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#2636 決算分析 : 医療法人桂名会 令和6会計年度決算 当期純利益 ▲21百万円

急速な高齢化が進む日本において、「地域包括ケアシステム」という言葉を耳にする機会が増えました。これは、高齢者が住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、医療、介護、予防、住まい、生活支援が一体的に提供される体制のことを指します。言葉で言うのは簡単ですが、これを実現するには、病院での治療から在宅での介護、さらには日々の生活の相談に至るまで、切れ目のないサービスを提供する強固な組織力と経営基盤が不可欠です。

今回は、名古屋市名東区を拠点に、まさにこの地域包括ケアシステムの構築を体現する医療法人桂名会の決算を読み解き、地域医療の中核を担う法人の経営実態と今後の展望をみていきます。

医療法人桂名会決算

【決算ハイライト(令和6会計年度)】
資産合計: 15,678百万円 (約156.8億円)
負債合計: 12,003百万円 (約120.0億円)
純資産合計: 3,676百万円 (約36.8億円)

事業収益: 13,836百万円 (約138.4億円)
当期純損失: 21百万円 (約0.2億円)

自己資本比率: 約23.4%
繰越利益積立金: 3,491百万円 (約34.9億円)

まず注目すべきは、約156.8億円という非常に大きな資産規模です。これは、地域に根差した多様な医療・介護施設を運営している証左と言えます。約138.4億円の事業収益を上げながらも、当期はわずかながら純損失を計上しています。しかし、純資産は約36.8億円、中でも繰越利益積立金が約34.9億円と潤沢にあり、自己資本比率も23.4%と安定した水準を維持していることから、法人全体の経営基盤は極めて盤石であると評価できます。

企業概要
社名: 医療法人桂名会
所在地: 名古屋市名東区名東本通2-22-1
事業内容: 病院、老人保健施設、クリニック、ケアセンター、サービス付き高齢者向け住宅などの運営を通じた、地域包括ケアシステムの提供

www.keimeikai-gp.jp


【事業構造の徹底解剖】
同法人の事業は、単一の病院経営にとどまらず、地域住民の多様なニーズに応えるための複合的な「地域包括ケア事業」として構築されています。

✔急性期・回復期医療(木村病院)
事業の中核を担うのが、外来診療から回復期リハビリテーション、健診・人間ドックまでを幅広く提供する木村病院です。地域の医療ニーズに応える入り口であり、同法人の医療サービスの根幹をなしています。

✔施設サービス(名東老人保健施設、ReHOPE 星ヶ丘
病院を退院した後の療養やリハビリを担う「名東老人保健施設」や、高齢者が安心して暮らせる住まいである「ReHOPE 星ヶ丘サービス付き高齢者向け住宅)」など、利用者の状態に応じた入所・入居サービスを提供しています。

✔在宅・通所サービス(クリニック、デイサービス、ケアセンター)
住み慣れた自宅での生活を支えるため、「さくらの丘クリニック」による訪問診療や通所リハビリ、「リハピネス梅森坂」でのデイサービス、そして介護保険の相談窓口である「名東総合ケアセンター」や市の委託事業である「南部いきいき支援センター」まで、在宅療養を支えるためのサービスを網羅的に展開しています。

✔グループ連携
法人単独だけでなく、「重工大須病院」や「瀬尾記念慶友病院」など、他の医療法人ともグループを形成し、より広域で専門的な医療ニーズにも応えられる体制を築いています。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
日本の医療・介護業界は、診療報酬・介護報酬の改定、深刻な人手不足、物価高騰によるコスト増など、常に厳しい経営環境に置かれています。特に、地域における医療・介護の連携は国の政策の根幹であり、同法人のような地域包括ケアを実践する法人への期待と役割はますます大きくなっています。

✔内部環境
損益計算書を見ると、事業収益約138.4億円に対し、事業費用が約135.6億円と、収益の大部分を費用が占めています。これは人件費や医薬品費、設備維持費など、質の高いサービスを提供するために必要不可欠なコストであり、医療・介護事業の典型的な費用構造です。今期は事業外費用の発生などもあり最終的に赤字となりましたが、その額は事業規模に対して極めて小さく、経営の根幹を揺るがすものではありません。むしろ、潤沢な内部留保を活用しながら、将来のための投資を継続している健全な姿と捉えることができます。

✔安全性分析
総資産の約76%を占める固定資産は、病院や介護施設といった事業基盤そのものです。これを支える純資産が約36.8億円あり、特に繰越利益積立金が厚いことは、長年にわたる安定経営の歴史を物語っています。負債の中には、施設の建設や改修に伴う長期借入金なども含まれていると推測されますが、自己資本比率23.4%という数字は、これらの負債を十分にコントロールできていることを示しており、財務的な安全性は非常に高いと言えます。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・病院から在宅まで、切れ目のないサービスを提供する地域包括ケアシステムを確立
・約156.8億円の資産規模と約34.9億円の繰越利益積立金がもたらす、盤石な経営基盤
名古屋市名東区という地域に深く根差した、長年の信頼とブランド力
・複数の医療法人とのグループ連携による、広域での対応力

弱み (Weaknesses)
・労働集約型産業であるため、人件費の上昇が経営を圧迫しやすい
・診療報酬・介護報酬改定という、外部要因によって収益が左右される

機会 (Opportunities)
・地域における高齢者人口の増加に伴う、医療・介護ニーズの継続的な拡大
・医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進による、業務効率化とサービス品質向上の可能性
・職員の働きがいを追求する取り組み(院内託児所、女性活躍推進)による、人材獲得競争での優位性確保

脅威 (Threats)
・医師、看護師、介護士など専門職の全国的な人材不足と獲得競争の激化
・異業種からの介護事業への参入などによる、地域内での競争の発生
・大規模災害発生時における事業継続計画(BCP)の重要性の高まり


【今後の戦略として想像すること】
盤石な経営基盤を持つ同法人は、今後も地域社会の要請に応え、持続的に成長していくことが期待されます。

✔短期的戦略
まずは、人材の確保と定着を最優先課題として取り組むことが考えられます。職員が成長・飛躍できるよう支援を惜しまないという基本方針のもと、教育体制のさらなる充実や働きやすい環境整備を進め、質の高いサービスを支える人財基盤をより強固なものにしていくでしょう。また、既存サービスの質の向上と業務効率化を両立させるため、ITやデジタル技術の活用をさらに推進していくことも想定されます。

✔中長期的戦略
確立された地域包括ケアシステムをさらに深化させ、地域の健康を支える「唯一無二の存在」としての地位を不動のものにしていくでしょう。具体的には、予防医療や健康増進の取り組みを強化し、地域住民が病気になる前から関わることで、社会保障費の抑制にも貢献していく可能性があります。また、グループ法人との連携をさらに密にし、より高度で専門的な医療を地域内で完結できる体制の構築を目指すことも考えられます。


【まとめ】
医療法人桂名会は、単に医療を提供するだけの組織ではありません。それは、名古屋市名東区という地域に深く根を下ろし、人々が生まれ育った場所で安心して歳を重ねていける社会を実現するための、重要な社会インフラです。今期の決算はわずかな赤字となりましたが、その背景には、未来への投資を惜しまない、法人の前向きな姿勢が透けて見えます。

潤沢な内部留保に支えられた盤石な経営基盤と、病院から在宅までを網羅する切れ目のないサービス提供体制。この両輪を武器に、医療法人桂名会はこれからも地域住民の健康と暮らしを守り、医療・介護の新しい未来を創造し続けることが期待されます。


【企業情報】
法人名: 医療法人桂名会
所在地: 名古屋市名東区名東本通2-22-1
代表者: 理事長 木村 衛
事業内容: 病院、老人保健施設、クリニック、デイサービス、サービス付き高齢者向け住宅、ケアセンター、いきいき支援センターの運営など

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