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#2355 決算分析 : 株式会社湘南ベルマーレ 第26期決算 当期純利益 ▲153百万円


週末のスタジアムを埋め尽くす熱狂的なサポーター、地域の子供たちの憧れの存在となる選手たち、そしてホームタウンの名を背負って全国の強豪と鎬を削る姿。Jリーグのプロサッカークラブは、単なるスポーツチームではありません。それは、地域に夢と感動、そして一体感をもたらす、かけがえのない社会的インフラです。しかしその一方で、華やかなピッチの裏側では、入場料収入やスポンサー料、放映権料などを原資に、巨額のチーム人件費や試合運営費を賄うという、極めて厳しい経営が繰り広げられています。今回は、神奈川県の湘南地域、9市11町をホームタウンとするJ1クラブ、「株式会社湘南ベルマーレ」に焦点を当てます。「たのしめてるか。」をフィロソフィーに掲げ、育成型クラブとして独自の道を歩む同社は、どのような経営を行っているのか。第26期決算公告から、その財務状況と事業の現在地を読み解きます。

湘南ベルマーレ決算

【決算ハイライト(第26期)】
資産合計: 1,239百万円 (約12.4億円)
負債合計: 1,238百万円 (約12.4億円)
純資産合計: 1百万円 (約0.01億円)

売上高: 2,896百万円 (約29.0億円)
当期純損失: 153百万円 (約1.5億円)

自己資本比率: 約0.1%
利益剰余金: ▲1,048百万円 (約▲10.5億円)

決算数値は、Jリーグクラブが置かれている経営の厳しさを如実に示しています。純資産はわずか67.6万円、自己資本比率は約0.1%と、資産と負債がほぼ拮抗する、財務的な余裕が極めて少ない状態です。利益剰余金もマイナス約10.5億円と、長年にわたり厳しい収支が続いてきたことがうかがえます。売上高は約29.0億円とJ1クラブとして一定の事業規模を確保しているものの、チーム人件費などが含まれる売上原価(23.6億円)と販管費(6.8億円)がそれを上回り、結果として1.5億円を超える営業損失、そして1.5億円の当期純損失を計上しています。まさに、日々の資金繰りと収支改善が最優先課題となる経営状況です。

企業概要
社名: 株式会社湘南ベルマーレ
設立: 1999年12月8日
株主: (株)メルディアRIZAP湘南スポーツパートナーズ、湘南ベルマーレ持株会、(公財)平塚市まちづくり財団、産業能率大学ほか
事業内容: 神奈川県湘南地域をホームタウンとするJリーグクラブの運営。サッカーだけでなく、NPO法人を通じてビーチバレー、フットサル、サイクルロードなどにも取り組む「総合型地域スポーツクラブ」。

www.bellmare.co.jp

 

【事業構造の徹底解剖】
Jリーグクラブの収益構造は、主に「スポンサー収入」「入場料収入」「Jリーグ配分金」「物販収入」の4つの柱で構成されています。

✔スポンサー収入
クラブの収益の根幹を成すのが、パートナー企業からのスポンサー収入です。ユニフォームやスタジアム広告などを通じて、企業のブランディングを支援する対価として得られます。同社の株主には、筆頭株主であるRIZAPグループをはじめ、フジタ、アマダ、産業能率大学など、地域を代表する有力企業が名を連ねており、ホームタウンからの力強い支援体制がうかがえます。

✔入場料収入
ホームゲーム開催時のチケット売上がもたらす収入です。スタジアムの観客動員数に直結するため、チームの成績や魅力的な試合運営、そしてファンサービスが重要となります。同社のホームスタジアム「レモンガススタジアム平塚」の収容人数は15,380人。いかにしてこのスタジアムを満員に近づけ、客単価を上げていくかが、経営改善の鍵となります。

Jリーグ配分金
Jリーグが一括管理する放映権料などを、リーグ順位や理念推進活動への貢献度に応じて各クラブに分配するものです。リーグで上位の成績を収めるほど、配分金は増加します。厳しい戦いが続くJ1に残留し続けることが、経営安定のための最低条件と言えます。

✔総合型地域スポーツクラブとしての挑戦
同社の最大の特徴は、株式会社が運営するプロサッカーチームだけでなく、NPO法人湘南ベルマーレスポーツクラブ」を通じて、ビーチバレー、トライアスロン、フットサル、サイクルロード、ラグビーセブンズといった多様なスポーツチームをサポートしている点です。これは、サッカーだけに依存せず、地域の人々が多様なスポーツに親しめる「総合型地域スポーツクラブ」を目指すという、ヨーロッパ型の先進的なビジョンを掲げていることの表れです。この活動が、クラブのブランド価値を高め、地域との結びつきをより強固なものにしています。

 

【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
Jリーグを取り巻く環境は、近年大きく変化しています。DAZN(ダゾーン)との大型放映権契約により、Jリーグ全体の収入は増加しましたが、その恩恵は主に上位クラブに集中する傾向があります。また、コロナ禍を経て観客動員数は回復傾向にあるものの、人々のライフスタイルの変化により、スタジアムへの来場を促すための新たな魅力づくりが求められています。

✔内部環境
Jリーグクラブのコスト構造で最も大きな割合を占めるのが、選手や監督への報酬である「チーム人件費」(損益計算書の売上原価に主に含まれる)です。J1で戦い続けるためには、競争力のある選手を揃える必要があり、人件費は高騰しがちです。売上高29.0億円に対し、売上原価が23.6億円にのぼる同社の決算は、この厳しい現実を反映しています。販管費6.8億円には、試合運営費やアウェイ遠征費、クラブハウスの管理費などが含まれます。この固定費を、変動の大きい入場料収入やスポンサー収入でいかにカバーしていくかという、常に綱渡りの経営が求められます。

✔安全性分析
自己資本比率0.1%、利益剰余金▲10.5億円という財務状況は、極めて脆弱であると言わざるを得ません。Jリーグでは、3期連続で当期純損失を計上した場合や、債務超過に陥った場合に、クラブライセンスが交付されないという厳格なルールがあります。同社は債務超過には陥っていませんが(純資産がプラス67.6万円)、純損失を計上しているため、ライセンス維持のためにも黒字化は喫緊の経営課題です。このような厳しい財務状況でもクラブが存続できているのは、ひとえに筆頭株主であるRIZAPグループをはじめとする、株主やパートナー企業からの増資や支援があるからに他なりません。

 

SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・9市11町という広大なホームタウンと、地域に根差した熱心なサポーター基盤。
・育成年代からトップチームまで一貫した指導体制を持つ「育成型クラブ」としてのブランド。
・サッカーに留まらない「総合型地域スポーツクラブ」としての先進的なビジョンと活動。
RIZAPグループをはじめとする、強力なパートナー企業からの支援体制。

弱み (Weaknesses)
自己資本比率0.1%という、極めて脆弱な財務基盤。
・チーム人件費が高止まりし、赤字体質から抜け出せていない収益構造。
・ビッグクラブと比較した際の、事業規模や資金力の差。

機会 (Opportunities)
・若手選手の育成と、国内外のクラブへの移籍による移籍金の獲得。
・スタジアムでの体験価値向上(スタジアムグルメ、イベントなど)による、新たなファン層の開拓と客単価の上昇。
・総合型クラブの活動を通じた、サッカー以外の新たなスポンサーの獲得。

脅威 (Threats)
J2リーグへの降格による、Jリーグ配分金やスポンサー収入の大幅な減少リスク。
・チームの成績不振による、観客動員数の減少。
・有力選手の海外クラブへの流出。

 

【今後の戦略として想像すること】
この事業環境と財務状況を踏まえ、同社が今後どのような戦略を描いていくか、以下のように想像します。

✔短期的戦略
まずは、J1残留を死守することが絶対的な至上命題です。その上で、コスト管理を徹底し、収支の均衡を図ることが求められます。具体的には、ホームゲームでの観客動員数を一人でも多く増やすためのプロモーション活動の強化や、グッズ販売の多様化、そして新規スポンサーの獲得に全力を挙げるでしょう。

✔中長期的戦略
クラブのフィロソフィーでもある「育成」が、経営再建の鍵となります。アカデミー(育成組織)で育てた若手選手をトップチームで活躍させ、その後、国内外のビッグクラブへ高額な移籍金で売却する。この「選手育成・売却モデル」を確立できれば、スポンサー収入や入場料収入に次ぐ、第3の安定した収益源となり得ます。また、RIZAPグループとのシナジーをさらに深め、健康やフィットネスといった分野で新たな共同事業を展開し、クラブの収益源を多角化していくことも、持続可能な経営のためには不可欠な戦略となるでしょう。

 

【まとめ】
株式会社湘南ベルマーレの決算は、自己資本比率0.1%、当期純損失1.5億円という、プロスポーツビジネスの理想と現実の厳しさを浮き彫りにするものでした。しかし、その数字の裏側には、広大なホームタウンに支えられ、「総合型地域スポーツクラブ」という先進的なビジョンを掲げて奮闘する、地域にとってかけがえのない存在の姿があります。同社は単なるサッカーチームの運営会社ではありません。それは、湘南の地に夢と活気、そして人々のつながりを生み出す「地域の共創プラットフォーム」です。脆弱な財務基盤という大きな課題を、育成というアイデンティティと、パートナー企業との強固な連携で乗り越え、ピッチの上でも、そして経営というもう一つの戦いの場でも、勝利を掴むことができるか。その挑戦から目が離せません。

 

【企業情報】
企業名: 株式会社湘南ベルマーレ
所在地: 神奈川県平塚市中堂18-8 E棟3階
設立: 1999年12月8日
代表者: 坂本 紘司
資本金: 709,472,500円
事業内容: プロサッカークラブ「湘南ベルマーレ」の運営、サッカー選手の育成、試合の開催・運営、関連イベントの企画・運営など
株主: 株式会社メルディアRIZAP湘南スポーツパートナーズ、湘南ベルマーレ持株会、公益財団法人平塚市まちづくり財団、学校法人産業能率大学ほか

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