都市部で車を運転する際、誰もが直面するのが駐車場探しの問題です。時間貸しのコインパーキングは、今や都市のインフラとして欠かせない存在となりました。一方で、使われていない空き地や変形地を所有する土地オーナーにとっては、それをどう活用するかが大きな課題です。こうした都市の「空間」に関する課題を解決し、ドライバーの利便性と土地オーナーの安定収入を両立させることで、街の環境づくりに貢献している企業があります。
今回は、1973年の創業以来、コインパーキング事業のパイオニアとして全国にネットワークを広げる株式会社NBパーキングの決算を読み解き、その堅実な経営と、時代のニーズに応える土地活用ビジネスの戦略に迫ります。

【決算ハイライト(第36期)】
資産合計: 835百万円 (約8.4億円)
負債合計: 229百万円 (約2.3億円)
純資産合計: 605百万円 (約6.1億円)
当期純利益: 110百万円 (約1.1億円)
自己資本比率: 約72.5%
利益剰余金: 575百万円 (約5.8億円)
まず注目すべきは、自己資本比率が約72.5%という非常に高い水準にあることです。企業の財務的な安定性が極めて高く、健全な経営が行われていることが分かります。また、総資産約8.4億円に対して当期純利益が約1.1億円と、高い収益性を誇っている点も特筆すべきです。長年にわたり着実に利益を積み上げ、強固な財務基盤を築き上げてきた優良企業の姿がうかがえます。
企業概要
社名: 株式会社NBパーキング
設立: 1990年6月 (創業1973年8月)
株主: SPACE VALUE GROUP
事業内容: 時間貸コイン駐車場「NBパーキング」および時間貸駐輪場「コインズ」の設置・運営・管理
【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、土地を所有するオーナーと、駐車場を利用したいドライバーやライダーとを繋ぐ、都市型ソリューションビジネスです。
✔時間貸駐車場「NBパーキング」事業
同社の中核事業であり、全国に約344ヶ所(ウェブサイト掲載時点)の駐車場を展開しています。都市部の商業エリアから住宅街まで、あらゆる立地でドライバーの駐車ニーズに応えています。土地オーナーに対しては、立地や土地の形状に合わせた最適な活用法を提案します。
✔時間貸駐輪場「コインズ」事業
駅前などを中心に、自転車やバイクの駐輪ニーズに応える事業です。放置自転車という社会問題の解決に貢献すると同時に、駐車場には不向きな狭小地や変形地でも収益化を可能にする、柔軟な土地活用ソリューションとなっています。
✔土地オーナー向け運営システム
同社のビジネスモデルの根幹を成すのが、土地オーナー向けの柔軟な契約形態です。
・一括借上システム: NBパーキングが土地を丸ごと借り上げ、オーナーに毎月固定の賃料を支払う方式。オーナーは駐車場の稼働率に関わらず安定した収入を得られ、設備投資や運営リスクは一切発生しません。
・共同運営システム: オーナーが設備投資を行い、NBパーキングが運営・管理を代行。駐車場の売上に応じて収益を分配する方式で、より高いリターンを目指すことが可能です。
✔SPACE VALUE GROUPとしての総合力
同社は「SPACE is VALUE ― 価値ある空間へ ―」をスローガンに掲げるSPACE VALUE GROUPの一員です。これにより、単なる駐車場運営に留まらず、グループ全体の総合力を活かした多角的な土地活用提案が可能となっています。
【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
都市部では依然として駐車場需要が根強く、特に商業施設やオフィス街周辺では安定した収益が見込めます。一方で、カーシェアリングの普及や若者の車離れ、リモートワークの定着など、車の利用形態は変化しており、駐車場業界もその変化への対応が求められています。また、同業他社との競争も激しく、立地の確保やサービスの質が差別化の重要な要素となります。
✔内部環境
コインパーキング事業は、一度開設すれば比較的少ない人員で運営できるストック型のビジネスモデルです。収益の鍵を握るのは、いかに優良な立地の土地を確保し、適切な料金設定で高い稼働率を維持するかという点にあります。同社は、土地オーナーにリスクの少ない「一括借上システム」を提案することで、安定的に駐車場ネットワークを拡大しています。貸借対照表の固定資産(約3.7億円)は、自社で保有またはリースしている駐車場設備などが中心と推察されます。
✔安全性分析
自己資本比率が約72.5%と極めて高く、財務基盤は盤石です。有利子負債への依存度が低く、景気変動に対する抵抗力が非常に強い経営体質と言えます。短期的な支払い能力を示す流動比率(流動資産÷流動負債)も約521%と驚異的な高さであり、資金繰りに関する懸念は皆無です。約5.8億円の利益剰余金は、創業以来の堅実な経営の歴史と、将来の事業展開への十分な投資余力を示しています。
【SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・自己資本比率72.5%が示す、極めて強固で安定した財務基盤
・1973年創業という長い業歴で培われた、駐車場運営のノウハウと信頼性
・土地オーナーにリスクの少ない「一括借上システム」による、安定的な拠点拡大モデル
・全国に約400ヶ所の駐車場・駐輪場を展開するネットワーク力とブランド認知度
弱み (Weaknesses)
・土地の賃借契約に事業基盤が依存しており、契約更新の動向に影響を受ける可能性がある
・新規の好立地物件の獲得競争が激しい
機会 (Opportunities)
・都市部の再開発に伴う、周辺エリアでの一時的な駐車場需要の発生
・EV(電気自動車)充電設備の併設による、サービスの付加価値向上
・キャッシュレス決済や予約システムの導入など、DX(デジタルトランスフォーメーション)による利用者満足度の向上
脅威 (Threats)
・業界大手や新規参入企業との価格競争・用地獲得競争の激化
・カーシェアリングや公共交通機関の利便性向上による、自家用車利用の減少
・地価の高騰による、賃借料の上昇圧
【今後の戦略として想像すること】
同社は、その安定した経営基盤を活かし、既存事業の深化と時代のニーズへの対応を進めていくと考えられます。
✔短期的戦略
キャッシュレス決済のさらなる拡充や、スマートフォンアプリと連携した空き状況のリアルタイム配信、事前予約システムの導入など、利用者の利便性を高めるためのDX投資を推進するでしょう。また、優良な立地を確保するため、不動産会社や信託銀行などとの連携を強化し、土地活用を検討しているオーナーへのアプローチを積極化していくことが考えられます。
✔中長期的戦略
今後の自動車社会の大きなトレンドであるEV化に対応するため、管理する駐車場へのEV充電設備の設置を標準化していく可能性があります。これにより、新たな顧客層を取り込むとともに、充電サービスという追加の収益源を確保できます。また、SPACE VALUE GROUPのシナジーを活かし、駐車場という「空間」を基点とした新たなサービス(カーシェアのステーション、デリバリーサービスの拠点など)を展開し、単なる駐車場からの脱却を図っていくことも視野に入れているかもしれません。
【まとめ】
株式会社NBパーキングは、単に駐車場を運営する企業ではありません。それは、都市に眠る遊休地という「空間」に新たな価値を見出し、土地オーナーには安定収益を、ドライバーには利便性を提供する、都市の環境クリエイターです。72.5%という鉄壁の自己資本比率に支えられた堅実経営と、半世紀近い歴史で培った信頼を武器に、変化する車社会のニーズに応え続けています。これからも、時代の変化を的確に捉え、都市の快適なアメニティを創造し続けることが期待されます。
【企業情報】
企業名: 株式会社NBパーキング
所在地: 東京都港区三田3-11-24 国際興業三田第二ビル6F
代表者: 代表取締役社長 清水 利重
設立: 1990年6月 (創業1973年8月)
資本金: 3,000万円
事業内容: 時間貸コイン駐車場・駐輪場の設置・運営・管理、駐車場・駐輪場の運営・管理・修繕・改修工事
株主: SPACE VALUE GROUP