女性の社会進出が進み、共働き世帯が当たり前となった現代日本において、「待機児童問題」は長年にわたる深刻な社会課題です。子どもを安心して預けられる場所がなければ、親は働き続けることができず、社会全体の活力も削がれてしまいます。この重要な課題に対し、婚活事業から保育事業へと大胆な事業転換を遂げ、全国的な認可保育園の運営と、保育業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)支援で急成長を遂げている企業があります。それが、横浜ランドマークタワーに本社を構える「株式会社エクシオジャパン」です。東証に上場するエクシオホールディングスの中核事業会社として、日本の「子育て」のインフラを多角的に支える同社は、どのような経営を行っているのか。第24期決算公告から、その事業の強みと財務の健全性に迫ります。

【決算ハイライト(第24期)】
資産合計: 1,859百万円 (約18.6億円)
負債合計: 843百万円 (約8.4億円)
純資産合計: 1,015百万円 (約10.2億円)
当期純利益: 219百万円 (約2.2億円)
自己資本比率: 約54.6%
利益剰余金: 965百万円 (約9.7億円)
まず注目すべきは、自己資本比率が約54.6%という非常に健全で安定した財務基盤です。総資産約18.6億円に対し、半分以上を自己資本で賄っており、外部環境の変化に対する高い耐性を持っています。資本金50百万円に対し、その19倍以上にもなる約9.7億円の利益剰余金が積み上がっていることも、事業転換を経て、安定的に高収益を上げ続けてきた優良企業の証左です。今期も2.2億円近い高い純利益を確保しており、盤石な経営基盤の上で、力強い成長が続いていることが明確に見て取れます。
企業概要
社名: 株式会社エクシオジャパン
設立: 2001年11月
株主: 株式会社エクシオホールディングス
事業内容: 全国の「サンライズキッズ保育園」運営を主軸に、保育士の資格取得支援・人材支援、保育園向けICTシステムの開発・販売、ベビーシッターサービスなどを手掛ける総合保育関連サービス企業。
【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、創業当初の婚活事業から、2012年に保育事業へ参入して以降、M&Aや事業譲渡を繰り返しながら、現在の「総合保育サービス」へと劇的な進化を遂げてきました。
✔認可保育園運営事業
事業の中核です。「サンライズキッズ保育園」のブランドで、山形から沖縄まで、全国に50以上の認可保育所(主に小規模認可)や企業主導型保育所を展開しています。「育脳」を取り入れた特色ある保育を実践し、待機児童問題の解消という社会的使命を担いながら、安定した収益基盤を構築しています。
✔保育ICTシステム事業
保育業界の深刻な課題である「保育士の業務負担」を、テクノロジーの力で解決する事業です。自社開発した保育園向け業務支援管理システム「Hoic(ホイック)」を提供。園児の情報管理、保護者との連絡、職員の勤怠管理などを一元化することで、保育士が子どもと向き合う時間を創出します。公立・私立、認可・認可外を問わず、全国の保育施設や自治体で導入が進む、同社の成長ドライバーです。
✔保育人材支援事業
保育の質の根幹を成す「人」を育てる事業にも力を入れています。「サンライズ保育士資格取得スクール」を運営し、保育士を目指す人々を支援。さらに、保育士専門の求人サイトの運営や人材紹介・派遣サービスも手掛け、保育人材の確保と育成、そしてキャリア支援までをトータルでサポートするエコシステムを構築しています。
✔その他(ベビーシッター、飲食事業など)
保育園という「集団保育」だけでなく、個別のニーズに応えるベビーシッターのマッチングサービス「Kids Park」も展開。また、過去にはハワイアンレストラン「カイラ」を運営していた経験もあり、常に新たな事業の可能性を模索しています。
【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
少子化が進む一方で、女性の就業率向上により保育サービスの需要は依然として高い水準にあります。特に、都市部における待機児童問題は根強く、小規模認可保育所などの受け皿整備は国の重要政策です。また、保育士不足は業界全体の深刻な課題であり、ICT化による業務効率化は、全ての保育施設にとって喫緊の課題。まさに、同社の事業領域は、強力な社会的ニーズと政策的追い風を受けていると言えます。
✔内部環境
同社のビジネスモデルは、保育園運営という安定したストック型の収益を基盤としながら、ICTシステムや人材サービスといった、高い成長性と利益率が見込める事業を組み合わせた、巧みなポートフォリオ経営です。自社で多数の保育園を運営していることが、現場のニーズを的確に捉えたICTシステムの開発や、実践的な人材育成プログラムの提供を可能にしており、これが他社にはない大きな強みとなっています。
✔安全性分析
自己資本比率54.6%、利益剰余金約9.7億円という盤石の財務基盤は、経営の安定性を如実に物語っています。短期的な支払い能力を示す流動比率(流動資産÷流動負債)も約188%と非常に高く、資金繰りにも全く懸念はありません。この強固な財務基盤と、親会社が上場企業であるという信用力を背景に、今後もM&Aなどを活用した、スピーディーな拠点拡大や新規事業への投資が可能となっています。
【SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・全国に広がる保育園ネットワークと、多角的なサービスによる安定した事業ポートフォリオ。
・現場の知見を活かした、競争力の高い自社開発ICTシステム「Hoic」。
・人材の育成から供給までを手掛ける、独自の保育人材エコシステム。
・自己資本比率54.6%を誇る、極めて健全で安定した財務体質と、上場グループ企業としての信用力。
弱み (Weaknesses)
・保育事業は、国の補助金や公定価格に収益が大きく依存しており、制度改定のリスクがある。
・人材サービス事業は、景気動向によって求人数が変動する可能性がある。
機会 (Opportunities)
・保育士不足を背景とした、ICTシステム導入による業務効率化ニーズのさらなる拡大。
・幼稚園や認定こども園、学童保育など、保育園以外の児童福祉施設へのICTシステムの横展開。
・異業種による企業主導型保育所の設立ニーズの増加。
脅威 (Threats)
・少子化のさらなる進行による、長期的な保育需要の減少。
・保育士の獲得競争の激化と、それに伴う人件費の高騰。
・保育ICTシステム市場における、大手IT企業などとの競争激化。
【今後の戦略として想像すること】
この事業環境と優れた財務状況を踏まえ、同社が今後どのような戦略を描いていくか、以下のように想像します。
✔短期的戦略
まずは、主力事業である保育園運営とICTシステムの両輪で、シェア拡大を加速させるでしょう。保育園運営では、待機児童が多い都市部を中心に、M&Aも活用しながら新規開設を進めます。ICT事業では、全国の自治体への導入を強化するとともに、幼稚園や学童保育といった新たな市場への展開を本格化させていくと考えられます。
✔中長期的戦略
「子育て支援の総合プラットフォーム企業」へと、その役割を進化させていくことが期待されます。保育園運営で得られる保護者との接点や、ICTシステムで蓄積されるデータを活用し、子育て世帯向けの新たなサービスを創出していくのではないでしょうか。例えば、ベビーシッターサービスとの連携強化や、育脳教育コンテンツのオンライン配信、あるいは子育て中の親を対象としたキャリア支援など、その可能性は無限大です。
【まとめ】
株式会社エクシオジャパンの決算は、自己資本比率約55%という盤石の財務基盤の上で、2億円を超える高い純利益を上げる、社会課題解決型企業の成功モデルを示していました。同社は単なる保育園の運営会社ではありません。それは、待機児童という「社会の困りごと」を事業機会と捉え、施設の運営、人材の育成、そしてテクノロジーの活用という三位一体の戦略で、日本の「子育てインフラ」を再構築するイノベーターです。婚活事業から保育事業へという大胆なピボットを成功させたその経営手腕は、これからも時代の変化を的確に捉え、日本の未来を支える新たな価値を創造し続けていくことでしょう。
【企業情報】
企業名: 株式会社エクシオジャパン
所在地: 神奈川県横浜市西区みなとみらい2-2-1 横浜ランドマークタワー38F
設立: 2001年11月
代表者: 佐伯 猛
資本金: 5,000万円
事業内容: 認可保育園「サンライズキッズ保育園」等の運営、保育事業向けICTシステムの開発・販売、保育士資格取得支援・人材支援、ベビーシッターサービスなど
株主: 株式会社エクシオホールディングス