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#2368 決算分析 : 株式会社三和商会 第56期決算 当期純利益 71百万円

私たちの家庭やレストランで使われるLPガス、工場の生産ラインを動かす産業ガスや機械工具。これらは、現代社会の快適な暮らしと産業活動を支える、まさに「縁の下の力持ち」です。こうしたエネルギーや生産財を、必要な場所へ、安全かつ安定的に供給する。その地道な事業の積み重ねが、地域社会の活力を生み出しています。今回は、埼玉県さいたま市岩槻区に本社を構え、1967年の創業から半世紀以上にわたり、埼玉・茨城エリアの家庭と産業を支え続けてきた総合商社、「株式会社三和商会」に焦点を当てます。「ガスエネルギーと産業機器で地域社会に奉仕する」をモットーに、地域密着経営を貫く同社は、どのような強みを持っているのか。第56期決算公告から、その堅実な経営内容と事業戦略に迫ります。

三和商会決算

【決算ハイライト(第56期)】
資産合計: 1,291百万円 (約12.9億円)
負債合計: 868百万円 (約8.7億円)
純資産合計: 423百万円 (約4.2億円)

当期純利益: 71百万円 (約0.7億円)

自己資本比率: 約32.8%
利益剰余金: 472百万円 (約4.7億円)

まず注目すべきは、自己資本比率が約32.8%と健全な水準を維持し、安定した財務基盤を築いている点です。総資産約12.9億円に対し、純資産も約4.2億円と厚く、特に利益剰余金が約4.7億円と潤沢に積み上がっていることは、長年の堅実経営を物語っています。今期も71百万円の純利益をしっかりと確保しており、盤石な経営基盤の上で、力強い事業運営がなされていることがうかがえます。ただし、純資産の中には75.6百万円の自己株式が含まれており、これを控除した実質的な自己資本は3.5億円程度となりますが、それでもなお健全な水準です。

企業概要
社名: 株式会社三和商会
設立: 1969年2月(創業は1967年1月)
事業内容: 埼玉県・茨城県を拠点に、家庭向けの「LPガス部門」と、工場向けの「産業部門」の二本柱で事業を展開する地域密着型の総合商社。

www.sanwa-gas.jp

 

【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、地域社会のインフラである「エネルギー」と、ものづくりの基盤である「産業機器」という、性質の異なる2つの分野を両輪としている点に最大の特徴があります。

LPガス部門(生活関連営業部)
約1万軒の一般家庭や飲食店などに対し、LPガスの充填・販売・保安管理を行っています。LPガスは都市ガスが整備されていない地域にとって不可欠なライフラインであり、安定したストック型の収益基盤となっています。同社は単にガスを供給するだけでなく、ガス給湯器やビルトインコンロ、さらにはシステムキッチンやバスルーム、エアコン、家電製品に至るまで、快適な住環境をトータルで提案。24時間集中監視システムによる保安体制も確立し、「便利・快適・安心」を顧客に届けています。

✔産業部門(産業関連営業部)
約1千社の法人顧客に対し、ものづくりに必要なあらゆる商材を供給しています。工場の動力源となる産業ガス(酸素、窒素、炭酸ガスなど)から、生産ラインで使われる産業機械、運搬機器、工具、溶接機・溶接材料まで、その取扱品目は多岐にわたります。顧客のニーズに合わせて最適な商品を提案する「提案型・需要喚起型」の営業を強みとしており、社員一人ひとりがその道のプロフェッショナルとして、顧客の生産性向上に貢献しています。

✔二つの事業がもたらす安定性
LPガス部門」は、一般消費者を対象とした安定性の高いストック型ビジネスであり、「産業部門」は、法人を対象とし景気動向の影響を受けやすいフロー型ビジネスです。この性質の異なる二つの事業を併せ持つことで、互いにリスクを補完し合い、どちらかの市場が落ち込んでも、会社全体として安定した収益を確保できる、強固でバランスの取れた事業ポートフォリオを構築しています。

 

【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
エネルギー業界は、脱炭素化という大きな潮流の中にあります。オール電化住宅の普及はLPガス需要にとって逆風となる一方、災害時のエネルギー供給源としてLPガスの価値が見直される動きもあります。産業分野では、国内の製造業は人手不足やコスト高といった課題に直面しており、生産性向上に繋がる自動化設備や、省エネに貢献する高効率な機器へのニーズが高まっています。これは、同社の提案型営業にとって大きな事業機会となります。

✔内部環境
同社の強みは、半世紀以上にわたる歴史の中で築き上げてきた、地域社会との深い信頼関係です。LPガス部門の1万軒、産業部門の1千社という強固な顧客基盤が、経営の安定性を支えています。また、第一種販売主任者や液化石油ガス設備士など、多数の有資格者を擁していることも、安全・安心なサービスを提供する上での技術力の高さを物語っています。茨城県常総市には自社の筑波工場を有し、LPガスや産業ガスの製造・充填を行っており、メーカーとしての機能も併せ持っています。

✔安全性分析
自己資本比率32.8%は、健全な財務状況を示しています。短期的な支払い能力を示す流動比率流動資産÷流動負債)も約194%と非常に高く、資金繰りにも全く懸念はありません。潤沢な利益剰余金は、将来の成長に向けた投資の原資となります。例えば、LPガス配送網のDX化や、産業部門での新たな商材の開拓など、未来への布石を打つための十分な体力を有していると言えます。

 

SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・50年以上の歴史で培われた、地域社会からの高い信頼と強固な顧客基盤。
・「LPガス(ストック型)」と「産業機器(フロー型)」を両輪とする、安定した事業ポートフォリオ
・多数の有資格者に裏打ちされた、高い技術力と保安管理体制。
・健全な自己資本比率と潤沢な利益剰余金が示す、安定した財務基盤。

弱み (Weaknesses)
・事業エリアが埼玉・茨城に集中しており、特定の地域の経済・人口動態から影響を受けやすい。
・エネルギー価格の変動が、仕入コストや販売価格を通じて収益に影響を与える可能性がある。

機会 (Opportunities)
・製造業における、省人化・自動化ニーズの高まりを捉えた、提案型営業の強化。
・災害に強い分散型エネルギーとしてのLPガスの価値再評価。
・既存顧客へのクロスセル(例:産業部門の顧客に自家消費用太陽光発電を提案するなど)。

脅威 (Threats)
オール電化の普及や人口減少による、家庭用LPガス市場の長期的な縮小。
・産業部門における、インターネット通販などとの価格競争。
・エネルギー業界における、規制緩和による競争の激化。

 

【今後の戦略として想像すること】
この事業環境と財務状況を踏まえ、同社が今後どのような戦略を描いていくか、以下のように想像します。

✔短期的戦略
既存の顧客基盤を最大限に活かし、クロスセルを強化していくでしょう。LPガスを利用している家庭に省エネ性能の高い住宅設備を提案したり、産業部門の顧客に電力販売や自家消費型太陽光発電システムを提案したりするなど、顧客のニーズを多角的に捉え、取引の深化を図っていくと考えられます。

✔中長期的戦略
社長の挨拶にもある「エネルギーミックス」という発想が、今後の成長の鍵となります。LPガスや産業ガスといった既存のエネルギー供給を続けながら、太陽光発電や蓄電池、将来的には水素エネルギーなども含めた、多様なエネルギーソリューションを顧客に提供できる「総合エネルギーアドバイザー」へと進化していくでしょう。また、不動産事業やコインランドリー事業といった、地域に根差した新規事業にも着手しており、エネルギー供給に留まらない、地域の暮らしを豊かにする多角的な事業展開を加速させていくことが期待されます。

 

【まとめ】
株式会社三和商会の決算は、自己資本比率32.8%という健全な財務基盤の上で、着実に利益を積み上げてきた、地域密着型優良企業の姿を鮮やかに映し出すものでした。同社は単なるガス・機械の販売店ではありません。それは、LPガスというライフラインを守り、ものづくりの現場を支えることで、地域社会の「当たり前の日常」を創造する、まさにインフラ企業です。半世紀の歴史で培った信頼を武器に、脱炭素という時代の変化を新たな成長の機会と捉え、多角的な事業展開で未来を切り拓こうとしています。これからも埼玉・茨城の地で、地域社会に不可欠な存在として、輝き続けることが期待されます。

 

【企業情報】
企業名: 株式会社三和商会
所在地: 埼玉県さいたま市岩槻区大字加倉1986-1
設立: 1969年2月
代表者: 小宮 康一郎
資本金: 2,700万円
事業内容: 産業ガス・LPガスの製造販売、産業機械・機器の販売、各種設備工事、住宅設備機器販売、不動産業など

www.sanwa-gas.jp

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