私たちが毎日、当たり前のように利用する安全な「水」。蛇口をひねれば出てくるこの水は、取水、浄水、配水という複雑なプロセスを経て、私たちの元に届けられています。株式会社ウォーターテックは、1963年の創業以来、60年以上にわたり、この「水づくり」の最前線を支えてきた水処理の専門エンジニアリング企業です。全国の浄水場や上下水道施設を舞台に、ろ過設備や紫外線処理設備といった水処理プラントの設計・施工から、施設の維持管理、メンテナンスまでを一貫して手掛けています。今回は、私たちの生活に不可欠な社会インフラである水道事業を根幹から支える、このプロフェッショナル集団の決算を読み解き、その強固な経営実態と社会的役割に迫ります。
今回は、日本の「水」インフラを支える専門企業、株式会社ウォーターテックの決算を読み解き、そのビジネスモデルや戦略をみていきます。

【決算ハイライト(第33期)】
資産合計: 3,998百万円 (約40.0億円)
負債合計: 2,205百万円 (約22.0億円)
純資産合計: 1,794百万円 (約17.9億円)
当期純利益: 387百万円 (約3.9億円)
自己資本比率: 約44.9%
利益剰余金: 1,709百万円 (約17.1億円)
まず注目すべきは、自己資本比率が約44.9%と非常に高く、極めて健全な財務基盤を確立している点です。総資産約40億円に対し、純資産が約17.9億円、中でも利益剰余金が約17.1億円にも達しており、長年にわたり安定的に高収益を上げてきた優良企業であることが明確にうかがえます。当期純利益も約3.9億円と、その事業規模に対して非常に高い水準であり、専門性の高い事業で確固たる地位を築いていることを物語っています。
企業概要
社名: 株式会社ウォーターテック
設立: 1963年3月22日
株主: 株式会社古島(100%)
事業内容: 上下水道、工業用水道等の各種水処理施設の設計・開発・施工・販売・メンテナンス、浄水場の維持管理
【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、地方自治体などが運営する公的な水道事業を主たる顧客とし、「水」に関するあらゆる技術的課題を解決する「総合水処理エンジニアリング事業」に集約されます。
✔設計・施工(EPC事業)
事業の中核であり、浄水場や下水処理場といった水処理プラントの心臓部を創り出す事業です。具体的には、水中の不純物を取り除く「ろ過設備」、病原微生物を殺菌する「紫外線処理設備」、より高度な処理を行う「膜ろ過設備」、薬品を注入して水を浄化する「薬品注入設備」など、多岐にわたる設備の設計から、機器の調達、建設工事までを一貫して請け負います。
✔製品販売事業
自社で開発・改良を重ねた水処理関連機器の販売も行っています。塩素ガス注入機や液中ピストンポンプ、自社ブランドの紫外線照射装置『ウォーターライト』など、長年の経験から得たノウハウを製品という形にして提供しています。
✔メンテナンス・維持管理事業
建設した施設を引き渡して終わりではなく、その後の安定稼働を支える重要な事業です。各種設備の定期的な保守点検や、浄水場全体の運転管理業務を受託するなど、ストック型の安定収益を確保しています。自社が納入した設備を最もよく理解しているという強みを活かし、顧客との長期的な信頼関係を構築しています。
✔親会社との連携
2008年より、管工機材の専門商社である株式会社古島の100%子会社となっており、強固な経営基盤とグループとしての総合力を有しています。
【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
日本の水道インフラは、高度経済成長期に整備されたものが多く、施設の老朽化が深刻な社会問題となっています。管路や設備の更新・耐震化は待ったなしの状況であり、水処理技術を持つ専門企業への需要は今後ますます高まることが確実です。また、人口減少に伴う水道事業体の財政難や、技術者不足を背景に、施設の維持管理を民間の専門企業へ委託する動き(官民連携、PPP/PFI)も加速しています。
✔内部環境
同社は、60年以上の歴史の中で、公共の水道事業という極めて安定した市場に深く根ざし、顧客である地方自治体と強固な信頼関係を築き上げてきました。設計・施工というフロー収益と、メンテナンス・維持管理というストック収益をバランス良く組み合わせることで、安定した経営を実現しています。自己資本比率44.9%という盤石の財務基盤が、技術開発への継続的な投資や、大規模プロジェクトへの参画を可能にしています。
✔安全性分析
自己資本比率が約44.9%と高く、財務的な安定性は申し分ありません。約17.1億円もの厚い利益剰余金は、不測の事態に対する高いリスク耐性を示しています。また、流動資産(約38.0億円)が流動負債(約17.5億円)を2倍以上も上回っており、短期的な支払い能力を示す流動比率は約217%と極めて高く、資金繰りにも全く問題はありません。
【SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・60年以上の歴史で培われた、公共水道事業における豊富な実績と高い技術力
・設計・施工から製品販売、維持管理までを一貫して提供できる総合エンジニアリング能力
・自己資本比率44.9%を誇る、極めて健全で安定した財務基盤
・全国をカバーする事業所ネットワークと、親会社である古島グループの総合力
弱み (Weaknesses)
・主要顧客が官公庁であるため、公共事業の予算や入札制度の動向に業績が左右されやすい
・業界全体が抱える、技術者の高齢化と若手人材の確保・育成という課題
機会 (Opportunities)
・全国的な水道インフラの老朽化に伴う、更新・改修需要の増大
・官民連携(PPP/PFI)の推進による、包括的な維持管理業務の受託機会の拡大
・渇水や豪雨など気候変動に対応するための、より高度な水処理技術へのニーズ
・IoTやAIを活用した、水道施設のスマート化(遠隔監視、運転最適化など)
脅威 (Threats)
・公共事業費の削減圧力による、受注価格の低下
・同業他社との入札における競争の激化
・人口減少に伴う、地方の水道事業体の事業規模縮小
・大規模な自然災害による、インフラへの甚大な被害
【今後の戦略として想像すること】
強固な経営基盤と安定した事業領域を持つ同社が、今後さらなる成長を遂げるためには、以下の戦略が考えられます。
✔短期的戦略
人材への投資が最優先課題です。水道インフラを支える次世代の技術者を確保・育成するため、採用活動の強化と、社内での研修・技能伝承プログラムの充実を図ります。また、既存の顧客である全国の水道事業体に対し、施設の長寿命化や効率的な運用を実現するためのコンサルティング提案を強化し、メンテナンス契約の拡大を目指します。
✔中長期的戦略
「DX(デジタルトランスフォーメーション)」と「包括的ソリューション」がキーワードとなります。IoTセンサーやAIを活用して、管路の漏水検知や設備の故障予兆を遠隔で監視するような「スマート水道」関連の技術開発に注力することが期待されます。将来的には、個別の設備工事を請け負うだけでなく、地域の水道事業全体の計画策定から設計、建設、資金調達、そして長期的な運営・維持管理までを一体で受託する、官民連携(PPP/PFI)事業の主導的なプレイヤーへと進化していくことが期待されます。
【まとめ】
株式会社ウォーターテックは、単なる建設会社やメーカーではありません。それは、60年以上にわたり、日本の「水の安全」という最も基本的な社会インフラを、技術力と誠実さで守り続けてきた”水の守護神”です。今期決算では、自己資本比率44.9%、当期純利益3.9億円という数字で、その圧倒的な安定性と収益性の高さを見せつけました。日本の水道インフラが大きな転換点を迎える中、同社が持つ経験と技術は、これまで以上に社会から必要とされるでしょう。これからも、誠実な仕事で人々の暮らしを支え、未来の世代に安全な水を繋いでいくことが期待されます。
【企業情報】
企業名: 株式会社ウォーターテック
所在地: 東京都港区芝浦3-16-1(中野興産ビル)
代表者: 代表取締役社長 花川 因
設立: 1963年3月22日
資本金: 8,500万円
事業内容: 上下水道、工業用水道、農業用水道等の各種処理施設の設計・開発・施工・販売・メンテナンス、浄水場の維持管理、水道施設等の調査・診断、更生工事
株主: 株式会社古島(100%)