私たちが毎日出す「ごみ」。家庭から、オフィスから、日々大量に排出される廃棄物が滞りなく収集され、街が清潔に保たれるのは、その裏側で社会インフラとして廃棄物処理を担う専門企業が日夜稼働しているからです。特に、1400万人が暮らし、経済活動が密集する大都市・東京において、その役割は極めて重要であり、一日たりともゆるがせにできません。戦中の1943年から今日に至るまで、80年以上にわたり首都・東京の環境衛生を最前線で支え続けてきた老舗企業があります。
今回は、東京23区の清掃事業を担う株式会社ヨドセイの決算を読み解き、社会インフラを支えるビジネスの安定性と、未来の環境を見据えた企業の取り組みに迫ります。

【決算ハイライト(第87期)】
資産合計: 1,414百万円 (約14.1億円)
負債合計: 375百万円 (約3.8億円)
純資産合計: 1,039百万円 (約10.4億円)
当期純利益: 104百万円 (約1.0億円)
自己資本比率: 約73.5%
利益剰余金: 1,016百万円 (約10.2億円)
まず注目すべきは、総資産約14.1億円に対し、純資産が約10.4億円と非常に厚く、自己資本比率が73.5%という極めて健全な財務状況です。これは、景気変動の影響を受けにくい安定した事業を背景に、長年にわたって着実に利益を内部留保してきた結果であり、経営の安定性を強く示唆しています。当期純利益も約1.0億円を確保しており、社会に不可欠なサービスを提供する企業の堅実な経営ぶりがうかがえます。
企業概要
社名: 株式会社ヨドセイ
設立: 1943年10月18日
株主: 株式会社要興業
事業内容: 東京23区を中心とした一般廃棄物(家庭ごみ、事業系一般廃棄物、粗大ごみ)および産業廃棄物の収集運搬事業
【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、私たちの生活と企業の経済活動を支える、大きく分けて2つの柱で構成されています。
✔公共サービス事業(行政からの委託業務)
事業の中核を成し、最も安定した収益基盤となっているのが、東京23区からの委託を受けて家庭ごみや粗大ごみを収集運搬する業務です。これは「雇上業者」として、行政の清掃事業の一翼を担うものであり、まさに社会インフラそのものと言えます。80年以上にわたる業歴の中で築き上げてきた行政との強固な信頼関係が、最大の競争優位性となっています。
✔法人向けサービス事業(産業廃棄物等の収集運搬)
オフィス、ホテル、店舗、工場など、企業の事業活動に伴って排出される産業廃棄物や事業系一般廃棄物の収集運搬も手掛けています。顧客には大手鉄道会社や区役所なども含まれ、厳しいコンプライアンスが求められます。同社は、法令遵守はもちろんのこと、東京都の優良事業者認定制度である「産廃プロフェッショナル」を取得するなど、高いサービス品質と信頼性で法人顧客のニーズに応えています。
✔グループシナジーと独自の強み
2015年からは、都内最大手の廃棄物処理・リサイクル企業である株式会社要興業のグループ会社となり、収集運搬から中間処理、最終処分までの一貫したサービス提供体制を強化しています。また、豊島区の山手線内に車両基地を持つことで、都心部の収集依頼に対して迅速に対応できる高い機動力も、他社にはない大きな強みです。
【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
廃棄物収集運搬業は、許認可が必要で参入障壁が高く、かつ景気変動の影響を受けにくい非常に安定した市場です。一方で、SDGsやサーキュラーエコノミーへの社会的な関心の高まりから、単なる廃棄物処理に留まらず、リサイクルの推進といった環境への貢献がより一層求められています。また、業界全体として、ドライバーの高齢化や人手不足が深刻な経営課題となっています。
✔内部環境
収益の柱である行政からの委託事業は、長期契約が基本であり、極めて安定したキャッシュフローを生み出します。この安定収益を基盤に、より付加価値の高い法人向けサービスを拡大しています。多数の収集運搬車両を保有・維持するための固定費は大きいものの、長年の業歴で培った効率的な収集ルートのノウハウがコスト競争力を支えています。安全管理にも注力しており、全車両へのドライブレコーダー装着や定期的な安全講習会など、事故ゼロを目指す徹底した取り組みを行っています。
✔安全性分析
自己資本比率73.5%という数値は、企業の財務安全性が極めて高いことを示しています。借入金への依存度が低く、経営基盤が非常に安定しているため、燃料価格の変動や車両の更新といった設備投資にも十分対応できる強固な体力を有しています。10億円を超える利益剰余金は、創業以来の堅実な経営の歴史を物語るものです。
【SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・行政からの委託事業という、極めて安定した収益基盤と80年以上の業歴
・自己資本比率73.5%が示す、盤石な財務基盤
・「産廃プロフェッショナル」認定やISO14001取得に裏打ちされた高い信頼性とコンプライアンス意識
・都心部の車両基地がもたらす高い機動力と迅速な対応力
・要興業グループの一員であることによる事業シナジーと総合力
弱み (Weaknesses)
・事業エリアが首都圏に集中しており、特定地域への依存度が高い
・労働集約型のビジネスモデルであり、人材(特にドライバー)の確保と育成が常に経営課題となる
機会 (Opportunities)
・SDGsや環境意識の高まりによる、リサイクル率向上に繋がるコンサルティングサービスの需要増
・都市部の再開発プロジェクトに伴う、建設系廃棄物やオフィス移転ごみの継続的な発生
・AIやIoT活用による収集ルートの最適化など、DX推進による生産性向上の可能性
脅威 (Threats)
・全国的なドライバー不足の深刻化と、それに伴う人件費や採用コストの高騰
・原油価格の高騰による、車両燃料費の継続的な上昇
・廃棄物処理に関する法規制のさらなる強化と、それに対応するためのコスト増
【今後の戦略として想像すること】
同社は、安定した事業基盤の上で、時代の要請に応えるための進化を続けていくことが予想されます。
✔短期的戦略
最優先課題である人材確保に向けて、採用活動の強化はもちろんのこと、従業員が長く安心して働けるような労働環境の整備(待遇改善、研修制度の充実、DXによる業務負荷の軽減など)をさらに推進していくでしょう。また、ドライブレコーダー等のデータを活用した安全教育を徹底し、事故ゼロの目標達成を目指します。
✔中長期的戦略
要興業グループのリサイクル施設との連携をさらに深め、顧客企業に対して単なる収集運搬だけでなく、廃棄物の分別指導やリサイクル率向上を提案する「環境コンサルティング」の役割を強化していくと考えられます。また、AIによる最適な収集ルートの自動作成や、顧客からの依頼をデジタルで一元管理するシステムの導入など、積極的なDX投資によって生産性を向上させ、人手不足時代に対応していくことが期待されます。
【まとめ】
株式会社ヨドセイは、単なるごみ収集会社ではありません。それは、80年以上にわたり首都・東京の公衆衛生と生活環境を守り続けてきた、まさに「社会インフラ」を担う企業です。行政との強い信頼関係に支えられた安定した事業基盤と、73.5%という高い自己資本比率が示す盤石な経営。これらを土台として、現代社会が求める高いコンプライアンス意識と環境配慮にも真摯に応えています。人手不足という業界共通の課題に立ち向かいながら、これからも「安全・確実・奉仕」の精神で、大都市・東京の静脈を支え続けることが期待されます。
【企業情報】
企業名: 株式会社ヨドセイ
所在地: 東京都豊島区東池袋2丁目38番20号
代表者: 代表取締役 青栁 文夫
設立: 1943年10月18日
資本金: 1,172万円
事業内容: 一般貨物自動車運送業、一般廃棄物収集運搬業(豊島区、新宿区、練馬区、文京区、板橋区、千代田区、港区、品川区、中野区)、産業廃棄物収集運搬業(東京都、埼玉県)
株主: 株式会社要興業