑えつつ、短期間でキャッシュフローを生む資産を積み増すことができるメリットがあります。

✔PPA(電力販売契約)事業
FIT制度に依存しない、次世代のビジネスモデルとして注力しているのがPPA事業です。開発した発電所から、企業や自治体といった電力の需要家へ、送電網を通じて直接クリーンな電力を販売します(オフサイトPPA)。また、需要家の工場の屋根や敷地内に太陽光発電設備を設置し、発電した電力をその場で供給するモデル(オンサイトPPA)も手掛けており、顧客の電気料金削減と脱炭素化に貢献しています。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
日本の再生可能エネルギー市場は、大きな転換期を迎えています。FIT制度の買取価格は年々低下し、従来型の開発事業の収益性は厳しくなっています。その一方で、企業の脱炭素経営(RE100など)への要請や、昨今の電気料金高騰を背景に、安価でクリーンな電力を長期にわたり安定調達できるPPAモデルへの需要が急速に高まっています。

✔内部環境
当期の赤字は、まさにこの事業の転換期にあることを示しています。売上高17億円は、主に保有する多数の発電所からの売電収入と推測されますが、これを7.9億円にのぼる販売費及び一般管理費が上回り、営業赤字となっています。これは、PPA事業やセカンダリ事業といった新たな収益の柱を確立するため、営業体制の強化や人材採用、新規案件の調査開発など、未来の成長に向けた先行投資が膨らんでいるためと考えられます。約172億円という厚い純資産は、こうした戦略的な赤字を許容し、大胆な先行投資を可能にする体力の証左です。

✔安全性分析
自己資本比率46.1%という数値は、極めて健全な水準です。東証プライム上場企業である親会社の強力な信用力を背景に、金融機関からの資金調達も有利に進めることができます。貸借対照表を見ると、総資産の約86%(322億円)を固定資産が占めていますが、これは全国に保有する多数の太陽光発電設備そのものです。これらの資産が長期にわたり安定したキャッシュフローを生み出すため、財務基盤は盤石であると言えます。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
東証プライム上場の親会社(MIRARTHホールディングス)が持つ、絶大な信用力と豊富な資金力
・不動産事業で培った、土地の仕入れや開発、権利調整に関する高度なノウハウ
・全国200カ所以上の発電所開発・運営で蓄積した実績とデータ
自己資本比率46%超という、極めて安定した強固な財務基盤

弱み (Weaknesses)
・事業ポートフォリオ太陽光発電に偏っており、他の再生可能エネルギー電源への展開が今後の課題
・先行投資が収益を上回る、現在の赤字収益構造

機会 (Opportunities)
・FIT制度からの自立を目指す、PPA(電力販売契約)市場の急速な拡大
・企業のESG経営やRE100への加盟拡大に伴う、再生可能エネルギー電力の需要増
・初期に建設された太陽光発電所が流通する、中古(セカンダリ)市場の活性化
・国際エネルギー事業部の設置による、海外の再生可能エネルギー市場への展開

脅威 (Threats)
・将来的な太陽光パネルの大量廃棄問題など、環境負荷に対する社会的な懸念の高まり
・電力系統の空き容量不足による、新規発電所の接続制約
金利の上昇局面における、大規模なプロジェクトファイナンスの調達コスト増


【今後の戦略として想像すること】
この盤石な財務基盤と事業環境の変化を踏まえ、同社が今後成長を加速させるためには、以下の戦略が考えられます。

✔短期的戦略
PPA事業の契約件数を飛躍的に拡大させ、早期に収益の柱として確立することが最優先課題です。特に、親会社の不動産事業とのシナジーを最大限に活用し、グループで開発する物流施設や商業施設、マンションなどの屋根上を最大限活用したオンサイトPPAの展開を加速させることが期待されます。また、セカンダリ市場で優良な中古発電所を積極的に取得し、安定したキャッシュフロー基盤をさらに強化していくでしょう。

✔中長期的戦略
太陽光発電で培った開発・運営ノウハウを横展開し、陸上風力やバイオマス、地熱といった他の再生可能エネルギー電源への進出も視野に入ってくるでしょう。2024年7月に設置した国際エネルギー事業部を起点に、経済成長と電力需要の増加が見込まれる東南アジアなどの海外市場での事業展開も本格化させていくことが期待されます。将来的には、開発・保有した発電資産をインフラファンドやREIT不動産投資信託)といった金融商品として証券化し、得られた資金を次の開発に投下する「アセットリサイクルモデル」の構築も、不動産グループならではの戦略として考えられます。


【まとめ】
MIRARTHエナジーソリューションズは、不動産デベロッパーのDNAを持つ、異色のエネルギー企業です。その決算書は、約172億円という厚い純資産を土台に、PPA事業など次世代のビジネスモデルへと積極的に先行投資を行う「戦略的赤字」の姿を映し出しています。FIT制度という"ゆりかご"からの自立が求められる日本の再生可能エネルギー業界において、同社は不動産開発で培ったノウハウと資金力を武器に、PPAやセカンダリといった新たな市場を力強く切り拓こうとしています。この先行投資が実を結び、近い将来、力強い黒字転換を果たすことができるか。その動向は、日本のエネルギー業界の未来を占う一つの試金石となるでしょう。


【企業情報】
企業名: MIRARTHエナジーソリューションズ株式会社
所在地: 〒162-0824 東京都新宿区揚場町1番18号 飯田橋ビル5階
代表者: 代表取締役 谷口 健太郎
設立: 2016年3月29日
資本金: 2,155百万円
事業内容: 太陽光発電所の開発・運営・売買、PPA(電力販売契約)事業、その他再生可能エネルギー事業
株主: MIRARTHホールディングス株式会社(100%)

www.mirarth-es.com

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