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#2279 決算分析 : MICEプラットフォーム株式会社 第6期決算 当期純利益 ▲18百万円

大規模な国際会議、企業の株主総会、新製品の発表会。これらのイベントを成功に導くためには、会場の選定から集客、当日の運営、オンライン配信まで、無数の煩雑なタスクを乗り越える必要があります。特にコロナ禍を経て、リアルとオンラインを融合させた「ハイブリッドイベント」が主流となる中、その運営の複雑さは増す一方です。この巨大で複雑なMICE業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させるべく、ソフトバンクの社内起業制度からスピンアウトしたスタートアップがあります。それが「MICEプラットフォーム株式会社」です。今回は、イベントテック業界のチャレンジャーである同社の決算を読み解き、ソフトバンクという巨人のDNAを受け継ぐ同社のビジネスモデルと、赤字先行投資の先に見据える成長戦略に深く迫ります。

今回は、ソフトバンク発のイベントテック企業としてMICE業界のDXを推進する、MICEプラットフォーム株式会社の決算を読み解き、その事業戦略と将来性をみていきます。

MICEプラットフォーム決算

【決算ハイライト(6期)】
資産合計: 212百万円 (約2.1億円)
負債合計: 53百万円 (約0.5億円)
純資産合計: 159百万円 (約1.6億円)

当期純損失: 18百万円 (約0.2億円)

自己資本比率: 約75.2%
利益剰余金: ▲64百万円 (約▲0.6億円)

まず注目すべきは、約18百万円の当期純損失を計上している一方で、自己資本比率が約75.2%という極めて高い水準にある点です。これは、設立6期目のスタートアップとしては異例の財務健全性であり、親会社であるソフトバンクグループからの強力なバックアップ体制を物語っています。利益剰余金はマイナスですが、資本金と資本剰余金がそれぞれ1.1億円以上と潤沢にあり、先行投資フェーズであることを明確に示しています。赤字は、プラットフォーム開発や顧客基盤拡大のための戦略的な投資の結果と読み取れ、今後の成長に向けた強固な土台が築かれていることが伺えます。

企業概要
社名: MICEプラットフォーム株式会社
設立: 2019年4月1日
株主: SBイノベンチャー株式会社 (ソフトバンク株式会社 100%子会社)
事業内容: イベント主催者と会場等を結ぶマッチングサービス、オンライン配信サポート、SaaS型スペース予約管理システムなど、MICE領域におけるDXソリューションの提供

www.mice-platform.com

 

【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、「MICE業界のあらゆる課題をワンストップで解決する」という明確なビジョンのもとに構築されています。イベントの企画から運営、アフターフォローまで、アナログで煩雑だった業務をデジタル化する多彩なサービス群が最大の武器です。

✔イベント主催者向けソリューション
事業の中核を担うのが、イベント主催者の負担を劇的に軽減するDXツール群です。高級ホテルの宴会場から貸会議室までを網羅した会場マッチングサービス「MICE会場マッチ」、PC1台で高品質なウェビナーを実現する動画配信プラットフォーム「MICE Online」、そして受付から集客、ライブ配信までハイブリッドイベント全体を一元管理できる「MICEソリューションズ」など、主催者が抱えるあらゆる課題に対応するソリューションを提供。ソフトバンク自身の数々のイベントをサポートしてきた経験から生まれた、実践的な機能が強みです。

✔スペースオーナー向けソリューション
貸会議室やイベントスペースの運営者向けには、SaaS型の予約管理システム「MICEEE」を提供。予約受付から案件管理、請求書発行、売上管理まで、施設の運営に関わるバックオフィス業務を効率化します。これにより、スペースオーナーはよりクリエイティブな業務や顧客対応に集中できるようになり、施設の収益性向上に貢献します。

✔その他の事業や特徴など
同社の最大の独自性は、ソフトバンクの社内起業制度「ソフトバンクイノベンチャー」から誕生した点にあります。これにより、スタートアップでありながら、設立当初からソフトバンクグループという巨大な実証フィールドと、トヨタ自動車JR東日本資生堂といった日本を代表する企業を含む強力な顧客基盤を持っています。大企業の厳しい要求水準に応えることで磨かれたプロダクトとサービス品質は、他社にはない大きなアドバンテージです。

 

【財務状況等から見る経営戦略】
戦略的な赤字と、それを支える盤石な財務。この二面性が、同社の経営戦略を紐解く鍵となります。

✔外部環境
コロナ禍を経て、イベントのオンライン化・ハイブリッド化は不可逆的なトレンドとなりました。これにより、MICE業界全体の市場構造が変化し、デジタル技術を活用して新たな付加価値を提供できるイベントテック企業にとって、かつてないほどの巨大なビジネスチャンスが生まれています。市場は黎明期であり、多くのプレイヤーが参入していますが、企画から運営まで一気通貫でサポートできる総合力を持つ企業はまだ少なく、同社のようなプラットフォーマーが業界のスタンダードを握る可能性を秘めています。

✔内部環境
ソフトバンクグループの一員であるという内部環境が、経営のあらゆる側面にプラスに作用しています。資金調達力、ブランド信用力、そして初期の顧客獲得において、他のスタートアップとは比較にならない優位性を持っています。現在の赤字は、この恵まれた環境を最大限に活用し、競合が追いつけないスピードでプロダクト開発と市場シェア獲得を進めるための戦略的投資です。優秀なエンジニアや事業開発人材を確保し、プラットフォームの機能を拡充していくことが、持続的な成長の生命線となります。

✔安全性分析
貸借対照表(BS)が、同社の安全性を雄弁に物語っています。総資産約2.1億円に対し、負債は約0.5億円と非常に少なく、純資産が約1.6億円を占めています。自己資本比率75.2%という数値は、無借金経営に近く、極めて安定した状態です。利益剰余金がマイナス(▲64百万円)であるにもかかわらず、資本剰余金が1.1億円以上あるため、株主資本全体ではプラスを維持しています。これは、株主(ソフトバンク)が短期的な利益を求めるのではなく、長期的な成長を期待して十分な資金を供給していることの証です。

 

SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
ソフトバンクグループという絶対的な信用力、資金力、顧客基盤
・会場探しから配信、管理までを網羅するワンストップのDXソリューション
ソフトバンク自身のイベント運営から得た、実践的で高度なノウハウ
自己資本比率75%を超える、スタートアップ離れした盤石な財務基盤

弱み (Weaknesses)
・設立以来、利益剰余金がマイナスであり、まだ投資フェーズを脱していない点
・事業の成長が親会社グループの戦略や意向に影響される可能性があること
・ブランド認知度がまだ限定的であり、ソフトバンクグループ外への拡販が今後の課題

機会 (Opportunities)
・ハイブリッドイベントの定着による、MICE業界全体のDX市場の急拡大
・中小企業や地方自治体など、これまでDX化が遅れていた層へのソリューション提供
・蓄積したイベントデータを活用した、新たなコンサルティングマーケティング支援サービスの開発
VR/ARやAIといった新技術を活用した、次世代のイベント体験の創出

脅威 (Threats)
・国内外のイベントテック領域における、スタートアップや大手IT企業との競争激化
・景気後退による、企業の広告宣伝費やイベント関連予算の削減
・個人情報保護やサイバーセキュリティに関する要求水準の高まりと、それに伴う開発・運用コストの増加
・特定の配信プラットフォーム(Zoomなど)への過度な依存からの脱却

 

【今後の戦略として想像すること】
ソフトバンクの強力な支援のもと、MICEプラットフォームは業界のゲームチェンジャーとなるべく、積極的な拡大戦略を続けるでしょう。

✔短期的戦略
まずは、主力サービスである「MICE Online」やSaaS型予約システム「MICEEE」の導入企業数を増やし、早期の黒字化を目指すことが最優先課題です。ソフトバンクグループ内での利用をさらに深耕すると同時に、これまで培った大企業向けのノウハウをパッケージ化し、中堅・中小企業市場への展開を加速させるでしょう。導入事例を積極的に公開し、「MICEプラットフォームを使えばイベントが成功する」というブランドイメージを確立していくことが重要です。

✔中長期的戦略
中長期的には、単なるツール提供者から、MICE業界全体のデータを活用するプラットフォーマーへの進化を目指すと考えられます。会場の稼働率データ、イベント参加者の属性データ、セミナーの視聴データなどを分析し、主催者にはより効果的なイベント企画を、スペースオーナーには収益最大化のコンサルティングを提供するなど、データドリブンな事業展開が期待されます。将来的には、ソフトバンクのグローバルネットワークを活用し、国境を越えたイベントのマッチングや運営支援など、事業の海外展開も視野に入ってくるでしょう。

 

【まとめ】
MICEプラットフォーム株式会社は、第6期決算で約18百万円の純損失を計上しましたが、その背景にはソフトバンクグループの強力な支援のもとでの戦略的な先行投資があります。自己資本比率75.2%という鉄壁の財務基盤は、同社が目先の利益に追われることなく、MICE業界のDXという大きな目標に向かって突き進むための強力なエンジンです。同社は、単なるイベント運営の効率化ツールを売る企業ではありません。それは、人々が集い、知見を交換し、新たなビジネスが生まれる「MICE」という活動そのものを、テクノロジーの力で再定義し、その価値を最大化しようとする「未来のインフラ創造企業」です。ソフトバンクのDNAを受け継ぐこの挑戦者が、日本のMICE業界をどう変革していくのか、その動向から目が離せません。

 

【企業情報】
企業名: MICEプラットフォーム株式会社
所在地: 東京都港区海岸一丁目7番1号 東京ポートシティ竹芝オフィスタワー 36階
代表者: 代表取締役社長 兼 CEO 永田 誠
設立: 2019年4月1日
資本金: 1億1,075万円
事業内容: 主催者とイベントサプライヤー(会場等)を結ぶマッチングサービス、オンライン配信サポート、動画配信プラットフォーム、SaaS型スペース予約管理システム、ハイブリットイベント管理ツール、イベントプロデュースサービスなど
株主: SBイノベンチャー株式会社 (ソフトバンク株式会社 100%子会社)

www.mice-platform.com

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