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#2895 決算分析 : IMIホールディングス株式会社 第5期決算 当期純利益 ▲50百万円

私たちが病気や怪我をした際に、必要な医薬品が滞りなく病院や薬局に届けられる。この当たり前の日常は、「医薬品卸売業」という社会インフラによって支えられています。しかし、薬価の毎年改定や業界再編の波にさらされ、その経営環境は決して安泰ではありません。創業100年を超えるような老舗企業が、次の100年を見据えて大きな変革に挑むとき、その舵取りはどのように行われるのでしょうか。

今回は、千葉県を拠点に大正3年創業の岩渕薬品を中核事業とし、2020年にホールディングス体制へ移行したIMIホールディングス株式会社の決算を読み解きます。伝統的なビジネスモデルから脱却し、「地域の課題解決」を掲げる同社の財務戦略と未来への布石に迫ります。

IMIホールディングス決算

【決算ハイライト(第5期)】
資産合計: 15,558百万円 (約155.6億円)
負債合計: 5,111百万円 (約51.1億円)
純資産合計: 10,446百万円 (約104.5億円)
当期純損失: 50百万円 (約0.5億円)
自己資本比率: 約67.1%
利益剰余金: 1,011百万円 (約10.1億円)

まず目を引くのは、自己資本比率が67.1%という驚異的な高さです。総資産約156億円に対し、返済不要の純資産が約105億円を占めており、長年にわたる中核事業の堅実な経営によって築かれた、極めて強固な財務基盤がうかがえます。その一方で、当期は50百万円の純損失を計上しています。これは、盤石な財務体力を背景に、後述するデータビジネスやまちづくりといった新規事業領域へ、未来の成長に向けた先行投資を戦略的に行っている結果と推察されます。

企業概要
社名: IMIホールディングス株式会社
設立: 2020年10月2日
事業内容: 医薬品卸売事業、データビジネス事業、コンサルティング事業などを展開するグループ会社の統括管理

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【事業構造の徹底解剖】
同社は、傘下の事業会社を統括管理する純粋持株会社です。グループ全体の戦略策定や経営資源の最適配分を担い、各事業はそれぞれの子会社が展開しています。

✔医薬品卸売事業(中核会社:岩渕薬品株式会社)
グループの歴史そのものであり、現在も収益の根幹をなす中核事業です。大正3年(1914年)の創業以来、110年以上にわたり千葉県を中心とした地域の医療機関調剤薬局に対し、医薬品や医療機器を安定的かつ正確に供給してきました。長年かけて築き上げた地域医療における強固な信頼関係と、きめ細かな物流ネットワークが最大の強みです。

✔データ・コンサルティング事業(中核会社:岩渕データ&コンサルティング株式会社)
2022年3月に設立された、グループの未来を担う戦略的事業です。医薬品卸売事業を通じて蓄積される膨大な医療関連データ(どの地域で、どのような医薬品が、どれだけ必要とされているか等)を分析・活用し、新たな価値を創造することを目指しています。地域の医療課題の可視化や、製薬メーカー向けのマーケティング支援、自治体への政策提言など、多岐にわたる事業展開が期待されます。

✔まちづくり事業・その他
同社がウェブサイトで掲げる新たな事業領域です。従来の「医薬品を届ける」という枠組みを超え、地域に点在する健康課題や社会課題そのものの解決を目指しています。「こころとからだの両面から健康をお届けし、安心安全なまちづくりを目指す」というビジョンのもと、具体的な事業の創出を模索しているフェーズと考えられます。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
医薬品卸業界は、2年に一度だった薬価改定が毎年実施されるようになり、利幅が圧縮され続ける厳しい環境にあります。また、大手企業による寡占化が進んでおり、地域に根差した卸企業は独自の価値提供が求められています。一方で、高齢化の進展に伴う地域包括ケアシステムの推進や、医療分野におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の潮流は、同社のような地域密着型企業にとって新たな事業機会となり得ます。

✔内部環境
当期純損失50百万円という結果は、こうした厳しい外部環境への対応と、未来への布石という内部要因が組み合わさったものと考えられます。中核である岩渕薬品の収益力を基盤としながら、ホールディングスとしてグループ全体の未来のために、新規事業であるデータ・コンサルティング事業への立ち上げコストや、まちづくり事業の研究開発費といった先行投資を実行した結果でしょう。67.1%という高い自己資本比率は、こうした戦略的な赤字を数年にわたって許容できるだけの、強靭な財務的バッファーがあることを示しています。

✔安全性分析
BS(貸借対照表)から見る財務安全性は、万全と言って差し支えありません。自己資本比率の高さに加え、固定資産149億円の大半が事業会社である岩渕薬品の株式や物流センターなどの事業用不動産であると推測され、安定した資産構成となっています。短期的な支払い能力も全く問題なく、100年以上の歴史で培われた財務規律は、ホールディングス体制になった現在も堅固に維持されています。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・110年超の歴史で培った地域医療における絶大な信頼と顧客基盤
自己資本比率67.1%という業界屈指の盤石な財務基盤
・中核事業である医薬品卸の安定した事業運営能力
・ホールディングス化による迅速な意思決定と機動的な事業展開が可能

弱み (Weaknesses)
・グループ全体の収益が、依然として利益率低下圧力に晒される医薬品卸事業に大きく依存している
・データビジネスやまちづくり事業など、新規事業がまだ収益貢献のフェーズに至っていない
・歴史ある企業ゆえの、変革に対する組織文化的な抵抗が生じる可能性

機会 (Opportunities)
・地域包括ケアシステムの推進に伴う、在宅医療や介護分野での新たな役割
・医療・健康データの利活用に対する社会的なニーズの高まり
健康寿命の延伸や予防医療、未病市場の拡大

脅威 (Threats)
・毎年の薬価改定による、継続的な医薬品卸事業の利益率低下圧力
・大手卸企業による寡占化の進展と、競争の激化
・物流の「2024年問題」に端を発する、物流コストの恒常的な上昇


【今後の戦略として想像すること】
この強固な財務基盤の上で、同社が「地域の課題解決企業」へと変貌を遂げるためには、以下の戦略が考えられます。

✔短期的戦略
まずは、2022年に設立した岩渕データ&コンサルティング株式会社の事業を軌道に乗せ、早期に収益化することが最優先課題です。医薬品卸事業で得られるリアルなデータを活用し、地域の医療機関自治体、製薬企業が抱える課題に対する具体的なソリューションをパッケージとして提供することが求められます。同時に、中核事業である岩渕薬品においても、物流DXなどを通じて徹底的な効率化を図り、グループ全体の収益基盤を盤石に維持し続けることが重要です。

✔中長期的戦略
「まちづくり事業」の構想を具現化し、第3の収益の柱として育成していくことが期待されます。例えば、地域の薬局をハブとした健康相談拠点の運営、栄養指導や運動プログラムの提供、高齢者の見守りサービスなど、医薬品の供給に留まらない新たなヘルスケアサービスを展開することが考えられます。また、盤石な財務基盤を活かし、事業シナジーが見込まれる地域のヘルスケア関連ベンチャーへの出資やM&Aを積極的に行い、グループの事業領域を拡大していくことも有効な一手となるでしょう。


【まとめ】
IMIホールディングスは、大正創業の岩渕薬品という100年以上の歴史を持つ安定基盤の上に、データビジネスやまちづくりといった未来への挑戦を積み上げようとしている企業グループです。自己資本比率67.1%という数字は、過去の堅実経営の賜物であると同時に、未来への挑戦を支える強力なエンジンでもあります。今期の赤字は、そのエンジンを始動させた証左と言えるでしょう。伝統的な医薬品卸という枠を超え、千葉の地で「地域全体の健康と安心な未来を創造する」という壮大なビジョンを実現できるか。その挑戦は、今まさに始まったばかりです。


【企業情報】
企業名: IMIホールディングス株式会社
所在地: 〒284-0033 千葉県四街道市鷹の台1-5
代表者: 代表取締役社長 岩渕 琢磨
設立: 2020年10月2日
資本金: 900万円
事業内容: 医薬品卸売事業、まちづくり事業、データビジネス事業、コンサルティング事業、及びその他の事業を行う会社の株式を保有することによる事業活動の統轄管理並びにそれに付帯または関連する事業。

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