子供の習い事として、いつの時代も不動の人気を誇るスイミングスクール。全身運動による体力向上や心肺機能の発達はもちろん、水への恐怖心を克服し、目標を達成する喜びを学ぶ貴重な機会となります。特に地方都市において、スイミングクラブは単なる習い事の場に留まらず、地域の子供たちの成長を見守り、世代を超えた交流を生むコミュニティ拠点としての重要な役割を担っています。
山口県周南市に根ざし、40年以上にわたって数多くの子供たちの水泳指導に貢献してきた老舗、周南スイミングクラブ。その安定した経営の裏側はどのようになっているのでしょうか。
今回は、大手化学メーカーであるトクヤマグループの一員として強固な経営基盤を持つ、株式会社周南スイミングクラブの第47期決算を分析。地域に深く愛されるスイミングクラブの堅実な経営実態と、時代のニーズに応え続ける事業戦略に迫ります。

【決算ハイライト(第47期)】
資産合計: 279百万円 (約2.8億円)
負債合計: 61百万円 (約0.6億円)
純資産合計: 218百万円 (約2.2億円)
当期純利益: 0.5百万円 (498千円)
自己資本比率: 約78.1%
利益剰余金: 168百万円 (約1.7億円)
決算数値を見て、まず驚かされるのが自己資本比率の驚異的な高さです。約78.1%という数値は、企業の財務健全性を示す指標として極めて優良であり、総資産の大部分を返済不要の自己資本で賄っていることを意味します。利益剰余金も約1.7億円と潤沢に積み上がっており、長年にわたる黒字経営の歴史がうかがえます。当期純利益は0.5百万円と小幅ですが、これは盤石な財務基盤の上で、安定した事業運営が行われていることの裏返しとも言えるでしょう。
企業概要
社名: 株式会社周南スイミングクラブ
設立: 1978年
株主: 株式会社トクヤマグループ (100%)
事業内容: 山口県周南市・防府市を拠点とする、スイミングスクール、フィットネスクラブ、および各種カルチャースクール(体育、空手、ダンス等)の運営。
【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、地域の子供たちの健全な育成から、住民の生涯にわたる健康増進までをサポートする「総合ウェルネス事業」として展開されています。
✔スイミングスクール事業(中核事業)
生後6ヶ月のベビーから高校生の選手まで、非常に幅広い年齢層とレベルに対応したきめ細やかなプログラムが特徴です。「周南からオリンピック選手を」を合言葉に、全国大会で活躍する選手を育成する本格的なコースから、水に親しむことを目的とした幼児コースまで、多様なニーズに応えています。スクールバスを運行することで、地域住民の利便性を高め、長年にわたり多くの会員に支持されています。
✔カルチャースクール事業
スイミングで培った子供向け指導の豊富なノウハウを活かし、体育教室、空手、HIP HOP、K-POPダンスといった多彩なスクールを展開しています。これにより、スイミング以外の習い事をしたいと考える家庭のニーズも取り込むことに成功しており、事業の多角化と収益基盤の安定化に大きく貢献しています。
✔フィットネスクラブ事業
沿革によれば、フィットネスクラブ「ACS周南」「ACS防府」も運営しており、子供だけでなく、大人の健康増進や体力づくりの場も提供しています。これにより、親子三世代が同じ施設で汗を流すことも可能となり、地域全体の健康拠点としての地位を確立しています。
【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
日本全体で進行する少子化は、子供向けスクール市場にとって長期的な懸念材料です。子供の習い事の選択肢も多様化しており、スイミング以外のスポーツや文化系の教室との顧客獲得競争は避けられません。しかし、コロナ禍を経て人々の健康意識はかつてなく高まっており、子供の体力向上や大人のフィットネスへの投資意欲は底堅いものがあります。
✔内部環境
親会社である大手化学メーカー・株式会社トクヤマの100%子会社であることが、経営における最大の安定要因と言えるでしょう。福利厚生施設としての側面も持つ可能性があり、純粋な営利追求だけでなく、従業員や地域社会への貢献という視点も経営に組み込まれていると推測されます。収益構造は、月会費を基本とするストック型のビジネスモデルであり、安定した会員数を維持することが経営の鍵となります。利益水準が比較的低いのは、プールなどの大規模施設の維持管理費や人件費といった固定費が高いビジネスであること、そして過度な利益を追求せず、地域住民が利用しやすい価格設定に努めていることの表れかもしれません。
✔安全性分析
自己資本比率約78.1%という数値は、実質的な無借金経営に近い状態を示しており、財務リスクは極めて低いと言えます。総資産約2.8億円のうち、有形固定資産が約1億円を占めていますが、これは事業の根幹であるプールやクラブハウス等の施設です。これらの重要な事業資産を、借入金に頼らず自己資本で十分に賄えている点が、同社の財務の健全性を力強く物語っています。約1.7億円にのぼる利益剰余金は、40年以上の歴史の中で着実に利益を内部留保してきた結果であり、将来の施設改修や新規投資にも十分対応できる体力を有しています。
【SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・自己資本比率約78.1%という、盤石で極めて安定した財務基盤。
・親会社である株式会社トクヤマの存在による、経営の安定性と高い社会的信用力。
・40年以上にわたり地域で培ってきた、世代を超えるブランドイメージと強固な顧客基盤。
・スイミングを核に、体育、ダンス、フィットネスまで提供する総合力と事業の多角化。
弱み (Weaknesses)
・少子化の進行による、メインターゲット層である子供の人口減少という構造的な課題。
・施設の老朽化対策として、将来的に大規模な修繕・改修コストが発生する可能性。
・事業エリアが周南・防府地域に限定されており、地域経済の動向に業績が左右されやすい点。
機会 (Opportunities)
・成人向けの健康増進プログラム(水中ウォーキング、アクアビクス等)の拡充による、新たな顧客層の開拓。
・高齢化社会の進展に対応した、シニア向けの介護予防やリハビリを目的とした水中運動プログラムの展開。
・地域の学校や自治体と連携した、着衣水泳教室や体力測定イベントの実施による地域貢献と認知度向上。
脅威 (Threats)
・地域の少子化のさらなる加速による、会員数の減少リスク。
・近隣エリアへの、全国チェーンのフィットネスクラブや新規競合スイミングスクールの進出。
・電気・ガス料金の高騰による、プール施設の水温・室温維持にかかる光熱費の継続的な増加。
【今後の戦略として想像すること】
この盤石な経営基盤と事業環境を踏まえ、同社は安定を守りつつも、時代に合わせた進化を続けていくことが予想されます。
✔短期的戦略
まずは、既存会員の満足度をさらに高め、退会率を低く抑えることが重要です。質の高い指導を継続することはもちろん、季節ごとのイベント開催や会員同士のコミュニケーションを活性化させる施策が考えられます。また、ウェブサイトやSNSをより積極的に活用し、体育教室やK-POPダンスといった魅力的なプログラムの認知度を高め、新たな会員層にアプローチしていくでしょう。
✔中長期的戦略
少子高齢化という大きな社会構造の変化をチャンスと捉え、事業の軸足を子供向けだけでなく、成人・シニア層へとさらに広げていくことが成長の鍵となります。健康寿命の延伸に貢献する介護予防プログラムや、リハビリテーションを目的としたパーソナル指導など、高齢化社会のニーズに応える新サービスの開発・導入が期待されます。
【まとめ】
株式会社周南スイミングクラブは、山口県周南市に深く根を下ろし、40年以上にわたり地域の健康づくりを支えてきた、まさに地域の財産ともいえる企業です。第47期決算で示された自己資本比率約78.1%という驚異的な財務健全性は、親会社であるトクヤマグループの強固な基盤のもと、地域社会への貢献を第一に考えた堅実な経営を続けてきた何よりの証拠です。
同社の真の強みは、スイミングを核としながら、体育教室、ダンス、フィットネスクラブと、子供から大人まで三世代が楽しめる多様なプログラムを展開している点にあります。これにより、単なるスイミングクラブではなく、地域の総合的なウェルネス拠点としての役割を果たしています。
今後は少子化という避けられない課題に直面しますが、その盤石な財務基盤と地域住民からの厚い信頼を武器に、高齢化社会の新たなニーズに応えるサービスを拡充することで、さらなる成長機会を掴むことが可能です。これからも地域の健康と子供たちの笑顔を育むかけがえのない存在として、その歴史を刻み続けていくことが期待されます。
【企業情報】
企業名: 株式会社周南スイミングクラブ
所在地: 山口県周南市江口1-1-26
代表者: 代表取締役 尾前 俊吉
設立: 1978年8月
資本金: 5,000万円
事業内容: スイミングスクール、フィットネスクラブ、体育教室、空手コース、各種ダンススクールの運営
株主: 株式会社トクヤマグループ(100%)